学園仮面ライダー ダークサイド 〜ディアブロス~ 作:大島海峡
かつて、そこに住まう人々にとって、世界は一つだった。
だが、その境界に異物が現れ、そして消えていった。
一枚の鏡が無造作に投じられた巨石に破られるが如く。
無数に散らされた欠片たちは、淘汰と融合と破滅を繰り返しながら、それぞれ異なる
――すなわち、マルチユニバースの誕生。
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神にさえも見放されたがごとき、さびれた社。
鬱蒼とした木々の中で、
「はァ? この世界がもうすぐゴキブリの怪物どもに覆い尽くされるゥ?」
などという、頓狂な少年の声があがる。
その隣には、彼とは違う学校の制服を着たショートボブの少女がいる。どちらも、表情にきつさとふてぶてしさの滲み、制服を着崩して胸元を開けた様子で、とても品行方正にも、ましてやヒーローになど見えるはずもなかった。
「アンタ、ヘンなクスリでもやってんのか? 警官なのに」
「アホらし。化物から助けてくれたことには感謝するけど、妄想もヒーローごっこも余所でやってよね」
そう言いながら、二人は左右に分かれて、その特長的な鼻筋を持つ、警察官の両脇をすり抜けようとした。そもそも、この二人は今日、偶然、学校を『ヌケた』折に出逢ったに過ぎなかった。
「そうはいかない。すでにこの
だが、その警官は自分の腰につけたベルトと、色違いのバックルを二人の腹に押し遣った。
彼らの身と装置の間に、確かに三頭の魔犬を描いたエースのカードが挟み込まれていた。
その真剣味ある語気の強さと、一抹の、それこそ運命めいたものを己の内に確かに感じ取り、互いに顔を見合わせ、漫然とそれら一式を手に取った。
それは、特定の人物の生死の食い違い。年代や順序の変化。
本来非業の死を遂げるはずだった若者たちはその運命を書き換え、生命を拾う。
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――十五世紀。
墜落した移動要塞キャッスルドラン。その残骸に背を強かに打ち付けたバットファンガイアは、それによって退路を断たれた。
「ば、莫迦な……」
すべてを破滅に追いやり、力と技を我が物とする見立てだった。
だがそれが破れ、唖然とする怪物の王を、それとは種族を異とする十一の種族が囲んでいる。
人狼、半魚人、巨人や幽鬼に小人たち。
そしてそれを率いる首長たちは、鎖を巻き、それぞれの特徴を反映させた鎧をまとい、蝙蝠をその
「我ら、ファンガイアが……何故、絶滅……」
その事実を認められぬ、悔いの言葉がそのまま遺言となった。
すでにして致命傷を与えられていた『キング』は、そのまま結晶化すると共に、破砕したのだった。
それは、分岐した歴史。起源の変化。
すでにして物語はまったく違う様相となる。
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『皆さん、バグスター化は決して恐ろしいことではありません。老いや飢餓からの解放を可能とし、リアルとデータを超越するための進化であります。我々人類が、新たなるステージに到達する時が来たのです』
再三に渡り繰り返される、衛生省からの喧伝。
街頭のビルより流されるそのCMを、一人の少女が顧み、リュック越し仰ぎ見る。
切り揃えられ前髪の下、レンズの厚いメガネの奥でその目を眇めて、手に取ったハンバーガーを小さな口で食みつつ、
「バーガー食えないのは、簡便かな」
とポツリと呟く。
それは世界そのものの書き換え。思想や価値観の変化。
主演は現れず、世界の命運は個々の思想に委ねられる。
〜〜〜
冬の住宅街をビジネス街を結ぶ、街路樹。
その裏で、一組の男女が押し問答を繰り広げていた。
「知るか」
ギターケースを背に負った一人の少年が、一言の下に切り捨てる。
長々ともたらされた経緯を。そのうえで、己に待ち受ける運命を。
「そう言うと思った。そういうところ、ガキの頃から変わんないのね」
だが、それを説いた女性は激するでもなく、かと言って決して諦めたり退く様子も見せない。
「つーか、だいたい俺は……」
「知ってる。ただの人間じゃないんでしょ?」
「……」
幼少期、自分と父母を渦巻く炎から始まった、奇跡のような――呪い。
それを、知っていると一回りほど年上の彼女は言った。
「でも、だからこそ貴方はこれから先の世界で、闇を切り裂き、光をもたらす救世主になるの――このファイズXで」
そう言って、彼女は時計とも携帯電話ともつかない、円形の端末を彼へと差し出したのだった。
〜〜〜
いくつもの柱を支えに、その場所は浮き上がっている。
明るい色味のスーツをきっちり着こなした男が、テクスチャを貼りつけたような微笑を隣に並び立つ少年へと傾けた。
「いや、今回のデザグラも、実にドラマチックかつエキサイティングに幕を下ろした。ご覧の通り、オーディエンスも君を讃えているよ」
星かと想われたそれは、無数のアイカメラである。
そこから無数の拍手が重なって洩れ聞こえ、
『最高だよ、ゲンム!』
と喝采が轟く。
その熱狂の中心に在る少年こそ、彼ら未来人の間で人気沸騰中
「君を現地でヘッドハンティングして正解だった」
と、男が言うのを、さも当然という表情で、少年は受け入れた。そこには、微塵の謙遜もない。
「さぁ……観衆たちよ、神の偉業を、
気品ある端正な顔立ちを陶酔と共にゾンビのように腕を突き出し、背を反らす。
未来人を相手に開花したゲームマスターの才覚。
皆がそれに屈し讃えるその場所は、まさしく神殿だった。
それは彼らであり、彼らでない物語。過去未来の変化。
かくして主役は別の壇上に上がり、それでもなお、それを己の道と信じて進む。
〜〜〜
地球を、鷹の鉤爪が掴んでいる。
そんなシンボルマークの下に、白衣と覆面姿の構成員たちが足早に移動を繰り返している。
そんな彼らの往来は、二つの容器の間で行われていた。
一つには、恐竜の化石を想わせる、異形の悪魔。
それと向かい合う形で、一人の少年が、ビーカーの内に入れられている。
「これが、首領の新たな依代となられる二つの存在。人造人間と悪魔。二つの存在を掛け合わせ、究極の存在として君臨するのだ!」
黒い軍服と眼帯姿の、如何にもな風貌の中年男が、喜悦と恍惚の様相で嘯く。
だが、それゆえに気づいていない。
わずかな振動は、調整作業がための動作音として片付けられ、熱に浮かされたがゆえに合成ガラスの奥底で薄く開かれた瞼を見逃す。
――来た……
吊り上がった口端から発せられた呟きは薬液の中、浮上するあぶくと共に溶けていく。
それは、世界自体の揺らぎから起こった、歪み。
泡沫の中、その世界の『正しい歴史』においては空の人形でしかなかった『彼』は、曖昧なる世界線の外より齎される運命の変化を感じ、覚醒の時を迎える。
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正史ならざる者たち。
正統ならざる者たち。
正義ならざる者たち。
清濁と玉石が混淆する若き戦士たち。
その道の果てで、あるいは中途で拾い集め、包括する教導機関が、ある世界の狭間に存在していた。
その名を、ライダー学園と呼ぶ。