カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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VS主人公(?) その4

 

 

◆◆

 

 

 

 勝負は決着した。

 

 ゲームの終了により、私の周囲に立つ悪魔たちが姿を消していく。傍らに立つ鳥の悪魔が、ぎょろりと私に黄色い一瞥を残し、霞のように消え去った。

 

 ご苦労様、とはいわない。こいつら何考えてんのかわかんねーんだよ……。

 

 外見で差別するのは良くない事だが、どう考えてもまともな連中じゃないし。

 

 デッキを懐に戻して周囲を見渡すと、レフェリーはいつの間にか姿を消していた。

 

 次の仕事を探しに行ったらしい。彼らも大変だ。

 

「ふぅ」

 

 それにしても、なかなか接戦だった。正直、さくっと勝って終わりだと思っていた。

 

 プランは組んでいたが、ケー・クァールを出させられるとは思わなかった。マジェスティック・フレイマーの再召喚で勝負はついたとおもったのだが、いやはや。

 

 流石は主人公候補。いやまあ、まだそうと決まった訳ではないのだが。

 

 あのギリギリでの巻き返しはまさに主人公補正。だがそれも結局はこちらの手の内でしかなかった。

 

 主人公が負けてはいけないとは言わないが、少し疑問が残る戦いぶりではある。しかしそれはそれとして、少年ながら見事なタクティクスだった。

 

 私は尻もちをついているダン少年を助け起こそうと一歩踏み出すが、それよりも早く動いた者が居たようだ。

 

「だんちゃーーん!!」

 

 少年の連れの女の子が、倒れた彼に走り寄る。彼女はしゃがみこんで、蹲っているダン少年の顔を覗き込んだ。

 

「だいじょうぶ?」

 

「だいじょうぶだ、はなれてろ。自分でたてるっ」

 

 さしのばされた手を押しのけて、自力で立ち上がり砂を払うダン少年。タイミングを見失った私は、その様子を少し距離を置いて見守っていた。

 

 ぱちぱちぱち、と周囲からまばらな拍手が起きる。観客の皆が、彼を口々に褒めたたえた。

 

「よくやったぞ、坊主」

 

「最後は惜しかったが、すごいプレイだった!」

 

「これでめげずにこれからもがんばれよ!」

 

 敗者であるはずの少年に温かい言葉が向けられる。私は、ふ、と小さく笑って、踵を返した。

 

 観客たちからいささか白い目が私に向けられている。だが、子供の前で罵詈雑言を飛ばすほど彼らも空気が読めない訳ではないだろう。

 

 言いたい事は分かる。

 

 時間を巻き戻すとか、バーン魔法は卑怯だとか。モンスター同士が気持ちよく殴り合うバトルを見たかった彼らからすれば、私の戦術は対話を拒絶した一方的なものに見えた事だろう。私も、正直バーンでとどめを刺されるとか割と腹が立つし。

 

 それに、話を聞く限り、普通の人は運命で結ばれているといってももう少しカードとのつながりは緩い。同じカードがあまり集まる事は無くて、一般的にはハイランダー気味のデッキがほとんどだ。そんな中、趣味の悪いデッキを四つも持っている私は、もうそういうのが好きで集めているようにしか見えないのだろう。

 

 わかってる。

 

 私は、この世界では異分子だ。

 

 この世界のどこにも、私の居場所はない。

 

 それは、それで。構わないとも。ああ、構わないとも……。

 

「おい、おまえ!」

 

「……?」

 

「おまえだよ、あくぎゃくデュエリスト!! 試合がおわったからってあいさつもなしにかえるな!」

 

 おっと、これは失敬。

 

 子供に礼儀を問われるとは、私もまだまだだな。

 

「これは失礼。良いデュエルだった。……ま、これに懲りたら悪者探しなんてやめるんだな。次は火傷では済まないぞ?」

 

「へんっ! このぐらい何ともないやい!」

 

 よく言う。最後、ケー・クァールに完全にビビっていただろうが。まあ、どうにも精霊じゃないとはいえまともなカードではないっぽいからな、それも仕方ないといえば仕方ないのだろうが。こいつら本当に何なんだろうな。

 

 彼の使っているカードの精霊達は、何か事情を知っていそうだったが、デュエルが終わった今は姿を見せてくれない。

 

 色々と聞いてみたかったのだが、仕方ないか。

 

 と、気が付けば、ダン少年が目の前にずんずん迫って来ていた。怒り肩の少年に、私は肩をすくめて正面から相対する。

 

「さかまきトウマ、っていったな、お前!」

 

「ああ。そうだが……」

 

 答えると、ダン少年が腕を振り上げた。私は顔を伏せて衝撃に備える。

 

「ん」

 

 だが、想像していた衝撃はやってこなかった。代わりに、うつむいた顔の前に、小さな掌が差し出される。

 

「あくしゅだ! デュエルをしたら皆仲間だって、兄ちゃんがいってた! お前、話に聞いてたほど悪いやつじゃないし!」

 

「え……?」

 

「カードを信じる奴に悪いやつはいない、って兄ちゃんがいつもいってる。俺もそう思う!」

 

 差し出された掌をしばし見つめて、私は躊躇いの後にその手を握り返した。

 

 ふにふにとした、小さな子供の手の感触。私もかつてはこうだったのだろうか……いや今現在進行形でそうだけど。

 

「次は俺が勝つからな!」

 

「ふっ。……まあ、目標を掲げるのは自由だからな」

 

「こ、このむかつくやつだな、おまえ……」

 

 悪いがこっちも生活がかかってるのでそこは譲れない。

 

 私に土をつけたいなら実力で来るんだな。それで負ければ私も文句は言わない。

 

「覚えてろ、今回は知らない手段をつかわれたから負けただけだ、次は絶対に勝つ!」

 

「そう。でも次も『変化』デッキとは限らないよ」

 

「はえ?」

 

 握手から手を離し、私は懐から四つのデッキを取り出して手の中でジャグリングしてみせた。

 

「私、デッキ四つ持ってるから」

 

「むっきぃいーー!! いいさ、なんでもいいから覚えてろ!!」

 

 顔を真っ赤にしてダン少年は公園を後にする。ぺこり、と頭を下げて、その後をちょこちょこと女の子がついていく。

 

 遠ざかっている背中を見送っていると、ふいに少年は立ち止まってこちらに向き直った。

 

「ひとつ、あやまる!!」

 

「?」

 

「おまえはあくぎゃくデュエリストなんかじゃなかった! おまえは、すごいデュエリストだ! でも、次は俺が勝つ!!」

 

 最後にそんな事を言って、ダン少年は走り去っていった。

 

 あとには、ぽかんとアホ面の私と、くすくす笑う観客が残される。

 

 さっきまでの批判ムードはどこへやら、まっすぐすぎるダン少年の勢いにそういった暗い空気は吹き飛ばされてしまったようだ。

 

 やっぱりアイツ、主人公では?

 

「……喫茶店にでも、顔を出すか」

 

 私はくしくしと長い髪をかき上げて、公園を後にした。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 私の行きつけの喫茶店のマスターは、正直変わり者だ。

 

 まず、私のような怪しげな小娘を気にしてくれる。それ自体はまあ、まともな大人としてそう変ではないのかもしれないが、本当にまともな大人なら児童相談所なり警察なりに報告するだろう。

 

 が、今の所彼がそのような行動に出る様子はない。一人で生きていける、という私の意見を尊重している、といえば聞こえはよいが、あまり模範的な判断であるとは言い難い。勿論、報告しない事には感謝している。

 

 そしてその一方で、コーヒーやご飯をおごってくれたりと世話を焼いてくれる。部屋にあるタオルも何枚かは彼に貰ったものだ。

 

 正直頭の上がらない恩人であると同時に、何を考えているのかちょっと分からないところもある。

 

 それでも、頼りにしている人間の一人であるのは間違いがない。

 

 そんな喫茶店は、ちょっとお洒落な感じの木造の小屋、みたいな見た目だ。森の中に隠れ家としてありそうな感じで、学生たちも多く立ち寄る人気のお店でもある。基本的に店内では悪目立ちするので、私はいつも外の座席の隅っこに陣取る。

 

 しかしながら、時間帯からして、まだ店内に人は居ないだろう。たまには中で休憩していくのもアリかもしれない。

 

 そう思ってドアをくぐろうとしたところで、チリンチリンと音が鳴り、誰かが中からちょうど出てくる所に遭遇した。

 

「あ……」

 

「失礼」

 

 出てきたのは、灰色の髪のイケメンだった。年のころは高校生ぐらいだろうか。

 

 今の時間帯、普通の学生なら授業中である。サボりか、あるいは何かの用事で休みを取っていたのか。

 

 すれ違いざま、少年の青い瞳がちらりとこちらを見る。深い青色に、思わず見入ってしまう。

 

 それは一瞬の事だ。

 

 気が付けば少年は私を通り過ぎ、駐輪場の自転車に乗ってどこかへ走り去ってしまっていた。

 

 ぼややん、とそれを見送る私に、背後から聞きなれた男の声が呼びかけてきた。

 

「おや、トウマちゃん。どしたの?」

 

「あ。いや。……ちょっと、カードの補充に」

 

「補充? ああ、例のデッキ回したのかい?」

 

 流石に馴染だけあって、『悦楽』デッキの事は説明済みだ。すぐに事情を把握したマスターが、うんうん、と頷いてから、ちらり、と外に目を向けた。

 

「一目惚れかい?」

 

「えっ、いや、ちがっ」

 

「はははは、トウマちゃんもそろそろそういう年ごろかー。ははははは」

 

 全く違う、今のは知らない人が見知った場所を出入りしていてびっくりしただけである。なんだか勝手に勘違いして笑っているマスターのすねをべしべしと蹴る。

 

「いたたた、ごめんて、ほんのジョークだってば」

 

「ふん。……今の誰だ、知らない顔だ」

 

「近くに引っ越してきたんだって。周囲を見て回る最中に、休憩によってくれたらしい」

 

 なるほど。事情があって休んでいるパターンだったか。そうなると、今後会う事はないだろう。

 

「ちなみに彼もデュエリストらしいよ。それも結構やれる方らしい、そのうちトウマちゃんと戦う事もあるかもね」

 

「なるほど。放課後の時間帯には店に来るなという遠回しな警告かな?」

 

「そんなつれない事いわないでよぉー」

 

 気心の知れたやり取りをしつつ、店の中に入る。チリンチリン、と鐘がまた鳴った。

 

「それでお客さん、今日はパックだけでいいのかな? 今だったらコーヒーを頼むと、お弁当がセットでついてくるよ、どう?」

 

「……ブレンドコーヒー一つよろしく」

 

「あいよー!」

 

 にこにこ笑顔でカウンターの向こうに消えていくマスターを見送り、私はとりあえず、手を消毒して適当な席に座った。

 

 

 

 

 

 ちなみに、一つだけ買ったパックの中身は、「堕落の注ぎ手」「堕落の注ぎ手」「酩酊の誘い手」「血の祭壇」「鮮血のソード・デーモン」だった。

 

 絶対にこれ、開ける直前に中身操作されてるだろ……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 チン、と音をたててエレベーターが停止する。

 

 公営アパートに戻ってきた私は、ちらりと廊下から外の空模様を見た。

 

 すでに刻限は夕刻。学生たちは家か塾に向かい、ぼちぼち社会人も帰路につく時間だ。

 

 まあ、フリーターの私には関係のない話。下げたビニール袋のまだ温かいお弁当が冷める前に部屋に戻るとしよう。

 

「……ん?」

 

 と、自分の部屋に向かう私は、その前に何かが落ちている事に気が付いた。

 

「革靴?」

 

 それは、ほぼスーツとセットといっていい、茶色い革靴のようだった。それが片足分だけ、廊下に転がっている。

 

 周囲を見渡す。この階に住んでいる人間は少ない。彼らの落とし物だろうか。しかし、いくらなんでも靴を落としていくか?

 

 しゃがみ込んで確かめてみると、まだほんのり靴の中身は温かかった。

 

「???」

 

 首を傾げた私は、ふとその靴の近くに何か落ちているのを見つけた。カードだ。

 

 拾い上げてみると、それは見覚えのあるカードだった。

 

「“堕落の注ぎ手”……?」

 

 それは、私が『悦楽』デッキに採用していた一枚だ。それも、今日デュエルマフィアに持ち逃げされた一枚である。

 

「なんでこれが……?」

 

 拾い上げたカードをまじまじと観察する。私は何枚も持っているが、こんな気色悪いカードを他に誰かが使っているのを見た事がない。そうなると、これは私が持ち逃げされたカードだと見るべきだが。

 

 革靴に視線を戻す。確か、デュエルマフィアがこんな感じの靴を履いていたような気がするが、よく覚えていない。

 

 自分の部屋のドアに目を向ける。

 

「……ごくり」

 

 すぐに逃げ出せるように、おっかなびっくり引け腰でドアノブに手をかける。

 

 ガチャリ。

 

 鍵はかかったままだ。デッキを認識させると、がちゃん、と音を立ててロックが外れた。

 

 足音や気配はない。慎重に、小さな隙間から部屋をのぞき込む。

 

 そこには……。

 

「なんだ、誰もいないじゃないか」

 

 いつも通りの、何もないガランとした部屋。

 

 つかつか乗り込んで、見て回るが、押し入れにもトイレにも人影はない。窓の外も一応見てみるが、不審なものは何もない。

 

 部屋の隅に広げられているカードの束にも、おかしな所は何もない。

 

 どうやら私の考えすぎだったようだ。

 

「やれやれ」

 

 一旦外にでて、転がっていた靴を落とし物ボックスに放り込む。これであとは、持ち主が勝手に回収していく事だろう。

 

 どうでもいい事で無駄に気を使ってしまった。

 

 さっさとお弁当を食べて、今日はもう寝てしまおう。

 

 私はがちゃん、と自室の部屋にきちんと鍵をかけると、明かりのスイッチに手をかけた。

 

 パチン。

 

 暗い部屋が、明るく照らされた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「た、たすけて……助けてくれぇ……」

 

 

「や、やだ、ここに居るのは……いやだぁ…………!」

 

 

 

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