ROCK'N'ROLL DARKNESS   作:チルマルネ

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ロックンロール!

 フィオナの森の一角、木々の生い茂った大自然の中、その風景にはあまりにも似つかわしくない奇妙な人工物が設置されていた。

 

 スポットライトに様々な楽器とスタンドマイク、それは、一言で言うなら『ライブステージ』だった。

 

 そしてそのステージの上には、数人の超獣が立っている。

 その中の一人、スタンドマイクの前に立っている男は、折れ曲がった角のあしらわれた奇妙なマスクを被り、その足で『タン、タン』と、床を軽く鳴らしている。

 

 ――いいか、ロックの始まりってのは、いつだってこの言葉だぜ。

 

 『タン――』

 

 ――なんの御託も要らねぇ、ただ思い切り、腹の底から叫ぶのさ

 

 『タン――』

 

 ――それがロックンロールだ。

 

 『タン――』

 

 遥か遠い昔に教えられた言葉。

 

 大切なその言葉を頭の中で反芻し、深呼吸。

 

 男は足を止め、そして、思い切り息を吸い込み――

 

 叫んだ。

 

「ロックン……! ロォォォーーール!!」

 

 その言葉と同時に、男は拳を突き上げた。

その瞬間、彼の周囲から爆炎と赤、青、白、緑、4色のカラフルな煙が立ち昇り、背後に控えていた三人の超獣達が楽器を打ち鳴らす。

 

 彼は、自身が誇る歌声、そして自慢の仲間達との演奏をこの世界に響かせる為、薄暗い闇文明の奥深く、外界の情報すらまともに届かない辺境の領地から、とうとうこの青空の下、光差す地上までやってきたのだ。

 

(ここが地上だ……! 夢にまで見た地上……! 嗚呼、なんと美しい!!)

 

 歓喜、感動、興奮、そして一抹の不安、あらゆる感覚が胸中で渦巻き、膨れ上がり、彼の胸を弾ませていた。

 

 ただ一つ問題があるとすれば、彼が記念すべき初のゲリラライブに選んだ場所は、数週間前に起こった闇文明の侵攻によって被害を受けた集落の傍であるという事だけだった。

 

「また闇が攻めてきたぞォー!!!」

「武器を取れ!村を守るんだ!!」

 

 それ故に、その集落の人々は突如爆音を響かせた男を、闇文明から送られた刺客と捉えてしまったのだ。

 

 「よくぞ来てくれた! 自然の民よ!」

 

 そんなことは露とも知らず、完全に舞い上がっていた男は、彼等のそんな鬼気迫るその様子に気付かず語りかけようとするが――

 

「何をする気!? 何かされる前に縛り上げるわ! 《ナチュラル・トラップ》!」

 

「お初に御目にかかる! 私はウオオッ!?」

 

 自身を絡めとらんとした何本もの巨大な蔦を、すんでのところで回避し、地面に転がる。

 

「中々に素早いな!! 元気があっていいぞ!」

「馬鹿野郎、褒めてどうすんだ」

 

 顔を上げた男の前に、黄色い毛並みの屈強なビーストフォークと、全身が機械と樹の装甲で覆われたヒューマノイドが腕組みをして立っていた。

 

「闇よ! 自然文明にようこそだコノヤロー!」

「この間はよくも俺達の弟分を可愛がってくれたな」

 

 「!? 何の事……」

 

「燃えてるか! 輝いてるか!」

 

 男が言い終わる前にビーストフォークが右腕を高々と振り上げ、その腕に膨大なパワーが込められていくのが分かる。

 

「何が目的かは後で聴かせてもらうぞ! 我が勇王爆撃砲を受けてみよ!!」

 

 そう言って構えられたヒューマノイドの掌の銃口にもエネルギーがチャージされていく。

 

 ただ事では無い様子、何やらよく分からないが自分達は不味い状況にあることに気付き、男はマスクの下で青くなる。

 

「自然の民達よ! 待っ」

 

「ストーーーーーーーーップ!!!!!」

 

 場を占めていた剣呑な雰囲気を吹き飛ばすように、突如響いた凄まじく大きな、まるで雷鳴のような声が全員の鼓膜に突き刺さり、その場にいた全員が揃って耳を押さえて動きを止めた。

 

「叫んでる……か……」

「おひいさま……み、耳元は……」

 

 その大音響を至近距離で聴いたビーストフォークは仰向けに倒れて痙攣し、ヒューマノイドはその場に崩れ落ちて動かなくなる。

 

 その二人の間から、桃の被り物をした小柄な妖精が肩を怒らせながらのしのしと歩いて、男の前に躍り出る。

 

「ちょっと! こっちには絶対安静の重傷患者が居るのよ!? 皆揃って大袈裟に騒がないで頂戴!! 《ディメンジョン・ゲート》!!」

 

「!? ウワーッ!」

 

 妖精が呪文を唱えて杖を振るうと、突如闇文明の男達の足元にゲートが出現し、彼等はそれに飲み込まれ、あっという間に姿を消した。

 呪文を唱えた妖精は、怒りながら杖をくるくると回して、役目を終えて徐々に閉じていくゲートに向けて叫ぶ。

 

「こっちにも都合ってものがあるの!! この土地でライブがしたいのなら! まずアポイトメントと相談! 次にキチンと打ち合わせ! ちゃんと手順を踏まえたならこっちも拍手をもって歓迎するわ! 今回は出直しなさい! あんぽんたん!!」

 

 『え? ライブ?』耳を押さえていた周囲の超獣達は、ぷりぷりと怒りながら大見得を切った妖精の言葉を聞いて、一様に首をかしげた。

 

 

 

 

 ゲートの出口、何処とも知れない薄暗い遺跡の中に仲間達と共に吐き出された男は、ゲートが閉じる間際に聴こえた妖精の声を聞いて、独りごちた。

 

「全くもって、ごもっとも……だ……大変……申し訳ない……」

 

 こうして、男――もとい、死奏伯爵エルレウスと、その仲間達の旅は始まった。

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