学園仮面ライダー ダークサイド 〜ディアブロス~ 作:大島海峡
――知っての通り、我々の学園はその存在をディサイダーズに嗅ぎつけられ、そして奇襲を受けた。加えて侵攻にしても無駄というものがなく、ルートを正確に把握していたかのように、追い立てられて、追い詰められた。
――内通者がそれらを漏らした、と……?
――内々に調査を進めていったところ、一人疑わしい者が浮かび上がった。
――それは……
――
――よく聞く名です。主に素行の悪さで。ただの不良というのみならず、『ヴァニタス』などという愚連隊まで組織しているとか……まさか、彼が?
――さて……そこを君に探って欲しいんだ。力を失っている君であれば、さほど警戒もされまい。これは学園長直々の辞令でもある。受けてくれるね。
……確かに、今のライダー学園は必ずしも、一枚岩ではあるまい。
ありとあらゆる正邪が混在し、中にはディサイダーズに転ぶ者もあるだろう。ましてや、その圧倒的な戦力差を見せつけられては。我が身惜しさと言うだけではなく、自分の世界を守るためにも。
――もし、楔引の黒が確定した場合、如何なる処置を。
――なに、そこまで君に委ねるつもりはない……しかるべき対応を、こちらで行う。
そこから滲む言い表せない凄みに、悟られないよう群青は唾と息を呑み込んだ。
青ウォズ、ならびに学園長においては、それ相応に備えを持っている。かつその全容を生徒たちに明かすことはない。
科や寮を超えた直属のチームの存在は最近公となったが、噂では表沙汰には出来ない、暗部を担う処刑人的存在が学園内に潜んでいるだとか。
曲がりなりにも、ヒーローたちの学舎である。そんなものは風聞に過ぎないと思いたいが。
だいたい、そんな凶徒が存在していたのなら、このターゲットこそ真っ先に排除されているだろうに。
炎寮、バイスタンプ科三年、楔引六鹿。
札付き、問題児として学内外に知られる彼は、意外なほど大人しい姿をしている。
文学少年のごとき、繊細な顔のつくり。ピアノ奏者のごとき、輪郭の細やかな指。
切れ長の目は少し伏せれば、睫毛の長さから眠っているかのように見える。
死角より盗み見るに、このような優男が、悪名轟く不良集団のリーダーとは思えないが、
(見極めねばなるまい)
果たしてこの男は、学園の敵なのか。自分の味方であるのか。
そう目を凝らしているものの、今のところにおいては、不審な点は見られない。
誰よりも遅い時間に学園内の寮から出た彼は、朝には手ぶらで生徒たちの間をすり抜け、その内の何人かと短い挨拶を交わした後、彼らとは逆に校門へと向かう……校門へ?
そしてそのまま自身を証明するバイスタンプをチェックゲートに押印するかのように読み取らせ、そのまますり抜けて学園を出た。
「あぁ……っ!?」
慌てて群青はその後を追うも、彼自身はゲートに引っかかってしまった。
〜〜〜
どうにか守衛に事情を説明し、自身も学外に出た。
学園の外にも、社会も日常も続いている。
ライダーの力を通さず学園の門を出た生徒が、霧の中に消えてその後行方不明となった、などという怪談まがいの噂が近頃流れたが、それが誰だったのかという話になるとそれらしい名が挙がらないので、所詮は与太話だ。
理由あって世界を追われた者、帰る世界を失った、あるいは元々この世界の惨劇を生き抜いた、ライダーならざる者たちがここで新たな生活を得て、暮らしている。
見る限りでは、普通の商店街だ。そしてそういう力なき者たちの場を巡ることこそ、己の生きる糧である、と群青は噛み締めた。
故に、彼にとっても慣れた道である。緩慢で誰に恥じる様子もなく無造作に歩く彼の背に、すぐ追いつくことができた。
その六鹿が入って行った先は、アーケードから少し外れたあたりにある釣り堀だった。
受付口で道具を借りた彼は、そのまま堀の縁に設けられた椅子に腰掛ける。
すでにそこには、先客がいた。
「やっほ」
「どもども」
緩い感じで手を挙げ合った相手に、群青は見覚えがあった。
高い上背。だらしなく緩み切った相好は、孫を見る老婆のよう。
悪漢という先入観からつい授業をサボタージュしていると思っていたが、よくよく考えてみれば、各学科ごとの必修科目を修了さえしていれば、空き時間での自由行動は許容範囲ならば咎められるに当たらない。もっとも聖はともかくとしても、あの六鹿がそれに該当するようには見えないが。
だいたい、このような人気のない場所に単身赴くこと自体が怪しい。
(もしや……聖吟史郎も何かしら奴と気脈を通じているのか?)
中にまで尾行をすれば、流石に気取られる。
外のフェンス越しに、群青は中の様子を伺った。
「どう? 今日の成果は?」
「ぼちぼちですな。マヨが三尾ってところです。あんま釣り過ぎてもコレステロール爆アゲですので、一尾差し上げますよ」
「マジ? サンキュー。で、学校の方は?
「元気ですよ。この間も、ディサイダーズ倒すには『ギュッとしてダッとしてバーン!』とか言ってました」
「それ……超画期的じゃん。やっぱしマーちゃん天才だわ」
「ですよね」
彼らからすればやや座高の足りない椅子に背を丸くして腰掛けながら行うのは、ただの釣り。そして右から左へそのまま流れていくかのような取り止めのない会話。
(何だ……? 何かの隠語か?)
会話の内容があまりにも薄っぺらくフラットに進められていくため、フレーズの一節一節が疑わしくさえ思えた。
「……糸」
「ん」
「引いてません?」
吟史郎に指摘されて、六鹿は何も上下していない竿と、波一つ立っていない水面とを見比べるように頭を落とした。
「……めんどっちぃ。来たばっかだよ?」
「ダメですよ。ちゃんと釣り上げないと」
「じゃあヒー君手伝ってよ」
「すみませんが、この後打ち合わせが入ってまして」
「あー、例の海の世界のアレ?」
「ですです」
そしてまた、中身の無い会話に終始する。そうしているうちに、また別の、キャップをかぶった男子生徒が現れた。そちらも、調べはついている。
「ボス、
「あ、クーちゃん。ちょうど良いとこに。釣り代わって?」
「は、釣り……ですか?」
「マヨはさっき貰ったから、カツオとかその辺り釣って欲しいんだけど。ほら、メシにもなるし」
「見たところ淡水に見えますが、釣れるのですか?」
「行けんじゃないですかね。見たことはないですけど」
「はぁ……努力はします」
それじゃ、と自らの道具一式を化野に丸投げし、自身は入ったばかりで早々に切り上げてしまった。
〈ツレルワケナイヨー〉
化野の背後を飛び回る、頭からボロ布を被ったキバット型のボットが、彼の内なる声を代弁するかのように囁いていた。
ともかく、六鹿が釣り堀から出たことを確認した群青は素早く転身し……しようと、した。
ガシャン、とフェンスが音を鳴らす。掌が、群青の顔の横をすり抜けて、そこへと叩きつけられていた。
「で、何の用?」
……出たばかりの楔引六鹿が、振り向いたすぐ先に立っていた。
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……元より、隠し事は性に合わない。
どのみち尾行が露見した以上は、誤魔化しようもあるまい。
そこで群青は、青ウォズからの依頼について、直裁に六鹿にぶつけた。
街を練り歩きながら、聞いているのかいないのか曖昧な態度に終始していた彼は、その終わりに、
「それ、青ウォズさんから直接頼まれたわけだ」
と確認した。重く頷く群青に、ふぅんと相槌を返しながら
「ほら、やっぱ面倒になった」
と空々しく嘆いてみせた。
「面倒がっている場合か?」
群青は眉をひそめた。
「貴方には、学園への背信、という不名誉な嫌疑がかけられている」
あらためてそう告げる。
先を行く六鹿の足が、ぴたりと止まる。
「身に覚えが、あるようだな?」
「……あぁ」
微かな憂えを帯びた横顔が、天へと向けられる。
「あの時俺は、仲間たちにひどい裏切りをした」
と語り始めた。