その日、私はちょっと買い物が遅くなってしまった。いや、変なのに絡まれてデュエルしたのだ。
ソイツはとっとと沈めたが、気が付けばすでに日は沈み、町は夜闇に閉ざされつつある。
あんまり遅くなるとマスターを心配させる。
私は少し焦って、いつもは使わない裏路地を通ってショートカットする事にした。
「ここに来るのも久しぶりだな」
以前は、人目をさける意味もあって多用していた路地裏だが、マスターの家にお世話になるようになってからはすっかり通らなくなっていた。
なんせ靴や服が汚れるし、喫茶店の店員がこんな所をうろうろしていたら店の評判にも響く。何よりイリーガルな商売に手をつけているような連中もゴロゴロしているのだ。少し前に一通り掃除はしたが、どうせどこからかゴキブリのようにまた沸いてきているのだろう。
「まあ逞しいといえば逞しいが……ちょいと夢見を悪くするぐらいでは足りなかったかな」
ノした連中はそれから一月ぐらい、私の毎晩みている悪夢にご招待したら髪の毛も精神もまっさら漂白されてしまったが、なんだかんだで一月もしたらまた悪い事に手を染めてるんだよな。
その根性をもうちょっと建設的な事に向ければいいのに。
「やれやれ……ん?」
と、そこで私は路地裏に、一枚のカードが落ちているのに気が付いた。
なんだか黒いオーラを感じる。一般人が拾ったらろくでもない事になりそうだと、私はしゃがみこんでカードを拾い上げた。
途端、カードの表面から噴き出してくる真っ黒な瘴気。それは吹きあがって人の形をとると、ケタケタと笑い始めた。
『ふははは、愚かな人間よ! 我が名は魔王ルヴァ・シラル! よくぞ私を拾い上げた、その褒美としてこの現実世界で我に肉体を貸し出す名誉を与えてやろう! くくく、手始めにお前の肉親を殺し、友を殺し、この世に暗黒の神殿を築き上げる! 喜べ、お前は我が肉体として、邪悪の象徴として祭り上げられるのだ! ふははははは……!』
「ふーん」
『どれ、その肉体はどれほどのものか…………え? ちょ、まって、ナニコレ、底が抜け……うわああああ引きずり込まれるぅ!? だ、誰かっ、誰か我を助け……っ』
なんだかよくわからんうちに入り込んできた闇が、そのまま私の中に融けて消えていく。
プールに一滴、塩水を垂らしたようなものだ。私からすればくしゃみ程度の寒気も感じない。
魔王だなんだと名乗っていたが、なんだったんだ?
首をかしげていると、何やらドタドタドタ、という足音が聞こえてくる。
まっていると、路地裏の向こうから、やたらとパンクな感じのイケイケファッションなお嬢ちゃんが駆け込んできた。
「貴方、駄目よ! そのカードを手にしては……くっ、遅かったか!」
「?」
「少しだけ我慢して! 今、解放してあげる!!」
何か深刻な顔でデッキケースを展開する女の子。いや、デュエルはいいが私は早く帰りたいんだ。
「あ、ごめん。帰りは急いでるんで、デュエルはまた今度お願い」
「……えっ? あ、貴方……大丈夫なの?」
「全く別に、なんとも。あ、このカードが欲しいの? ならあげる」
拾ったカードを差し出すと、少女は目を白黒させながら受け取った。
何が何だかわからんが、彼女が関係者なら任せた方がいいだろう。
「あ、ありがと……?」
「ほんじゃまた」
私は手を振ってその場を後にする。
余計な時間をくってしまった、さっさと家に帰ろう。
『何だと? 魔王ルヴァ・シラルが……?』
『どうやら、逆巻トウマなる人物が関わっているようです。巷では悪逆デュエリストとよばれているようですが』
『悪逆デュエリスト……一体、何者なんだ……?』