カードゲームみたいなやつ   作:SIS

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敗北の悪逆デュエリスト、羞恥の公開処刑! その2

 

 

 現れたのは、やたらと背の高い、がっしりとした体のマッスル美人。長いウェーブのかかった黒髪と浅黒い肌は美人は美人でも、野生の獣とかそっち系の美しさである。スーツの下からもはち切れそうな肉体美を強調するアスリート体系の女性は、その迫力とはしかし正反対の人懐っこそうな笑みを浮かべて店長に手を振った。

 

「おお、妹よ、お帰り」

 

「おにいちゃーん!」

 

 立ち上がって両手を広げるマスターに、妹(?)が突撃するような勢いで抱き着く。マスターも決して小柄な方ではないが、女性のほうはさらに頭一つ分でかい。体格になると倍近くて、ハグというよりブリーカーを食らったみたいになっているが、当の本人達はなんら気にする様子が無いようだ。

 

 いやでもメキメキ骨が軋む音聞こえるけど。大丈夫?

 

「やーん、久しぶりのお兄ちゃんだー。充電~~」

 

「は、はは、はは…………。茉莉は甘えん坊だなあ」

 

 いややっぱ苦しそうだってマスター。それでも優しい微笑みを崩さないのは、兄としての矜持か。

 

 それはそれとして、突然店内で始まったお熱いパフォーマンスに、ちょっと客が引いている。

 

「ステイ、ステイ、そこまで。マスター、その辺で。客が引いてる」

 

「おっと、ごめんよ。久しぶりの再会でつい」

 

「私もごめんなさいー。つい夢中になっちゃったわ。……あら、貴方は?」

 

 遥か頭上に聳える女性の視線が、私をロックオンする。ぞくっ、と背筋に嫌な予感が過ぎった次の瞬間、私の足は地面から離れていた。

 

「かわいいーー! 貴方がそうなのね! 兄さんから話は聞いているわ、小さな人!」

 

「た、たか、でかっ、ちょっ。人を鞄のように抱え上げるなっ」

 

「やーん、お肌すべすべほっぺもちもちぃ! この年頃の子は世界の宝ねぇーー!!」

 

 私を高い高いしながらくるくると回る女性。いや、シャレにならない、普段の三倍ぐらいの位置に体があるのは普通に怖いぞ、というか落ちたら大怪我するんだけど!? 振り払おうにも落下の恐怖で身動きが取れない。

 

 あと小さな人っていうな、この年頃はみんなこんなもんだろ!

 

「おっと、ごめんなさいね。私、可愛いものを視ちゃうとすぐ我を忘れちゃうの。ふふ。自己紹介がまだだったわね、私は御堂茉莉。ここの店長、御堂健二の妹よ」

 

「ご丁寧にどうも。私は逆巻トウマ、デュエリスト。あといい加減おろして」

 

 足をぷらぷらさせながら訴えると、ようやく茉莉さんは私を地面に降ろしてくれた。久方ぶりの地面が愛おしい。やっぱ安定感ある平面が一番だよ。

 

 それにしても御堂、か。そういえばマスターの名前を私は知らなかった、最初からマスター呼びだったし。

 

 御堂健二、ね。健二さん、と今後は呼んだ方がいいのだろうか。いや、なんか馴れ馴れしいな。マスターでいいか。

 

「しかし、貴方がマスターの言っていた妹君か。ファッションデザイナーと聞いたが」

 

「ええ、そうよ! やーん、知っていてくれたなんて嬉しい! そうよ、こんな感じのデザインしてるの!」

 

 身をくねくねさせて悶えると、茉莉さんはキャリーケースに手を突っ込んで何やらごそごそし始めた。

 

 見た所、茉莉さんは凄くガタイのいいイケメン女子である。それがファッションデザイナーというと、今風のイケメン女子向けの格好いいスーツとかパンクファッションとかデザインしているのだろうか。私には理解できないが、ビリビリに破けたジーンズとか、そういうのが若い子の間では流行っているらしいし。

 

 思えばカードゲームアニメでも、露骨に可愛らしい路線よりはスポーティーな感じのヒロインが多かった気がする。まあ、デュエルは過酷だからな。服が破けたり千切れたりはいつもの事だし。

 

 そんな事を考えていると、茉莉さんは引っ張り出した衣装を両手に広げて、私の目の前に広げて見せた。

 

「どう、こんなの、どうかしら?」

 

「え゛っ」

 

 目の前に広げられていたのは、どう見ても女児とか小学生低学年向けの衣装、それもごってごてのロリータファッションだかゴスロリとかそういう路線の服だった。

 

 い、いや、別にこういうのは嫌いではない。ちょっとびっくりしただけだ。手の込んだものは好きではあるが、これは……。

 

「意外に思ったでしょ?」

 

 そんな私の心を見透かしたように、茉莉さんが小さくつぶやく。ドキリと心臓が跳ねた。

 

「そ、その……ごめんなさい……」

 

「あらぁー、いいのよ! 私だってイメージと違う、っていうのは分かっているもの! 優しい子ね!」

 

 大きな掌が、なでなでと私の頭を撫でまわす。

 

「茉莉は、昔はほんとーに、トウマちゃんみたいにちっちゃかったんだよ。そりゃあ、フリフリの衣装がよく似合う子でね」

 

「それが気が付いたら、こーんな雨後のタケノコみたいに背が伸びちゃって! それでも無理に着ようとしたけどね、ある時気が付いたの。私がいくら好きでも、似合わないものを無理して着続けるのは、やっぱり駄目なんだって。好きっていうのはお互いに矢印が通じ合っていてこそで、悲しいけど、その矢印がそれたら諦めないといけないのよ。それが大人になるって事……」

 

 哀し気に、長い睫毛をひそめて茉莉さんが呟く。

 

「でもね! だからこそ気が付いたの。だったら、似合う子達を、私の手で彩ってあげればいいんだって! 私の手から離れていった夢を、たくさん私の手で世界に広げればいいんだって!」

 

「という訳で、妹はファッションデザイナーとして大成功、今や世界中をまたにかけているという訳さ」

 

「はぁ……」

 

 まあ、よくあるというか、本になってそうなサクセスストーリーである。勿論、当の本人にとっては大きな挫折と壁を乗り越えた結果なのだろうけど。

 

「そういう訳で、お兄ちゃんから話を聞いて楽しみにしてたの! 写真は見せてもらったけど、本物を見るとますます気に入っちゃったわ! トウマちゃん、どっちの服がいい?」

 

「え゛っ」

 

「そんなボロボロのジャンパー着てちゃ駄目よ! その年頃だからこそできるファッションを楽しまなきゃ! 照れなくていいのよ、お姉さんが綺麗に着飾ってあげる!!」

 

 両手にフリフリのドレスを手にしてぐいぐい迫ってくる茉莉さん。

 

 やばい。目がマジだ。

 

 ちらりとドレスに目を向ける。

 

 なるほど、世界的なファッションデザイナーだけあって、よくできたドレスだ。フリルの数や長さも、計算されつくしている感じがする。これを対象年齢の女児が着たら、さぞかし可愛らしいだろう。マトモな大人なら頬をにんまりと緩めて、心が穏やかさと尊さに満たされるかもしれない。

 

 だが、それを自分で着るとなると話は別だ。

 

 だいたい、私の中身は成人男性、いい年のおっさんである。

 

 いくら体が女児だといっても、こんなの着れるかっ! 羞恥心で死ぬ!!

 

「わ、私はそういうの、いいかなって……」

 

「いいや、今、確かに貴方は「いいな」って感じの目をしたわ。いいのよ、遠慮しなくて。誰だって最初は恥ずかしいのよ!」

 

 しまった、茉莉さんの審美眼を甘く見ていたっ!

 

 ただのごり押しならともかく、一瞬、衣装を評価してしまったのは事実なので圧力に逆らいきれない。くぅ、私はなんだかんだいって根は小市民、押しに弱いっ。それがわかってて逆らえないのが猶更悲しいっ。

 

 だが、まだ手段はある。

 

 こんなナリでもデュエリスト。困った時の万能逃げ文句があるっ。

 

「よ、よし、じゃあデュエルで決めよう。私が勝ったら茉莉さんは諦めてくれ。もし負けた時は、しょうがないから一着だけ袖を通そう」

 

「まあっ!! 嬉しいわ、どっちが似合うかしら!」

 

「いいか、一着だぞ! あとあくまでそっちが勝った場合だからな!!」

 

 よし、何とかこちらに都合がよい話に持ち込めた。

 

 ふふふ、なんだかんだでデュエルには自信がある。伊達に日々の糧をストリートデュエルで得ている訳ではないのだ。頼むぞ悪魔ども、私の尊厳を守るためにも力を貸せ、望みなら何でも叶えてくれるんだろ!?

 

「ほほー、面白くなってきた。じゃあ、庭にでて。私が審判をしよう」

 

「うふふふ、腕が鳴るわ。ニューヤークで売り込みの為に、あっちこっちのスタジオに辻デュエルをしかけた時の事、思い出すわぁ」

 

 上着を脱いで、腕を回す茉莉さん。ごきごきと肩が鳴るその様子は、明らかにデュエルマッスル係数の高さをうかがわせた。

 

 ……。

 

 はやまった かも しれない。

 

 

◆◆

 

 

 

「それじゃ、ルールはオーソドックスに一本先取、特別ルールは無しで。せーの」

 

「「デュエル!」」

 

 見物客の居ない早朝の喫茶店の庭。

 

 私は茉莉さんと向かい合う。

 

 流石に、デュエルが始まれば頭も冷える。

 

 四つのデッキ、どれを使うか悩んだが、ここは『悦楽』を選んだ。

 

 茉莉さんは、私の悪評を知らないからあんな事を言えたのだ。だから、とびきり悪趣味なコイツラで、私が見た目通りの幼子でない事を知らしめる。なんだったら、そのまま嫌われてしまえばいい。

 

 マスターの身内に嫌われるのは正直ちょっと辛いが、背に腹は代えられない。ただでさえ強制TS若返りとかいう尊厳凌辱を食らっているのだ、その上であんな格好させられたら羞恥のあまり不定の狂気を発症する。これは私の魂がかかったデュエルなのだ。

 

 さっそく五枚の手札を引いて確認する。

 

 しかしその内容に、私は全力で動揺を顔に出さないように堪えるので精一杯だった。

 

 引いたカードは、魔法カードが“達成による衰退”、“苦悦の宝札”、モンスターカードは“ホラー・チャリオット”、トリックカードが“苦痛の結晶化”、“美醜の選別”。どれもそれ単体では意味を成さないカードだ。

 

 唯一のモンスターであるホラー・チャリオットは、自分の場のモンスターが手札に戻った時に特殊召喚できる穴埋めカード……“堕落の誘い手”とかのフォロー前提で通常召喚できない。

 

 悦楽デッキはコンボ前提の不安定なカード群なので、きちんと考えてカードの枚数は調整していたはず。なのにこんな手札というのは……早い話が、手札事故である。なんてこった。

 

「コイントス結果から、先攻は茉莉! どうぞ」

 

 助かった、後攻なら一枚ドローできる。それに未知の相手の様子を伺う事もできる、災い転じて福となす、だ。

 

「では私のターン、手札から“メタバルキリー エルルーン”を召喚!」

 

 茉莉さんが召喚したのは、一見すると美少女のようなモンスターだった。金髪の髪を靡かせた、SFチックなアーマーを装備している。武器は、右手に装備した大型ライフルとシールドらしい。

 

 よく見ると、関節の部分が人間のそれではなく、機械のそれだ。美少女アンドロイド、という設定だと伺える。

 

 意外だな。てっきりふわふわのマスコット系デッキを使うのかと思ったが、いや、これも偏見か。凛々しい見た目の美少女アンドロイド戦士は、見ようによってはカッコいい系の女性である茉莉さんに似合ってると言えなくもない。

 

「これで私のターンは終了よ」

 

「では私のターン、ドロー!」

 

 頼む、せめて狩りの主ぐらいは手札にきてくれ!

 

 そう願いながらドローしたカードを確認した私だったが、次の瞬間、すんっ、と心が冷えるのを自覚した。

 

 引いたカードは、“苦痛の結晶化”。

 

 いやさ、確かにこのデッキのキーカードだけどさ! 二枚あっても意味ねーんだよこれ!

 

 反射的に引いてきたカードを地面に叩きつけたい衝動を抑え、私はすました顔でカードを伏せる。

 

 とりあえず、“苦痛の結晶化”と“苦悦の宝札”を伏せておこう。この二枚はこの状況でも腐らないはずだ。

 

 御存じの通り、苦痛の結晶化はダイレクトアタックを受けた際、ソウルシャード・トークンを生み出し、かつターン終了時に相手プレイヤーにダメージを与える。そして苦悦の宝札は、このターン発生したプレイヤーのダメージに応じてカードをドローできる。とりあえず次のターンでほぼ確実に二体のモンスターに殴られるが、それでトークンを生み出しつつドローすれば、ワンチャンある、かもしれない。

 

 多分。

 

「私はカードを二枚伏せてターン終了」

 

『……? 相手の場にモンスターが居るのにがら空きで終了? おかしいな、トウマちゃんらしくないぞ?』

 

「いや、油断はできないよ、お兄ちゃん。そういうタクティクスかもしれない」

 

 兄妹二人の会話に、ふふん、どうだろうな、と意味深な顔を作る私。本当は、ただの手札事故だよ! 畜生!!

 

「私のターン、ドロー! 私は手札から、“メタバルキリー フラグドグド”を召喚!」

 

 召喚されるもう一体の機械乙女。最初に召喚されたエルルーンよりちょっと大人びた感じのモデルだ。比較してみると、エルルーンはちょっと幼い顔つきに見える。武器は両手に装備した滅茶苦茶でっかいガトリング砲。ごっつい。

 

 二人が並ぶと姉妹のようだが、もしかして姉妹機という設定なのだろうか。

 

「そしてメタバルキリー二体が場に揃った事で、私は手札から“メタバルキリー ヘルヴェル・アルヴィト”を特殊召喚できる! そして効果発動、このモンスターの特殊召喚に成功した時、デッキからランダムに“メタバルキリー”アイコンを持つモンスターを手札に加える!」

 

『おおっと、これは強気な布陣だ! 相手の伏せカードに怯む事無く大量展開! きちんと後続カバーをしているのも偉いぞ茉莉! さあ、トウマちゃん、どうする? 二枚ある伏せカードはまだ使わないのか、このままだとゲームセットだぞ?!』

 

 そして場に現れるのは第三の機械乙女。こちらは髪はブルーのロングヘアで、幼すぎず大人過ぎず、妙齢の麗しい女性のデザインだ。中間……次女かな。

 

 手には、めちゃくちゃでっかいロングライフル。スナイパーライフルというより、自走砲とか対戦車砲の砲身を引っぺがして持ち歩いてる感じだ。

 

 それにしても結構なお点前である。モンスターを大量展開しつつ、手札の補充も欠かさない。EXデッキとかシールドトリガーみたいな、デッキ外のプールが存在しないこのゲームでは、調子に乗って大量展開するとトリック一枚で痛い目を見るのだが、きちんとそこをカバーしつつリズムよくビートダウンの布陣を整えている。

 

 この世界ではビートダウンが王道だが、だからこそ、強い奴はちゃんと後続の事を考えたデッキを組む。皇帝はやたらと大量展開せずに、サクリファイスエスケープでボードアドバンテージを維持していたし、ダン少年は装備カードサーチで装備ビートの欠点を補っていた。茉莉さんはストレートに、モンスター同士の連携で盤面と手札を整えるデッキか。

 

 伊達に海外で、デュエルの腕頼りで売り込みかけていたという訳ではないようだ。

 

 いやまあ、とりあえず。一つ確実に言える事がある。

 

 詰んだ。

 

「バトル! 三人のメタバルキリーで、相手プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

「うわあああん!」

 

『……え? あ、あれ? 全部通った? トウマちゃん、ライフゼロになったけど? いいの?!』

 

 言うまでもないが、“苦痛の結晶化”のカウンター効果も、“苦悦の宝札”のドロー効果も、ターン終了をむかえないと意味がない。ライフをゼロにされたら、そのターン終了が回ってこないのである。

 

 がっくりと膝をついてその場に崩れ落ちる私に、「あ、あれ?」と茉莉さんが拍子抜けというより心配するような顔をする。審判をしていたマスターがいそいそと私の元にやってきて、散らばっているカードを拾い集めると、その内容に「うげ」という顔をした。そりゃあ、そうだよな。

 

「茉莉、茉莉。これ……」

 

「……う、うわあ」

 

 すごく気の毒そうな視線を向けられる。や、やめろ、勝者が敗者を憐れむんじゃない……! 余計に虚しくなる。

 

「そ、その。もう一回やりなおす……?」

 

「で、デュエリストに二言はない……! 煮るなり焼くなり好きにするがいい!」

 

 その場で私は大の字に転がる。

 

 ピンクでも黒でもフリフリでもなんでも、好きなように服を着せるがいい。だが、その程度で私の魂を穢せると思うな!

 

「あらそう? じゃあ遠慮なく」

 

「あ、いや、その。ちょっと手加減してほしいかなって……にゃあああ!?」

 

 

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