カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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その名はダークファイブ その2

 

 

 

 

 喫茶店に私がついたころには、日はすでに傾き始めていた。

 

 周囲に人の気配はない。遠くから、救急車両のサイレンの音が聞こえてきている。

 

 目の前の扉には、本日閉店、の看板が下げられている。いつもより早いが、展示会であんな事件があった後だ。大抵の飲食店は店を畳んでいるのだろう。 

 

「……呼び出されたから来てみたけど……」

 

 おずおず扉に手をかけてみると、鍵はかかっていないようだった。引くとガランガランと鐘の音が鳴り、奥からマスターの呼ぶ声がきた。

 

「やっときた! ほらほら、トウマちゃん、いらっしゃい」

 

「し、失礼しますー……」

 

 とにかく呼ばれたのは間違いないようだ。静かに後ろ手に扉を閉じて店の奥に向かうと、カウンターの前に見知った顔が集まっていた。

 

 マスターと茉莉さんの兄妹に、ダン少年とハナちゃん。あとは……なんでか岩田さんの姿もあった。

 

「遅いぞ、さかまきトウマ!」

 

「部屋で寝てたんだよ……マスター、コーヒー。まさか人をタダで呼び出したりしないよな」

 

「はいはい。砂糖は入れる? あ、今日はいいのね、わかった」

 

 早速噛みついてくるダン少年をあしらいつつ、カウンターの空いた席に座る。頬杖をついて、コーヒーを要求する。人を呼び出したのだから当然の権利である。

 

 早速出てきたミルクたっぷりのモカに口をつける私を、ダン少年が信じられないものを見るような目で見ている。何かね、君。

 

「なんだよ」

 

「えっ、あっ、いや。……砂糖、いれないのか?」

 

「今日は気分じゃなくてね」

 

 どうにもこれから不愉快な話があるようだからね。意識をしゃっきりさせておきたい。ちびちびモカを味わう私へ向ける視線を、ダン少年は手元のカップと往復させている。ははぁん、あちらは砂糖たっぷりか。

 

 別に気にする事はないのに。

 

「人それぞれだ。気にするな」

 

「?! う、うるさい、マスター、俺にも砂糖抜きで同じ奴一つ!」

 

 ぐびびび、と一息でコーヒーを飲み干して二杯目を要求するダン少年。もうちょっと味わって飲めばいいのに。

 

 あと、君にはまだ早いんじゃないかなあ。そう思いつつも、私は黙ってマスターに視線を向けた。

 

「で。本題は」

 

「うん、まあ、トウマちゃんも知ってるとは思うけど……」

 

 言って、マスターは手にした携帯端末の画面を見せてくる。

 

 そこには、予想通り本日展示会であった騒動についてのネットニュースの一文が記載されていた。

 

『エヅプト展示会で傷害事件。重傷者一名、軽傷者多数。展示品にも多数の損害。デュエルポリスが現在、詳細を調査中……』

 

 なるほど。とりあえずは傷害事件、という事になったのか。

 

 どうやら、幸いにしてその唯一の重傷者も命に別状はないらしい。思い返せば、あの時骸骨兵士が振るった剣は朽ちかけのほとんど鉄棒のようなものだった。そのおかげだろう。それでも鎖骨骨折などの重傷であるらしく、まあとんだ災難だった事は間違いない。

 

「……これがどうかしたのか?」

 

 それとなく無関係を装いつつマスターに尋ねる。ちらり、と視線を向けたダン少年は苦いモカに顔をしかめて水を呷っており、隣でハナちゃんがハラハラしている。見た所、まだダン少年は私=店員さん、という事には気が付いていないようだ。一生気が付かないでくれ。

 

「あー、うん。この事件、ダン君が主犯と関わってね。犯人と色々話したらしいんだけど、その内容がちょっと……ね。それでみんなと情報共有しておきたいと思って」

 

「ほう」

 

 一応、マスターも話を合わせてくれるつもりらしい。とりあえず、この場での正体ばれは避けられそうだ。

 

 しかし、情報共有?

 

 確かにミイラがよみがえったとか、それが若々しいムキムキのイケメンに変身したとか、かなりビックリな情報だがどっちかというと正気を疑う方が正しい反応ではないか?

 

 この世界の裏の事情とか大人の事情とかはまだ存じ上げていない私は、岩田さんに視線で訴えかけてみる。すると出来た大人は、サングラスの向こうの理知的な視線を細めながら、小さく頷いた。

 

「……少しばかり、俺も話は聞いたが。展示品のミイラがよみがえって襲い掛かってきたとか、そいつとダンがデュエルしたとか、まあちょっと正気を疑うような内容だな。……一応、病院で頭のチェックはしたんだろう?」

 

「流石にそれは酷くね?」

 

 岩田さんの言い分に、さしものダン少年もちょっと傷ついたような顔をする。そんな彼に苦笑して「すまんすまん」と謝ると、岩田さんは一転していかめしい顔をした。

 

「真実はどうあれ、ヤバイ奴がヤバイ事をしたという事実は揺るがん。一体何を聞かされた、ダン」

 

「……うん。今から、俺がアイツから……コラシス3世から聞いた話をするよ」

 

 そうしてダン少年が語り始めたのは、概ね私が把握しているのと同じ内容。ただ、いくつか、私も知らない新情報があった。

 

「……だーくふぁいぶ??」

 

「うん。そう言ってた。我々はある存在によって力を与えられ蘇った五人のどーほーだって」

 

 つまり同胞、という事か。

 

 目的を同じくする仲間、という事。ダークファイブ、すなわち闇の五人衆。急にホビーアニメっぽくなってきたぞ。

 

「……よみがえったとかはまあ置いといて、つまり、今回の奴にはさらに仲間と、ついでに黒幕がいるって事か?」

 

「うん。ただコラシス3世は力は貰ったけど、従うつもりは無くて独自に行動を起こした、とかいってた。狙いは……なんだったっけ、ハナ、覚えてる?」

 

「えっと……さん、まこう……だったっけ。なんか、強いカードがどうとか」

 

 さんまこう……3魔皇? あるいは3魔公か。

 

 雰囲気的に、闇のカードだろうか。それも邪神の化身とかそういうのだろう、得てしてホビーアニメでは伝説のカードとか、伝説のプロトタイプとか、そういうのが当面の目標になりがちな感じである。まあ大体、最終的にそれらは敵の手にわたって主人公自ら破壊する事になるんだけどね!

 

「……レアカード狙いの犯罪者は珍しくないが、今回はまた妙な話になっているな。今回のファラオの件は自己顕示欲をこじらせた犯罪者がミイラの代わりに棺に入って危険なパフォーマンスをした、という話になっているが……」

 

「似たような事件が起きたら、それでは通らなくなってくるだろうね。ダークファイブか……ほかにあと四人、よくわからないやつがいるという事か」

 

 深刻そうに語り合うマスターと岩田さん。どうやら彼らはダンの話を子供の妄言と一蹴せずに、まじめに受け取っているようだ。

 

 人ができているというかなんというか。まあ、ここで本当だのウソだので揉めないのは助かる。

 

 ここでもしダン少年を嘘つき呼ばわりなんぞしようものなら、彼が勝手に行動しはじめそうだしなあ。

 

 そう思って視線を戻すと、ダン少年はなにやらカップを抱えて目を潤ませていた。思わずぎょっとする。

 

「ど、どうした、ダン少年。どこか痛いのか?」

 

「あ、う、ううん。その……みんな、俺の言う事を信じてくれるんだなって……」

 

「あー……」

 

 そうか、ここに来る前に警察だかデュエルポリスだかに聞き込みは受けているよな。それで、子供の妄言か、あるいは適当に聞き流されたとか、そういう経験をしたのだろう。

 

 無理もない話ではあるが、それが真実だと知っている身から言わせてもらうと、子供心に傷ついただろう。

 

「まあ、お前が器用なウソをつけるとは思っていないからな、私は」

 

「お、おまえーーー!! 少しは見直してやろうと思ったのに!」

 

「ははははは」

 

 カップを置いてつかみかかってくるダン少年をあしらう。そうそう、この調子。変におとなしくされるとこっちの調子が狂うわ。

 

「こんにゃろー! まともに話聞いてもらえなくてすげー悲しかったんだぞ! おまけにファラオの部下と戦った店員さんが居なくなったせいで余計怪しまれるし!」

 

「う゛っ」

 

 思わぬ角度からカウンターを食らって動きを止めたところで、ダン少年に捕獲される。隙あり、と頭を脇に抱えられてぼさぼさにされる。や、やめろぉ!!

 

「や、やめんかこのっ」

 

「へへんっ、人をからかうからだっ」

 

「……むー……」

 

 慌てて腕から頭を引っこ抜き、乱れた髪を整えなおす。対面でダン少年が胸を張り、その横ではハナちゃんが何やらすごくじっとりとした視線を私に向けてきていた。

 

 い、いや、ごめんよハナちゃん。私もそういう事になってるとは思わなくてな……。

 

「はいはい、はしゃぐのはその辺にしとけ。しっかし、どうしたもんかな。マスター、この町でほかに話の通じそうなプロデュエリストの知り合いはいるか?」

 

「いーやー、そんなに……。岩田さんくらいかな、こういう話をしてもまじめに受け取ってくれそうなの。あとはプロ級の腕前、って意味なら一人、ここにいるけど」

 

 そこでちらり、と視線を向けてくるマスターの意図を、私はあえて無視した。

 

 悪いが私は私の事で精いっぱいだ、状況は把握できたし、これが主人公の解決すべき事態だというなら、私はある程度の距離を置いて傍観者に徹させてもらう。

 

 これ以上絡んで闇のゲームだのなんだのに巻き込まれるのは勘弁だ。

 

「……そのつもりはないみたいだね」

 

「そうか。しゃあねえ、残りの四人は俺でなんとかするわ。さすがに全部つぶすのは無理だろうが、事件が立て続けに起きれば勘のいい奴は深刻度を察するだろ」

 

 しれっと「俺が一人で全員倒す」と言い出した岩田さんに目を丸くする。え、本気?

 

 困惑する私とは裏腹に、ダン少年がぴょんぴょこ跳ねて存在をアピールする。

 

「俺! 俺も!! 俺だって戦える、今回だってファラオを倒したし……」

 

「馬鹿言うんじゃねえ!」

 

 だが返ってきたのは、ドスのきいた本気の怒声だった。

 

 思わずびくっとしてダン少年が動きを止める。

 

 若干怯えたような視線を向ける彼に、岩田さんはばつが悪そうに頭をかいて、若干優しい声色で彼に語り掛けた。

 

「……遊びじゃないんだ。坊主、お前のその怪我、ファラオとのデュエルでつけられた、といってたな? つまり、そのダークファイブとかいうふざけた奴らと戦うって事は、常に大けがをする可能性があるって事だ。わかるな? 今回、お前がファラオと戦って無事に済んだのは、運がよかったのも大きいんだ。……坊主が、一番わかってる事だろう?」

 

「……うん」

 

 諭すように言い含められて、ダン少年は顔を伏せた。

 

 私は最後の決着シーンを見ただけだが、逆転に成功しただけで戦況は終始ファラオ有利に運んでいたのは伺える。もしあのラストドローでキーカードを引けなければ、敗北していたのはダン少年の方だったろう。その時、リアルダメージによる決着で彼はどうなっていた事やら。勿論、その時は私もどんな手段を用いても決着を曖昧にしにいくつもりだったが。

 

「コラシス3世、強かった」

 

「だろう? そんな奴があと四人、同じように危険なデュエルを仕掛けてくるかもしれない。坊主、お前が弱いとは言わない。だが、勝負は時の運だ。どれだけ強いデュエリストでも、どれだけ強いデッキでも、引きが悪ければ実力を発揮できずに負ける事がある。競技ならいい、それが面白いんだから。だが、本当に命や体がかかってる勝負となると話は違う。今回は、俺たち大人に任せておくんだ」

 

「で、でも、それは岩田さんだって……」

 

 なおも言い下がるダン少年。それは自分が戦力外と通達された事への反発ではなく、純粋に岩田さんを心配しての言葉だった。

 

 それを受けて、ふっ、と岩田さんが口元をゆるめる。

 

「そんな事は気にするな。大人ってのは、子供のために貧乏くじを引くのが仕事みたいなもんだ。なあマスター」

 

「うん、うん、いいことを言うね……うん?」

 

「何自分は関係ないみたいな顔してるんだ。お前も戦うに決まってんだろうが」

 

 あきれ返ったように腰に手を当てる岩田さん。対してマスターは「えええっ!?」と本気で嫌そうな顔をした。

 

「まってくれ、僕はデュエルは本当に弱いぞ! こないだなんかトウマちゃんに5タテされたし! そんな、ダークファイブだかなんだか知らないけどそんなおっかない連中の相手なんかできないよ!!」

 

「ガキが町のために頑張るっていうのに、大人のお前がそれでどうする!! 相手のデッキ偵察のための生贄ぐらいにはなれるだろうが、年上の矜持はないのかてめー!!」

 

 やんややんやと言い合いを始める二人。

 

 いや、この二人、前から知り合いって話は聞いてないんだが、つい最近あったにしては息がぴったりだ。波長が似てるのかなあ……。

 

「はいはい、そこのだめな大人二人! 理由はなんであれ子供の前で言い争いするんじゃないよ!!」

 

「「む……」」

 

ぱんぱん、と手をたたいて茉莉さんが仲介に入る。自分たちより背の高い女性に見下ろされて、大人二人は気まずそうに顔を見合わせて黙り込んだ。

 

「戦力が足りないっていうなら私も協力するわよ。その代わり、子供たちを巻き込まない!」

 

「わ、わかった……だがなあ。お前さんの力を借りるってのも……」

 

「なあに、女じゃ足手まといってことかしら?」

 

 茉莉さんに詰め寄られて、岩田さんが両手を挙げて体を引く。さしものヒールデュエリストも、体格に勝る相手ではたじたじである。 

 

 まあ、やる気があるならそれはそれでよいことだ。私がでしゃばらないで済む。

 

 ダークファイブだか何だか知らないが、おそらく系統としては私の背後にいる連中とはまた別だろう。闇の力同士ぶつかりあって、変な反応をおこしても困る。

 

「はいはい、すぐ脱線しない大人ども。とにかく、この件は様子見だ。何か異常があったらまた連絡する、それでいいな?」

 

「「「はい……」」」

 

 明後日に転がり始めた話を無理やりまとめにかかる。自覚はあったのか、年端もいかない子供に音頭を取られて頼りがいのない大人どもは肩を小さくして返事した。

 

 ふふ、ウケる。

 

「そういう訳だから、ダン少年もハナちゃんも、まったくかかわるな、とは言わないが、極力大人を頼るように」

 

「へーい」

 

「うん、わかった」

 

 不満そうに返事をするダン少年に対し、ハナちゃんは素直なものである。

 

「ふ、ハナちゃんは素直な良い子だな。ご褒美にこの、カウンターから勝手に失敬したケーキをプレゼントしよう」

 

「わーい!!」

 

「はは、そんな事しなくてもみんなの分はちゃんとあるから、ね」

 

 マスターがカウンターに引っ込み、皿にのせたおやつをもってくる。

 

 そのまま対策会議はちょっとしたお茶会になるのだった。

 

「もぐもぐ。それにしても、店員さん、無事かなぁ……怪我とか、してないよな……」

 

「まあ大丈夫だろ、たぶん」

 

 目の前にいるからな。

 

 

 

 




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