カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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厳冬特別編・彼に性別バレしたら その2

 

 

「ふんふふふーん、ふふん、ふん」

 

 いそいそと脱衣所でジャンバーを脱いですっぽんぽんになる。びっしょり濡れてしまった衣類は、都合よく設置してある洗濯機にぽい。

 

 タオルを腰にまいて、曇りガラスの扉を開くと、もわわ、とあったかい蒸気が周囲に広がった。

 

「おぉー」

 

 それはそれは、見事なまでの露天風呂だった。周囲には濃厚な湯気が立ち込め、先も見えないが、大きな湯舟いっぱいにお湯が満たされているのははっきりとわかる。

 

 まずはざばー、と手桶ですくったお湯で体を流して、わしゃわしゃと体と髪を洗う。そこそこに洗って流したら、タオルを体にまいて、湯舟にざぶーん。

 

「ほわわわわ……」

 

 じんわりと体が芯から温まってきて目を細める。しーあわせー。

 

 冬の雪山を彷徨った体の隅々まで熱がめぐる感じ。いやー、これだよこれ。温泉ってのはこうじゃないと……。

 

 けほー、と息を吐き出しながら、冬の雪空を見上げる。

 

 温泉の熱で積もってはいないけど、空は相変わらずの吹雪模様だ。このままずっと温泉にこもっている訳にもいかないし、はてさて、どうしたもんかねえ。

 

 温まってきた頭でぼーっとしながら考えていると、ふと少し離れた所からちゃぽん、と湯の音がした。

 

「んみゅ?」

 

 なんだ?

 

 誰かいるのか?

 

 そりゃ、蝋燭に火をつけた誰かがいただろうけど……あ、そっか、その人も温泉に入っていたのか。納得。

 

 ……まずくない?

 

 頭が冷えてきて危険を感じた私は、こっそりその場を離れようとする。が、それよりも先に、吹き込んできた冷たい風が湯舟の上に揺蕩っていた湯気を取り去った。

 

 途端にクリアになる視界。うっすらと残る湯気の向こうに、人の姿が浮かび上がって、って。

 

 その特徴的な茶髪のツンツン頭は……

 

「お、お前……なんでここに……?!」

 

「ダン少年……?!」

 

 湯舟の中、思わぬ顔見知りと遭遇した私はその場で固まってしまう。

 

 それは相手も同じようで、頭にタオルを乗せたダン少年は、目を丸くして私を見つめている。

 

 その視線が向いている先に気が付いて、慌てて湯舟に肩まで使って体を隠す。って何やってんだ私……。

 

「な、なな、なんでダン少年がここに……?!」

 

「何って、ここ、俺んちの別荘なんだけど……」

 

「マジで!?」

 

 そ、そういえばこの少年、海外旅行とか当たり前の超大金持ちだったな。そりゃそうか、冬はゲレンデとかに言ったり山奥の別荘とかで過ごしたりしていて当然か! 私達一般人とはスケールが違う!

 

「家族でスキーに来てたんだけどさ、なんか急にやばい雪が降ってくるわ、視界が悪くなるわでどうにもならなくなって、それで近くに別荘があったの思い出して避難しに来たんだよ。本来は休暇を過ごすんじゃなくて、修行用の別荘だけど」

 

「まってまったまって?」

 

 情報量が多い!!!

 

 え、つまり、家族で過ごす別荘が別にあって、この別荘はそれとも違う奴ってこと? というか修行って何? デュエルの? デュエルの修行って事?! そりゃあ現代社会から切り離されて自然相手にもくもくとデュエルの練習するのもこの世界観だとありかもしれないけどだからってそのためだけに別荘立てる?! 意味わかんない!

 

 久方ぶりに味わうこの世界の恐ろしさに震えていると、ダン少年がじろりとこちらを睨みつける気配があった。

 

「それで坂巻トウマ、お前はなんでここにいるんだよ。ここ、ひとんちなんだけど」

 

「ああ、いや、その。それはごめん。私も吹雪でマスターや茉莉さんとはぐれちゃって、凍える寸前でなんとかここを見つけたんだ……」

 

「えっ、そうなのか? そりゃ大変だったな」

 

 私の事情を伝えると一転して、目を丸くして心配してくれるダン少年。やっぱり基本的にはよい奴なんだよなあ、彼。

 

 いや、しかし、正直助かった。

 

 吹雪に閉ざされた山奥で、孤立した屋敷の中。これで相手が見知らぬ誰かとかだったらいたたまれないしやりづらいし、何より身の危険を感じる所だった。が、相手がダン少年なら何の心配もいらない。

 

 なんせ私達は友達だもんな! ふふふふ。

 

 思わぬ形で楽しい展開になってきてニコニコしていると、ふとなおもじとっとした視線を感じて私は首を傾げた。なんぞ?

 

「ど、どうした?」

 

「どうしたって……オマエな……」

 

 あきれた様子のダン少年が、ざばざば湯舟をかき分けてこっちに近づいてくる。そしてその手が伸びてきて……ってぇ!?

 

「そのタオルはなんだ! 湯舟にタオルを漬けるのはマナー違反だぞ!」

 

「あ、いや、これはちょっと事情があって……!」

 

「問答無用、そのタオルは没収する!」

 

 がー、っと掴みかかってくるダン少年。いや、その、ちょっと、まって、あぁああーーー!?

 

「ご、ご勘弁を! 堪忍してください、これには事情がー!」

 

「この家主は俺だ、つまり俺がルールだ! タオルを、ぬ、げぇー!」

 

「あひぃん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 むにゅん

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 ぴたり、とダン少年の動きが止まる。

 

 一方、私は自分の頬が温泉よりも熱くなっているのを感じながら、静かに彼から距離を取った。

 

 遅れて、ダン少年が顔までやばいレベルで真っ赤になる。

 

「あ……え……あ……?」

 

 ギギギギ、と壊れたブリキ人形みたいな動きでこっちを見るダン少年。私は彼から視線を逸らして、小さくつぶやいた。

 

「……えっち」

 

「……ううううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

 絶叫。

 

 脱兎。

 

 湯をざばざばかき分けてその場から走り去るダン少年。湯舟から身を起こすところで、はっとして腰回りをタオルで隠す。案外冷静では?

 

「あわわわわわ」

 

 そしてそのまま、早歩きで脱衣所へ。走ったら危ないからね、親御さんの教育が行き届いているのがよくわかる。

 

 ……じゃなくて。

 

 ばしゃん、と閉じられる脱衣所の扉を他所に、私は鼻まで湯舟に沈むと、ぶくぶくと泡を立てた。

 

「ぶくぶくぶくぶく……」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

「そ、その……マジでごめん……」

 

「いいよ、別に。私も何も言ってなかったし……」

 

 湯上りの居間。ぱちぱちと燃える囲炉裏を囲む私達の間には、とても気まずい空気が漂っていた。まあ当たり前である。

 

 ダン少年は真っ赤な顔から転じて真っ青な顔で座り込んでいる。なんだかんだで、基本的に紳士である彼の事だ、意図しなかったとはいえ異性の胸を触ってしまったことに羞恥よりも罪悪感を覚えているのだろう。ついでに言うと私が女性だという事に気が付いていなかった事にもショックを受けているらしい。

 

 私の方は、まあなんだ。最初こそびっくりしたし感情を持て余したが、今は落ち着いている。これでも中身は無駄に年を重ねているのだ。

 

 ここは大人の余裕をいうのを見せるべきだろう。

 

「まあ、気にするな……とは言わんが、そう落ち込むな。あれは単なる事故だった。いいな?」

 

「で、でも……」

 

「いいからいいから。私は気にしてない。だからお前も気にしない。OK?」

 

 飄々とした態度を装って言いくるめると、納得していないながらもうなずくダン少年。

 

「……マスターや茉莉さんは、この事を?」

 

「知らん訳がないだろう、私の保護者だぞ? あとついでにハナちゃんも気が付いていたな。岩田さんも、たぶんまあ」

 

「知らなかったのは……俺だけかあ……」

 

 一応納得したら納得したで、今度はがっかりと肩を落とすダン少年。まあ気持ちはわかる。自分だけ気が付いていなかったってのはね。知らないうちに仲間外れになっていたのはこの年頃の少年にはショックだろう。

 

「というかなんで気が付かなかったんだ、俺? 普段ボサボサの頭で、ダサい格好してても、いくらなんでも男と見間違えるなんて……いや、そうでも……ないか? あれを女だって思う方が無理ない?」

 

「おい貴様」

 

 いう事にかいて。いやまあある意味事実ではあるんだが。女の子らしいおしゃれとか……まあしていない訳ではないが、その時は別人を装ってたしな。

 

 ダン少年に情状酌量の余地があるかないかだと、大いにありだ。とはいえその言いざまは酷くない?

 

 私はため息を書いて、垂れてきた髪を梳いた。この屋敷には電気が通ってないとかでドライヤーが無いのだ。タオルで丁寧に拭いたが、うーん。

 

 しかしなんでこんな山奥であんないいシャンプーとトリートメントがあるんだ。私の髪がこんなサラサラになるとはね……。

 

「……そういう仕草普段からしてれば……」

 

「うん? なんだ?」

 

「な、なんでもないっ」

 

 ???? なんだ一体。

 

「それより、どうする? 外の吹雪はやむ様子がないぞ」

 

 こうしている間も、壁の向こうからは風がゴウゴウ唸る音が聞こえてくる。吹雪は強くなるばかりで一向に収まる気配がない。

 

 早い話が、私達はこの屋敷に閉じ込められてしまったようなものだ。

 

「そうだな。とりあえず救難ビーコンは発してるから、とりあえず晩御飯食べて、一晩過ごして……それから、また考えよう」

 

「呑気だな」

 

「一応安全を確保している以上、じたばたしてもしょうがないだろ? じいちゃん達もそういってる」

 

 ダン少年がデッキケースをぽんぽん、と叩いて断言する。そっか、そういえば彼には精霊の知恵袋がついていたな。

 

 まあ私も似たようなのがついてるし、最悪の事態は彼らにどうにかしてもらえばいいか。

 

『やめろマジで』

 

「うん? ダン少年何か言ったか?」

 

「何もいってないけど? それより、メシの準備しようぜ。食料の場所はこっちだ」

 

 屋敷の奥に向かうダン少年に続いて私も立ち上がる。んー、しかしこんな普段放置されている屋敷に、食べるようなものはあるのかな……?

 

 まあいっか。お金持ちの備えに期待だ。

 

「蟹缶とかあるかな?」

 

「ん? そんなの当たり前だろ。ってか、そんなもん今食べてどうするんだよ、後にしようぜ」

 

「……当たり前なのか……」

 

 金持ちこわーい。

 

 

 

 

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