変わった少女がいる教室 作:鋼コーティングの硝子ハート
学校生活も三週目。クラスの治安は崩壊していた。
ちょっとした悩みを抱えているのもあって、私の精神衛生はあまり良くない状態になっている。多分。
今は授業中だというのに、大声で談笑している人が大半なのだ。一般的に学生の本分は勉学だろう。だというのに、真面目に授業を受けている人はごく少数。
単純に環境が悪いから疲れるし。あと勘違いして、無関心でい過ぎたせいで手遅れになったこともあるし。
せめて、貰えるポイントがクラスではなく個人に依拠していると信じて、真面目に授業を受けるばかりである。
………………読書したい。それか寝たい。ゲームとかも可。
既に学び終えた範囲。別に授業も面白くはないし、退屈だ。
三時間目の社会。担任の茶柱先生の授業は小テストだった。主要五科目の問題がまとめて載った、一科目四問、全二十問の各五点配当のテストだ。成績には反映されないらしい。
ざっと目を通してみたら、殆どの問題が簡単なことが分かった。受験問題よりも二段階は低い。けれど、ラストの三問だけ傾向が違った。多分、高校一年生に解けるレベルではない。高校二、三年生で習う範囲の問題だ。一体何を考えてこんなテストを作ったのだろう。
まあ、そこまで難しいわけじゃない。
「はぁ…………」
さっさと解き終えて、眠ってしまうことにした。
◇
タイマーの音で目を覚ました私は、起きてすぐポイントの残量を確認した。
五月が始まった。
けれども、ポイントは案の定振り込まれていなかった。個人毎の評価であってほしいという祈りは通じなかったらしい。
ふて寝しよ。
でも、今日はより詳しい説明があるだろうし。来月も0ポイントにするわけにはいかないし。真面目に通わねばならない。
「はぁ…………」
憂鬱だ。
◇
学校に着いてから、私はいつも通り自分の席で読書を───しなかった。ふて寝した。
そのうち、教室もどんどん騒がしくなってきて。やがてチャイムが鳴り、先生もやって来た。
私はふて寝している。
新規性のある話があれば、真面目に聞くことにする。
支給ポイントが0、クラスの成績が反映される、遅刻や欠席でポイントは減るが増えない。予想は当たっていた。ちょっとうれしい。
だからこれからは遅刻も欠席もし放題と言っているが、これは反映がリアルタイムだという意味なのか、月末清算だがどうせポイント得られないだろという皮肉なのか、そのどちらなのかが問題だ。
もしリアルタイムなら、日中に動きやすくなるから嬉しい。
それから、各クラスの成績が貼られたらしいから、顔をあげた。
Aが940、Bが650、Cが490、Dが0。クラスポイント1につき100プライベートポイントということだろう。Dが落ちこぼれだとは予想していたし、覚悟もしていたけれども、想像以上に悪い。
少しは能動的に動くべきだっただろうか。いや、動くべきだったに決まっている。あそこで変な思い違いをしなければ、あるいは無駄覚悟で動いていれば。
「うぁぁ………………」
畢竟、自業自得。机に突っ伏す。せめて先生に何かしらのアクションを起こすべきだった。それで何かしらの証拠を掴むなり、口止めされたならば金をせしめるなり、いくらかの状況の改善はできただろう。
行動しなければ良くも悪くも何も起こらない。停滞とは衰滅だ。でも、許容するばかりで何もせずに見送ってしまう。私の悪癖。
なるほど、Dクラスは不良品。私は私自身が思っているよりもダメダメなのかもしれない。
それから、小テストの結果が張り出された。今時珍しい形式だ。
僅かに顔を上げて、結果を確認する。私は満点。次点の90点が二人。平均は64と少し。赤点は32点未満、つまり平均の半分未満。問題は切り下げか四捨五入か。あとで確認しておこう。
首から力を抜いた。額が机にぶつかって、ちょっと痛い。
それからも先生の話は続く。希望の就職、進学先が叶うのはAクラスだけらしい。割とびっくりした。てっきり、丸っきり詐欺だと思っていた。
とは言え、進学率・就職率がほぼ100%なのは徹底した指導によって実現するという謳い文句であって、万能の切符とは初めから言われていない。
私はその徹底した指導も進学率・就職率も詐欺だと思っていたから、Aクラスで卒業するだけで万能の切符が手に入るなら、思っていたより有情らしい。
まあ、そんなもの貰っても持て余すだけだろうから、いらないけれども。
それからは、Dクラスを罵倒して先生は去っていった。
それじゃ、切り替えていこう。なってしまったものは仕方あるまいよ。
趣味のために、動かねばならない。
まず、クラスポイントの減少の原因はあらゆる素行不良と見ていい。ただし、その内訳は分からない。そして反映はリアルタイムではなく月初。つまり0ポイントを許容しないなら安易な欠席は許されない。
逆に上昇させる術は、優秀な成績を収めること。つまり、テストの点数が最有力候補になる。次点で、部活の成績や学習意欲、慈善活動なども評価対象の可能性もあるがどうだろうか。
また、クラス間での闘争を成り立たせるために、大きくクラスポイントが増減するイベントもあって然るべきだろう。
となると、今は中間テストの平均点の底上げが最優先。赤点を確実に排すならば全員50点以上が望ましい。可能なら全員満点取って欲しい。けれど、あの小テストでさえ赤点は7人。平均点も低過ぎる。
中学の内容から復習すべき人も少なくない。となると、勉強会は必須。それも長期的かつレベル毎に分けたものが。
不可能だ。勉強への優先度が違う。学習意欲から生み出す必要がある。
なら、手っ取り早いのは過去問。問題傾向が分かれば、それも同じ教師が作成したものが複数年度分手に入れば、全て暗記するだけでも半分は取れる可能性が高い。
なら、先生に例年の問題作成者を確認して。あとは如何に問題を保管している人を見つけて、どれだけ値切るか。
いや、値切らなくてもそれ以上の高額で売れば───Dクラスには無料で配布して、他のクラスに売りつける?
でも、供給源がある限り高額転売は成立しにくい。なら、情報の売買。Aクラス志向が強い人に持ち掛けて、脅して独占代金をせしめる。
情報が出まわったら破綻する。なら、巧遅より拙速?
購入者の目星は後でいいとして。先に先生に問題の作成者を聞いて───いや、そういえば先生は「お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している」と言った。
つまり、堅実な勉強みたいな曖昧な方法ではなく、どんな愚昧でも確実にそこそこの点数を取る手段があるということ。
カンニング───はむしろ退学だろうし。職員室に特攻して問題を盗むのは………ぎりぎり犯罪。なら、先生から買う? いや、それはポイントが足りない。
全ての定期テストの問題を今のDクラスの所持ポイントで買えるなら、これ以降全ての定期テストが意味をなさなくなってしまう。同様に、カンニングする権利なんかも。
テストで確実にそれなりの点数を取る条件は何か。問題の答えを知っていること。
テスト中に調べるのは不可能だから、事前に暗記する術がある。
全てテキストから出題? いや、それで皆が取れるわけではない。範囲が広過ぎる。
もっと具体的に出題問題を知る方法がある。しかし、それは全ての定期テストに通じる方法であってはならない。
となると、可能性を羅列して、消去して、妥当なものを残していけば───
「問題、同じ……?」
◇
「阿御鳥さん、少しいいかな」
そこで、誰かに声をかけられた。
顔をあげる。腹しか見えない。もう少し顔をあげる。首が見えた。
「放課後、ポイントを増やすためにどうしていくべきか話し合いたいんだ。是非君にも参加してもらいたい。どうかな?」
「…………ごめん、なさい。今日は、いそがしい」
「そうか、ごめん。でも、気が変わったら参加して欲しい」
「あっ…………二つ、いい?」
すぐに別の所に行こうとしていた彼を呼び止める。私事でクラスの重要な会議を欠席するのだから、最低限伝えておかなければならないことがあった。
「全員0点は、にがめ」
「にがめ? それは一体どういう意味か聞いてもいいだろうか?」
「…………? 赤点、なくなる」
「なっ───それは、どういう…………ああ、なるほど、そういうことか! 確かにそれも一つの手立てだ」
よく分からないが、話を続けてもいいのかな。
「あと、勉強会……するなら、手伝う。それだけ」
「ありがとう、本当に助かるよ。とても参考になった」
そうして彼は去っていって。その時になって、ようやく思い出した。
声からして、あの時の自己紹介の人だ。
何気に、オリ主ちゃんは平田の顔を「平田」としては一度も認識してないです。首から下と、後ろ姿と、声しか知らない。しかも、多分明日には忘れている。しかし、記憶力は悪くないので頑張ったら思い出します。