学園仮面ライダー ダークサイド 〜ディアブロス~ 作:大島海峡
瞬間、前衛のシアゴーストたちが動いた。
生身を守っていた障壁が消えたからではない。動かされたのだ。その四肢から発せられる、瘴気にも似た、圧倒的な気配によって。
だが、あまりに鈍重に過ぎる。
鋭く尖らせた手足の爪が、振りかざされ、叩き込まれていく。
肩にかかったそれらが一気に振り下ろされれば、その余剰の勢いで、その後列の数体が切り裂かれる。
半歩ずつ退く龍騎をディアブロスは、直線的に、無人の野を行くがごとくに確実に追い詰めていく。
すかさず、群青は手をかざして二陣三陣を送り出す。幸か不幸か、望む望まざるにせよ、頭数は無尽蔵だ。
その物量差で比喩表現抜きに、彼を四方から、上から圧し潰す。そのまま原型残さず、喰らえと命じる。
〈レオニダス!〉
――だが、そのトンボとヤゴの壁を縫って、音が聴こえる。
瞬間、下から競り上がってきた円形の物体が、そこから上昇気流のごとく荒ぶる圧が、押し寄せる怪物たちを吹き飛ばす。
〈Sign up! レオニダス・クリスパー!〉
その中心で、ゆったりと腰を上げる。
紅蓮にその眼を閃かせた、ディアブロス。左手甲には無骨な
それを大きく旋回させて打ち上がったシアゴーストたちに叩きつける。中空をホバリングして機を窺っていたレイドラグーンたちを、その勢いに巻き込んで、龍騎目がけて薙ぎ倒す。
〈ガードベント〉
横っ飛びに躱した龍騎は、自らもドラグバイザーに抜き取ったカードを挿入し、盾を呼び出す。
飛翔する蜻蛉を描いたそれは、ディアブロスのそれより大きく、分厚い。それでもって視界を塞ぎつつ、突進する。
だが、その盾の下の隙間より、棍棒の先が捻じ込まれる。
それこそ、強引にシャッターをこじ開けられる要領で持ち上げられた。両腕はそれに釣られ、胴体はがら空きに。そこへ間を置かず、重装備とは思えない鋭く軽妙な蹴りが数度、叩きつけられる、
自らの援護に、ハイドラグーンたちを空中より送り込む。
盾を投げつけ、上空に対して牽制をかけつつ、六鹿は青い怪物の顔が彫られたスタンプを装填。敵中でおそらくそうしたであろうように、スロットさ左右させる。
〈Sign up! クフ・クリスパー!〉
その瞳は青く冴え、背に猛禽の翼が顕現する。
その羽を打つ。地を打ち、空を打つ。高々と飛翔したディアブロスは錐もみしながらまたたく間に敵を、撃墜に次ぐ撃墜。制空権を己がものとしていく。
だが群青はさらに、鏡面の向こう側から増援を追加で投じた。
〈Sign up! エジソン・クリスパー!〉
雷鳴が轟く。落ちる。その軌道上にある何者をも焼きながら。
舞い上がる黒煙の中、黄燎の眼光が浮かび上がる。
――曲に。
――直に。
その帳を払い、変則の軌道を描いて繰り出された斬撃が、レイドラグーンを断ち斬っていく。
〈ソードベント〉
昆虫の薄羽を模した左右対称の双刀を転送した龍騎は、それらを交差し、真正面から受けた。
眼前に迫ったのは、メカニカルな片刃の剣。だが、突き出された切先は防いだ。それをもって反撃の機と――そう、企図していた群青だったが、むしろそう仕向けられたのは彼の方だった。
六鹿が、手早く柄に取り付けられたダイヤルを回すと、弦を爪弾くような音と共に、一気に電流が解放される。
苦悶の声をあげて痺れる群青に、踊る雷刃は二度、三度と、そして四筋五筋と叩きつけられていく。
だが、龍騎を相手取ったことによってがら空きとなったディアブロスの背に、態勢を整えた妖蟲の群れが殺到する。
〈Sign up! ヒミコ・クリスパー!〉
ディアブロスの双眸はそして掌は、やわらかな春色に。
六鹿がらしくもない合掌の構えを取る。手と手を、打ち鳴らす。瞬間、銅鐸が奏でられた。
彼らの左右から生じた重力場がレイドラグーンたちをその状態を問わぬままにひしゃげ、切り離された空間の中で爆散した。
「お、おれは……おれは仮面ライダー龍騎だ! 誰を犠牲にしてでもっ、おれ自身が生き残って、自分の世界と人々を救う義務があるんだぁッ!」
狂乱と絶望の末、群青は金切り声をあげて最後の切札を抜き出す。
〈ファイナルベント〉
ありたけのレイドラグーンたちを、すべて掻き出し総動員する。
彼らは龍騎の背に集まり、あたかも一尾の竜の如く、うねりながら彼の周りを漂う。
群青は一度腰を沈めて拳法の構えをとり、彼らと共に跳ね上がった。
怒涛の勢いで
「志が高いヤツってのは、大変だねぇ」
他人事のようにぼやきつつ、六鹿は自身のスロットを倒しては起こす。
〈ディアブロ! スタンピングクライム!〉
シンプルで明朗な声と共に、軽い助走の後で六鹿は身体を横にして跳躍した。
伸ばした右脚を車輪のように、旋回させた。
その威が、熱が、風が。
レイドラグーンの群れを刈り取り、穿ち抜いていく。
失われることのない勢いが、やがて龍騎へと至り、容赦なく彼を打ち据えた。
己への恐怖と、衝撃を、その心身に刻み込まれた宿木群青は、あらんかぎりの絶叫と共に、周りの怪魔ともども連鎖的な爆発の基点となったのだった。
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そして、空間は、銀色の帳は、締め切ると同時に元の袋小路へと彼らを引き戻す。
すべての契約モンスターを失うと同時に、龍騎も黒く無個性鎧姿――今度こそ本当に、ブランク体へと戻っていた。
だがその姿をとったのも束の間のこと。
余力を失い、まとわりついた硝子が剥落するかのように、群青の姿へと戻って倒れ伏した。
「『契約するなら相手を選べ。不当な契約なら、行間を利用し、相手を出し抜け』」
その彼の手元から転げ落ちたデッキを拾い上げた。
「要するに、マジメ過ぎて向いてないんだよ。ぐんちゃんはさ……こういうことに」
力の根源たるそれを握力で砕き、六鹿は変身を解除して苦笑を浮かべた。
その表情を見返しながら喪心する群青の顔はどこか、悪夢から醒め、安らかなもののようにも見えたのだった。