【完結】神祥子のリトライ!   作:紫陽花の季節に会いましょう

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吹っ切れろ神ぃ!


4話:バンドといえばこれですわ!

 Ave_Mujicaというバンドには沢山の問題があり、一度解散という事態にまで陥った原因もまたいくつかある。細かい点を数えればキリがないが、大きなもので5つ。

 ①バンドのビジョンを示せなかったこと

 ②メンバー間の信頼関係を築けなかったこと

 ③仕事量のキャパシティを見誤ったこと

 ④事務所との合意形成が不十分だったこと

 ⑤ワンマン経営だったこと

 ①〜⑤はそれぞれにゃむ、海鈴、睦、初華、祥子に影響を及ぼした。にゃむの離脱、海鈴の外野的な行動、睦の死、初華の疎外、祥子の疲弊。それぞれが重なって最悪の結果をもたらしたのが、これから3週間後に起こる福岡公演での解散劇だ。まずはこれを回避しなければならない。

 

 豊川家の掌握により④はなんとかなるだろう。sumimiには申し訳ないが、活動の在り方を考えさせてもらう。量より質。コストパフォーマンスの良い大きな仕事を捩じ込むことで、人気を落とさずに時間を作る戦略に打って出ることにした。

 まずこれで初華の時間的余裕のなさは解決だ。事務所の社長は祥子を見ると胃が痛くなる体になってしまったらしいが、意地でも休養など取らせない。

 

 そして⑤についても既に手を打ってある。親族会議の時点で音楽業界に精通した親族を味方に引き入れているため、それ経由で祥子の負担を減らすことにした。

 具体的には編曲家、脚本家、演出家などのプロフェッショナルを揃え、祥子の作業をブラッシュアップして貰う。祥子に余裕が生まれれば、①〜③に取り組む事もできる。

 

 と、言う事で、まず取り組んだのが、

 

「話し合いを始めますわ」

「は? 10日間もまともに会わなかったのにどういうこと? 武道館ライブで話題沸騰中なのにテレビの依頼全部断ったって聞いたよ。ふざけてんの? 注目度が上がってるのにチャンスを棒に振ってるんだよ?」

「あーあーあー、今の貴方の言葉はびっくりする程響かないですわ」

「はぁ!?」

 

 食ってかかるにゃむに、祥子はビシッと人差し指を突きつける。

 

「確かに物事には勢いがあります。波を逃せばいつ次の波に乗れるかわからない。それが芸能界という大海を生きる人間の常識です」

「分かってるなら!」

「ですがそれ、波に乗る側の意見です。こちらは波を作る側なので、わざわざ不安定な波に乗って差し上げる道理はございません」

「…………は?」

 

 心底不満そうににゃむは顔を歪める。話す内容もさることながら、何やら落ち着き払った祥子とその横で彼女をうっとりと眺める初華に対して底知れぬ不気味さを感じていた。

 

(なんか、少し前までのさきこじゃないんだけど……。ういことかもう神を見る視線じゃん、崇拝しちゃってるじゃん……)

 

「何わけのわからないことを言って」

「ですから、事務所含めて業界を動かせるわたくしが、わざわざ短い時間で仕事を詰め込んで自滅しなくてはいけない道理などないと言っています」

「…………………………へ?」

「報道で知ったでしょう? わたくしの素性を」

「……豊川グループのご令嬢、ね。ほんっと、さきこまで有名人だったとは思わなかった。で、豊川のご令嬢様に何ができるって?」

「ご令嬢ではなく、『次期当主』です。現在、この事務所についてはわたくしが経営権を禅譲されましたので、その意味では何でもできますわね」

「は!?」

「あ、実際はお父様に馬車馬の如く働いていただいてますので、わたくしには意外と余裕がありますわよ」

 

 働けニート、と言う事で清告はフル稼働である。むしろ何も考えず働かせた方が彼のためでもあるので、実の父親でありながらその辺は容赦なかった。

 

「はい! と言う事で無理な売り方は致しません! にゃむ、貴方が人生を預けた相手は貴方を安売りするつもりなど毛頭ないのです」

「……まじで、何者なのさきこ。ていうか名前……」

「加えて貴方には一生Ave_Mujicaをやって頂きますのでテキトーなバラエティで消費期限を早めるようなこともさせません。無人島ロケとか糞食らえですわ」

「糞とか言ったよこの令嬢……」

 

 既ににゃむのペースは祥子に崩された。呆れつつも祥子の持つカリスマ性に惹かれ始めている。

 

「既に賽は投げられました。我々を守る仮面はもうない」

 

 祥子の言葉に、睦がびくりと反応する。睦にとってこの現状は悪夢の始まりだ。それが分かっているからこそ、祥子は睦を見て、そして大胆不敵な笑みを浮かべる。

 

「なので開き直ることにしましょう。我々は我々の価値を極限まで高く見積もります。睦、貴方にモーティスという役回りを与えたのは何故だと思いますか?」

「え、と……? わからない……」

「貴方の魅力はその神秘性。喋らないことにこそ価値がある。それを無意味なバラエティで消化しようなどと言い出したのはどこのどなたなのでしょうね本当に」

 

 今思えば番組選びすら失敗に失敗を重ねている。どう考えても庇い切れる量ではないのに、あの時の自分は何を考えてこんな仕事を受けていたのか。

 睦の死は完全に自分の落ち度だ、と祥子は自戒する。自分を助けるために着いてきてくれた愛する半身を死へと追いやった自分に心底腹が立つ。

 決して償える罪ではない。この罪を背負ったまま祥子は生きていくことになる。けれど、この夢の中で、罪を背負わない選択肢を提示できるなら。

 

(夢から覚めた時、わたくしは睦にまた向き合えるかもしれない)

 

 今の睦がどんな睦なのか、祥子は知らない。けれどまた一から睦を知っていけばいい。一生やっていくのだ。何回だって何回だって睦を知って、睦を愛していけばいいのだ。

 不安そうな睦の頭を撫でる。大切な幼馴染、彼女のことは絶対に守ってみせる。失ってはならない、祥子にとっての半身なのだから。

 

「必ず。必ず貴方のことはわたくしが守ります。だから怖がらないで睦」

「さ、き……」

「睦は美少女かつ天才なので、その方面で無限に価値を釣り上げます。仕事は選んでなんぼ、ですわ」

「さき……恥ずかしい……やめて……」

「あら? 妹は姉に可愛がられるのが筋でしてよ?」

「ぅ……///」

 

 わしゃわしゃと睦を撫でる祥子。睦は睦で照れながらも気持ちよさそうに撫でられている。

 それを見て初華は羨ましそうな顔をしていた。それに気づいた祥子は初華に手招きをする。

 

「ほら、初華も」

「祥ちゃん大好き!」

「えぇ……なにこれ……」

 

 猫のように撫でられる睦と大型犬のように撫でられる初華。にゃむはドン引きしながらそれを眺めている。海鈴は未だ無表情のままだ。

 

「ういこもむーこも、さきこの幼馴染なんだっけ? このバンドで仲良しこよしでもするつもり? そんなんで芸能界は」

「なんですの? 貴方も撫でて欲しいならそう言えばいいですわ。手が4つあれば全員同時に出来るのですが、人間はままならないものですね」

「違うけど!?」

「では海鈴はいかがですか? わたくし、人を撫でることには自信がありますの」

「ではお言葉に甘えて」

「なんで!?!?」

 

 海鈴は騎士の如く跪く。

 祥子はそれを見て、彼女の頭に手をのせた。

 

「貴方もです、海鈴。貴方も、Ave_Mujicaなんですのよ」

「……? それは当たり前では」

「傷つくのは怖いですよね」

「ーーーーッ! な、何を言って」

 

 動揺する海鈴。

 祥子は続ける。

 

「貴方の恐れを振り払って差し上げましょう。Ave_Mujicaは壊れない。わたくしは貴方たちを信じています。だから貴方もわたくしを信じてください」

「わたし、は……」

「信頼は言葉ではなく行動によって。海鈴、貴方が信じられるような存在に必ずなってみせます。だから、安心して着いてきてください」

 

 祥子の言葉がすーっと染み入っていく。海鈴にとって一番欲しかった言葉が脳内に響く。だが裏切られることを恐れる彼女は、やはり簡単に祥子を信じることは出来ない。

 だからこそ、祥子から海鈴へ言葉を授ける。それこそが誠意であり、心の底からの信頼だ。

 

「さて、それではツアーに向けてやるべきことをやりましょう」

「やるべきこと……?」

「えぇ。バンドといえばこれですわ!」

 

 祥子はタブレットを皆に配った。そこには、

『Ave_Mujica合宿計画』と書かれていた。

 

「え…………」

「学校は公欠してもらいます。わたくし夢でしたの、バンドメンバーで合宿をするのが」

「えぇ………」

「いいですね、バンドメンバーで合宿」

「祥ちゃんとお泊まり♡」

「祥と泊まり」

 

 神の強引さに、にゃむだけはドン引きしていたが、それ以外の3人は既に乗り気になっていた。

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