咲-saku- 【完結】   作:えいどら

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第7章 第5話:薄ら笑い

 神殿の中はざわついていた。廊下や広間の奥で、複数の従者たちが緊張した声を潜めながら騒ぎ立てている。

 

 「主様が狙われるなんて……」「どうして警備が手薄に……」

 

 なんとなく目星はついてるけど。葉加瀬はそう思いながら、淡々と視線を巡らせた。

 

 立ち止まると、背後にいた夜見に小さく囁く。

 

 「……怪しい奴いたら、教えて」

 

 言いながらも、視線だけで廊下に並ぶ従者たちの顔を順繰りに見せる。夜見は赤い瞳を煌めかせ、興味深そうに一人ひとりの表情を覗き込む。そして――ほとんど間を置かずに、ぴしっと指を伸ばした。

 

 「あの人!」

 

 声は小さいが、無邪気なトーンで断言する。

 

 指の先には――あの、最初に葉加瀬たちを神殿まで案内した白髪の男がいた。和装を着崩さず、周囲に数名の従者を控えさせている。

 

 葉加瀬は目を細めて睨むように視線を送る。

 

 ……やっぱりこの人か。

 

 香子や巫女頭ですら、この集落では誰も連れずに一人で歩いてたのに。こいつだけが、従者を引き連れて歩いてた。

 

 それだけ位の高い人間であれば、仲介役として主様の傍にでもいそうなもんだが、

 

 香子さんと初めて会ったあの時、

 

 主様―――天宮こころが寝込みを襲われたあの時、

 

 あの男は一切姿を現さなかった。それどころか、男とは室内で会ったことすらなかった。

 

 里で権力を最も持っている人間。それは他でもない主様たる天宮で、それ以外の人間がそれ以上に権力を振るおうものなら、それはもう主様を利用するより外ならない。

 

 それなのに、男は知らんぷりして狸寝入り。どこで何をしていたか知らないが、そんなこと、本人はともかく周りの人間は許すだろうか。

 

 男はまるで、自分たちを見定めるようであった。それも、まるで呪いの問題だけを解決してさっさと帰るか否か、それを見張るようなあの眼差し。

 

 誠実なように“見せかけて”――その正体は、疑念でいっぱい。

 

 無言のまま理由を頭の中で整理する。夜見はその横顔を覗き込み、くすっと笑った。

 

 「ねぇ、冬雪」

 

 いたずらっぽく目を輝かせ、小声で囁く。

 

 「……へぇ。植物売るのとかも、あの人の差し金なんだぁ」

 

 葉加瀬は視線をそのまま白髪の男に固定したまま、頬をほんの僅かに引き攣らせた。

 

 神殿の静謐さが、じわじわと緊張で軋む音を立てていく。神殿の廊下の影で、ざわつく従者たちを背にしながら。

 

 夜見が、悪戯っぽい笑みを浮かべて顔を寄せた。

 

 「……どうする? あみゃにチクっちゃう?」

 

 葉加瀬はわずかに眉を寄せ、目を細める。

 

 「……あみゃ……?」

 

 その呼び方に一瞬だけ素で疑問を漏らしたが、すぐに視線をスマホに落とし、操作を始めた。

 

 「……まあいい。今は無視する」

 

 親指で画面をスクロールさせながら、夜見を横目に見る。

 

 「ちゃんとした証拠が欲しい」

 

 夜見は「へぇ〜」と面白そうに口を開け、覗き込む。葉加瀬は思考をめぐらせながら、画面を確認する指を止めずにいた。

 

 このじいちゃんは何をやらかす気なんだ。わざわざ私たちを狙ったってことは、狙いはあの硫化鉱物か?

 

 思えば調査隊が入った時、なんで硫化鉱物を見つけられなかったんだ?神聖な場所だから、触ってはいけないと巫女達が騒ぎ立てたのか?

 

 それとも、何か他の理由でもあったのか?考えれば考えるほど何もかもが疑わしく、泥沼に沈んでいく気もする。

 

 画面をオフにして、夜見と目を合わせる。

 

 「行くよ」

 

 夜見がにやっと笑って頷いた瞬間、二人の姿がふっと空気に溶ける。

 

 ――次の瞬間、

 

 森の中。湿った土の匂いと木漏れ日の影。

 

 葉加瀬は白衣の裾を気にも留めず、ぐしゃぐしゃの落ち葉を踏みしめた。夜見は楽しそうにその後をついていく。

 

 目を細め、湿気を帯びた暗がりを舐めるように見渡した。倒木の裏、苔むした岩の影、踏み荒らされた土の筋。

 

 夜見も黙って目を凝らし、周囲を嗅ぐように歩く。しばらくして、葉加瀬は手を泥に突っ込み、根元を掻き分けて何かを探るようにしていた。その姿はすっかり泥だらけで、白衣の裾も茶色に染まっていた。

 

 そんな中、突然背後から声が飛ぶ。

 

 「ちょっと、何してるの!?」

 

 振り向くと、天宮が息を弾ませ、目を大きく見開いていた。後ろには香子と巫女頭もいて、心配そうに顔を寄せている。

 

 全身の泥を見て、さらに驚いた。

 

 「ど、どうしたのその格好!? 汚い……!」

 

 だが葉加瀬は息を荒げたまま振り返り、視線を合わせる。

 

 「先に帰ってて!」

 

 短く言い捨てると、再び泥だらけの手で草をかき分け、森の奥へずんずんと進んでいった。夜見は天宮にくすりと笑いかけ、軽く手を振った。

 

 森の中は、昼を過ぎた薄い陽射しを斑に落としながら静かに息づいていた。

 

 落葉樹の葉は冬支度を始め、褪せた黄や赤が地面を覆っている。その上を葉加瀬冬雪の足音がざくり、ざくりと規則的に響く。

 

 足元には、苔が湿った空気を吸ってふかふかと盛り上がり、触れば指先が水を含んだように冷たい。そこに絡むように、棘を持つ蔓植物が絡まり、衣服に引っかかるたびに小さな音を立ててちぎれた。

 

 周囲を鋭い目で観察する。少し背の低い低木の群生、その根本には不自然に広がる斑点模様のキノコ。大きく開いた傘にはまだらの紫色が混じり、その湿った表面には虫が数匹張り付いていた。

 

 苔に覆われた倒木を跨ぐと、そこには艶やかな青い実をつけた植物が群生していた。葉を裏返すと、細かな白い毛が密集していて、触れれば痒みを誘発する毒を含んでいるのがすぐに分かる。

 

 そしてその傍らには、まるで血のような深い赤の花弁を持つ花が、かすかな腐臭を放ちながら揺れていた。

 

 葉加瀬は靴で泥を払いながら進む。上空を覆う枝葉が切れるたびに、斜めから冬の太陽が射し込み、木漏れ日が冷たい銀色にきらめく。

 

 しかしその暖かさも、時間が経つにつれ微妙に増していき、吐く息も徐々に白さを失っていった。

 

 「……これだけじゃ、急いで森を売り払う理由にはならない」

 

 吐き捨てるように呟き、葉をかき分け、泥に靴を埋めながら奥へ奥へと足を運ぶ。

 

 つる性の植物が幹に絡みつき、絡まった枝を揺らすたびに乾いた実がカラカラと音を立てて落ちる。その実が割れると、中から青黒い種がぬるりと飛び出し、腐敗臭が立ち込めた。

 

 冬になりかけの今でも、この森はなお湿り気を手放さず、寒さがほんの少し和らぐ昼過ぎには、生ぬるい空気すら漂うようになった。霜柱が溶け、地面はぬかるみ、葉加瀬の靴裏に粘つく泥が重く絡む。

 

 進むにつれ、木々はまばらになり、代わりに地面を這うように生える見慣れぬ植物が増える。足を止め、しゃがみ込むようにしてそのうちの一つを注視した。

 

 「……こいつは」

 

 手を伸ばし、指でそっと触れようとした――そのとき、不意に背後から声が飛んだ。

 

 「……どうかされましたか?」

 

 葉加瀬は微動だにせず、指先を止めたまま返事をする。

 

 「……ふひひ、いい森ですねぇ、ここは」

 

 背後には護衛を二人連れた、あの白髪の男が立っていた。その威圧感は変わらず、だが口調は柔らかかった。

 

 「なんのことですかな?」

 

 葉加瀬は振り返らず、前を向いたまま言葉を続ける。

 

 「普通なら、ここでしか生えないような貴重な植物が多いはずだ。でも探せば探すほど、そのイメージは変わってくる」

 

 白髪の男は薄く笑い、わざとらしく首を傾げた。

 

 「さっぱり分かりませんな」

 

 その横で護衛の一人がわずかに前に出て、二人の間に割って入った。

 

 「……過去、ここに生えていた植物についての資料です」

 

 そう言って、古びた紙の束を差し出す。白髪の男は眉を寄せ、制止するように手を伸ばした。

 

 「……今はそんな空気ではないでしょう」

 

 だが護衛は無表情のまま言い切った。

 

 「――ですが、元々そのために来たのでしょう」

 

 その言葉を受け、葉加瀬はゆっくりと顔を上げ、護衛の手からその資料を受け取った。風が吹き抜け、枯れ葉が乾いた音を立てて二人の間を滑っていった。

 

 森の中、湿った土と枯葉を踏みしめる音が消えるほどの静寂が広がる。葉加瀬は受け取った古びた資料を手に、ページをめくりながら目を細めた。風に煽られた紙がぱらりと鳴る音が、冷えた空気に小さく響いた。

 

 「……やっぱり、だ」

 

 低く呟くと、資料からゆっくりと視線を上げて、白髪の男を真っ直ぐに見据える。

 

 「……昔はここには、今私たちが見るようなものの他にも――」

 

 視線を資料に戻し、冷たく淡々と読み上げる。

 

 「スミレやナズナ。珍しい蜘蛛。……でも今は一切見られない。

 

 代わりに、ハルジオンやチガヤ。虫ならアブラムシだらけだ」

 

 周囲の護衛が気まずそうに目を伏せる中、白髪の男は涼しい顔で首を傾げた。

 

 「……環境の変化もあるでしょう。温暖化の影響だって無視できない」

 

 葉加瀬は目を伏せて短く笑う。そして再び書類をパタンと閉じ、男に向き直った。

 

 「これらの植物は“指標植物”と呼ばれています」

 

 その声は静かなのに、切り裂くように鋭かった。

 

 「環境汚染に敏感な種類が絶滅し、代わりに環境に対して強力な耐性を持つ種類だけが生き延びる」

 

 夜見れなはその隣でくすっと笑い、首を傾けた。

 

 「つまりさ、植物や虫にも“得意不得意”があるんだよねぇ。汚い場所が好きな奴は元気になるし、キレイなのが好きな奴は死んじゃう」

 

 白髪の男はその説明を鼻で笑った。

 

 「……そんなことは知っていますよ」

 

 しかし声の端に、僅かに苛立ちが滲む。

 

 そして続けた。

 

 「それなら、先程報告のあった“硫化鉱物”の影響ではないかと……」

 

 葉加瀬は小さく鼻を鳴らすと、目の前の泥から無造作に伸びるツユクサを掴んだ。

 

 そのツユクサは異様なほどに葉を広げ、過剰なまでに分厚く成長していた。光に濡れた葉は、まるで鈍い青緑の金属板のようだった。

 

 「……硫化鉱物の毒性では、こうはなりませんよね」

 

 葉加瀬はその葉を指でつまみ、くしゃりと音を立てる。

 

 「硫化鉱物は水溶性の毒。土壌の栄養バランスを崩して植物を“枯らす”ことはあっても、こんな風に“異様に成長”させたりしない」

 

 その目は細められ、口調はさらに冷えた。

 

 「私もこんなもの、実物を見るのは初めてですが」

 

 視線を周囲に投げ、一本一本の草を冷たく眺める。

 

 「……これが放射能の強い地域で、ごく稀に観測される変異だというのは――文献で見たことがあります。」

 

 白髪の男の顔色がわずかに変わった。葉加瀬はわずかに間を置き、吐き捨てるように言った。

 

 「もちろん、私もこの辺りのシーベルト数は確認した。異常はなかった」

 

 空気が冷たく澄み渡り、鳥の声すら止む。

 

 「――つまり。今は消えているが、意図的に誰かが放射線を撒いた可能性がある、とも考察できます」

 

 ツユクサを指で弾き飛ばし、泥を払うようにしてから、真正面から白髪の男を睨みつけた。

 

 「化学兵器を作ろうだなんて――」

 

 瞳は氷のように冷たかった。

 

 「……素晴らしいお考えですね」

 

 風が吹き抜け、木々の枝がきしむような音を立てた。周囲の護衛たちは目を逸らし、ただ重苦しい空気がその場を包み込んだ。

 

 ――冷え切った森の奥、風が木々を鳴らし、葉の擦れる音がひそひそ声のように響いていた。

 

 葉加瀬の言葉が突き刺さった後、場は重い沈黙に包まれた。白髪の男は顔色を変えまいとしたが、口元がわずかに引き攣っていた。

 

 その様子を護衛の男たちも見逃さなかった。護衛達からも睨まれ、男の名前を呼んで返答を乞う。どちらの目にも、もはや隠しきれない不信感が浮かんでいた。

 

 その空気を、夜見れなが軽く手を叩く音で切り裂いた。

 

 「ねぇねぇ、おじさんたちもさぁ」

 

 赤い瞳をいたずらっぽく細め、護衛の男たちを一人ずつ見る。

 

 「これに加担してたって噂出たら、まずいんじゃない?」

 

 夜見は小首を傾げて、子供のように笑った。

 

 「今からでも“知らんぷり”して帰りな〜」

 

 しばしの沈黙ののち、護衛たちは息を詰め、そして白髪の男を一度だけ見てから、無言で頭を下げた。それから背を向け、足音を立てないようにして森の奥を離れていった。

 

 夜見はその後ろ姿を手を振りながら見送った。

 

 「……はい、バイバイ。お利口さん」

 

 そして、残った男に視線を戻すと、今度は一転してその目を鋭く光らせた。葉加瀬も腕を組んだまま、真っ直ぐに男を見て笑う。

 

 「……で?」

 

 低く、冷たい声だった。

 

 「どうなんですか?」

 

 白髪の男は唇を舐め、渇いた声を絞り出した。

 

 「……そんなこと、私は知らない」

 

 夜見は「へぇ」と気の抜けた声を上げ、そして唐突に声を跳ねさせた。男が顔をしかめる間もなく、夜見はにやりと笑った。

 

 「こいつヤバすぎでしょ!」

 

 赤い目がぎらりと光る。

 

 「先代の主、実験台にして殺しちゃったって!!ヤバすぎでしょ!」

 

 葉加瀬の目が細まり、男の顔色が青くなる。

 

 夜見はさらに声を弾ませた。

 

 「ねぇ、オリヴィス・アンソルってガチの悪党じゃん!え、面識あるの?」

 

 男の口が開きかけ、何も言えずに閉じた。夜見は続けざまに、子供が秘密を暴くような無邪気さで畳みかけた。

 

 「実験のお手伝い!?それで手貸して、マズくなったから森ごと処分しようとしてんの!?え?なんだって~?端々だと解んないから、もうちょっと細かく考えてくれないかなぁ~!?」

 

 葉加瀬は鼻で笑い、冷たく言った。

 

 「……私たちに隠し事通じないの、知ってるでしょ」

 

 冷たい森の空気がひりついた沈黙を切り裂くように、白髪の男は震えた呼吸を繰り返していた。

 

 葉加瀬と夜見の視線が突き刺さる中で、男はしばらく声を絞り出せずにいた。だが、唇を震わせたのち、ついに小さく、途切れ途切れに吐き出し始めた。

 

 「……私は」

 

 その告白に、夜見が面白そうに目を細める。

 葉加瀬は無言のまま腕を組み、冷たい視線を向けた。

 

 男は目を伏せ、泥にまみれた靴を見つめるようにしながら続けた。

 

 「ある時……“人工的に超能力者を生み出す方法”を探す連中と、接触した」

 

 葉加瀬の表情は変わらないが、眉がわずかに動いた。男は自嘲するように、短く嗤った。

 

 「……先代の“主”に、秘術を使えるようになってもらうため……というより、似た技術を超能力として身につけさせるために、だ」

 

 夜見が「ふぅん」と口を尖らせた。

 

 「私自身も……その技術の恩恵で、ほんの少しだけ超能力を使えるようになった。だから……里の連中を丸め込めた。先代を“囲って”、権力を集めた」

 

 声がひどく乾いていた。風が落ち葉を巻き上げる音が、冷たい吐息を攪乱する。

 

 「……でも……その実験の“調整”の段階で……」

 

 喉が詰まったように声が止まる。男は唇を噛み、目を赤くしながら地面を睨みつけた。

 

 「……先代は……耐えきれなかった。」

 

 夜見の赤い瞳がぎらりと光る。男はただ乾いた声で吐き出した。

 

 「……呪いで死んだことにして埋めた。他に言いようがなかった」

 

 葉加瀬は無言で聞き、冷たい目を逸らさなかった。男は泥を握りしめるようにして、さらに告白を続けた。

 

 「……そして……私はその後、あのオリバー・アンソルと繋がった。“合体兵器”だの、馬鹿げた実験を笑顔でやるあいつに……“超能力研究の生き残り”として、コンタクトを取られた」

 

 夜見が「へぇ〜」と興味津々で口を開く。

 

 「資金をもらってたんだ?」

 

 男は微かに頷く。

 

 「……ああ。資金をもらい、実験の“指導”をして……里の財政も回してた……」

 

 言葉が詰まり、喉が鳴った。

 

 「……あの男さえ……!」

 

 声が震え、途切れた。

 そして、崩れるように膝をつき、そのまま地面にうずくまった。

 

 「……あの男さえいなければ……!」

 

 「私はただ……主様の基盤をしっかりと盤石にしたかっただけなのに…!」

 

 「バカげた石を集める連中など…主様にとって何の利益もないことを知っていたのに…!」

 

 苔むした森の土が湿って、男の手を汚す。

 その姿を、葉加瀬は冷徹な無表情で見下ろし、夜見はどこか楽しげに口元を吊り上げて見つめていた。

 

 泥の上に崩れ落ち、うずくまった白髪の男が、呻くように呟いた。

 

 「……私を、卑下するか」

 

 その声が聞こえた途端、葉加瀬冬雪の目がぎらりと光った。顔をゆっくりと上げ、その口元にぞっとするほど冷たい笑みを浮かべる。

 

 「……とんでもない」

 

 呟くように言ったその声は、まるで蛇が囁くように湿り気を帯びていた。そして――狂ったように笑った。

 

 「……森を、これだけ汚すだけの強力な兵器だろ?」

 

 声が妙に弾み、目が細まる。

 

 「なら、見てみたいものだ。放射能を短時間でばら撒き、無毒化し、簡単に命を奪う……それは誇るべき発明だろう」

 

 夜見がじっと息を潜め、横で面白そうに目を光らせる。

 

 葉加瀬はさらに一歩踏み出し、泥に足を取られながらも男を見下ろす。

 

 「……それに」

 

 声がさらに低く、酷薄に歪む。

 

 「人間を実験台にしようとは考えなかったのか?」

 

 白髪の男の目が見開かれる。葉加瀬は口の端を吊り上げ、悪魔のような笑みを刻んだ。

 

 「植物なんかより、人間の方がよほど興味深い知見が得られるだろうに」

 

 そして、泥で汚れた手で男の胸ぐらをぐっと掴み上げた。その動きは獣じみて鋭く、全く躊躇がなかった。

 

 男は息を呑み、怒りと恐怖を滲ませた目で葉加瀬を睨む。

 

 「……この悪魔が!」

 

 声が震える。

 

 「お前もオリヴィスや加賀美ハヤトと同じように……私をコケにするのか!」

 

 葉加瀬はその言葉を聞いて、にたりと口角を上げた。そして、ぐっと顔を近づける。

 

 「……加賀美ハヤト?」

 

 目が細まり、瞳孔が冷たく光る。

 

 「それ、私の“ご主人様”の名前よ」

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