【完結】神祥子のリトライ!   作:紫陽花の季節に会いましょう

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15話:(本人曰く)断罪イベントですわ

 帰り道、愛音と燈に声をかけられて3人でRiNGへと向かう。自身を断罪する断頭台への道へ罪悪感に苛まれながら進んでいくはずが、普通によくある女子高生たちの下校風景となってしまったことに拍子抜けする。

 祥子がそんな微妙そうな顔をしていることには勿論気づいていたが、愛音としても湿っぽい空気は嫌なので積極的に話しかけることにした。

 

「昨日は大丈夫だった? 病院、行ったんだよね?」

「ええ、それはもう、何一つ問題なく健康体でしたわ」

「よかった〜!!! いやさ? 学校着いたら、『豊川さんって不治の病なんでしょ?』とか『オブリビオニス短命説』とかやばそうな噂回ってきたから焦ったんだよ〜」

「ええ……今日はやけにクラスの皆さんが優しかったですわ……」

 

 普段朝一番に学校に着いているのに、今日は10人もの生徒が自分より早く着いており、しかも真っ先に土下座されたのを思い出す。

 どうやらサッカーボールをぶつけてしまった子らしいのだが、祥子自身何も思うところがないため「土下座は勘弁してくださいまし!」と朝から大声を出してしまった。

 その後も机にたくさんのお供え物をされたり、拝まれたり、しまいには目があっただけで涙を零されたり。神になると言ったは良いものの、日常生活にまで影響するとは思わなかった。

 

「見方によってはイジメですわよこんなの……」

「あはは……でも祥子ちゃんそれだけ注目されてるんだよ〜。みんなきっと仲良くなりたいんじゃないかな?」

「……ご厚意は有り難いですが、わたくしにそれを受ける資格など」

「すぐ暗い話になるー!!! 祥子ちゃんもっとポジティブになろ!? 聞いた限りともりんと出会った時はそんな感じじゃなかったんだよね?」

「……さきちゃんは、太陽」

「燈……」

 

 燈の微笑みが眩しくて、祥子は思わず目を逸らす。今の祥子にとっては燈こそが太陽だ。いいや、それは昔からだったか。

 

「って話してたら着いちゃったね。ってあれ、楽奈ちゃん、と睦ちゃん?」

「ごろにゃー」

「……ごろごろにゃー」

 

 何故かRiNGの前で猫を撫でる2人。どこから連れてきたのだろうか……。

 

「さきこ、柚餅子」

「ええ、ありますわよ」

「祥……猫、撫でる?」

「撫でます。……が、いつの間に仲良くなったんですの貴方達?」

 

 前者が楽奈、後者が睦だ。

 持ってきた胡桃柚餅子を楽奈に食べさせていると、愛音は何か微妙そうな顔をした。

 

「いや、どっちかというと何で祥子ちゃんと楽奈ちゃんが仲良くなってるわけ?」

「豊川グループ系列の和菓子屋で製造した"柚餅子"が大変お気に召したらしく、時々試食して頂いていますのよ。顧客の声は貴重ですわ」

「柚餅子うまい」

「嘘、祥はアニマルセラピーを受けてるだけ」

「楽奈ちゃん猫じゃないけどね……」

 

 入り口でわちゃわちゃ戯れている間に、後ろから呆れたような声が聞こえてきた。

 長崎そよ、椎名立希。

 祥子にとって、2人と会うのは随分と久しい。特に立希はあの雨の日以降一度も顔を合わせていない。MyGO!!!!!のライブで顔を見たが、話してはいないので実質半年以上の年月が経っている。

 緊張で顔がこわばる祥子。

 対照に、そよと立希はどこまでも穏やかな顔をしていた。そんな表情があまりにも珍しいものだから、祥子は困惑を隠せずにいる。

 

「久しぶり、祥ちゃん」

「取り敢えず中で話そう。多分先に待ってるだろうし」

「……?」

 

 促されるまま、一行はRiNGに入っていく。

 

◇◆◇

 

 スタジオの中に入ると、そこには見知った顔がいた。

 

「立希さん、どうして一緒に行ってくれなかったんですか?」

「いや、ちょっと準備することとかあって」

「私とじゃダメだったんですか? 私にとって立希さんはその程度のひ」

「あーあーあーごめんなさい、うみこはちょーっとズレてるんで退場退場!」

 

 にゃむに引っ張られていく海鈴。そんな2人に苦笑いをする初華。すでにAve_Mujicaのメンバーまで勢揃いしていたことに、祥子は首を傾げてしまう。

 

「なんでいるんですの……?」

「私と海鈴が呼んだ」

「え、と……」

「祥は、1人じゃない」

 

 睦は祥子の手を取ってじーっと顔を見つめる。その目で何が言いたいかはよくわかった。

 祥子もまた、睦の手を握り返して頷く。

 そして3人に向き直った。

 息を吸う。バクバクと鳴る心臓の鼓動を感じつつ、祥子は意を決して切り出した。

 

「燈、立希、そよ。

 

 まずは謝罪させてください。

 

 わたくしは、あなた方を傷つけました。それも意図的に、です。決して許されることではないし、赦してもらえるとも思いません。

 貴方達には、わたくしの罪を咎める権利がある。でもまずは、言葉で罪を贖わせてください。

 

 ごめんなさい」

 

 90度に腰を折る。

 声が震える。

 あの輝かしい思い出達が走馬灯の如く駆け巡る。いくら事情があったとはいえ、CRYCHICを自分から壊したのは祥子自身だ。

 今更彼女たちにこんなことを言えた義理じゃないのも分かっている。全ては後の祭りで、覆水は盆に帰らない。

 

「わたくしに出来ることは何でもします。どんな言葉でも受け止めます。どんな罰でも受け入れましょう。だから、だから……」

「……やっぱり、そんな風に思ってたんだね」

「お前ほんとさぁ……」

「さき、ちゃん」

 

 次にくると思われた厳しい言葉がやって来ない。それどころか、優しい声が3つ重なって返ってくる。

 恐る恐る顔を上げると、どこか呆れたような少し悲しそうな顔をした3人がいた。

 

「え、と………?」

「まず祥子、こっちも謝ることがある。私ら全員、祥子の事情は全部知ってる」

「え……」

「まさかその事情全部おっ隠して真正面からの謝罪と懺悔が来るとは思わなかったよ……。いやまぁ祥子らしいんだけどさ」

 

 事情を知っている。

 それはつまりCRYCHIC崩壊の事情を知っているということだろうか? 不安そうな顔をしているのを読み取ったからか、睦が口を挟む。

 

「祥、ごめん。祥が血を吐いたと勘違いした時、全部をそよ達に相談した」

「ぜん、ぶ……というと」

「全部は全部。祥の家庭事情、CRYCHIC結成と解散、Ave_Mujicaの結成理由、祥の悪夢のこと」

「……………本当に全部ですわね」

「ごめん……」

 

 しおらしく謝罪する睦。この場合は慰めればいいのだろうか、いやでも全部バラしたのは普通にちょっと文句の一つでも言いたくなるのだが。

 

「………はぁ。聞いた通りです。わたくしは、そんなわたくしの傲慢で自分勝手で我儘で最低なエゴと独りよがりな醜いプライドで、皆さんを引っ掻き回した救いようのない愚者。だからこそみなさんには断罪の権利が」

「お前まじか…………………」

「その話した上でこの思考に至れるさきこヤバすぎない? まだ悪役やるつもり?」

「それもう無理ですよ祥子さん。流石に無理がありますよ」

「え……………な、なにを……………」

 

 立希、にゃむ、海鈴から総ツッコミを受けてタジタジになる。そんな中、そよが一歩前に出た。

 

「祥ちゃんは、本当に何にもわかってない」

「そ、よ……?」

「それで傷つくのはね、祥ちゃんだけじゃなくて私たちもなんだよ!!!」

 

 抱擁。

 一瞬何が起こったかわからなかった。

 だが一泊遅れて、祥子は現状を理解した。

 そよに抱きしめられている。自分より大きな体躯による抱擁……少し、母を思い出した。

 

「なんで自分を傷つけるの!? なんで何もわかってくれないの!? なんで信じられないの!?」

「そよ、はなし、て……」

「離さない! 離すわけない! あの時、私たちは祥ちゃんのSOSに気付けなかった! 今度は絶対に離したりなんかしないから!」

「ど、う、して……」

「私たちが! 祥ちゃんのこと大好きだからに決まってるでしょ!? ほんっとに恥ずかしいから、こういうこと言わせないで欲しかったな! 祥ちゃん……ほんと、さ、そういうとこ……あるよね……う、うぁ、うううっ、うう」

 

 吐き出すだけ吐き出して、そよは嗚咽を漏らす。そよにしては珍しく大声で叫ぶものだから、祥子は驚いてただ抱きしめられたまま動けずにいる。

 暫く泣き続けたそよだったが、やがてぴたりと泣き止むと、顔を見せないように祥子から離れた。

 後ろを向いたまま、祥子に言う。

 

「はい次、立希ちゃん。私は言いたいことあとで時間をかけてたくさん言う。ここで全部とか言いたくない」

「あー、なんかお前らしいわ」

「は?」

「あ?」

「そよってこんなにガラの悪い声音が出せるんですのね……」

 

 後ろを向いたままのそよに、祥子は笑いかけた。

 

「ありがとう、そよ。わたくしのことを好きと言ってくれて。わたくしも貴方のことが大好きですわ」

「ーーーーッ! ……もういいから、そういうの。ほんとそういうのいいから。帰る」

「いや待って待って待ってそよりん!? 恥ずかしいのは分かったけど帰らないで!? 普通に今意味わからないムーブしてる自覚ある!?」

「うるさい退いて愛音ちゃん。私すぐここから出たい」

「顔真っ赤だもんね〜……でも今はダメ〜!」

 

 前に会った時とは違った表情を見せるそよに、祥子は思わず相好を崩す。そしてそのまま、まっすぐこちらを向いて待機している立希に向き合った。

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