カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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この世に悪があるならば、それは その6

『……ふぅ。この状況でそんな言葉が出てくるとは、貴方のお人よしには呆れかえります、逆巻トウマ。そもそも、貴方の境遇で邪神に堕ちなかったのが驚天動地の事態というもの。親もなく家もなく、周りからは侮蔑と拒絶の言葉ばかり。その上で毎晩、邪神どもの宴への強制参加。普通、心が壊れるか世を憎んで邪神の人形となるのが当たり前というものです』

 

「まあ、こんなナリでも中身は大人だからな」

 

 真実から目を逸らしていたとはいえ、私に非があるというのは分かっていたからな。前世じゃ非がある所か、こちらに道理があっても悪い事にされるのなんて日常茶飯事だったし。

 

『ふぅ。たかだか30年ちょっと生きた程度でそこまで悟れるなら、我々天使など無用の長物で済むのですがね』

 

「……なあ。厚かましい申し出なんだけどさ、私が邪神以外も取り込める、っていうなら、あんたら天使が力を貸してくれれば何とかなるんじゃないの? 奴らと敵対しているんだろ?」

 

 消去の力さえ取り込めたなら、天使の力だって同じように取り込めるはず。正直、私を消すというのはあちらにとっても最終手段のはずだ。他に手段があれば乗ってくれるのではないか、という私の提案に、しかしメタトロンは首を振った。

 

『それで済むなら当然そうしました。ですが、邪神四柱は普段互いに相争っていても、いざ本当に敵対する相手がいれば団結する悪い意味でのもの分かりの良さがあります。私が貴方の中に入った所で、磨り潰されるのがオチでしょう。そもそも、全ての天使を集めた所で、四柱もの邪神に対抗する事は不可能です。哀しい事ですが、秩序側にもスタンスの違いがあり、四邪神に対抗しうるほどの戦力を集める事は叶いませんでした……』

 

「そっか……」

 

 そう言われてはしょうがない。正直な話、悪側以上に秩序側って、団結とか難しそうなイメージは確かにある。

 

『それでもこの戦いを続けるつもりですか、逆巻トウマ。私に勝った所で、貴方にはより悪い未来しか待ち受けていない事を分かって。貴方の、大切な人達を地獄に落とす事が貴方の望みなのですか?』

 

「分かってる。分かってるよ……私が、ここで消えるのが一番いいって。それは、もう変えられない事だって、分かってる」

 

 そう。

 

 私は、生きていてもこの世界に害しかもたらさない。存在する事そのものが、この世界にとって致命的。

 

 それでも。

 

「それでも、私にとって大切な光景の中に、メタトロン……聖君だっているんだ!」

 

『私は……私は、ダン少年と本当に昔から知り合いだった訳ではありません。貴方に近づくために、彼や周囲の人々の記憶を書き換えて潜り込んだ。貴方は、勘違いしている。私は、貴方の大切な人などではない』

 

「違う!」

 

 私は、覚えている。

 

 喫茶店で、ダン少年やハナちゃんの付き添いとして、穏やかに微笑んでいた聖君の姿を。聖君に懐いて、我が儘をいったり甘えていた子供たちの姿を。

 

 大人達と子供たちの奔放さに手を焼かされた体験談を話していた事もあった。

 

 それが偽りだったかどうかなんて関係ない。

 

「大切な人を守りたいがために自分が消えようというのに、その為に大切な光景を犠牲にするのは、私にとっては無視できない矛盾なんだ……!」

 

『……愚かな人の子よ。貴方のそれは、危険な現実逃避でしかない』

 

 私の訴えは、しかしメタトロンには響かない。感情を閉ざした青い瞳が、私を頭上から見つめている。

 

 ……まあ、そうだよな。こんな言葉一つで揺れるほど、そっちだって軽い決意じゃないもんな。だからこそ、私はそれを受け入れる訳にはいかない。

 

 悩んで、悩んで、あらゆる手を尽くして。それでも結局、私を滅ぼす以外に手段がなかったからこそ、その責任を取ろうとしている聖君。その彼を道連れにするなんて、私には出来ない。

 

『感情論等、事実の前には何の意味もない事を、教えてあげましょう。私は、これでターンエンド』

 

「私のターン、ドロー!」

 

 デッキトップからカードを引く。さて、これで、一発逆転の切り札でも来ればいいんだが……。

 

 私は引いたカードを確認し、しかし、その内容に瞠目した。

 

 これは……。

 

 

 

 《デモンズゲート》?

 

 

 

 これは……邪神達の力? そうか、繋がりを断たれたとはいえ、一体一体がメタトロンを上回る力の持ち主だ。微かに残る繋がりを通して、力を送り込んできたのか。

 

 テキストに目を通し、私はそのカードをそっと手札に加えた。

 

 駄目だ。

 

 これは使えない。

 

 カードを通して、脈動する邪神の力。これを使えば、この光の檻を食い破り、私の肉体を通して無限に邪神の力を汲み出す事が可能だろう。だがそれは、私の命と引き換えに、この世界を破滅に導くという事だ。

 

 それは、出来ない。それだけは出来ない。

 

「……ありがとう。君達の気持ちは、本当にうれしい」

 

 邪神達。君達の事を、私は今もまだ、憎む事は出来ないでいる。長い間触れ合ったからこそ、私は私なりの見解を得た。

 

 君達は邪悪として生まれ、邪悪である事を望まれ、邪悪として君臨し続けてきた。そこに意味はない。目的はない。

 

 ただ圧倒的な力と、永劫の時間だけがある存在……それは逆に言えば、何一つ持ち合わせていないのも同じだ。

 

 彼らはただ争い、殺し、憎しみ合う。理由が無いからこそその憎しみは強く、それがますます彼らの力を強大なものにしていく。

 

 ありとあらゆる全てを目的もなく不幸にしていくだけの存在。それが邪神。

 

 そんな彼らが、私という存在に執着した。私という存在が、望みになった。

 

 それが本当なら。邪神という存在に、僅かな慰めになったのなら、それはそれで私にとって喜ばしい事だ。

 

 大分酷い目にあったし、何なら殺されそうにもなったが、そもそも根本的に価値観も有り様も違う相手だ、気にしてはいない。奪い、殺し、憎む事が、彼らのコミュニケーションなのだから。

 

 だから……ゴメン。

 

 わかっているよ。君達は、世界を支配しようとかじゃなくて、純粋に私を助けようとしている。でもそれが分かっていても、私はそれに応えちゃいけない。

 

「私は手札から、“GI ニードル・フォートレス”を召喚!」

 

 手札から呼び出したのは、上級のGI。

 

 まるで巨大なウニのような見た目のこいつは、複数の召喚条件を持っている。

 

 そのうちの一つ、前のターンに2体以上のモンスターを破壊されている場合、を利用して呼び出した。

 

 召喚条件から見えるように、こいつは劣勢を凌ぐための上級モンスターだ。上級ながらブロッカーを持ち、その高いステータスでプレイヤーを守る。

 

 この戦いの、終わりはまだ見えていない。ただ勝つだけでは、何も変わらない。

 

 そもそも、私だって可能ならば死にたくない。

 

 そうだ。

 

 かつての私は、自らの危険性を無意識にでも理解していた。だから人と距離を置き、悪逆デュエリストとしての扱いに甘んじた。

 

 だが今の私には、帰るべき場所が、大切な友がいる。結局、人は一人では生きていけない。ずるずると増やしてしまった大切な人達、それに未練が無い訳がないだろう。

 

 メタトロンの殉死を思いとどまらせ、そして私も生き残る。そんな希望に満ち溢れた選択肢があるかなんてわからない。それでも、このデュエルを通して、その答えを探すしかない。

 

「……ふっ。このデュエルを通して、ね」

 

 くく。私も大分、この世界に染まってしまったらしい。

 

 とにかく、今は手札もよろしくはない。このモンスターで、一時猛攻をしのぐしか……。

 

 だがその考えを、私のターンにも拘らず動き出したメタトロンのモンスターが軽率と切り捨てる。

 

『トリックカード“警戒射撃”発動。相手が上級モンスターを召喚・特殊召喚した時、私の場のモンスター一体に速攻能力を与える。私は、機動霊廟アイアンクラッドに速攻能力を与える』

 

「ちぃっ、だが、適応能力でステータスはニードル・フォートレスが上回っている!」

 

『ふ。それはどうでしょうか?』

 

 アイアンクラッドのレーザー砲がニードル・フォートレスの身を守る無数の棘を焼き切り、その本体に風穴を開ける。ぶくぶくと外殻が膨れ上がり、弾け飛ぶように爆発四散するニードル・フォートレス。

 

 馬鹿な。適応能力を考えれば戦闘で破壊されるはずが……あっ。

 

『貴方らしくもないミスですね。適応能力は、相手の属性・種族を参照して発動する。アイアンクラッドは見た目の通り、他の天使とは違う機械仕掛けのモンスター。残念ながら、種族が違います』

 

「あ、あー……そういう事か。なんでアイコン参照じゃないんだよこの能力!?」

 

『それだと強すぎるとでも貴方の無意識が判断したのではないですか? 全く、律儀ですね』

 

 ちょっと呆れかえったようなメタトロンの視線に頭をかきむしる。

 

 あーくそ、無意識レベルとはいえこの状況でカードバランスとか考慮するんじゃないよ私!? せっかくややこしい四大デッキから解放されたんだからつよつよビートダウンでいいじゃんか!

 

「ああくそ……だけど、ニードル・フォートレスの効果発動! 相手モンスターに破壊された時、場にバンカートークンを残す!」

 

 巨大ウニそのものは爆発四散したが、代わりに私の場に地面に突き立った棘の柵が残される。敵からの追撃を防ぐバンカーだ。相手モンスターにすら攻撃できないが、その強度……ステータスはなかなかのものだ。

 

 とにかくこれでこの場は凌ぐしかない。

 

「私はさらにカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

『私のターン、ドロー』

 

 引いたカードにちらり、と目を向け、メタトロンは手札に加えた。あの反応、なんかいいの引いたのかな……。

 

『逆巻トウマ。貴方が諦めるつもりが無いのはよく分かりました。そしてヤケになっている訳ではないのも。貴方は今この瞬間も、答えを求め続けている。……一つの天使として、助言を貴方に授けましょう』

 

「そりゃ有難い。霊験あらたかなお言葉をよろしく頼む」

 

『もし貴方がこの場を生き残り、そして邪神の巫女としての世界を滅ぼす運命に抗いたいのなら。その方法はたった一つ。貴方自身が、邪神をも上回る力を手にするほかはない。邪神との接続を断たれた今、貴方の器は今、空っぽです。そこに、邪神どもが再び居座れない程の大きな大きな中身を満たせば、あるいは……』

 

 満たせれば、あるいは、か。

 

 成程。確かにそれなら何とかなるかもしれない。

 

 もっとも、メタトロンの表情はそれが不可能だと語っているけども。

 

『言っておきますが、私が全てを貴方に捧げたとして、全体の一割も満たせればよい方です。この、結界の内部、閉ざされた宇宙に等しい空間から、貴方はその器を満たす何かを見出さなければならない。さもなくば、私は全てをかけて、貴方の魂を多元宇宙から消滅させる……!』

 

 メタトロンが一枚のカードを手札から振りかざす。私に向けて表面を向けるそのカードは、金枠!

 

 来るか、メタトロンのエースモンスター!

 

『私は、手札から“AOD プライマリス・コマンダー”を召喚! このカードは、私の場に二体以上のAODが存在する時、手札から召喚する事が出来る!』

 

 相手の場に、神々しいまでの光の柱が空から降り注ぐ。エンジェル・リフトと呼ばれる光の階段……それを一歩一歩踏みしめるようにして、降りてくる一際巨大な鎧姿。

 

 全身に精緻なエングレービングが施された、紺色の鎧。その背中には六枚の翼がはためき、右手には巨大な剣、左手には磔にされた聖者の彫刻が彫られた巨大な盾。

 

 勇壮さと強大さ、そして華麗さを両立した、力の化身がそこに居た。

 

『プライマリス・コマンダーの効果発動! 召喚された時、私の場に存在するAODの数だけ、デッキからドローでき、さらに私の場の全てのAODはクリアガードを一つ得る。それにより、あらゆる効果、戦闘破壊を一度だけ無効にする!』

 

「うげえ」

 

 グッドスタッフの欠点は、それらの間に繋がりが薄い事だ。基本、その場その場の最善手を打つが、後々の布石には物足りない。

 

 それがプライマリス・コマンダーの登場で一転した。欠点であった防御を完璧にした精兵の集団は、容赦なく立ち並ぶ敵を粉砕する事だろう。

 

 見惚れるほどの、華麗にして強壮たる天使の軍勢。今自分が相手にしているのでなければ、だが。

 

『バトル! 侵略小隊とアイアンクラッドでバンカーを破壊! そしてプライマリス・コマンダーでダイレクトアタック!』

 

 再び降り注ぐミサイルとレーザービームの豪雨が、私を守るバンカーを粉々に吹き飛ばす。そして、炎に彩られた道を、悠々と歩いてくる巨大な天使兵。感情を伺わせないフルフェイスの兜、その双眼が強く輝き、立ち尽くす私を見下ろした。

 

 来る。横薙ぎの一撃。

 

 反応する暇もなかった。気が付けば私は宙を舞って地面に転がされていた。ごろごろと2、3回転してから、遅れて痛みがやってくる。

 

 あまりの激痛に声もでない。

 

「…………っ!!」

 

 息を荒げながら、地面をひっかき、身を起こそうともするも、それは全てイメージで終わる。現実の私は、涙目で息を荒げながら、ぼんやりと白く輝く空を見上げているだけだ。

 

 満天の夜空。白い光の壁に照らされて、星はほとんど見えない。

 

 その中で一つだけ、明るく燃えている星があった。

 

『……私はこれでターン終了。貴方はよく抗いました、逆巻トウマ。ですが、刻限です。今先ほど、ダン少年が三魔公……否、融合魔帝を撃破しました。神谷も想像以上にやりました、まさか三魔公にあのような力が秘められていたとは。悪であっても、人は可能性に満ちているものですね』

 

「ぐ……ぅ……」

 

 確かに。公園を閉ざす光の壁が、より輝き、少しずつ狭まっているのを感じる。それにつれて、夜空の星の光も薄れていく。強い光の前に、弱い光は消えていくだけだ。

 

 それでも。

 

 たった一つの星の輝きだけが、いつまでも消えない。

 

『ですが、それでもやはり最後に残るのは、正しい者なのです。……時間切れです、逆巻トウマ。私と共に、この世界から退場しましょう……』

 

「それでも……私、は……君を……諦め……」

 

『逆巻トウマ……トウマちゃん……。君は……』

 

 光の檻が閉じていく。

 

 その中にあって、私は輝く星に手を伸ばした。

 

 

 

 消えない星が。消えない願いが、そこで燃えている。

 

 

 

『トーウマちゃん』

 

 マスター。私の居場所になってくれた人。情けない所があっても、大切な事だけは間違えない人。どうでもいい事では裏切りまくるけど。

 

 必ず帰ると、約束したのに。

 

『トウマちゃん』

 

 茉莉さん。何かある度に私を着せ替え人形にするのはちょっと困ったものだけど、正直言うと、満更でもなかった。誰かに見込まれて、誰かに期待してもらうのは、悪い気分じゃなかった。

 

『トウマちゃん!』

 

 ハナちゃん。友達、ってああいう子の事を言うんだろうな。仲が良いだけじゃなくて、時折ぶつかる事もあるけど、それを笑って許して受け入れて、なんだか一緒に居るのが苦痛じゃない。もっと彼女とデュエルしとけばよかったかな。

 

 

 

『さかまきトウマ!』

 

 ダン少年。主人公かと思うほど、まっすぐで明るい少年。時折ちょっとノンデリだけど、まあ年頃を考えれば相応かな。私がとっくの昔に忘れてしまった、無鉄砲で考えなしだと切り捨ててしまった勇気を持っている子。これからも、変わらず真っすぐでいて欲しい。

 

 

 

 ああ。

 

 一筋の涙が、眼窩から零れた。

 

 

 

 星が、煌めいている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《正義とはなんだ、ダン!》

 

 

 

「流される涙を、止める意思だ!!」

 

 

 

 






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