変わった少女がいる教室 作:鋼コーティングの硝子ハート
放課後になった。ABCクラスの様子を観察してから、職員室に向かった。
過去問を売る相手を見繕っていたのだ。多分、売るならBかCクラスだろう。Aは必要ないだろうし、防衛側の余裕がある。
けれども、可能ならBよりもCの方がいい。Bの方が過去問を独占するメリットが少ないから、値切られそう。クラスの気質も状況も、売る相手としては嚙み合っていない。
だから、妥当なのはCクラスの龍園とかいう人になる。どう交渉するかは、追々考えよう。赤点が出ずに、節約生活をしながらでも趣味に使えるだけのお金が手に入ればそれでいいから、そこまで難易度は高くないはず。
問題は私のコミュ力。筆談すべきかもしれない。
そんなこんな考えていたら、職員室に着いた。けれども、茶柱先生は見当たらない。仕方なしに授業を担当していた先生に聞いてみたら、指導室にいると言う。
指導室を探して、扉をノックしようとしたら、その瞬間に開いた。
「お前は……阿御鳥か。丁度いい。閉めようと思っていたが、入ってこい」
促されて入ってみれば、中には二人の生徒が。彼らのことは知っている。席が近いから覚えていた。Dクラスの誰かだ。
一瞬、ちらりと見える表情。驚き、興味。そんなところだろうか。
「さて、阿御鳥。お前も面白い生徒だな」
「…………も?」
机の上に何故か並べられている入試問題の解答用紙。一瞬だけ眼に入ったが、全て50点。なるほど、大体理解した。
けど、それはそれとして。
「ごめん、なさい。それ……見えた」
目を閉じて謝る。入試の成績なんて、かなりプライベートなものだ。あからさまに置いてあっても、部外者が見ていいものではないはず。
「ああ、気にするな。見ても構わないものだ」
「それ、先生が言うんっスか」
どうしよう。目を閉じたまま話すべきだろうか。解答者が少年の方なら、彼からの許可があるまで見るべきではないと思う。
得られる情報量が減るのは、仕方ない。
「入試は満点、小テストも満点。凄まじいな。お前の学力は、既に高校生の域を超えている」
息を飲む音が聞こえてきた。聞こえてきただけ。視界は真っ暗だ。
「だが、面接の結果は散々だな。ボランティア精神があるにも関わらず、コミュニケーション能力に欠け、協調性も低く、他者への関心も薄い。全く、このクラスには愉快な生徒が多い」
「…………あの。ボランティア、したこと……ない、よ?」
全く心当たりがないことで褒められても困る。他人や社会への奉仕精神なんて、私には無縁なものなのに。実際、奉仕活動もしたことないし。
…………あ、でも、一般に奉仕活動と定義されることはしているのか。中身よりガワと言われたら、一概に否定できない。
「…………そうか。変なことを言って悪かったな。ところで、お前はこの学校の仕組みに気付いていたな? それといい加減目開けろ」
「ん。気付いてた、けど……目、開けていいか、分からない」
「…………もしオレの許可を求めているなら、開けていいぞ」
「ん」
ぱちくり。目を開く。ちょっと眩しい。
何故か、髪が長い人からガン見されていて怖い。入試の人からも珍獣を見るみたいな目を向けられてるし。
「ならば、何故それを利用しなかった? お前ならばどうとでも出来ただろう」
「…………無価値、面倒、無駄、後悔に推移した」
「ほう? それはどういう意味だ」
これでも、言葉足らずらしい。単純に、最初はこんなこと誰でも気付くだろうから意味はないと思って。そうじゃないと分かってからも趣味に没頭するのに忙しくて。やがて誰かしら手を打っているだろうから今更無駄だろうになり。そして今、何かしらしておけばよかったと後悔している。
それだけの話。自分自身でも阿保らしいと思う。慣れない環境で浮ついているのかも。
そのことを頑張って説明すれば、また質問される。
「お前はAクラスに上がる気はない。そうだな?」
「ん」
「退学にされるなら、どうだ?」
「退学、しても……いい」
「なるほど、そうか。まあ、話はこれだけだ。私はもう行く。そろそろ職員会議の始まる時間だ。ここは閉めるから三人とも出ろ」
「えっ…………? 待っ………………!」
そうして廊下に放り出されてしまった。変なことを聞かれるばかりで、要件を済ませられないままに。
仕方ない。今日は帰ろう。
とぼとぼと歩き出したら、入試の人も帰るらしい。同じ方向に歩いている。
「待って」
そこに響く、呼び止める声。多分、対象は入試の人だろう。
「さっきの点数……本当に偶然なの? それにあなたも、一体何がしたいの?」
なるほど、対象は両方であったか。