【完結】神祥子のリトライ!   作:紫陽花の季節に会いましょう

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14話:ちゃんと見届けて欲しいから

「ちょ、やばいって! 祥子ちゃん大丈夫!?」

「祥ちゃん! 祥ちゃん!」

「と、豊川様! ご、ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

 

 酷く狼狽する燈、同じく真っ青になるクラスメイトたち。愛音は状況を素早く判断し、祥子の頭を揺らさないように起こして脈を測る。異常はない。ただの脳震盪だと判断した。

 

「先生! 私祥子ちゃんを保健室まで運んできます! ともりん、ついてきてくれる?」

「あ、あの、ちゃん、さき、ちゃんは……」

「大丈夫、大丈夫だから。ね?」

「う、うん……」

 

 祥子を背負ってゆっくりと保健室に向かう。あまりに軽く、細い体躯。持ち上げておいてなんだが拍子抜けしてしまう。

 そのまま保健室のベッドに降ろし、手当を行う。幸い、怪我はないようだった。

 

「ふー、これで一安心かな〜。ありがとねともりん、手伝ってくれて」

「……ううん。あのちゃん、凄かった。私、何も出来なくて……」

「そんなことないよ〜!」

「う、うぅ」

 

 声がした。

 祥子の方を見ると、寝苦しそうに呻いていた。

 

「せ、先生これ大丈夫です?」

「取り敢えず後で病院で診てもらうとして、今の段階ではただの脳震盪だから大丈夫だよ。恐らく、悪い夢でも見てるんじゃないか」

「夢……」

 

 苦しそうな祥子。

 

「とはいえ、脳震盪だけじゃなくて睡眠不足と栄養不足もあるね。この子、年齢の割に体重が軽すぎる」

「……ですね」

 

 そんな会話をしていると、祥子がポツリと寝言を呟いた。

 

「とも、り……」

「ーーーーッ!? さき、ちゃん?」

「ごめん、なさい……ともり……ごめん、なさい」

 

 何度も自分の名前を呼ぶ祥子を見て心が苦しくなった燈は、祥子の手を強く握る。その手を強く強く握ると、祥子は安心したのか穏やかな寝息へと変わっていた。

 

◇◆◇

 

「…………ここ、は」

「あ、祥子ちゃん起きた! ここ保健室、祥子ちゃんサッカーボールが当たって倒れちゃったの。大丈夫だと思うけど一応検査受けてって先生が言ってたよ〜」

「そう、ですの。放課後にでも行くことにします。……千早さんが運んでくださったのかしら?」

「愛音でいいって〜! 私たち友達でしょ?」

「とも、だち……」

 

 祥子が何か考え込むような素振りを見せたので、愛音は少し焦ってしまう。

 

「え、友達、だよね?」

「いえ、その……友達だと思っていてくださったことが嬉しくて。わたくしは貴方にも冷たい態度をとりましたのに」

 

 罪悪感たっぷりの表情で視線を落とす祥子。そのあまりにも儚げな様子を見て、愛音は先のRiNGでの会話を思い出す。

 短命説は睦の勘違いだったが、これでは美人薄命を信じてしまう気持ちもわかる。

 

(あ〜、これ駄目だ。ともりん・りっきー・そよりん・睦ちゃん、みんな狂っちゃった理由が分かる。私も今たぶん毒牙にかかってるもん……)

 

 その自覚がありつつ、祥子を助けないという選択肢は愛音にはない。

 

「その、罪悪感につけ込んで……みたいな人もいるだろうから、あんまり弱った顔見せない方がいいかも……。祥子ちゃん今本当に儚げゲージMAXまで来ちゃってるから」

「え、と……? ご忠告感謝しますわ、愛音」

 

 儚く微笑む祥子。

 そんな笑顔に見惚れて、なおかつ名前を呼ばれたことで思わず動揺してしまう。

 

「ーーーーッ! あ〜……確かに狡いわ祥子ちゃん」

 

 天女が自分の元に降りてきたら、自分のモノにしてしまおうという欲が湧く。昔話にありがちなやつ。豊川祥子という人物はそういう天女の性質を持っている。

 決して人付き合いが良い方ではないのに不思議と人の目を惹き、気づけば彼女の世界に取り込まれている。短期間で彼女の世界ーーAve_Mujicaの世界に大勢のファンを取り込んだように、触れた人間を全て引き摺り込み、生かしも壊しもする存在。故にCRYCHICは壊れ、MyGO!!!!!とAve_Mujicaが生まれた。良くも悪くも物語の渦の中心で、爆心地。本人がそれを望もうと望むまいと、だ。

 

(それでこんなに傷つくことになるんだから、物語の主人公も楽じゃないな〜……)

 

「祥子ちゃん、ご飯食べてる? 体重、すごい軽かったよ?」

「最近は食べていますわ。ただその、少し前まであまり食べていなくて、そのせいで今でも食事量が戻らないんですの」

「なるほどね〜……でも本当に心配したんだよ〜? ほら、ともりんも、ね?」

「……燈? え、いつのまに」

 

 愛音がカーテンを退けると、そこに燈が立っていた。手には祥子のカバンと制服。どうやら荷物を持ってきてくれたらしい。

 

「さき、ちゃん、かばん、持ってきた、から」

「ありがとう、燈」

「さきちゃん……。ずっと、話したかった」

 

 燈の真剣な表情に、祥子も覚悟を決める。

 

「ええ。わたくしも、話さなくてはいけないと思っていました。わたくしの罪を。……それが罪人たるわたくしの義務ですから」

「ちが、う! さき、ちゃんは、さきちゃんは……」

 

 言い澱む燈に、祥子は困ったように微笑む。

 

「貴方は優しいのね、燈。……愛音、お願いがあります。立希とそよに連絡してもらえますか? 明日、お時間をいただけないでしょうか、と。今日はこの後検査を受けなくてはいけませんので」

「勿論良いんだけど……でもあの、その前に……多分何か温度差があるからそこは解消したほうがいいというか、なんというか」

「……? 温度差?」

「ともりんもりっきーもそよりんも、祥子ちゃんのこと凄く心配してる。別にそんな深刻そうな顔しなくても……」

 

 祥子の雰囲気から、彼女らに凄まじい罪悪感を抱いていることは容易に察せられる。しかも祥子の場合……まるで今生の別れかのような雰囲気さえ出ていた。

 

「なんかすっごい重々しく考えてるけどさ〜、喧嘩したから謝って仲直り! そんな感じでいいんじゃない?」

「……………なか、なおり、ですか。わたくしにそんな権利……」

「権利とか要らないから! とにかく、そんなに重く考えない! はい、メッセ送ったよ。私も一緒に行くけど、いいよね?」

 

 にぱっと笑う愛音に少しだけ毒気を抜かれる。覚悟は決まった。肩の力も少し抜けた。本当に不思議な女の子だ。

 

「勿論です。ちゃんと見届けて欲しいから……」

 

 そう言って物憂げな表情で窓を見つめる祥子。絵画のようでやはり見惚れてしまうのだが、それよりも何より思ったのが、

 

(うん……全然わかってないな〜これ)

 

 自分の言葉が全く響いてないということへの諦めであった。

 

◇◆◇

 

 物思いに耽っていると、不意に頭の上に紙パックが置かれる感触がした。

 

「どうぞ」

「海鈴か……」

「私ではいけませんか?」

「そんなこと言ってないんだけど……。あ、そうだ海鈴」

「はい、なんですか?」

「祥子のこと、聞いてもいい?」

 

 海鈴がぴくりと反応する。

 

「構いませんよ。私と祥子さんは強い信頼関係で結ばれていますので」

 

 何故かドヤ顔をされてしまった。しかもあの海鈴が、自分以外を名前で呼んでるのを聞いて思わず変な顔になってしまう。

 

「海鈴が誰かを信頼とかって珍しい。なんかあったの?」

「祥子さんは私を信頼してくれました。だから私はそれに応えています。そういう人でしょう? あの人は」

「……CRYCHICのこと、知ってるの?」

「全て聞きました。少し、羨ましいです。あの人がそこまで執着するバンド。Ave_Mujicaがそうなれるように努力するつもりではありますが」

「なんか、変わったね海鈴。それに祥子も変わった。そういうの話さないタイプだと思ってた」

「ヤキモチですか? 祥子さんは好きですが、私の一番は立希さんですよ」

「あーはいはい……。で、話戻すけどさ。祥子、色々大丈夫なわけ?」

 

 質問の意図を図りかねたが、立希の心配そうな表情を見て概ね合点がいった。

 

「心身ともに不調そうに見えます。なるべく負担を引き受けるようにしていますが、なにぶん抱え込む性質です」

「うん、知ってる」

「……ですがそれより」

「………?」

 

 言い澱む海鈴を見て首を傾げる立希。

 一瞬の逡巡の末、海鈴は重い口を開く。

 

「最近悪夢を見ると言っていました。色んなことに罪悪感を抱えているようで。若葉さんの件はひと段落着いたみたいなので、今祥子さんを悩ます目下の課題は……CRYCHIC」

「ーーーーッ! やっぱり、そうなるよね」

 

 祥子の事情を知った今、彼女がCRYCHIC崩壊に凄まじい罪悪感を抱いて苦しんでいるという事実に、立希は心臓が締め付けられるような感覚を覚えた。

 

「三角さん・若葉さんが祥子さんと同居して寄り添っていますが、CRYCHIC問題だけは当事者がなんとかするしかないようで。

 なので立希さん、どうか祥子さんをお願いします。私も、あの人には幸せになって欲しいんです」

 

 海鈴のそんな言葉を聞いて立希は目を丸くした。海鈴がそんなこと言うなんて、と。だがその苦悩に満ちた目を見て、それが本気なのだと悟る。故に立希もまた本気の目で海鈴に返す。

 

「当たり前。……ほら、噂をすれば」

「……?」

「愛音から連絡。祥子が話したいって。海鈴、海鈴も明日来て」

「いいんですか?」

「祥子の騎士なんでしょ? なら一緒の方がいいって」

「そう、ですね。それならやはり貴方にも来てもらいましょうか、三角さん」

 

 教室の入り口で、縮こまったわんこのような初華が申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「う、盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」

「寧ろちょうど良かったです。祐天寺さんにも連絡します。ムジカ総出でこの問題に決着をつけましょう」

 

 そう言ってスマホを取り出した海鈴は、立希の目からみても大きく成長したように感じた。

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