変わった少女がいる教室   作:鋼コーティングの硝子ハート

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原作一巻
三年間出られない。つまり、牢獄。あるいは監禁。


 四月。入学式。私は学校に向かうバスの中、座席に座りゆらゆらと揺れていた。膝の上に鞄を抱えて、視点はどこにも定まっていない。窓際なら景色でも見れたのだろうけど、廊下側だから、ただ、ぼーっとしている。

 

 憂鬱だった。

 

 これから、三年間の学校での監禁生活が始まる。最悪の日だ。

 のんびりと田舎の家でだらだらしているのが好きな私にとっては、このバスは地獄迎えにやって来る火車に等しい。

 

 しかも、このバスは混んでいる。それはもう、大変混み合っている。ふぁっきんだ。これだから都会はクソ。

 

 嫌気が差す。帰りたい。けれども、そんな段階は遠く昔に過ぎ去ってしまった。

 

 だから、うじうじする。溜息吐いて、盛大に憂鬱オーラを撒き散らす。

 生きるマイナスエネルギー発生器だ。陰キャニウムが反応して増殖する。

 

 そんなこんなしていたら、突如、すぐ近くから鋭い声が聞こえてきた。

 

「席を譲ってあげようと思わないの?」

 

 ちらりと視線を遣る。発信源はOLと思しき女性。近くには老婆がいて、優先席にガタイの良い金髪の男がドッカリと腰を下ろしている。注意されたのは、彼だろう。

 というか、老婆。それも杖をついている。いつのまに乗ったのだろうか。危なそうだし、席を譲ろうかと思ったけど、雰囲気的に出ていきづらい。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

 静かな車内だから、自然、注目が集まる。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー。何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

 

「君が座っている席は優先席よ。お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

 

 そこから、問答が始まった。

 

 どちらも、まあ面倒くさい人間だと思う。

 

 席を譲らないのは別にいい。彼が言ったように、それは義務ではないし。彼に当て嵌まるかは定かではないが、何か外見では判別がつかない問題を抱えている可能性もある。

 席を譲るよう促すのはいい。他者を慮る精神は、人として善い行動なのだろう。ただ、感情的になり、自らに主体を置いた発言をし出したし、逆に老婆を困らせている。

 

 まあ、いいか。

 

 幸いにも近いから、そう労力はかからない。

 

 立ち上がると、老婆の背に声をかけて。振り返ったところで言った。

 

「いい……よ、座って」

 

「おや、いいのかい?」

 

「ん」

 

「まあ。ありがとう、ありがとうねぇ」

 

「別に、いい」

 

 実際、どうでもいい。確かにこれは善意からの行動と定義できるだろうが、所詮立っただけ。立っている人なら他にも何人もいる。その程度のことだ。

 

 人の密度が控えめな所を見繕って、そこでまたぼーっとし始めた。視線が鬱陶しかったから、目も閉じて、眠っていること(・・・・・・・)にした。

 

 だから、地味な少年が意外そうに見てきたことにも気付かなかった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 それから、さして時間もかからずにバスは目的地に到着した。東京都高度育成高等学校。

 外見だけは整っている、世界から孤立した学校。その入口。

 

 入れば三年間出られないなんて、全く冗談かと言いたくなる。

 

 行きたくないなあ、行きたくないなあと思いながら、リュックサックを背負い、鞄を抱え、とぼとぼと歩き出した。

 

 

 

 そのまま、教室に向かった。一年のD組。教室を回って、自分のネームプレートが置かれた席を探す。

 

 名前順ではないらしい。阿御鳥(あみとり)(しき)と、「あ」から始まる名前にも関わらず席は一番後ろだった。所謂あたり席とか言われているところだと思う。

  

 周りを軽く見渡す。元から付き合いがあったのか、コミュ力の成せる技なのか、割と話している人が多い。ボッチも少しいる。私は取り合えず本を読むことにした。ラノベである。

 

 それからしばらくして、始業を告げるチャイムが鳴った。それとほぼ同時に、スーツを着た女性が教室に入ってくる。

 茶柱佐枝を名乗った彼女は、このクラスの担任だと言う。ついでに、クラス替えもないらしい。ありがたいことだ。ボッチにも相応の人間関係がある。知り合い以下の付き合いだとしても、毎年築き直さなくてもいいのは楽だ。

 

「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することが出来るようになっている。クレジットカードのようなものだな。ただし、ポイントを消費することになるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ」

 

 彼女の説明は、これからの学校生活にも大きく関わってくるような重要そうな部分に入った。

 クドい説明だ。しつこいと言ってもいい。あまりに何でも買えることを強調している。

 ところで、それなら単位とかも補填してくれるのだろうか。してくれるなら有難いけれども、新入生を驚かせるために大袈裟に言っているだけの可能性も否定できないから、どうだろう。

 少なくとも、何でも買えるはありえないし。流石に、人権は買えない。

 

「それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ、なお、1ポイントにつき1円の価値がある」

 

 毎月10万。それだと1クラスで400万。4クラスだから1600万で、3学年だから毎月4800万もの出費になる。すごい。

 

「ポイントの支給額が多いことに驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちには、それだけの価値と可能性がある。そのことに対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使え」

 

 高いか安いかは、判断するには材料が欠けている。ただ、高校生の小遣いにしては無駄が多いような気はする。

 あと、皆毎月10万円貰えるとはしゃいでいるけれど、明言されていないのも少し不安だ。初月だけたくさん渡して、来月からは絞るなんてのはありふれたことだし。けれども、重要なことなら流石に別の捉え方をするようなことは言わないのかな。

 あるいは教職としては未熟なことに、コミュ障なせいで「実力で生徒を測る云々」だけの説明になったのかもしれない。その場合は成績で左右されるのだろうが、普通に過ごしていれば何も問題はないだろう。

 

 質問するべきかもしれないけれども、まあ、さして重要なことでもなし。来月にはどうせ判明することでもある。覚えていたら、気が向いた時に聞いてみよう。…………面倒臭いし、やっぱりいいかも。

 

 何にせよ、先生はもう出て行った。

 

 入学式は一時間後と言っていたから、この後はしばらく待機することになる。

 

 少しの空隙。

 

 ならばと、私はまた本を読みだした。ただし、僅かではあるが周囲の声に耳を傾けながら。

 

 私はこれから、必ずボッチになるだろう。誰かに話しかける気はないし。まあ、それはいい。ボッチは気楽だから。

 ただ、友達がいる人間に比べて情報面で劣るのは否定しようがない事実だ。先生の言葉を聞き逃しても教えてくれる人はいないし、何かを忘れていてもカバーしてくれる人もいない。

 

 極端な話、気付いたら皆入学式に行っていたみたいなことも起こるかもしれない。

 

 とは言え、話の内容は貰ったお金をどう使うとか、遊びにいこうとかそんな話ばかり。プライベートなことはどうでもいい。誰も、私にとって有意義なことは話していない。

 

 なら、もう無視してもいいかと、注意を全て本に向けようとした時。

 

 誰かが自己紹介云々言い出して、周囲も乗っかり、いつのまにかクラス全体が巻き込まれていた。

 そして何人か自己紹介して、ちょっとした口論の後に何人か教室を出て行った。

 

 多分。

 

 いくら並列思考が出来るとはいえ、私の視界は当然ながら目を向けているところだけしかない。そして現在の最優先事項は本。

 畢竟、私の状況認識は聴覚で捉えられる範囲だけなのだ。

 

 でも、まあ。わざわざ波風立てる必要もなし。所詮は二言三言が終わるもの。順番が回ってきたら、ちゃんと自己紹介くらいはしておこう。

 

 

 

「えーと、次の人───そこの君、お願いできるかな?」

 

 そうして本を読んでいたら、すぐに私の番がきた。

 

 とりあえず、ゆっくりと立ち上がる。何も考えていなかったから、アドリブで喋らなければならない。思考を言語としての発声に変換するのは非常に苦手な事柄であるから、多分、失敗する。

 

「名前……阿御鳥、式。趣味は…………いろいろ? よろしく、ね」

 

 挨拶を終えて、席に着く。今度こそ、あとは入学式まで待つだけだ。

 




 ノベル版ベースに書いてます。久し振りに書くので拙いかも。なお、弾の貯蔵は六発。二日で撃ち切ります。
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