【完結】神祥子のリトライ!   作:紫陽花の季節に会いましょう

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感想とかあれば是非。


3話:絶対に離れませんし離しません

 過程は省こう。大事なのは結果だ。

 親族会議は事前の根回しの結果、祥子率いる豊川宗家が一方的に勝利した。既に一度同じことをやっているため、誰に何をちらつかせればこちら側についてくれるかは熟知している。

 そこに定治の老獪な手練手管が加わった結果、豊川家の内紛はあっさりと終結した。そして、これからやるのはその総決算。ケジメだ。

 

「祥ちゃん、改まってどうしたの? Ave_Mujicaもあれ以降ずっと音沙汰なかったから、みんな心配してたんだよ!」

「睦のショックが大きいから休養させると皆さんに伝えた通りなのですが……にゃむがまた何か言ってますの?」

「あ、あれ? 祥ちゃんってにゃむちゃんの事名前で呼んでたっけ?」

「あー……まぁいいです。それより、乗ってください。貴方にとって大事な話になります」

 

 訝しみながらも初華は車へと乗り込んだ。リムジンの中で向かい合う2人。祥子は真剣な顔で初華を見て、手を取った。

 

「さ、祥ちゃん!?」

「最初に。初華、わたくしは何があっても貴方の味方です。貴方のことが大切で、貴方と一生ムジカをやっていく覚悟があります。それだけはどうか胸に留めてください」

「へ!? え、えええええええ!? 味方!? 大切!? 祥ちゃんいきなり何を!?」

「怖かったらわたくしの手を握っていて。絶対に貴方を傷つけるようなことは致しません。わたくしを信じて、初華」

「は、はひぃ♡」

 

 なんか思ったより素直に頷いてくれたことを疑問に思いつつ、2人を乗せたリムジンは豊川邸に到着した。

 

「こ、ここって……祥ちゃん……ここは」

「大丈夫。わたくしがいます」

 

 祥子が自信たっぷりに言うものだから、初華は出かかった不安を飲み込んで着いていく。

 大丈夫。

 隣には祥子がいる。

 この手の温もりがある限り、何が起こっても大丈夫。

 

「ただいま戻りました」

「……………ぁ」

 

 応接室に腰掛けていたのは定治と清告だ。初華にとって彼らは自身の罪を知る2人。今更になって恐怖が生まれる。

 祥子に自分のことが知られてしまう。そうしたら祥子は自分から離れていってしまう。なぜなら自分は、初華ではなく初音なのだ。

 

「かけたまえ。祥子。それに、初音」

「ち、ちがっ!」

 

 否定の言葉を出そうとしたが声を詰まらせ、そのままの勢いで祥子を見る。その目は語る。

 お願い、捨てないで。

 お願い、離れていかないで。

 お願い、嫌いにならないで。

 

 だが、祥子の表情はとても穏やかなものだった。初音を安心させるかのように、祥子は初音の手を強く握って微笑む。その姿が宗教画における女神のようで、初音は思わず赤面してしまった。

 

「大丈夫」

 

 祥子は言う。

 

「わたくしにとっての貴方は、お月様のように優しい初音。星が大好きで、珈琲が大好きで、歌もギターも上手くて、わたくしの為に一生懸命になってくれる三角初音」

「さ、き、ちゃん……」

「わたくしは貴方の人生を預かった身です。絶対に離れませんし離しません。だから、そんな顔をしないで。可愛い顔なのに勿体無いですわよ」

「さきちゃんーーッ!」

 

 涙が溢れる。

 全て奪ってしまったと思った。

 愛する祥子から家を、家族を、友達を、笑顔を。その全てを奪ってしまった自分が祥子の隣にいる資格があるのか。そう自問自答しながら、それでも自分を人間にしてくれた優しくて素敵な女の子から絶対に離れたくなかった。

 そばに居られれば良い。これ以上は望まないし、望めない。そう思っていたのに。

 

 抱き寄せられ、涙を流す。彼女の温もりと頭を撫でる優しい手つき、それら全てに幸せを感じる。

 祥子は自分を認めてくれた。

 見つけてくれた。

 三角初華ではなく三角初音を。

 恐らく全てを知った上で、それを全て受け入れて抱きしめてくれた。

 

(………私の人生、全部あげたい。大好きな祥ちゃんの為なら、全てを捧げられる。この命すらも)

 

 涙は止まるところを知らなかったけれど、その場にいる誰もそれを咎めることはない。優しい時間がいつまでも流れていく。

 

「ほら、良い加減泣き止んでください」

「あ、ありがと……。でも私、ほんとに、ほんとに嬉しくて……祥ちゃん、大好き」

「大袈裟ですわよ。泣き虫ね、初音は」

「はぁぁぅぅう♡ もう一回、もう一回呼んで! 私それ録音して目覚ましにするから!」

「その天に召されそうな顔を毎朝……?」

 

 ハンカチを差し出しながら、祥子は苦笑した。

 その瞬間、区切りがいいと思ったのか定治が咳払いをする。「そろそろいいかね」と目で訴えているのだが、本件については負い目が大きい為何も言えない。

 祥子は仕方ないですわねと言わんばかりに初音の手を引いてソファに座った。祥子には紅茶、初音には珈琲が出され、ようやく本題に進むこととなる。

 

「さてお祖父様。一言謝罪を頂きましょうか」

「…………」

「お祖父様が三角家を気に掛けていたのは知っています。別に今更あれしろこうしろと宣う気はありません。ですが折角の機会ですので筋を通されることを推奨します」

「………初音、すまなかった。親として、私はお前に詫びなければならない」

「………………頭を上げてください。気にしていないといえば嘘になりますが……でも、これだけは言いたいんです。私こそありがとうございます。私が今こうして祥ちゃんの隣に居られるのは貴方のお陰だから」

「……初音」

「貴方を父とは呼べないけれど、私は前を向いて生きていく。だから、見守っててくれませんか?」

 

 震える手。

 祥子の手を強く握る。

 強い、強い眼差しをもって定治へと向き合う。

 定治は一言、「そうか」と呟いた。

 

「祥ちゃんのお父さんも、ごめんなさい。私は、私のせいで……」

「違うんだよ初音ちゃん。あれは初音ちゃんとは関係のないことだったんだ。タイミングのせいで君がそう思い込んでしまったのも無理はないかもしれないが」

「え……?」

「初音、貴方はわたくしから何かを奪ってなどいませんわ。よしんば少し絡んでいていたとして、悪いのはお祖父様ですので貴方が気に病む必要はありません」

「で、でも!」

「初音と出会えた。初音を知ることができた。それだけで遠回りした価値はありました。もうこれからは奪わせない。わたくしからも、貴方からも」

 

 祥子の瞳に炎が灯るのを見た。

 初音は思わず呼吸を忘れる。

 ああ、そうだ。

 自分が惹かれたこの子は、誰もを照らすあまねく星々のような輝きを持ったすごい女の子なのだ。

 

「まずはAve_Mujica。どこかの誰かさんが仮面を剥いだせいで全て台無しです。何もかもを奪わせないためには貴方の力が必要です。手伝ってくれますわね? 初音」

 

 決意の籠った眼差しに、初音は即答で返す。

 

「うん、もちろん! 私の人生は祥ちゃんのものだから。私ももう、奪わせたりなんてしないから!」

 

 そう宣言した初音の顔は、泣き顔ではなくなっていた。

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