カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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バッド・デュエリスト その1

 アメリカーナプロリーグ決勝。

 

 カードゲームの試合の為に、広い野球のスタジアムを貸し切るというあまりにあまりな暴挙。それも行われる試合は決勝戦のみ、たった二人のプロゲーマーの為に、大きなスタジアムの予定をまるまる空ける、なんて、普通に考えれば正気ではない。

 

 だがこの世界ではそれが正しいのだ。

 

 見よ、スタジアムの観客席を埋め尽くす観客の熱狂を。

 

 そればかりか客足は外にまではみ出し、一目、デュエリストの頂点を拝もうとスタジアムを取り囲むような人の海。髪色も服装もバラバラの人々が数多押しかける様子は、真っ黒な混沌の海と同義であった。

 

 そんな狂乱の中心、スタジアムのグランドでは、それと対照的にキンと冷えた冷たい緊張感に満ちていた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 カードを引くのは、現アメリカリーグチャンピオン。

 

 銀色のコートを風に靡かせる彼は、引いてきたカードにちらり、と視線を向けた後に、対戦相手へと目を向ける。

 

 対するのは、民族的な衣装に身を包んだ挑戦者。その傍らには、雷が鳥の形をとったようなモンスターが寄り添うように佇んでいる。

 

 部族の誇りを一身に背負い、代々引き継いだカードを切り札にここまで勝ち進んできたチャレンジャーを、チャンピオンは冷徹な視線で一瞥した。

 

「よくぞここまで俺を追いつめた。その蛮勇、無謀、今一時評価してやろう。だが、それもここまでだ! 我が王威を、ここに示す! 現れろ!」

 

 チャンピオンもエースカードを召喚する。

 

 デュエルは、一気に最終局面へ……。

 

「ふーん」

 

 そんな様子を、私はビジネス街の巨大モニターで、特に感慨深くもなく観戦していた。

 

 モニターの下には、試合に見入っている無数の通行人。正直そろそろ交通妨害になりそうなレベルだ。見渡すと案の定、制服姿の警官たちが三角コーン片手に集まってきているのが見えた。

 

 警察に目を付けられると厄介である。私はこっそり、その場を離れる。

 

 振り返るとモニターの中では大会の試合が続いているが、切り札の召喚に成功した事でチャンピオンにほぼ流れは傾いた。

 

 挑戦者のデッキも悪くはないのだが、カードパワーにそもそもの差がある。中速ビートダウンが、重量級デッキに切り札召喚を許したらもうそれは負けなのだ。

 

 しかし、当然といえば当然なのだが、これだけカードが中心の世界だけあって、やっぱ世界規模、国家規模で大会をやっているのだな、としみじみと実感する。前世でもゲームの世界大会はやっていたが、やはり規模に大きな差がある。

 

 それにアメリカ大会だけでなく、ニュースを見る限りはヨーロッパ大会、中国大会、インド大会、アジア大会とあっちこっちだ。ほぼ世界中のどこかで、いつも何か大きな大会があるといっても過言ではない。まあ、なんか微妙に国の名前が違うがそれはご愛敬だろう。

 

『そこの観衆! 交通妨害になっています、解散しなさい!』

 

「ええー、これからいい所なのにぃ!」

 

『家で見なさい、家で! 許可の無い集会は違法ですよ!』

 

 あらら。言わんこっちゃない、本格的に揉め始めた。

 

 ざわざわし始めた現場から距離を取り、私はそしらぬ顔でベンチに腰掛けた。

 

 遠ざかったモニターの中では、チャンピオンがチャレンジャーに猛反撃を開始している。これはもう勝負が決まったかな。

 

 海の向こうで起きている出来事だが、しかし、今私の手にあるデッキと、基本的には同じパックから出たカードであるという事を考えると、なんだか人の繋がりみたいなものを感じてちょっと不思議な気分になる。

 

 しかし、そうなるとカードの著作権とか出版元とかどうなってんだろうな。これだけの世界規模のカードを一社だけで設計デザインから印刷まで行っている筈がない、複数の会社で分担しているはずだが、そういう話はとんと聞かない。

 

 そもそも、現実でもカードゲームのルール調整は複雑怪奇、大体いつも失敗してリミットレギュレーションでどうにかしているというか、商売の為にわざとぶっ壊れカードを出しているというか、まあとにかく色々ぐちゃぐちゃなのが世の常だ。

 

 だがこちらの世界では、制限カードの概念は存在するものの、基本的にはほとんど影響がない。何故かって、運命力によるものか人によって引けるカードに大きな偏りがあるらしく、特定のデッキが無双して問題になる、なんて事が起きていないらしいのだ。信じがたいが、実際にそうなのだから仕方ない。そもそも、街を歩いてデュエルの様子を観察しても、同じようなカードを使ってるのを全くといっていいほど見かけた覚えがない。カードプールどうなってるんだっていうか、パックの収録カードどうなってんの?

 

 ただ、何か月もこの世界にいて観察を続けた結果、引けるカードが偏る、とはまた別に、ある種の方向性があるのではないか、と私は仮説を立てている。

 

 今も街角でデュエルをする人達。その多くは、ハイランダーデッキだ。膨大な収録数を誇るパックの中から、同じカテゴリのカードを引き寄せるのは並大抵の運でなせるものではない。ましてや、同じカードを二枚目以降も当てるなど、砂漠で落とした砂金を探すような話だ。

 

 だが、一方で腕の立つデュエリストは、当然のように二枚目以降の同じカードをそろえてデッキを構築している。勿論、多額のお金を支払ってシングル買いした者もいるだろうが、多くは素引きの筈だ。

 

 強い奴の所にカードが来るのか、カードを引けた奴が強いのか。

 

 その因果関係までははっきりとしないが、この予測が正しければ一つ言える事がある。

 

 金、権力に次ぐカードゲームの強さ。それも結局、努力だけではどうしようもない、という事だ。いくらプレイングを磨いても、手元にカードが無ければ何もできず、カードがあっても才覚が伴わなければ意味がない。

 

 結局、この世界の異常なまでのカードゲームへの偏りは、諸人にとって越えられない高い壁が一つ増えただけの事なのだ。

 

「やっぱろくでもない世界だろここ」

 

 とはいえ、おかげで無い無い尽くしの家なき子がやっていけてる訳なのである。カードさえ強ければ下克上待ったなし、同情するならデュエルしろ。である。

 

 それにおかげで、プロカードゲーマーというか、プロデュエリストなんてものが成立しているのであるし。

 

 これが見ていると結構面白いのだ。ただ単にゲームに強いだけでは売れないというか、芸能人のようにそれぞれが何かしらのキャラを作って衆目を集めている。いうまでもないが、デッキの強化には多額の資金が必要で、その資金を集める為にはスポンサーが必要で、そのスポンサーをつけるためにエンタメを修め……という流れだ。

 

 勿論、エンタメデュエルが出来て強くなければ上に行けない、というのであればある種の縛りプレイであり、健全ではないのだが、そのあたりはチャンピオンが基本的に馬鹿強いだけのデュエリストとして君臨する事でバランスが取れている、気がする。アメリカのチャンピオンとかエンタメとか盛り上げとか気にせずに問答無用で圧殺するもんね。エキシビジョンとかで塩試合に持ち込んで空気ひえっひえにしても平然としているあたり、恐らく心臓の毛がハイパーカーボンか何かで出来ていらっしゃると思われる。

 

 私にはとても真似できないね。

 

「ま、私には関係の無い話か」

 

 悪逆デュエリスト以前に、身元不明の児童に金出してスポンサーするまともな企業が存在するはずがない。

 

 私としても、とりあえず毎日ご飯にありつけるぐらいの報酬があれば十分なのである。そもそも、いくらパックを買ってもだいたい同じ面子しか出ないし……。

 

「さて。本日のカモを探しに行くか」

 

 私は気持ちを切り替えて、暇そうにしているデュエリストの探索を開始した。

 

 今日は5戦ぐらいやりたいな。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「うーん、今日はちょっとイマイチだな……」

 

 昼過ぎまで歩き回って、本日の釣果はゼロだった。

 

 最近、ちょっと顔が売れてきたせいか、逆に“悪逆デュエリスト”をデュエルでとっちめよう、という元気な奴らが減ってきたというか。

 

 先日、虫の居所が悪い時につっかかってきた奴をチマチマ削り殺したのもよくなかったのかもしれない。いや、あの時はなんであんなに機嫌悪かっただろうな、私。そりゃあ喫茶店でドレス着せられた翌日だったけど、あれは割り切ったつもりだったんだが。

 

 生理……はなんか来てないから、あれか。低気圧?

 

「……喫茶店にいくか」

 

 この時間帯だと対戦相手はいないが、流石に歩き回って疲れた。

 

 ちょっと休憩するか。なんならそのまま待機して、放課後にやってきた学生どもを血祭にあげるのもいい。

 

 ノリで生きてる連中は実力差考えずに向かってくるからいいよね。その中に主人公が混じってたら即死するのはこっちだが。

 

 ははは。

 

 そんな事を考えながら喫茶店に向かう私だったが、しかしその足は店の前で止まってしまう。

 

「あれれ?」

 

 馴染の、都会の隠れ家といった感じのお洒落な喫茶店。

 

 この時間帯でも、店の入り口に何人かの客がたむろしている。

 

 だが、なんだか様子がおかしい。彼ら彼女らは、店の中に入る事なく入り口から店を遠巻きに観察しているだけだ。ざわざわと口にする囁きも、何か不穏な色をはらんでいるように聞こえる。

 

「……?」

 

 何かあったのだろうか。だが、私の顔が最近知れ渡ってる事を考えると、尋ねたら客をびっくりさせてしまうかもしれない。

 

 ちょっと考えて、私は喫茶店の裏に回った。閉ざされている喫茶店の裏口、渡されている鍵で閉鎖しているチェーンを外す。その先には、実家と喫茶店の裏口に分岐した道があり、私は迷わず喫茶店に向かった。

 

 裏口の扉には鍵がかかっていない。私は一瞬だけ悩んでから、ええいままよと店内に踏み込んだ。

 

「マスター。来たぞ」

 

「ああ、いらっしゃい、トウマちゃん」

 

 声を上げると即座に返事が返ってきて、少し安心する。

 

 つかつかとスタッフルームから店内に出ると、がらんとした静寂が私を出迎えた。

 

 いつもの、客が少ないのとはまた違った形の静寂。

 

 その中で、マスターがモップを片手に床を掃除していた。床には、砕けて飛び散った陶器と、コーヒーの汚れ。

 

 ……うっかり落とした、という風には見えなかった。

 

 表の客の反応、人ひとり居ない店内の雰囲気もあって、私は嫌な予感を覚えた。

 

 暴力の匂いがする。

 

「何があった、マスター」

 

「ん? いや、別に大したことは……」

 

「つまり何かあったんだな?」

 

 問い詰めるように食い気味で言葉を重ねると、マスターは苦笑いしながら首を振った。

 

「なに、ちょっと面倒な客が居ただけさ。トウマちゃんが気にすることじゃない」

 

「そうか……」

 

 どうやらマスターはこの件に私を関わらせたくないようだ。逆説的に、私が間接的にでも関与している可能性が高まる。

 

 そうだ。考えるまでもない。

 

 悪逆デュエリストが拠点としている喫茶店なんて、何かしらトラブルに見舞われても当然ではないか……。

 

「あ、でも、お客さんが遠ざかっちゃったからさ。もし気にしてくれるなら、例のドレス着てお手伝いを……」

 

「ああうん別に問題ないなら大丈夫だねこれで失礼する」

 

「つれない事言わないでよ~~」

 

 そそくさと退場しようとする私の脚にマスターがしがみついてくる。情けない事を言う大人に軽くため息をついて、私はしゃがみ込んで割れた陶器に目を向けた。

 

「あ、ダメだよトウマちゃん、危ないから」

 

「ん。わかってる」

 

 軽く返事して、砕けた陶器の断面を見る。

 

 ……ざらざらとした、混ざりものの多い破損部。全体的に質がとてもよろしくない。

 

 おかしい。この喫茶店は、食器一つ一つにもかなりこだわりがある。こんな質の悪い、大量生産品みたいな陶器もどきを採用しているはずがない。マスターが知らないだけで贋作を掴まされていたか? いや、でも断面から見える器の厚さが普段手にしているのと全然違う。別物だ。

 

 床に広がっているコーヒーも、時間経過しているとはいえ香りが薄すぎる。まるで、二番以降の出がらしの茶のようだ。

 

 これは……ふむ。

 

「まあいい、掃除の邪魔をしても悪い。私はこれで失礼する」

 

「ああ、トウマちゃーん! かむばーーっく!!」

 

 手を振り振り、正面から店を出る。喫茶店から堂々と出てきた私の姿をみて、遠巻きにしていた客達がびく、と反応するのが見えた。

 

 そのうちの一人、喫茶店で何度か見た顔に、私は声をかけた。

 

「もしもし。ちょっとお聞きしたいのですが……」

 

 

 

 喫茶店を出た私は、客から話を聞いた足でそのまままっすぐ、ビジネス街へと向かった。

 

 そしてビル街を通り抜け、その先の公園へ。

 

 休日にはイベントが開かれることもある、大きな噴水が特徴のちょっと大きめの公園。特に遊具などもなく、時折スーツ姿の大人が散歩したりしているような静かな公園の一角に、今は人だまりができていた。

 

 小さな体を生かして見物客の間に潜り込むと、その中央の広い空間で、二人のデュエリストが今まさにゲームを始めようという所だった。

 

 一人は、ダン少年。

 

 いつも元気な彼だが、今は何やら怒りのような感情を燃やしているように見える。

 

 そして、それに対するのは。

 

「……なるほど。そういう事か」

 

 ラフな金髪に、真っ黒な革ジャンを羽織った、軽薄そうな丸サングラスの男。口元には、相手を小ばかにするような笑みが浮かんでいる。

 

 覚えがある。

 

 エンペラーが昇格したBランクのランカーデュエリストにして、悪名高い本物の“ヒール”デュエリスト。

 

 ギルティ岩田。

 

 そう。私はあくまで俗称“悪逆デュエリスト”だが、ランカーの中には己のスタイルやキャラを定めてそれを売り込んでいる奴もいる。いわゆる、プロデュエリストという奴だ。奴もその一人……悪党であっても、それがプロとしての売り物という訳である。

 

 そして結構な有名人だ。その証拠に周囲を取り囲む観客は、熱心に声を張り上げて戦いを煽っている。

 

「いいぞ坊主! ギルティ岩田なんぞとっちめちまえ!」

 

「ギルティ岩田! そんなガキに負けるんじゃねえぞ!!」

 

 やれやれ、血の気が多い事だ。

 

 とにかく、私はあの男……ギルティ岩田に確認したい事がある。

 

 今まさにデュエルが始まろうとしている中、私は空気を読まずに二人の間につかつかと歩いて出ていった。

 

「あ、おい! 今からデュエルが始まるんだ、空気を読め!」

 

「い、いや、待て! あの生気の無い瞳、ぼろぼろの服、低い背丈……」

 

「“悪逆デュエリスト”、逆巻トウマ!?」

 

 ざわめく観客たち。その囁きを聞き流し、私はダン少年に背を向け、ギルティ岩田に向き直った。

 

「貴様が、ギルティ岩田であっているか?」

 

「……おやおやこれは。本命が、向こうからお出ましか」

 

「さかまきトウマ……!」

 

 皮肉げに口元を歪めるギルティ岩田に対し、背後のダン少年からは戸惑ったような声が聞こえてくる。私はそちらに一瞥も向けず、目の前の頭三つ分以上高い大人のデュエリストを正面から睨み返した。

 

「一つ確認したい。……喫茶店で騒ぎを起こしたのは、貴様か?」

 

「あ゛ー? 何を聞いてくるのかと思ったが……なんだそんな事か」

 

 はっ、とギルティ岩田が小馬鹿にしたように小さく笑う。そのわざとらしい態度に、私は眉一つ動かさず続きを待った。

 

「ここらで有名な喫茶店だっていうからわざわざいってやったんだが、俺好みじゃなくてな。対価を払うに値しないサービスなんぞ、袖にするのが当然だろ?」

 

「この……てめえ……!」

 

 背後でとうとうこらえなくなったようにダン少年が動いた。私の横を通り過ぎて前に出ようとする彼を片手で制止する私を、彼がショックを受けたような顔で見返してくる。

 

 まあ、もうちょっと落ち着け。君。

 

「……ダン少年。喫茶店の事で彼に喧嘩をうったのか?」

 

「そうだよ!! 健二さんのお店を荒しやがって!!」

 

「それは、その場に居合わせたのか?」

 

 私の問いかけに、彼は一瞬ひるんだように口ごもるが、すぐにきっと睨み返してくる。

 

「その瞬間は見てないけど、アイツが店から出てくる所をみた! それで店の中を覗いたらカップが割れてて、アイツが大声で店の悪口いってたから、デュエルを挑んだんだ! そしたら、ここでやろうって……!」

 

「なるほど」

 

 大体事情は分かった。

 

 ギルティ岩田に視線を戻すと、彼は興味深そうに私の事をじっとサングラスの向こうから見つめていた。その視線は、割かし理知的で落ち着いている。

 

「まあ、そんなところだ。まあ、釣りに獲物がかかるには時間がかかる。その間をちょいとその小僧で潰そうとおもってたんだが……」

 

「つまり、本命は私か」

 

 断定する言葉に、隣のダン少年が反射的に首をギルティ岩田と私の間で往復させる。良く分かっていなかったようだ。

 

「あの喫茶店が私の行動範囲に入ってるのを知ってわざと騒ぎを起こしたか。縄張りを荒された犬が、犯人を追いかけてくるとでも思ったのか?」

 

「事実そうなったじゃないか。一日中デュエル相手を探してほっつき歩いてる暇人を足で探すほど、俺は暇じゃないんでね」

 

「そうか」

 

 やっぱり、私のせいか。そのせいでマスターには迷惑をかけてしまった……のか?

 

 まあいい、この事はあとでじっくり考える事にしよう。

 

 それはともかく、今はこいつの処遇だ。

 

「一つ聞く」

 

「ん?」

 

「騒ぎを起こして私を釣りだすのは、まあいい。だが……釣りだされた獲物が、手に負えない怪物かもしれないという事は、考慮しなかったのか?」

 

 じゃき、とデッキを用意してギルティ岩田を睨みつける。

 

 別にあの喫茶店を荒された事に怒っている訳ではないが、いささか今日の私は不機嫌だ。

 

「はっ。お前みたいなチビがか? ずいぶんと自信過剰と見える。Bランクランカーの俺を、Dランクランカーのお前が倒せるとでも?」

 

「何か勘違いしているようだな」

 

「何?」

 

 ぴくっ、とサングラスの下でギルティ岩田が眉を顰める。

 

 そう、お前は、一つ勘違いしている。

 

 私は、デュエルでお前を負かそうとしているのではない。

 

「私はただ、貴様の棺に釘を打ち付け、火を放とうとしているだけだ……!」

 

「ははは、洒落た言い回しだ! 俺好みだぜ!」

 

 

 

 

 

「合意と見てよろしいですね?」

 

 

 

 

 

 周囲を取り囲む観客たちが、波が引くように退いていく。その向こうから、かっちりとスーツを着込んだレフェリーの姿が現れた。

 

『このデュエル、公式レフェリーのこの私、秋町が仕切らせていただきます。よろしいですかな?』

 

 毎度毎度、良いタイミングだ。こちらとしても異存はない。

 

「お、おい、さかまきトウマ! こいつはおれが……!」

 

「悪いが、私の売られた喧嘩だ。先約を優先させてくれ。……私が敗北した時は、君が好きに挑めばいい」

 

「……っ、ちっ、じゃあ、俺の出番はないじゃんかよ。けっ」

 

 いじけたような顔で、観客の元に下がっていくダン少年。私は思わずあっけにとられた。

 

「……は?」

 

「ゆずってやるっていってるんだよ。それで、お前が俺以外に、負けるはずがないからな。これで話は終わりだ」

 

「…………はは」

 

 思わず、頬が引き攣るように歪む。なかなか、嬉しい事を言ってくれる子供だ。

 

 ますます、気合が入った。

 

「はっ、ガキどもが一丁前にさかりやがって」

 

「そういう事だ。よろしく頼むよ、レフェリー」

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

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