学園仮面ライダー ダークサイド 〜ディアブロス~   作:大島海峡

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3.

 ――それは、去年の冬のこと。

 多国籍的で無秩序で趣味嗜好の物品が散乱する、『ヴァニタス』のアジト内。

 

「ほーら、今日寒いからねー。豪華カレー鍋だ」

 土鍋の蓋を開けると、白い湯気とスパイスの香りが立ち上る。

 それを数人ばかりの男女が囲み、喝采をあげた。

 

「クロちゃーん、ここに置いとくからさ、食べ終わったら器持ってきなね」

 六鹿はそれとは別に、奥部屋にて、新たなゲームの企画のために引きこもっている少年のためにつけ分けた鍋物を部屋の前に置く。

 

「うっす、いただきます!」

 それからは、それぞれのペースで食べ進めていく。

「せんぱーい、禍木(まがき)くんが肉ばっか食べてまーす」

「はん、育ち盛りだから良いんだよ!」

「ふんッ、豪華というにはさもしい食材だ。白トリュフもフォアグラも無いのか?」

「あるかそんなもん……お前はまだ一杯目なのか?」

「うるっせぇなぁ。今フーフーしてんだよ。だいたい、カレー鍋ってなんだよ? カレーか鍋かどっちかにしろよ」

「もー、じゃあ締めにカレーライスにしてあげるから、いっそもうシメまで待てば?」

「やだね。俺は今、どっちかといえば鍋の気分なんだ」

「めんどくさッ」

 

 お互いがお互いに茶々を入れ合いながら、それをどんどん平らげていく。

 それを見守りながら、六鹿は周囲に散乱するゴミをまとめていく。

 

「ん?」

 そしてカット野菜の入っていた袋の裏面を見て、気づいた。

「これ、先に洗わないとダメなヤツだったわ」

 と。

 

 その呟きは、仲間たちには聴こえていない。聴かれていない。そして鍋の量は早くも半ばを切っている。水洗いせず、そのまま入れた野菜を含めて。

 

「…………」

 六鹿は手早くゴミを片付けると、キッチンの片隅にそっと胃腸薬を置いたのだった。

 

 〜〜〜

 

「……幸いなことに、腹壊すようなヤワな連中じゃあなかったけど。いやー、申し訳ないことしたわな」

「何の話だ!?」

 ※食品類はパッケージ等の注意事項をよく読み、適切な調理方法でお召し上がり下さい。

 遠い目をしてしみじみと述懐する六鹿に対し、群青は時間を空費した心境である。

 

「つっても俺の激ワルエピソードなんてそんなもんよ? あとは品行方正で通ってんだから」

「ほざくなっ! 叩けばいくらでも埃の出る身だろうが!」

「たとえば?」

「つい今しがたの戯言の中に出てきたヴァニタス! 世界を救うために選ばれた戦士たちを堕落の道へと引き込み、徒党を組むなど言語道断!」

「んな大仰な……ただの気の合うダチとつるんでるだけだって」

「それに加えて、先のディサイダーズ襲撃の際には、彼らと共に無断で戦線を離れたと聞く」

「そりゃ、勝ち目のない戦いはしない主義なんで。ていうか別に強制参加ってわけでも無かったでしょ」

「だったら戦いを放棄して何を遊んでいたというのだ!? 懸命に戦い、散っていった仲間たちもいたというのにっ」

 彼がそう責め立てた矢先に、

 

「あれ、六鹿くんじゃなーい!」

 と、甲高く太い声があがった。右向かいの精肉店から、恰幅の良い女店主が、声をかけてきたのだ。

「おう、おばちゃん。あの後大丈夫だった?」

「おかげさまで。いや、みんな学園の方で必死に戦って来てたみたいで、だーれも見向きもしてくれなくてねぇ。あんた達が学園からあぶれた化物ブチのめしたり、瓦礫取り除いてくれたりして助かったよ」

 意外の念で、群青は六鹿を見返した。

「いや何、遊びにきたついでだって。でも、お礼くれるんだったらありがたく」

「じゃあ、しばらく、カレーコロッケ半額にしてあげようかね」

「マジ!? 愛してるぜ、おばちゃーん……のコロッケ」

 

 などと冗談を飛ばし合い、六鹿はその場を後にする。

 それから、さらなる追及の言葉に窮した群青は、苦し紛れに、

 

「……近視眼的だ」

 と呻くように言った。

「貴方は、実力だけで言えば学園屈指だと聞いている。それなのに、ディサイダーズを無視して遊び半分で救命活動!? そこは、彼らと対峙すべきだったのが正しい判断だ!」

「で、その場合、街の人らは怪物たちの腹の中、てか?」

「やむをえない犠牲だ……自分ならば、自分に力があれば……そんな無駄な使い方」

 契約モンスターを失った当時の無力感。その追憶と共に、己に渦巻く感情から目を背ける。

「真面目だねぇ」

 六鹿は肩をすくめた。

「仮面ライダーならば、一手二手先を読み、当たり前のことだ」

「俺は足元をちゃんとよく見て、歩きたいのよ。遠くを見上げてたらホラ、目も首も疲れちゃう」

 おどけたように己のうなじに手を遣り、へらへらと笑う彼に、群青は歯噛みした。

 

「あ、メシの話続いたら腹減ったな。でも、今はコロッケの気分じゃないしなぁ」

 睨む群青の眼差しに気づいているのかいないのか。呑気にそんな声をあげる六鹿は、そこで彼をにこやかに顧みた。

「この先に、イチオシのパン屋あるのよ。ぐんちゃん、付き合わない?」

「ぐんちゃん!? いや、学外での買い食いなど――っ」

「良いから良いから」

 

 どちらが圧をかけられ、主導権を握っているものやら。

 有無を言わせない強引さで群青の手首を掴んだ六鹿は、そのまま彼を引きずっていったのだった。

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