カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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この世に悪があるならば、それは その5

「スターマインの効果発動。このモンスターが召喚された時、相手の場のモンスターに応じて“適応カウンター”を一つ蓄積する! さらに、私の場に“GIアイコン”を持つモンスターが存在する事で、さらに手札から“GI オブシディアン・イェーガー”を特殊召喚!」

 

 続けて私の場に現れたのは、腹部を持たない漆黒の蜘蛛のような怪物。目や牙らしき部分を持たず、複数の蜘蛛の足が放射線状に胴体から生えている様子は、どことなく棘皮動物っぽくもある。

 

 場に現れたオブシディアン・イェーガーが、もぞもぞと身動ぎする。次の瞬間、その姿が掻き消える。

 

「オブシディアン・イェーガーの効果発動! 召喚された時に自分の場に“GIアイコン”を持つモンスターがいれば、ランダムに相手モンスターを一体、トラッシュに送る!」

 

『む!』

 

 はっとして自分の場を見下ろすメタトロン。彼の場にはモンスターが二体いる。剣を持った強襲、ライフルを構える調停の二小隊。彼らは武器を手に、高速移動で姿を消したイェーガーの姿を探している。

 

 と。

 

 ライフルを持つ調停小隊の腕が、ずるり、と付け根からずれた。取り落としたライフルが地面に転がり、それを見下ろす首もまた、ころりとズレる。直後思い出したかのようにその全身がバラバラになり、壊れたマネキン人形のようにその場に転がった。

 

 直後、コマ送りのような唐突さで、私の場にイェーガーが再び姿を現す。その全身は、真っ赤な返り血で汚れている。

 

「そしてスターマインの効果発動! このモンスターが場に存在する時、1ターンに一度だけ、相手モンスターがトラッシュに送られた時にドローできる!」

 

『なるほど。偵察兵と、その情報を元に強襲する猟兵という訳ですか。見た目に惑わされましたが、本質としては私のデッキと近い、組織化された運用を得意とするデッキという訳ですね。貴方らしい』

 

「それ褒められてる?」

 

『勿論』

 

 なんかエイリアンとかクリーチャーじみたモンスターを“私らしい”と言われても嬉しくないんだけどなあ。いやまあ、事実陳列罪レベルで仰る通りなんだけど……。

 

「バトル! イェーガーで、AOD 強襲小隊を攻撃する!」

 

『甘い! 相手プレイヤーのバトルシーン移行宣言をトリガーに、強襲小隊の効果を発動! このモンスターを手札に戻し、別のAODを場に特殊召喚できる! 顕れなさい、“AOD 業火小隊”!!』

 

「っ!?」

 

 剣を持った天使兵達が姿を消し、代わりに顕れたのは、なんと火炎放射器を手にした天使兵の一団。

 

『AOD 業火小隊の効果発動。このモンスター達は、相手ターンのバトルシーンにおいてのみ、一度だけ速攻能力を持つ。故に、貴方のターンであっても、私のモンスターが相手を選択し、攻撃する事が可能! 業火小隊で、スターマインを攻撃!』

 

「ちいっ!?」

 

 汚物は消毒だー、と言わんばかりに、火炎放射器の攻撃がスターマインを襲う。哀れ海産物っぽい見た目のインベーダーは、燃え上がる炎に焼き尽くされて灰となった。想定外だ、ボードアドバンテージもそうだが、以降のドローソースを断たれた。

 

「だが、強襲小隊の効果で業火小隊が呼び出されたのはバトルシーン開始時! サクリファイスエスケープにはならない、イェーガーで業火小隊を攻撃!」

 

 サクリファイスエスケープは、あくまで宣言に応じて発動するものだ。今は、バトルシーン開始時に強襲小隊が効果を発動したので、私の強襲小隊への攻撃宣言は厳密には発生していない事になる。よって、攻撃宣言の権利は残されている。

 

 私の指示に応えて、漆黒の切り裂き魔が疾走する。業火小隊は先と同じように炎の壁を作ってイェーガーを焼き払おうとするも、炎の壁に突っ込む直前でイェーガーは直角に進路変更。その行方を目で追った天使兵の首が、付け根からコロン、と落ちた。

 

 あとは先ほどの焼き直し。超高速の爪によってバラバラ死体と化した天使兵の死体が転がり、自らの放つ炎で火葬される。私の場に、一仕事終えたイェーガーが血塗れの姿を表す。

 

「これで聖君の場のモンスターは全滅だ! カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

『私のターン、ドロー。私は手札から、“AOD 排除小隊”を召喚!』

 

 ぼぅ、と聖君の場に、透明の何かが浮かび上がる。空間を歪ませるそれにたちまち色がつき、現れたのはフードを被った天使兵。彼らは己の象徴たる翼を折りたたんだまま、光学迷彩コートに身を包み、長大な狙撃銃を手にしている。

 

『バトル。自分のターンのバトルシーン、AOD 排除小隊はステータスが一時的に上昇する! 排除小隊で、オブシディアン・イェーガーを攻撃!』

 

 光学迷彩によって再び姿を消すスナイパー達。標的を見失ったイェーガーがまごついて動きを止める、その瞬間をハンター達は逃さない。どこからともなく轟いた銃声と共に、イェーガーの胴体が撃ち抜かれる。手足がバラバラに飛び散って、消滅するイェーガー。

 

 絶命を見届けて、再び何ごともなかったかのように姿を現す狙撃手達。

 

「まだだ! 私のモンスターが戦闘で破壊された事で、トリックカード“有機物再利用槽”を発動する! このカードの効果により、トラッシュからGI スターマインを特殊召喚!」

 

 再び私の場に顕れる白ヒトデ。その青い生体センサーが、狙撃手達を観測する。

 

『……この瞬間、排除小隊の効果発動。1ターンに一度、相手モンスターが最初に召喚・特殊召喚された時、トラップによってダメージを与え、そのステータスを下げる』

 

「んな?!」

 

 相手の場に立つ小隊のリーダーが、コートの下から取り出したスイッチをガチンと捻る。

 

 直後、私の場に爆発が生じ、スターマインがそれによって吹き飛ばされる。白い体表が傷つき、青い血が飛び散った。それに応じて、もともと高いとは言えないスターマインのステータスがさらに低下する。

 

 厄介な効果だ。

 

 だが同時に、聖君のデッキの性質も見えてきた。

 

 恐らく、彼のデッキは所謂グッドスタッフ型だ。コンボではなく、単体のカードの汎用性を重視する事で汎用性と安定性を高めたタイプ。

 

 特に、速攻能力を多く採用しているのが特徴的だ。相手のターン、相手の手順に積極的に介入し、その出鼻を挫いて有利に戦いを進める。爆発力こそないが、なるほど、負けられない戦いではその安定感は随一だろう。

 

 コンボ重視で、逆に言うと一手でも想定外に崩されると立て直せなくなる四大悪魔デッキとの相性は最悪だ。

 

 だが悪いな、今の私のデッキは悪魔デッキじゃない。

 

 この世界の外からやってきた、質の悪い侵略者デッキなのだ。

 

『私はカードを二枚伏せてターン終了』

 

「私のターン、ドロー! 私は、“GI サプレッサー・シェル”を召喚!」

 

 私が場に呼び出すのは、巨大な貝殻と、甲殻類のような節足を持つヤドカリのようなモンスター。ただ、ヤドカリは貝の殻を借りているだけだが、こいつは自前の殻だ。その巨大な鋏には、ぬめっとした生体兵器が共生している。

 

『成程。アタッカーとしてはまずまずのステータスのようですが……無駄です。排除小隊の効果発動。サプレッサー・シェルのステータスを下げる』

 

「まあ、そうなるよな……」

 

 がさがさと地を這うヤドカリの足元で爆発。足の何本かが千切れ飛び、サプレッサー・シェルのステータスが低下する。このままでは、排除小隊と戦闘しても返り討ちだ。かといって手をこまねいていたら、いつまでもこちらの戦力は傷つき続けるし、相手ターンでステータスを上昇した排除小隊の攻撃を受ける。

 

 実にグッドスタッフらしい、自己完結した効果だ。

 

 だが、だからこそ突破方法も単純明快。

 

 ステータスを下げられるなら、ステータスを上げて殴り返せばいいだけだ。

 

「バトル! サプレッサー・シェルで排除小隊に攻撃!」

 

『?! 馬鹿な、弱体化したサプレッサー・シェルでは私のモンスターは倒せない! そのモンスターの効果も、戦闘時にステータスを上昇させるものでは……!?』

 

 困惑する聖君。

 

 効果をちゃんとチェックしているのはポイントが高い。サプレッサー・シェルの役割は、破城槌、もしくはデモリッションキャノンだ。自分の手札一枚をコストに、相手の場のアーティファクトを破壊する突破役。だからこのままでは、手足の足りないサプレッサー・シェルは排除小隊に撃破される。

 

 これまでの悪魔デッキなら、こういった一見無謀な攻撃は今後の為の自爆特攻だった。だが、このグレートインベーダーは違う!

 

「グレートインベーダーの共通効果! 相手モンスターの効果を受ける、あるいは戦闘破壊される度に、対象相手モンスターの属性・種族に応じた“適応カウンター”を一つ蓄積する。そして蓄積された適応カウンターの数に応じてバフを得られる!」

 

『! 集合知性による学習……という事ですか!』

 

「その通り! これまでの犠牲とスターマインの偵察により、AODの属性・種族に対し、私のモンスター達は適応を得ている。そしてカウンターが5つ以上の時は、適応相手に戦闘する時、ステータスが上昇する!」

 

 突進してくるサプレッサー・シェルへ、排除小隊の狙撃銃が唸りを上げる。だが、本来例え強固な外骨格であっても貫くはずの一撃をその殻は跳ね返し、ついにその鋏に天使兵を捕らえる。翼をコートの下に折りたたんでいた事で離脱が一瞬遅れた天使兵達は、次の瞬間真っ赤な血飛沫となって弾け飛んだ。

 

「相手モンスターを破壊しトラッシュに送った事で、スターマインの効果で1ドローする。続けて、スターマインで相手プレイヤーにダイレクトアタック!!」

 

 白ヒトデが高速回転しながらメタトロンに向かっていく。相手の伏せカードは二枚、この攻撃、通るか?!

 

『く……っ!』

 

「通った……!」

 

 ヒトデの一撃がメタトロンの胴体をとらえる。衝撃に、無数の羽毛が雪のように舞い散った。メタトロンの白いシャツにべったりと青い血潮の吸盤跡を残して、スターマインがブーメランのように私の場に戻る。

 

 これでライフは互角。

 

 だが、二枚もカードを伏せておいて発動しなかったというのが逆に不気味だ。

 

『……相手プレイヤーからダイレクトアタックを受けたことで、私はトリックカード“死天使の昇天”を発動。このカードの効果により、私はデッキから二枚の“AODアイコン”を持つカードを手札に加える』

 

「……!」

 

 やはり来たか。

 

 だが私の場のモンスターは適応カウンターが溜まったことで戦闘時にステータスが強化されている。それにもっとアイコンが溜まればバフも増える。臆さず行くべきだ。

 

「私はこれでターン終了」

 

『私のターン。ドロー。……私は、手札から“AOD 機動霊廟アインクラッド”を特殊召喚』

 

 天使の場の上空に、巨大なハイロゥが生じる。その内側は、ここではないどこかにつながっているようで、光の柱のようなエフェクトが噴き出している。その中を、四角い鋼鉄の箱のようなものが落下してきて、着地と同時に地面を揺るがした。舞い上がる土埃と突風に顔を伏せると、モンスター達が壁のように立ちはだかってそれから私を守ってくれた。

 

 ヤドカリとヒトデの間から、相手の姿を確認する。

 

「……ロボット……?!」

 

 土煙の中から、ゆっくりと起き上がる巨体。それは、天使ではなく無骨なロボットのように見えた。いや、ロボットというよりメックか? 短い両足で二足歩行し、胴体は大きな箱のよう。右腕にあたる部分には巨大なレーザー砲らしきものが装備され、左手はブリキのおもちゃのようなパワーアームがクローを開閉させて動作確認している。

 

 そんなロボットの中央部分には、大きな墓石のようなものが埋め込まれている。墓石には、聖アウレリウスの名。

 

 えーと、つまり……。

 

「聖人の遺骸……聖遺物を動力にしたロボット!? そんな罰当たりなカードを天使がつかっちゃダメでしょ!?」

 

『? 一体何がダメなのです? それはともかく、機動霊廟アインクラッドは、相手の場にモンスターが存在し私の場にモンスターが存在しない時にのみ、手札から特殊召喚できる。さらに私は“AOD 侵略小隊”を召喚する!』

 

 さらに現れたのは、巨大な籠手を両手に装備したいかめしい装備の天使兵。よく見れば両腕の籠手はマシンガンを内蔵し、肩には小型のミサイルランチャーを装備している。

 

 重武装の天使兵と、罰当たりロボットが相手の場に並ぶ。まずい、すごくよろしくない展開だ。

 

『取り込んだ自らの力でカードを生み出す……少々驚かされました。ですがそれが何だというのです? それができたのは、この光の処刑場によって邪神の力が阻まれているから。もし奴らとつながっていれば、あなた自身でもあるそれらのカードはたちまちに汚染され、奴らの眷属になり果てるでしょう。逆巻トウマ、貴方の決意は並々ならぬものであるのはわかりました。しかし、それだけで変えられるような生易しい状況ではないのです。バトル!! 私のモンスターで攻撃!』

 

 ずん、と前に出たアインクラッドの放つレーザービームが、ヤドカリに大穴を穿ち、内臓を蒸発させる。紫色の殻が真っ赤に変色し、がらがらと燃えながら崩れ落ちる外骨格。

 

 さらに横に立つ重武装天使兵のミサイルランチャーによる掃射。先兵でしかないスターマインはなすすべもなく粉微塵に吹き飛んだ。

 

 あっちの場を全滅させたら今度は返しでこっちの場が全滅だ。まあこういう盤面のひっくり返し合いがカードゲームの醍醐味ではあるのだけど。

 

 ああ。なんだろうな。

 

 やっぱり楽しいよ、こういうの。

 

「強いな……!」

 

 






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