カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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テスト勉強中って部屋の掃除が捗りますよね(目逸らし


VS主人公(?) その1

 

 

「むぅー……」

 

 公営アパートの自室。

 

 その風呂場で、私は鏡を前に裸でにらめっこをしていた。

 

 あの後、結局雨から逃げ切れず、アパートの玄関に駆け込んだ時はすでに私はぬれねずみになり果てていた。デッキケースが防水で中身に影響がなかったのがせめてもの救いか。

 

 とにかく、たかが水と侮る訳にはいかない。

 

 今の私の体は幼い子供である。ちょっとした体調不良が、深刻な事態になりかねない。あまつさえ私は身元不明の転移者であり、国民健康保険に加入できていない上に戸籍もない。それでは病院にかかる事もできないため、高熱を出したりすれば命に関わる。

 

 なので濡れた服を洗濯機に放り込み、こうして風呂でぬくもっている所だ。

 

 流石は公営アパートというべきなのか、洗濯機もユニットバス、エアコンに至るまで常備なのは恐れ入る。いや前世で公営アパートなんて使った事がないのでこれが異常なのかどうかわからないけど。

 

 それはそれとして。

 

 鏡の中には、つるぺたふにふにイカ腹の普通少女が映っている。目が多少曇っている所をのぞけば、ごく普通の女児にしか見えない。

 

「……ふぅん?」

 

 改めて思うが、本当に奇妙な話である。異世界転移までならまあカードゲーム世界なら在り得るか……と思わなくもないが、20年以上若返ったあげく、性転換である。これがネット小説の話ならゲラゲラ笑う所だが、我が身に起きたとなれば流石に困惑するほかない。

 

 この世界に来て一日二日、という訳ではないが、いつまでたっても鏡に映る見覚えのない自分には困惑するばかりだ。

 

「しっかし……転生するなら銀髪の美少女とかにしてほしかったな、どうせなら」

 

 ぺたぺたとイカ腹に手をあてながらぼやく。現状の見た目は私の好みではない。この見た目に興奮するとしたらそれはもうロリコンではなくペドフィリアだ、病院にいくべきである。

 

 深くため息をついて懊悩を切り上げると、私はもう一度熱いシャワーを頭から被った。

 

 

 

 風呂を上がってわしわしとタオルで髪を拭うと、洗濯機はちょうど乾燥に切り替わった所だ。ぶぉおおおおおん、と音を立てる洗濯機の残りタイマーを確認しつつ、ぺたぺたとフロアに歩いていく。

 

 相変わらず何にもない部屋だ。ミニマリストという訳ではなく単純に金がないだけだが、いい加減ベッドぐらい置きたい。

 

 押し入れに適当に積み上げているシャツとズボンに手を通し、私は窓辺で干していたデュエル用品に目を向ける。

 

 デッキケースの横に置いてあった端末の電源を入れる。ぴぴ、と音がして、やすっぽい液晶画面に光が灯った。

 

「お。流石にマフィアだけあって羽振りがいいな、ポイントが結構入ってる」

 

 確認するのはデュエルポイントの残高。早い話が、電子マネーである。

 

 前世の世界一有名なゲームのトレーナー戦と同じだ。デュエルで勝てば、相手の所有ポイントの何割かが、賞金として振り込まれる。このポイントはデュエルをする他に、関連商品を購入したり、デュエル関係の施設を利用したり、いろんなことで増えていく。普段デュエルをしない人でも、ポイントが勝手に増えていくので登録だけはしている、という人も多いのではないか。

 

 まともな資金源が望めない私にとっては、これが唯一の自由資産になる。公営アパートは一定以上のデュエル実績があれば利用できるが、食料とかはそうもいかない。

 

「いやあ、この世界がフリーターに優しくて本当に助かった。まあ、考えてみれば世界一有名なカードゲームアニメも、主人公大体フリーターだしな……」

 

 普通に考えれば親無し戸籍無し家無しなんて詰みもいい所だ。都合のよい社会構造で本当に助かる。

 

 それが余計に、この世界がアニメやゲームじゃないのか? という疑惑を深めるのだが。

 

 顔を上げると、窓から晴れ渡った空が見えた。どうやら雨はすでに過ぎ去り、強い日差しが街を乾かし始めているようだ。

 

 寝るにはもちろん、夕餉にもあまりにも早い。

 

「もう一稼ぎしてくるか」

 

 デュエルマフィアとの一件はトラブルのようなものであるし。次は楽しいデュエルがしたいな、でも相手は楽しくないだろうけどな、等と思いつつ、私はでかける準備をした。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 雨上がりの公園は、多くの人でにぎわっていた。

 

 まだ微かに濡れる遊具で遊ぶ子供もいれば、走り回って鬼ごっこに興じている子供もいる。大人達はそれを見守りながらお喋りに興じていた。

 

 平和そのものの光景。

 

 私は公園の隅からそれをぼんやりと、締め出されたような気持ちで眺めていた。

 

 結局、あれからよい対戦相手は見つからなかった。まあ、平日の正午過ぎだ。まっとうな大人は仕事に励んでいるし、学生だって学業中だ。タイミングが悪い。

 

 公園を見渡すと、何人かの子供がデュエルに興じているのが見える。流石に、彼らを相手にするのは初心者狩りもいい所でマナー違反である、いくらなんでもそれはやりたくない。

 

 にしても、微笑ましいデュエル風景だ。どうみても採用する価値の無いようなモンスターを並べて、稚拙な戦術で渡り合っている子供たちだが、彼らは彼らで本気で取り組んでいる。私から見れば意味のないモンスターも、彼らには特別な思い入れがあるのだろう。

 

 願わくば、その初心を忘れずにいて欲しいものだ。

 

「マスターのところに、顔を出すかな」

 

 いつもお節介を焼く喫茶店の主人の顔が思い浮かぶ。マフィア戦で消耗したカードの補充もしたいし、ちょうどいいかもしれない。

 

 そんな事を考えていたその時、甲高い子供の叫びが耳を打った。

 

「見つけたぞ、わるものめ!」

 

 振り返ると、小学生ぐらいの子供が二人、私の座るベンチの横に居た。

 

 一人は、勝ち気そうな顔の茶髪の少年。黒い瞳が、メラメラと熱意に燃えているのが見えるようだ。赤いシャツの胸元には、デッキらしきカード束が捻じ込まれている。

 

 その隣には、ピンク色の髪の少女が、「やめようよぉー」とでも言いたげな涙目で付き添っている。

 

 元気な男の子と、彼に振り回される女の子、といった感じだろうか。

 

 微笑ましい二人組だなあ、と私がぽややんと視線を送っていると、焦れたように男の子が声を上げた。

 

「聞いているのか、わるもの!」

 

「……え、私?!」

 

 ここに来て、男の子がいう「わるもの」が私である事に気が付く。思わず自分を指さす私に、男の子は「そうだ!」と勢いよく答えた。

 

「えんぺらーの兄ちゃんをいじめたわるいデュエリストだろ、お前!」

 

「だ、だんちゃん、知らないひとにしつれいだよぉー」

 

「……あー。そういう事かあ」

 

 純粋無垢な瞳で糾弾してくる男の子に、私はあちゃあ、と顔を押さえた。

 

 皇帝とのデュエル。あの場にこの子供はいなかったが、あれだけ試合後に荒れたのだ、口伝に噂が伝わっていてもおかしくはない。概ねこの子は、噂で皇帝を虐めた“悪いデュエリスト”の事を聞いて、義憤を燃やして探していた、という事だろうか。

 

 困った事に私の容姿は割と特徴的だ、探し出すのは難しくは無いだろう。そもそもデッキケースを懐に四つもいれてパンパンになっている奴自体が珍しい。

 

 しかし、ふむ。

 

「……ところで。君の探しているわるもの、って本当に私?」

 

「え?」

 

「例えば、名前とか知ってるの?」

 

 ちょっとした悪戯心から問い返すと、目に見えて男の子が動揺した。やっぱり勢い100%だったか、いいね。そういうのは嫌いじゃない。

 

「あ、あくぎゃくデュエリストだって聞いた! おまえのことだろ、ぼろぼろの服をきて、髪が長くて、目つきが悪い!」

 

「そっかー。でも私の名前、悪逆デュエリストじゃないよ。私は逆巻トウマ、ほら、端末にもそう書いてあるよ。人違いじゃない?」

 

「あっ、ほんとうだ……あれ……じゃあひとちがい……?」

 

 差し出された端末と私の間で目をきょろきょろさせる男の子。可愛い。

 

「ごっ、ごめんなさい……! おれ、まちがえたかも……」

 

「まあこないだ皇帝を負かした悪逆デュエリストなら私の事で間違いないんだけどね。ほら、このカード持ってるし」

 

「おまえーーーーっ!?」

 

 ほらね、とドラクシスのカードを見せると、揶揄われたと理解した男の子が顔を真っ赤にして憤激した。地団駄を踏む彼にくすくす笑いながら、私はベンチから腰を上げる。

 

「やっぱりおまえわるいやつだ! わるいやつやっつける!!」

 

「はははは、いいよぉー。せっかくだから相手してあげる」

 

 

 

 

 

「同意とみてよろしいですね!」

 

 

 

 

 

 唐突に響いた声に、私と子供二人組、揃って顔を見合わせる。

 

 振り返った先、四階建てのジャングルジムの天辺に、スーツを着込んだレフェリーの姿。

 

「とぅっ!」

 

 レフェリーはジャングルジムから飛び上がると、空中で綺麗な四回転スピンを決めると、スタン、と私達の間に着地した。

 

『これより、天摩ダン選手と、逆巻トウマ選手の試合を行います。審判はこの私、笹錦が務めさせていただきます!!』

 

「いやこれランカー戦じゃないんだけどレフェリーさんよ」

 

『その……この時間帯はランカー戦そのものが発生しなくてですね……。私の実績上げの為に協力してくれませんかね、トウマ選手……』

 

 思わず突っ込みを入れると、他に聞こえないようにレフェリーがひそひそ話でお願いしてくる。

 

 思わずがっくしと肩を落とす私。レフェリーの世界は厳しいようだ。

 

「……ま、まあ。それなら」

 

『ありがとうございます!!!!! それでは、2分間の準備時間を用意します。それぞれ、デッキの確認をお願いします!』

 

「おれならもんだいないぜ!!」

 

 ぴょんぴょん跳ねて挙手するダン少年。傍らの女の子は、試合が始まってしまうという事でおろおろしながら彼の袖を掴んでいる。

 

 しかし、ふむ。

 

 とぼしい情報から私を探し出す行動力。傍らにかわいい子をつれているリア充っぷり。ランカー戦でもないのに公式レフェリーが試合を仕切るという幸運。

 

 ……こいつ、もしかして主人公様では?

 

「ふむ」

 

 だとしたらこの千載一遇の機会、逃す訳にはいかない。この試合で正体を確かめてやる。

 

 とはいえ、どのデッキを使うか……。

 

 まず『悦楽』は論外。子供にトラウマを植え付ける趣味はない。

 

 『鮮血』は変則的なビートダウン、試合そのものは悪い流れにはならないだろうが、ダン少年が皇帝とのデュエルに憤慨して私を探していたというなら悪印象だろう、使わない方が良い。

 

 『疫病』は……あいつらキモ可愛い系だからな。少年少女の趣味が分からないからパス。

 

 となると……『変化』か。アイツラはキモくもグロくもないからな。よし、これでいこう。

 

「……こちらも、準備は出来た」

 

「よぉし! やってやるぞー!!」

 

『ルールは一本先取のデュエル形式。特別ルールはなし。お互いによろしいですね!』

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

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