薄暗い病室の天井に、静かに回る換気扇の音が響いていた。白いカーテンが微かに揺れ、窓の外から射し込む夕陽が、まるで時間を止めるかのように室内を朱に染めていた。
ベッドに横たわる老人の呼吸は、すでに浅く、かすかだった。枯れ枝のような手が、ベッド脇の椅子に座る少年の手を握っている。桐ケ谷雄――十五歳の少年は、祖父の手を必死に握り返していた。
「……雄」
乾いた声が、かすれながらもはっきりと耳に届いた。
「冥王流を……世界最強に……」
その言葉が、祖父の最後の意志だった。
「じいちゃん……じいちゃん……っ、いやだ……! 行かないでくれよ……!」
雄は声を震わせ、涙を流しながら叫んだ。だが、祖父の眼差しは穏やかで、すでにその奥には別れの覚悟が滲んでいた。最期の力を振り絞り、孫に夢と宿命を託したのだ。
「うぅ……!」
少年の涙が祖父の手の甲にぽたぽたと落ちる。何度も叫んでも、その手の温もりは次第に遠ざかっていった。
心の一部が、何かを失っていくような感覚。
その日、桐ケ谷雄は誓った。
冥王流を再び、世界最強にする――それが、残された唯一の道標だった。
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朝の柔らかな光が、ホテルの窓から差し込んでいた。
桐ケ谷雄は、ベッドから静かに身を起こした。鏡に映った自分の顔を見つめる――まだ幼さの残る十五の顔。しかし、その眼差しには確かな決意が宿っていた。
制服に袖を通し、左腰に一本の鞘を帯びる。それは彼の存在意義であり、背負う宿命の象徴でもあった。封牙、これが俺の愛刀だ。
静かに部屋を出る。通いなれた祖父の道場とは違う、無機質な廊下。だが、今の雄には、それが新たな戦場の入り口のように思えた。
ホテルを出ると、朝のアスタリスクが広がっていた。
空を泳ぐように流れるホロ広告、高層ビル群を背景に活気づく街の通り。制服を着た生徒たちがそれぞれの学園へ向かう姿は、この街が“学生たちの戦場”であることを如実に物語っていた。
雄はその中を静かに歩いた。視線の先には、遠くに見えてきた星導館学園の校舎――白と青のコントラストが印象的な未来的建築。中央の広場に向かって三棟の校舎が囲むその風景は、まさに知と力の象徴だった。
(今日から、ここが俺の戦場だ)
封牙に手を添え、気配を確かめる。わずかだが、封牙も高揚しているように感じた。
そして、校門が見えてきた。
だがその前に――異様な光景が広がっていた。人、人、人。星導館の生徒たちが校門前に集まり、興奮した様子で何かを見つめていた。
「……なんだ、これ?」
雄は立ち止まり、人だかりの向こうに視線を向けた。
ざわめきと歓声、スマートデバイスを構える手、歓喜と緊張の入り混じった空気。
その先で――何かが始まろうとしていた。