カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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厳冬特別編・彼に性別バレしたら その6

 

 私達を吹雪に閉じ込めた雪女はゲームに敗北した。

 

 妖怪であってもルールはルール、勝負は勝負。流石にそれぐらいは守ってもらう。

 

 よろよろと起き上がってきた雪女に、私は腕を組んで投降を促した。

 

「ほれ。こっちの勝ちだ。私達を解放してもらおう」

 

「……そうね……私の、敗北だわ。男の子は諦める……」

 

「よしよし」

 

 密かに胸を撫でおろす。ここで合流したのは偶然とはいえ、一応私は年上としてダン少年を保護する役目があるからな。これで肩の荷が下りたというものだ。

 

 あとはさっさと山を下りて大人の元に……。

 

「でも」

 

 ぎらり、と雪女が目を見開く。その視線が突き刺すのは……私。

 

「貴方だけは、別よ!」

 

「む……っ」

 

「私の目も曇ったものね! お前のような存在を見落としていたとは……! こうなれば、私の命に代えても、お前をこの雪の中に封じ込めてくれる!!」

 

 雪女の体が砕けて雪となる。途端に、周囲に吹き荒れる吹雪が勢いを増し、まるで竜巻のように私を包み込んでいく。これは……!

 

「トウマ!」

 

「来るな、ダン少年!!」

 

『お前の存在は、必ずや我らが大望の妨げになる! ここで我と共に、朽ち果てるがいい!!』

 

 夜闇の向こうから響いていた雪女の声は、それで途切れた。感じていた気配も、それきり途絶える。

 

 どうやら力を使い果たして存在を維持できなくなったらしい。私達のいう命のようなものが、彼女にあるのかは甚だ疑問だが。

 

 それはそれとして、吹雪はますます強さを増していく。インベーダー達に命じて包囲を突破しようとしたが、指先がかじかんでカードを取り落とした。

 

 こいつは……流石に、代償を支払っただけあって強烈な……っ。

 

「ええい、こうなればイチかバチか……うん?!」

 

 不意に、なんだか嫌な予感。

 

 何だか前にも似たような事があったような……。

 

「おりゃあああーー!?」

 

「ダン少年!?」

 

 その考えは正しく、突如として何かを突き破ったような感じと共に、傍らにダン少年が現れる。肩で息をする彼はぐっと私に手を伸ばすと叫んだ。

 

「捕まれ!」

 

「っ、ええい、もう無茶をする……!」

 

 呆れながらも、彼の手を握り返す。直後、彼に強く手を引かれ……気が付けば、私は雪原のど真ん中で、倒れた彼の腕の中にいた。

 

「お、おぉう……」

 

「ぷはあ、くっそお、もう二度とやらないぞ! 無事か、トウマ!?」

 

「う、うんむ……」

 

 身を起こして愚痴るダン少年の横で、とりあえず瓦礫の上に女の子座り。い、いや、何をやってるんだ私は。

 

「……た、助かった、礼を言う。そ、それはそれとして、なんて無茶をするんだ! 一歩間違ったら、君も一緒にあの吹雪の中に閉じ込められるところだったんだぞ! 私はともかく、君は普通の人間なんだ! 無理は……」

 

「なんだよ、トウマだって、その、女の子じゃんかよ……」

 

「そ、それは、そうなんだが……それはそれでだな……」

 

 ごにょごにょ。

 

 何だこれ、頭の中で考えは整理できているのに、理屈が言葉にならない。そ、そりゃあ、確かにこの体は軟弱な女子のものだが、それ以前にだなあ……。

 

『はいはい、ごっちそうさん。それよりどうすんだよ、屋敷、こんなんなってるけど』

 

「む……」

 

「そういやそうだな……。これ、いつからだ? デュエルの巻き添えくらってこうなったのか? それとも最初から? じゃああの飯とか、温泉はなんだったんだ?」

 

 足元に広がる、かつて屋敷だった廃墟の残骸。だがよく見ると、しばしの間寛いだ屋敷の面影らしきものはある。間取りや、囲炉裏の名残。玄関の場所。

 

 見た所、もう何年も前に大雪か何かで潰れてしまった、そういう風に見えるが……。

 

 すんすん、と身に着けた寝間着の匂いを嗅ぐ。匂いも、手触りも、長年雪の中で放置されていたような黴臭さなどは感じなかった。

 

 ふん。気にするだけ無駄な案件だろうな。ある日突然、人間の子供が出現するなんて事もあるんだ、幻の中にしか存在しない屋敷も、あってもおかしくはない。

 

「まあ、キツネもとい雪女に化かされていたのだろうな。それより、不味いのはこれからどうするかだ。荷物やウィンターコートがどこにもないぞ」

 

「うげえ、このまま寝間着で雪の中にいたら凍死しちまう!」

 

 今更寒さを思い出したように、ダン少年が肩をさする。

 

 そう、寝ている所を襲撃されたので、私も彼もパジャマ姿なのだ。冬用のモコモコした奴とはいえ、こんな雪の降る夜で身を守ってくれるようなものではない。

 

 しかも運悪く、ぱらぱらと頭上から雪が降って来た。

 

 このままここで一晩過ごすのも無理筋だ。イチかバチか、救援が近くまで来ているのにかけて歩いていくしかない。

 

「お前達。近くに救助隊が来ていないか、見てきてくれ」

 

『ピピィ』

 

『キュキュッ』

 

 私の指示に、小さなインベーダー達が答えて四方に散っていく。宇宙空間でも活動できる彼らならば、この寒さでもなんともないはずだ。

 

『……もうつっこむのもめんどくせえ……』

 

「それで、ええと、どうする?」

 

「まかせろ。最低限の方向はわかっている。向こうに行くぞ」

 

 そうして、私はダン少年と二人、雪の中を支え合って歩き出した。

 

 

 

 子供二人で、雪の降る夜を歩く。

 

 あたりはシンと静まり返っていて、二人の息遣いだけが響いていた。

 

「…………」

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ああ……」

 

 先ほどからダン少年は黙りこくっている。そろそろ限界が近いようだ。

 

 そんな彼を、私はさっきから肩に抱いて、二人三脚みたいにして歩いている。

 

 なんだかんだで私も結構きついが、そこは経験の差という奴である。やせ我慢にだけは自信がある。

 

「…………」

 

 それにしても歩いても歩いても雪しかない。

 

 人の気配はおろか、獣の気配もない。

 

 まるで世界に、たった二人だけ取り残されてしまったかのようだ。

 

 生きている存在は私達ただ二人だけで、他の全てが眠りについているような。

 

「……ふ」

 

 我ながら、少々センチメンタルな例えだったかもしれない。

 

 ただまあ、世界の最後の連れ合いがダン少年だったなら、それはそれで果報者というものではないか? まあ彼からしたら、私なんぞが最後の連れでは不満極まりない所だろうが。

 

「何かしゃべろう。眠ったら死ぬぞ」

 

「う……ん……。そう、だな……」

 

「しっかりしろ。そうだな、私の過去の話でもしようか。悪逆デュエリストなんて呼ばれていたからな、くだらない話には事かかないぞ。おひねり代わりに空き缶とか投げつけられた事もあってな……いや、これはやめとこう」

 

 おっと、これはちょっと不適切な話題だったか。寒さで私も頭がまわらないらしい。

 

 滑らせた口に顔をしかめていると、ぎゅっと、ダン少年が肩に回した手に力を込めてきた。

 

「お前は……」

 

「うん?」

 

「お前は、それでよかったのか……? そんな風に、酷い事言われて、酷い事されて……。やりかえしてやろうとか……ゆるせないとか……うらんだり、どうして、しないんだ……?」

 

 おっと、これは意外。ダン少年にもそういう感情はあったのか……まあ当たり前か。

 

 んー。やり返さなかった、理由かあ。

 

 それは勿論、この世界においては私の方が異物なのであって、彼らの反応はごく当然の事……というのを話しても、彼には分からないだろう。

 

 そうだな。

 

 敢えて言うならば……。

 

「そうだな。ちょっと嫌に思う事はあったが、まあそれだけだな」

 

「……なんで……」

 

「それはだな。それが、人の側面、その全てではないからだ。いい人だって、魔が差す事もある。私を悪く言う人だって、どこかの誰かにとって大切な人なんだ。ちょっと自分が悪い事されたからって、その人を悪い奴だと決めつけたくはない、それだけだ」

 

 まあ流石に全人類に適用される理屈ではない、マフィアとかしったこっちゃないし。

 

 それにあくまで理想論だ、私は聖人君子ではないからそこまで割り切れない。ただ、そういうふうに生きられたら、それはきっと善い事なんだろうと、そう思うだけだ。

 

「ダン少年だって、最初は悪逆デュエリストめー、って絡んできただろう? でも今は、こうして支え合う仲だ。人間はそう簡単に見切っていいもんじゃないのさ」

 

「……俺には……よくわかんない。……けど」

 

「けど?」

 

 息も絶え絶えのダン少年。彼は私の肩に頬を寄せたまま、小さく笑ったようだった。

 

「……お前に、悪くない、そう思われているなら、よかった……」

 

「ああ。……ダン少年? おい?」

 

 軽く揺さぶるが、反応がない。不味い、気を失ったか。私は適応能力で体温がいくら下がっても凍死しないが、彼は違う!

 

「くそ……っ!」

 

 ダン少年を背負いなおし、人間の匂いを嗅ぎつけたのであろうインベーダー達の残した小さな足跡、それを追って雪の中を直走る。

 

「大丈夫だ、お前は私が死なせない!!」

 

 雪の中、足元になにが転がっているのかよく見えない。何度も転びそうになり、途中で変なもんを踏んだのか脚に激痛が走るが、それであゆみを止めたりしない。

 

 走って、走って、走り続けて、そして。

 

「お、おい、誰かいるぞ!!」

 

「子供だ! 要捜索対象二名発見!!」

 

 恐らく、インベーダー達が物音でも立てて誘引してきたのだろう、ライトを片手に探索していた救助隊との合流に私は成功した。こんな夜更けに……普通であれば切り上げている所を、彼らは私達の事を探してくれていたらしい。

 

「パジャマ姿……?! い、いや、君、大丈夫か!?」

 

「担架、担架もってこい! 一人がヤバイ!!」

 

 たちまち大騒ぎになる辺り一帯。救助隊の人にダン少年を預けつつ、私はなんとかなった、と小さくため息をついて、そのまま座り込んだ。

 

 

 

 

 

 その後、私達は病院に担ぎ込まれた。

 

 ダン少年は軽い凍傷。それに対して私は、石やガラスを踏み抜いて足がズタズタに加え、うっかり体温を測られた結果あわや手足を切り落とされるところだった。いやあ失敗失敗、大慌てで体温を上げて事なきを得たが、担当の先生の心底困惑したような顔はちょっと忘れられそうにない。振り回してメンゴメンゴ。

 

 そんなこんなで、せっかくの雪山スキー旅行は、どっかの妖怪のせいで大変な結果に終わったのであった。

 

 全く。死に逃げしやがったから慰謝料も請求できない。

 

 いつか復活してきたらきっちり雁首揃えて返して貰うからな、まったく。

 

 

 

 そして、病院から退院し。

 

 いつも通りの日常が戻って来たのであった。

 

 

 

 

 







「えんでぃんぐ」 に 続く。





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