「……どういうつもりだ」
静寂を破ったのは、ユリスの低く鋭い声だった。彼女は整った眉をつり上げ、苛立ちを隠さずに綾斗を睨みつけていた。先ほどの光の矢から守られるように押し倒された体勢のまま、彼女の眼差しは怒りに燃えている。
「それは俺じゃなくて……撃った本人に聞いてほしい。あれ?」
綾斗はユリスから視線を外し、先ほど矢が放たれた方向を振り返った。しかし、そこにあるはずの光の矢は跡形もなく、代わりに一人の少年が立っていた。
赤みがかった髪に、均整の取れた体躯。制服の上からでもわかるほど鍛え抜かれた肉体を持つその少年は、静かにそこに立ち、綾斗たちを見下ろしていた。
「よう、危ないところだったな。もっとも、その様子じゃ余計なお世話だったようだが……」
その声には、軽口めいた調子と同時にどこか憂いを含んだ響きがあった。
「それより、早くその手をどけたほうがいいぞ?」
彼の指摘に、綾斗はふと自分の右手を見た。
「……っ!」
手は――しっかりと、ユリスの胸を掴んでいた。
「……あ」
呆気に取られた綾斗の口から、小さな声が漏れる。
その瞬間、ユリスの顔が真っ赤に染まり、目の端には涙さえ浮かんでいるように見えた。
「お……おまえっ!」
怒りの声と同時に、周囲の空気がピリピリと震え始める。
慌てて綾斗は身体を離し、地面に手をついて深く頭を下げた。
「ご、ごめん! 俺は別に、そんなつもりじゃなくて!」
――だが、言い訳など無意味だった。
ギャラリーから歓声とも悲鳴ともつかぬどよめきが起き、次第に混乱と興奮が広がっていく。
「おい今の見たか!?」
「触ったぞあいつ!」
「マジでやりやがった……!」
ユリスの怒りに反応するように、彼女の身体から炎が吹き上がる。肩越しに立ち昇った炎が彼女の桃色の髪を妖しく照らし、その瞳にはもはや理性の色はなかった。
火焔が地面を焦がし、波打つように周囲の空気が歪む。明らかに、プラーナの制御を失いかけている。
綾斗は一歩後ずさりながらも、なだめようと手を伸ばしたが、彼女の怒りはそれを許さない。
その様子を見た雄は、すぐさま距離を取り、自分の安全を確保する。
(かわいそうに・・・。しかしあの状況でよく気が付いたものだ。)
雄が関心している最中、睨まれたまま綾斗がどう動くべきか判断に迷っているその瞬間。
「はいはい、そこまでにしておいてくださいね」
朗らかだが芯の通った女の声が、群衆を貫いて届いた。
同時に、パンパンと軽快に手を叩く音が響き渡る。