カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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厳冬特別編・彼に性別バレしたら その1

 

 

 

 

 

 

 

 年末。

 

 私は、木枯らしが吹く中、買い物カバンを片手に人気の多い商店街を歩いていた。

 

「さぶさぶ……」

 

 コートの襟をより合わせ、身を震わせる。

 

 マスターに買ってもらったコートは暖かく風を通さないが、それでも冷え切った空気の冷たさ、刃物のような冷気はこの小さな体にはだいぶん応える。

 

 もし、マスターの家に受け入れてもらえなかった時の事を考えると今更ながら別の寒気が走る。ま、その時はその時で、何か考えたのだろうけど。

 

「まあ、その分働かないとね」

 

 私はカバンの中に入った食材を確認して頬を緩めた。

 

 中に入っているのはマスターに頼まれたものだ。メモも取ったし、そもそも私の中身は成人男性、買い物一つで手間取るような事はない。

 

 働かず者食うべからず。身元不明の児童を養子に拾うような変わり者を里親に持った以上、私も働かねば食べていけない。

 

 ま、私から言い出したんだけどね。

 

 マスターからは友達と遊んでおいで、なんて言われたけど、これはこれ、それはそれなのだ。

 

「……ん?」

 

 小さな達成感を胸に帰路を歩いていると、向かう先に人だかりが見えた。同時に、カランコロンという景気のいい音が聞こえてくる。

 

 これは、あれか。

 

 くじ引きか。

 

「ふーむ」

 

 財布を確認すると、買い物でもらったくじ引きチケットが一枚。

 

 これをどうするかは、マスターからの指示はない。ならば、勝手に使ってしまっても問題はないだろう。

 

 むふ、しかし考えてみるとこっちの世界に来てから、カードゲーム以外でこういった運だめしをするのは初めてなのではないか?

 

 ふふふふ、プレイヤーとしての腕が鳴るぜ!

 

 まあどうせティッシュ一枚だが……。

 

「すいませーんこれお願いしまーす」

 

 

 

 

 

 そして。

 

 私は新品のモコモコ防寒具に身を包み、雪の冬山に保護者二人で訪れていた。

 

「いやー、スキーなんていつぶりだろう!」

 

「ほんとねー! ウィンタースポーツってなかなか準備が大変だから、思い切りがいるわよね。トウマちゃんには感謝しないと」

 

「はははは……」

 

 意気揚々とゲレンデに向かう大人二人に手を引っ張られ、レンタルのスキーでずるずる滑っていく私。

 

 いや……まさか一等が当たるとは……。

 

 雪山の温泉旅館への二泊三日の旅行券。しかも旅館の隣がゲレンデで、スキーなりスノーボードなりが乗りたい放題という。

 

 あまりにもできすぎたシチュエーション。おっかしいな、声どもの加護はもう無いはずなんだが。

 

 ま、いっか。この際だから楽しもう。

 

 なんだかさあ、やっぱこういう処に来ると、体にひっぱられるというかさあ。わくわくするんだよね、やっぱり。

 

 相変わらず外は寒いが、なんだか体は火照ってしょうがない。自分でもらしくなく興奮しているのがわかる。

 

 しょうがないじゃん、体は若いんだからさ!

 

「あ、ほら、トウマちゃん、リフトに乗るわよ!」

 

「リフトかぁ……保護者同伴なら大丈夫だろうけど、乗り方わかる?」

 

「大丈夫だ、まかせろ」

 

 ふふ、スキーなんて中学生以来だが、大丈夫、勝手は覚えてる。調子に乗らなければそう怖いものではない。

 

 っていうか、スキーそのものよりもこのリフトの方が怖いわ!!

 

 安全基準とか考えてもこんな乗り物がなんでなりたってんの!? ワイヤーからつるされたベンチに、シートベルトもなくぶら下がって、木の上よりも高い所を運ばれて!

 

 挙句、降りる時は足場とリフトの間に、でっかいスキー板が挟まらないように素早く降りる必要がある上に、場所によってはあぶね、と思っても止まらないとかさあ!!

 

 この世で三番目か四番目ぐらいに解せない乗り物ですよぉこれわー!

 

「もちろん、大丈夫。大丈夫だ。まかせろ」

 

「……え、えっと。ま、まあ、うん……無理しないでね」

 

「マカセロ」

 

 私は息を呑んで、降りてくるリフトのタイミングをうかがう。

 

 い、今だっ! のりこめえっ!!

 

「ふ、ふぅ、このぐらいなんてことはないぜ……ふふ」

 

 支柱に全力でしがみつき、安全を確保する。スティックを落とさないように注意しながら、私はリフトの上から山肌を見下ろした。

 

 雪の積もった、銀色のゲレンデ。前世では環境問題とかで雪が降ったり降らなかったりで、スキー場の経営者は苦労していたというが、こっちの世界はそんな事はないようだ。

 

 太陽の光を受けてキラキラ輝く雪の斜面を、人々が次々に滑り落ちていっている。

 

 と、みてれば、滑りながらデュエルしてる連中もいる。ほへー、ああいうのもあるのか。楽しそうだな。

 

 よく見たら審判も一緒にスキーで滑り落ちてら。

 

 立体映像のモンスターと共に、急斜面を滑り落ちながらデュエルする。あれもまた面白そうだな。

 

 とはいえ流石に注意が散りすぎて危ないんじゃないか? まあ、いいか。この世界の事だから専用コースとかなんだろ。

 

「あとで茉莉さんあたりを誘ってみるか……」

 

 マスターは弱すぎて相手にならんからな。滑り出しで試合が終わっちまう。

 

 そんな感じで先の事を考えていると、リフトの終わりが見えてきた。とにかくまあ一度は普通に滑ってみるか!

 

 

 

◆◆

 

 

 

 そして気が付けば私は一人、吹雪の吹きすさぶゲレンデの中に取り残されていた。

 

「なんでこうなるんだ……」

 

 周囲を見渡しても、雪のベールで先も見通せない。こういう時、やたらめったら歩き回るとろくでもない事になるというのはお約束だ。

 

「おおーい、誰か! 誰かいないのかー!?」

 

 声を張り上げてみるが、反応はない。

 

 まさか、この雪山に私一人という事はあるまい。だが事実として、今、私はたった一人で孤立してしまっている。

 

 うう、どうしたもんだか。

 

「うん?」

 

 と、そこで肩をくいくい引っ張られる感触。視線を向けると、そこには小さな、白い蜘蛛のようなヒトデのような生き物がちょこんとのっかっていた。

 

『きゅいきゅい』

 

「どうした、スターマイン? え、あっちに小屋があるって? 私には何も見えないが……」

 

 勝手に実体化していたカードの精霊的なものの呼びかけに首をかしげる。

 

 とはいえ、他に行く当てもない。私は彼の誘導に従い、猛吹雪の中を進んでいった。

 

 吹雪から顔を庇い、這うようにして歩き続ける。雪はそろそろ腰にまで達し、これ以上は体力が……そう思った所で、雪のベールの向こうにぼんやりと明かりが灯っているのが目に入った。

 

 あと少しだ、そう気合を入れて近づくと、そこには……。

 

「山小屋……いや、旅館の離れか?」

 

 そこには雪の中、そこそこ豪華な建物が建っていた。猟師の山小屋というには作りがしっかりしており、玄関や中庭らしきものもある。

 

 どこかの金持ちの別荘だろうか。どうやら無人ではないらしく、建物の奥からは光が漏れている。

 

 何にせよありがたい。私はさっそく呼びかける事にした。

 

「あのー、すいませんー! 誰か、いませんかー!?」

 

 ドンドン玄関を叩いて声を張り上げるが、返事はない。おかしいな、人の気配はあるんだが。

 

 引き戸に手をかけてみると、ガラガラと開く。鍵はかかっていないのか。

 

 ……仕方ない。不法侵入だが、このまま玄関にいても凍死するのは時間の問題だ。ここは緊急処置という事で。

 

「し、失礼しますー」

 

 中に入り、玄関の扉を閉ざすと、とたんに風が途絶える。冷気は変わらずだが、風がないだけでなんだか暖かくすら感じる。

 

 私はジャンバーに積もった雪を振り落とし、中に入っていった。

 

「誰も……いないのかな……?」

 

 壁には、光源である蝋燭がゆらゆらと燃えている。だが人の姿はない。揺らぐ自分の影だけが、廊下に長く影を落としている。

 

 不気味だ。

 

 まるで幽霊屋敷に迷い込んでしまったかのようだ。

 

「……うん?」

 

 そこで私はふと、鼻に異臭を覚えて足を止めた。

 

 くんくん、と鼻を嗅いでみる。この匂いは……。

 

「……硫黄の匂い……?」

 

 匂いの出元を探してダッシュする。果たして走っていった屋敷の奥で、私はそれを目にした。

 

 ゆ、の字の垂れ幕。

 

「温泉だー!!!」

 

 

 

 

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