冥王流を世界最強に   作:卵掛け丼

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華焔の魔女3

「確かに我が星導館学園は、その学生に自由な決闘の権利を認めていますが、残念ながらこの度の決闘は無効とさせていただきます」

 

どこか場違いなほどに落ち着いた、涼やかな声音だった。

ギャラリーの視線が一斉に向いた先には、黄金色の長髪を肩に流す少女――クローディア・エンフィールドの姿があった。

 

「クローディア、一体何の権利があって邪魔をする?」

 

ユリスが険しい表情で問いかける。

 

「それはもちろん、星導館生徒会長としての権限ですよ、ユリス」

 

クローディアは柔らかな微笑みを浮かべたまま、まるで舞台のセリフのように言葉を紡ぐ。

 

「赤蓮の総代たる権限をもって、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトと天霧綾斗の決闘を、正式に破棄します」

 

その言葉に応じるように、綾斗とユリスの校章に宿っていた赤い光がふっと消えた。

 

「これで大丈夫ですよ、天霧綾斗くん」

 

「あ、ああ……ありがとうございます」

 

綾斗は安堵の息を漏らし、礼を述べた。

 

クローディアが一歩前へと進み、手を差し出す。

 

「私はクローディア・エンフィールド。よろしくお願いしますね、天霧綾斗くん」

 

突然の握手の申し出に戸惑いつつも、綾斗は慌てて手を伸ばす。

 

「こ、こちらこそ……」

 

一方、ユリスは納得がいかない様子で肩をすくめた。

 

「いくら生徒会長とはいえ、正当な理由がないと決闘の介入はできないはずだが?」

 

「もちろんです。でも今回は正当な理由があります」

 

クローディアはあくまでも穏やかな笑顔のまま答える。

 

「彼が転入生なのはご存じですね? データ登録は済んでいたので校章が反応してしまったのですが、実はまだ転入手続きそのものは完了していません」

 

「……ってことは?」

 

「つまり、彼は現時点では正式な星導館の生徒ではないということです」

 

綾斗が驚いた顔でクローディアを見ると、彼女はウィンクを交えて続ける。

 

「決闘はあくまで“在校生同士”のみで成立します。したがって、この決闘は無効。異論はないでしょう?」

 

「くっ……」

 

ユリスは悔しそうに唇を噛んだ。

 

その間にクローディアはギャラリーへと向き直り、手を広げて言う。

 

「皆さん、これにて騒ぎはおしまいです。生徒会命令により、この場は解散とします」

 

ぶつぶつと文句を言う者もいたが、あくまでそれは陰口程度。生徒会長に公然と異を唱える者はいなかった。

 

観衆が次第に散っていく中、綾斗はふと顔をしかめ、クローディアに問いかけようとした。

 

「クローディアさん、あの矢の件……あれを撃った奴が、まだこの中に――」

 

「無駄だよ。もういない」

 

綾斗の言葉を遮るように、雄が隣で低くつぶやいた。

 

彼はその場の空気を読むかのように、静かに目を細めていた。

 

「こういうのは、仕掛けるだけ仕掛けて、混乱に紛れて姿を消すのが常套手段さ」

 

「冒頭の十二人が狙われるのは別にめずらしくない」

 

ユリスも肩をすくめながら言った。

 

その発言にクローディアが残念そうな表情を浮かべ、静かに頷く。

 

「残念ながらその通りなのですよ……。とはいえ、今回は明らかに学園の秩序を乱す行為です。風紀委員に調査を依頼します」

 

クローディアの一言に、綾斗は目を見開いた。

 

(彼女も見えていたのか?)

 

先ほどまで騒然としていたギャラリーの誰一人として、あの狙撃に気づいていた様子はなかった。気づいていたのは雄、クローディア、そして自分とユリスだけだった。

 

ほんの一瞬の出来事だったにもかかわらず、あの矢の存在を認識できたのは、只者ではない証拠だろう。

 

「ところで、さっきは……その、ありが、とう」

 

ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトが、気まずそうに声を発した。

 

綾斗はその意外な態度に、思わず眉を上げた。

 

「えっ? あ、うん。結局、俺の行動が無駄になったからね」

 

そう返しながら、綾斗はちらりと雄の方へと視線を向けた。

 

「あの状況でよく見えていたよ。なかなかやるね、君」

 

雄の柔らかな口調に、綾斗は少し照れくさそうに笑って返した。

 

「なんとかね。助けてくれてありがとう」

 

「気にすんな。それより……」

 

雄はユリスに視線を向け、落ち着いた声で言った。

 

「あれは事故だったんだ。許してあげてくれ」

 

「それはまあ……怒っていない、こともないが……助けてくれたのは確かだからな」

 

ユリスは納得したような、していないような、そんな複雑な表情を浮かべて腕を組む。

 

「私とて、あれが不可抗力だったことくらいはわかるさ」

 

そしてふいと顔を背け、わずかに赤らめながら付け加える。

 

「……だから、今度のことは貸しにしてくれていい」

 

素直に感謝を言えないユリスの態度に、クローディアは小さく肩をすくめた。

 

「もう少し素直になったほうが生きやすいと思いますよ?」

 

「余計なお世話だ」

 

すかさず返すユリスだったが、どこか言葉のトゲは弱まっていた。

 

「あら、でしたらタッグパートナー探しの方は順調なのでしょうね?」

 

クローディアの問いに、ユリスは言葉を詰まらせ、目を逸らした。

 

「……」

 

その沈黙に全てを察したクローディアは、ため息混じりに微笑む。

 

「鳳凰星武祭まで、あと二週間しかありませんよ? あまり悠長にはしていられないと思いますけど」

 

「わかってる」

 

そう言い残し、ユリスは踵を返すと、そのまま足早に立ち去った。

 

クローディアは、そんなユリスの背中を優しい顔で見送った。

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