クローディアは穏やかな笑みを浮かべたまま言葉を紡いだ。
「次は雄の番です。雄の場合は、簡単にスカウト陣を納得させることができました」
それに対し、雄は何も言わず、ただ無言で目を伏せる。
「すごいな」
綾斗が感心したように頷く。
「でも確かに、あの矢を受け止めたときから思ってたけど、相当な実力者だってのは分かったよ」
「それだけではありません」
クローディアの声色に、わずかな緊張が混じる。
「雄は――あの冥王流の使い手なのです」
「え?」
綾斗の目が驚きに見開かれる。雄は少しだけ顔を上げたが、やはり口を開こうとはしない。
「冥王流って、たしか……」
綾斗が言葉を詰まらせる。そんな綾斗に視線を送ったクローディアが、そこで言葉を切る。雄を見つめながら、話を続けるべきか逡巡しているようだった。
だが、その空気を察した雄が静かに口を開いた。
「ああ、そうだ。過去に虐殺された桐谷家の、最後の生き残りだ」
一瞬の沈黙が流れる。
冥王流――かつてその名を知らぬ者はないほど、星武祭で猛威を振るった伝説の剣術。個人戦、タッグ戦、チーム戦。すべての星武祭を冥王流の使い手が制覇した時代さえあった。その強さゆえに、冥王流は限られた者にしか扱えない剣術であり、それを担っていたのが桐谷家だった。
「十五年前、最強と謳われた桐谷家が何者かにより虐殺されたというニュースは、今でも時折取り上げられますからね」
クローディアが静かに語る。
「世間を大きく騒がせた事件でした。そしてその犯人は、いまだに謎のままです」
「僕も知ってるよ、その事件。剣術を学ぶ者なら、一度は耳にするからね」
綾斗が真剣な眼差しで雄を見る。
「世間では冥王流の使い手は全滅したと思われている。でも……」
「どんな理由があろうと、表に立つということは、それだけ危険を伴うということです」
クローディアが少し硬い声で言う。
「命を狙われる可能性もある。それでも……あなたはここに来た」
「問題ない」
雄の声は低く、だがはっきりと響いた。
「俺はもう一度、冥王流剣術が世界最強であることを証明する。そのためにここに来た。……それに、俺の命を狙う奴は、桐谷家の仇である可能性だってある」
「……そうですか」
クローディアはわずかに目を細める。
「もちろん、この学園にいる限り、あなたの安全は全力で守ります。……もっとも、必要なさそうですけど」
「いや、ありがたいよ。ずっと気を張ってるのも、疲れるしな」
静かなやり取りを聞いていた綾斗は、ふと自分の中に生じた感情に気づいた。
「桐谷君って、すごいな。同い年なのに、そんな大きな使命を背負ってて……」
「そんなことはないさ」
雄が首を横に振る。
「剣を振る理由に、立派もなにもない。大事なのは、覚悟だ」
「覚悟……」
綾斗が小さくつぶやく。
「お前の“なすべきこと”、見つかるといいな」
「そうだといいけどね……」
「いや、見つかるさ。それより――お前とは、仲良くなれそうな気がする。これからよろしく、綾斗」
「うん、こちらこそだよ。雄」
二人は自然と右手を差し出し、力強く握手を交わした。
その様子を見ていたクローディアが、少しだけ唇を尖らせる。
「私も、同じ一年なのですから……仲間に入れてくださいね?」
その一言に、ふたりは顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。