カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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激闘! 襲来、ダークファイブ!
蘇りし古代の王 その1


「エヅプト展示会?」

 

 ある晴れた昼下がりの事。

 

 ストリートデュエルで三人の相手を血祭に上げ、気分良く喫茶店でカフェオレを口にしていた私。

 

 そこにマスターが持ち込んできたのはそんな話だった。

 

「そう。こんど市民会館でね、発掘品の展示会とかやるんだって。結構凄いんだよ、新しく発掘されたファラオの棺も持ち込まれるらしい」

 

「ふぅん……」

 

 ずっしりとしたカップを持ち上げながら、話に相槌を打つ。

 

 砂糖多めのカフェオレが、連戦で草臥れた脳に優しい。

 

 しかし、エヅプトか。

 

 前世における世界的に有名なカードゲームも、そのルーツの一つはエジプトにあるという設定だった。いやまあその後どんどん話が膨らんで宇宙規模の話になったが、それでも原作としてはエジプト起源である。

 

 その関係で、私も多少、エヅプトに興味がない訳ではない。

 

 何より、異国情緒あふれているのがいい。

 

 どこまでも広がる黄金の砂原、石をくみ上げたピラミッド、君臨するスフィンクス。日本で生きている限り見る事のない光景が広がっている、というのは単純にワクワクする。

 

 まあ、治安が終わってる印象なので自分で行こう、だなんて思わないが。

 

「興味がない訳じゃないけど……お高いんでしょ?」

 

「ふっふっふ、それがねー。じゃーん」

 

 そういってマスターが取り出したのは、そのエヅプト展示会のチケットだった。ちょうど三枚あるそれには、それが一般発売ではなく町内会用である表示がされている。

 

「ふふふ、この通り、商店向けのゲストチケットをもらっているのだ。どう? トウマちゃん。興味あるでしょこういうの」

 

「何故に断定口調」

 

「だって喫茶店の雑誌、オカルトとか古代遺跡ものばっかり読むじゃん」

 

 そりゃあホビーアニメで超古代文明との繋がりとか鉄板だし。ある日突然復活した地上絵の邪神に生贄にされるとか勘弁してほしい訳で。

 

 ついでにいえばすでに私は変なのに取り憑かれてる以上、それへの対抗策は欲しい。いやまあ、あいつら並大抵の事じゃ追い払えない気が薄々しているけど、完全に無策ってのもまあ駄目じゃない?

 

 ちなみにそんな連中だが、この間のドレス騒ぎであまりにハッスルしすぎたせいか、最近悪夢の中でも割と大人しい。一方で新規戦力を投入したせいなのか、現実で使えるカードもちょっとだけ増えた。私は静かに眠れる、デッキはバリエーションが増える、まさにいいとこ尽くしである。なんならこのまま成仏してもいいのよ。

 

 そんな訳で、あくまで実利を求めてのオカルト雑誌読み漁りなのだが、かといって嫌いなわけではない。

 

 浪漫に理解が無い訳ではないつもりだ。

 

「ふーむ……。ねえ、どんな展示物があるの?」

 

「おっ、興味沸いてきたね。ちょっとまって、配られたチラシ持ってくる」

 

 何が楽しいのか、軽い足取りでカウンターの後ろへ引き返していくマスター。

 

 超古代の展示物か……。考えてみれば、無事にこの街まで運び込めている時点で、厄ネタではあるまい。この世界なら、あれば普通にファラオの呪いとか成立するはずだ。あるいは、展示物の中にそういう厄ネタを封じる宝物でもあるのかもしれない。

 

 もし本当にそういうものがあれば、その力を借りて私の状況を改善できるかもしれない。

 

 そう考えると、俄然、興味が沸いてきた。

 

 私はカップを置き、マスターを手伝おうと席を立った。

 

 

 

 そして週末の土曜日。

 

 展示会の会場となった市民会館の入口横に、ドレスで着飾った私の姿があった。

 

「どうして……こうなった……」

 

 死んだ目で呻くが、現実は変わらない。

 

 いや、納得はしているんだ。納得は。

 

 チケットはあくまで、商会向けのもので、当然お店の身内じゃないと参加できない。んで、本来私は喫茶店の客であり、身内ではない。なのでチケットの利用許可を得るためには、喫茶店の身内……店員、バイト、手伝いにならなければならない。そして喫茶店の店員が実質茉莉さんのモデルである以上、私もこうしてちゃんと着飾らなければならない。うん、納得はしている。

 

 だけど出発直前になってぬけぬけとそれを言い出すのは卑怯だろぉぉ……。

 

「くそう、ぶっちするべきだったか……」

 

 社会人として、決まっている予定を無意味にキャンセルする事がどれだけ迷惑か、それを身に染みて分かっているからこそ断り切れず、こうしてこの場に来てしまった。冷静になると、約束を違えたのはあっちなんだから私にそんな責任は発生しないのだから、断るべきだったのである。

 

 くそう。社会の底辺で使い潰された哀しい生き物の習性は転生しても変わらんなあ。

 

 ちなみに、当のマスターと茉莉さんは、ちょっと用事があるとかで遅れている。後から向かうので、入口で待っていて欲しい、という話だ。

 

「全く、アバウトなんだから……」

 

 憂鬱な気分になりながら、市民会館のガラス窓を鏡に見立てて、髪のセットを整える。

 

 今日は、青いドレスを選んだ。全部で四つ、新たに茉莉さんがデザインしたものの中では、これが一番フォーマルな感じだ。デッキを起動すると連動して色が変わったりフリルや裾が伸び縮みする謎ギミックを搭載した衣装だが、こうして何もしていないとただ小奇麗なだけである。

 

 鏡の中に映っている少女は、どこか不安そうな表情だが、それがまたアンニュイな雰囲気を醸し出している。馬子にも衣裳というが、中身が私でも着飾ればそれなりに見えるものだなあ。最近はちゃんとリンスとトリートメントしているせいか、靡く髪もちょっと艶が戻ってきた気がする。少なくとも通りがかる人達から訝し気な目では見られてないようなので、それなりに見栄えはする形に仕上がってはいるのだろう。

 

 しかし、あれだ。危惧してきた通り、一度袖を通したらどんどん防壁が脆くなってきている。このままでは、近いうちに本当に身も心も女の子にされてしまう。

 

 それは、逆巻トウマという自意識からすれば死より恐ろしい結末だ。人に忘れられた時、人は本当に死ぬのだというが、そもそもその存在を誰にも認識されていないまま消滅するというのは、死んですらいないではないか。

 

 とにかく、気を強くもって生きよう。

 

 改めて何十回目かになる決心を新たにした所に、何やら聞き覚えのある声が響いた。

 

「えっ。店員さん?!」

 

 弾かれたように振り返った先。ぽかんと間抜け面でこちらを見る、ダン少年の姿があった。傍らには、ハナちゃんの姿もある。どうやら二人で仲良くお出かけ中のようで……その手には、少しくしゃくしゃになったチケットが握りしめられていた。

 

「あ、ど、どうも。こんにちは」

 

 驚愕も一瞬。私は直ぐに表情筋の制御を取り戻し、取り繕った笑顔でダン少年に挨拶を返した。

 

 彼は未だに、店員の私と普段の私を別人だと思っている。正直彼との気安い関係は貴重な清涼剤であるので、正体バレはまだ避けたい。

 

 逆にいうと、認識を一致させないためにこの恰好の間はおんなのこおんなのこしなければならないという壮絶な苦痛を強いられるのだが、背に腹は代えられない。仕方ないのだ。

 

「あ、こ、こんにちはっ」

 

「こんにちはー」

 

 顔を赤くしてぎこちなく挨拶を返してくれるダン少年と、さっぱりした反応のハナちゃん。なんか、ハナちゃんの視線がじっとりしているような気がするが、まあ気のせいだろう。

 

 それにしても、ふふ。今日は博物館デートか。いいね。

 

「今日はお二人で展示会を見に来たんですか?」

 

「え? いや、その、三人で……」

 

「ここで店長と待ち合わせしてるの」

 

 ちょっとだけ揶揄いを含めて問いかけると、口ごもるダン少年を制するように前に出てきたハナちゃんが答える。が、言っている事が妙である。

 

 マスターの名前がどうしてここで出てくる? あ、いや、そういう事か。

 

「店長? ああ、すいません、てっきり喫茶店のマスターの事かと。他にもお知り合いが?」

 

「え? マスターだけど?」

 

「え?」

 

 ダン少年とそろって鏡映しのように首を傾げる。

 

 どういう事だ?

 

 おかしい、状況を整理しよう。

 

「私は、マスターに展示会に誘われまして。後からいくので、先に行っていてくれと」

 

「お、俺、じゃない、僕達はその、マスターにチケット余ってるので、どうかって。それで、会場に引率してくれる人を先に行かせてるから、とりあえず二人で向かって、って……」

 

 お互いの状況を開示しあい、そして数秒の沈黙。

 

 ええと、つまり、これは。

 

 ……嵌められた!?

 

「そういう事ね……」

 

 そうか。読めたぞ。マスターの狙いは、これか! いつまでたっても女の子らしい恰好をしない上に人と距離を置く私に強硬手段に出やがった!?

 

 いや、ダン少年は確かに身内みたいなもんだよもう。一番親しい友達といってもいい。でもだからこそ、この恰好見せたくねえっていう気持ちはわかんないかなあもう! いやわかってるからこそなんだろうけど!

 

 内心でうぎぎぎぃ、となりつつ、私は軌道修正を試みた。マスターが敢えて根回しを不完全にした事、ここで逆用させてもらう! とにかくダン少年を言い包めてしまえば私の勝ちだ!

 

「な、なんだか話が可笑しいので、私はここで……」

 

「あっ、そうか! 店員さんが引率なんだね!?」

 

「………………。はい、そうです…………多分…………」

 

 私が煙に巻くよりダン少年の閃きの方が早かった。くそう、こういう時だけ察しが良い! 流石主人公というかなんていうかさあ! いやまだ確定しとらんけど!

 

「じゃあ早く行こうぜ! 時間がもったいない!」

 

「…………そうですね」

 

「そうだね……」

 

 隣のハナちゃんがなんか非難がましい視線を向けてくる。御免ね! 楽しいデートだと思ったらお邪魔虫がくっついてきて! 文字通り無視してくれないかなあ。

 

 と思ってたら、ダン少年が私の手を握り返してきた。柔らかい子供の手にびっくりしていると、ぐいぐいと勢いよく手を引かれる。

 

「ゲートはあっちだぜ!」

 

 吃驚している私に、ダン少年は何の含みもないカラッとした笑顔を向けてきて、なんだかそれでいろんなことがどうでもよくなってしまった。

 

 小さくため息をはいて、隣のハナちゃんの手を握る。ほわっ、と驚いて見返してくる彼女に小さく苦笑して、私は歩みを促した。

 

「いきましょう」

 

「う、うん」

 

 

 

 展示会場は冷房が行き届いていて、人の多さのわりに過ごしやすかった。ぞろぞろと続く人の列に交じり、三人手を繋いで流れていく。

 

「へえー、これ、数千年前の剣なんだ。錆びてないんだ、すげー」

 

「あれ、でも銅ってかいてあるよ。鉄じゃないの?」

 

「ああ、それはね……」

 

 周りの迷惑にならないようにひそひそ声で会話する私達。展示品に疑問を重ねる子供たちに、私はガイドブック片手に説明をする。

 

 勿論、前世の知識をそのまま持ち込んで披露しているのではない。この世界が違う発展の仕方をしたのは明白だから、ちゃんと事前に色々下調べしてきた。展示を楽しむためには事前の調査も欠かせないのだ、何がどう凄いのか知らないとね。

 

 幸いにして、こちらの世界でも鉄製品の出現が大きなターニングポイントであるのは変わらないので、理解はしやすかった。

 

 まあ、うん。この世界特有のぶっとんだ文化発展も、あるにはあるのだが。

 

 列が流れて、その象徴のような展示品の前までやってきて、私はちょっとした頭痛を覚えた。

 

「すげえ、粘土板のカードだ!」

 

「エヅプトの人達、大昔はこれでゲームしてたんだね」

 

 そう。

 

 展示品のガラスケースに並んでいるのは、超古代のカードゲームの札だ。厚さ2センチほどの粘土板で作られたそれは、数千年の時代を経ても今なお、その存在を主張しつづけている。横には、粘土板を大量生産するための型も並べられており、当時から夥しい数が生産されていた事が説明されている。

 

 ちなみにデザインは今とそう変わらない。言語が違うだけで、枠の中にイラストと文字が刻まれている基本フォーマットは一緒だ。絵の部分は粘土の特徴を生かして彫刻のように立体的に造形されており、なかなか迫力がある。

 

 いやまあ、うん、数千年前の時代のものが今とそう変わらないデザインってのは明らかにおかしいのだが、この世界ではそういうものらしい。

 

「お、これって昔のデュエルの光景かな」

 

 そして当然ながら、当時の生活を記した壁画などには、これを使ってゲームしている人々の姿も描かれている。分厚い粘度板を塔のように積み重ねてゲームをしている様子が顔料によって色鮮やかに残されており、その前には一層多くの人だかりができている。

 

 みれば、壁画の手前の看板に、描かれているゲームの局面が解説されているようだ。それを見る限り、テキスト効果の処理なども今と全く変わっていないようだ。もしかすると、こうした出土品を紙に印刷しなおしたらそのまんまデュエルに使えるのかもしれないね。

 

「あ、見て見て。レジにて、粘土板のカードの現代版レプリカ発売中だって」

 

「興味あるな。何パックか買っていく?」

 

「まじで売ってんのかよ……おほん、売っているんですね」

 

 思わず乱暴な口調を漏らしてしまったのを慌てて訂正する。ダン少年は気にもとめていなかったらしいが、ハナちゃんにはちょっといぶかしげな視線を向けられた。気を付けよう。

 

 いそいそと壁画の前から移動して、先に進む。

 

 ここからは別館だ。そして廊下を渡った先に、今回の展示品の目玉がある。

 

 展示ルームの入口には係員が居て、人の流入を制限している。私達は入館時に渡された整理券を係員さんに提示して、特別展示室のドアを潜った。

 

 途端に、猛烈な冷気が吹きつけてくる。

 

「うわ、さぶっ」

 

「ハナちゃん、大丈夫? 寒くない?」

 

「う、うん、大丈夫」

 

 展示品の保護の為だろう、展示室は薄暗く、クーラーがガンガンに利かせてあった。私達の他には数名の客しかいない。人の体温で展示品が傷まないよう、人数が管理されているのだ。

 

 そんな特別展示室の中央に、それはあった。

 

「すっげ……」

 

「これが、ファラオの棺……」

 

 展示されているのは、石造りの棺桶だ。周辺には無数の副葬品が並べられており、時を越えた今もなお、褪せる事のない宝石や黄金の輝きを放っている。

 

「コラシス3世、だったけ。すんごい王様なんだったよね」

 

「私はそう詳しくはないけど、そうらしいね」

 

 コラシス3世。当時の医療・栄養状態からは考えられない程の長寿であり、90歳以上まで生き、傾いていたエヅプト社会を立て直し、以降千年の繁栄を約束した中興の祖、だったとか。儀式……カードゲームにも異様に強く、向かう所敵無しであると同時に、どちらかというと暴君だったらしいが。

 

 ただ不穏な話を聞くに、案外、闇のゲームの使い手とかだったりしたのかもしれない。

 

「棺の中には、今もミイラが入っているんだっけ?」

 

「スキャニングの結果によればね。流石に、死者の棺を暴くのはアウトだから、そのまま密封されたままだそうだけど。この冷房も、ミイラ保存の為でしょうね」

 

「ミイラさん、寒くないのかな……」

 

 ハナちゃんのらしい心配に私も頬が緩む。まあ、砂漠の夜はこれよりずっと寒いらしいから、心配は無用だろう。

 

 私は繋いだ二人の手をぎゅっと握りしめた。ダン少年とハナちゃんは驚いたように振り返るが、すぐに笑って肩を寄せてくる。三人で団子になって暖を取りながら、展示品に触れないように、距離を置いてまじまじと見て回る。

 

 見れば粘土板のカードだけでなく、カードの絵柄を彫刻にしたミニチュアのようなものまで置いてある。カードゲームに強かっただけあって、そういった副葬品も多いようだ。なんか親近感がわく。案外オタクだったのだろうか。

 

「なんかかっけーのがいっぱいあるな」

 

「ふふ、そうだね。自分の使う札に愛着があったんだろうな」

 

 そうして一通り見て回り、十分満足した私達はそこらで切り上げる事にした。

 

 そろそろ躰の芯が冷えてきた。早足で出口に向かうが、何故か出口のドアは人で詰まっていた。騒ぎになるほどではないが、穏やかならぬ空気を感じて顔を見合わせる。

 

「?」

 

「どうしました?」

 

「いや、扉が開かないんだ。係員も困惑してる」

 

 手近な老紳士に尋ねると、妙な話が返ってきた。確かにドアで隔離されているが、そんながっしりした造りでもない。鍵がかかっていなければ、簡単に開くはずだが。

 

 しかし事実、鍵がかかってないにも拘らずドアは大人数人がかりで押しても開かず、ドアの向こうからはくぐもった係員の困惑した声が聞こえてくる。

 

 妙なトラブルを前に、私達は顔を見合わせた。

 

「……どうする?」

 

「仕方ない。もう一巡して時間を潰そう」

 

「えー、寒いよー」

 

 まあ、すぐに何とかなるだろう。緊張感もなく、私達がそんな会話をしていた時の事だった。

 

 不意に、会場の照明が落ちる。

 

 闇に閉ざされる特別展示室。

 

「なんだ、クーラーの使い過ぎでブレーカーでも落ちたか?」

 

「……っ!! ダンちゃん、あ、あ、あれ!」

 

「どうした、ハナ……っ!?」

 

 傍らで、ハナちゃんとダン少年が身を固くする気配。それを感じ取りながらも、私も何も言えずに、目の前の光景に魅入って硬直していた。

 

 展示品をもう一度見て回ろうと振り返った私達。

 

 その目の前で、部屋の中央が怪しげな光で照らし出されている。照明の光ではない、微かな光源がふわふわと漂い辺りを照らすのは、そう、まるで人魂のよう。その明かりに照らされて、ごとり、と音を立てて一人で石棺が動き出した。

 

 コラシス3世の棺。それが、紫色の怪しげな光を帯びて、ふわりと宙に浮かび上がる。

 

 異常を察した他の来賓たちも振り返り、その非現実的な光景を前に絶句する気配。

 

 そして異常はそれにとどまらない。

 

 ごごごご、と岩のすれるような音を立てて、棺の蓋が一人でに開く。

 

 その、闇に閉ざされた棺の中から、茶色く変色した包帯に巻かれた指が、棺のふちにかけられた。

 

「あ、え……」

 

「う、うそ……!」

 

 ぎゅううう、と傍らの子供たちが身を寄せてくる。私はそれを抱き返しながら、信じられない思いで目の前のそれを見た。

 

 ミイラが。

 

 黄金の仮面をつけ、全身に包帯をまいたミイラが、棺から身を起こしている。

 

 それは、周囲を確認するように首を巡らせると、ゆっくりと棺の中で立ち上がった。

 

 黄金の仮面の中から、くぐもった声が聞こえた。

 

 

 

『現世よ。私が……コラシス3世が、今戻ったぞ』

 

 

 

 はははは、としわがれた笑いが響く。

 

 怯える少年少女達を抱きしめながら、私は目の前の光景に気が遠くなるような思いだった。

 

 ああ、そうだ。忘れてた。

 

 カードゲームアニメの主人公って、こういう事態に巻き込まれるのはお約束だよね。

 

 半ば現実逃避しながらも、私は腰のポーチに携えたデッキの存在を強く意識した。





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