【完結】神祥子のリトライ!   作:紫陽花の季節に会いましょう

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青春ムジカ!


5話:Ave_Mujica合宿計画

「なに、ここ……」

「何って、合宿先の別荘ですわ。今更何を驚くことがありますの?」

「いや驚くから! 豪邸じゃん! よくこんな旅館取れたね!?」

「豊川家の別荘の一つですので、普通にタダですわよ。お荷物、お願いします」

「畏まりました」

「お手伝いさんいるよね!? 金持ちこっわ!」

「さっきから何ですの? バラエティならわたくしが選定したものしか出しませんわよ?」

「リアクション芸だと思われてる!? これ素だから、素で驚いてるから!」

 

 何やら喚き散らすにゃむを見て訝しげな表情を浮かべる祥子。はて、にゃむはこんなに面白いリアクションをとってくれる人だっただろうか?

 

「部屋割りとスケジュールはお渡ししたタブレットを確認してください。練習は2時間後です。荷物を置いたら昼食にいたしましょう」

「うわぁああ! 綺麗なお部屋! 海も見えるよ!」

「………………泳げる?」

「流石に9月の海はお勧めしませんわね」

 

 昼食は別荘のシェフによる海の幸をふんだんに使ったランチである。

 気後れしながら食べるにゃむと、やはり少食の海鈴。楽しそうな初華と睦。そんな中、祥子が切り出す。

 

「さて、耳だけ傾けてくださいまし。この合宿の趣旨ですが……」

 

 ごくりと唾を飲み込むにゃむと海鈴。

 

「Ave_Mujicaで親交を深めようの会ですわ」

「…………………おいこら」

「親交、いい言葉ですね」

「はいストップ! 今ツッコミあたしだけ! あたしだけだから言わせてもらうけどさ! そんなことしてる場合!? 学生のお遊びバンドがやりたいんだったら、あたしムジカ抜けるか」

「ご自分のことばかりですのね、にゃむ」

「あたしの台詞なんですけど!?!?」

 

 捲し立てるにゃむに対してどこまでも冷静な祥子は、にこりと笑って答える。

 

「脱退など一切認めません。それに、これは必要なことなのです」

「はあ?」

「Ave_Mujicaはプロ集団、商業バンドです。個々の能力だけでやっていける人員を集めて組んだバンド。現状、全員がわたくしにとっての"傭兵"に過ぎません」

「……それはそうだけど」

「一生Ave_Mujicaをやるにあたり、互いのパーソナリティを知らないで乗り切っていけるほどこの世界は甘くありません。全員が全員その価値を示しつつ、バンド内で互助関係を築く必要に迫られています」

 

 思えば出だしから間違っていたと思う。

 金と数字を生み出す最強の個人を集めたバンド。金と数字で繋がるバンドは確かに強いが、それが得られなくなった瞬間に全てが崩れ落ちる。

 それを分かっていながら一生などという言葉で彼女らを縛りつけようとした自分のなんと浅はかなことか。

 

(わたくしはわたくしのやり方でバンドを守っていく。燈、貴方のようには出来ないかもしれない。けれどその努力を放棄したくない)

 

「無理に打ち解けろとは言いません。ですが、打ち解ける演技ができるようになるくらいには互いを知ってください。一部メンバーならともかく全員不仲のバンドなど今時ウケるはずもありませんわ」

「………………ここにきて正論」

「それに今回は演奏指導・演技指導の方を呼んでいます。この合宿で全て仕上げる覚悟で人員を揃えていますので、貴方たちには意地でも強靭なバンドメンバーになっていただきますわ」

 

 逃げ場なし。

 全て揃えた状態で合宿を決行した祥子に死角はない。にゃむは諦めて……というか合宿参加のメリットの大きさを理解して再び席に座る。

 

 その後はバンド練習だ。

 個人練はしない。ただひたすらに全体練習、それも本番を想定したパフォーマンス有りの練習だ。

 練習場所はコンサートホールだ。実際の舞台をイメージし、広い空間での演奏で本番のクオリティを意識させる。演奏指導は祥子も行うが、音響面でのバランスやパフォーマンスも含めるとバンドの外の目が必要になる。

 

「ドラムはまだ慣れてないみたいだから、パフォーマンス面より演奏重視ね。

 リードギター、動きが硬い。演技でいいからノッてみてくれるかい?」

「はい……」

「……わかった」

「ベースは言うことないけど、だからこそ他メンバーをカバーして。特にキメの部分はベースを芯にすると多分合うようになるわ、バンドの芯としての自覚を持って欲しい。

 ボーカル、表現力をもっと高めて。あんたの力はそんなもんじゃない」

「わかりました」

「うぅ、わかりました!」

「んで祥、お前は周り気にし過ぎ。総指揮なのはわかるけどお前もプレイヤーな以上、まずは自分だ。もっと周りを信頼したまえ。私を信頼してくれたように」

「分かっていますわ」

 

 祥子は素直に頷く。

 演奏指導、演技指導ともに古い友人(と言っても結構年上)のプロに頼んである。実力は折り紙つきだが、その話をしたら睦と初華は何故かムスッとしていた。

 

「祥……幼馴染まだいるの?」

「また知らない女の子が出てきちゃったよお……」

「何泣いてるんですの……?」

 

 休憩を挟んで次は演技指導だ。

 クタクタになるまで演技を続ける。

 そんな中、睦の演技を見ながら祥子はぼーっと考え事をしていた。

 

(モーティスは、今もあの子の中にいる)

 

 モーティス。

 睦の別人格、なのだが祥子はそれを認めていない。彼女もまた、紛れもなく若葉睦だ。幼い頃から睦の色んな側面を見てきた祥子は、睦に対して多重人格という認識を持っていない。どんな彼女も睦、だからモーティスも睦。

 あの時、祥子に対して不満をぶつけるように脅かしてきた少女の本心は、幼い頃から少しずつ祥子に抱いていた不満の現れだったのだろう。少なくとも祥子はそう見ている。

 

 そしてそれゆえに祥子は1つ、決定的な確信を抱いていた。

 

(モーティスを出さないことは現時点では不可能でしょうね)

 

 睦が限界値を超えると代わりに出てくるのがモーティスだ。そして睦の限界値は……存外低い。何がきっかけで彼女と切り替わってしまうか、それを未来永劫に渡って注視し続けるのは現実的ではない。

 だから睦には才能を愛して貰わなくてはいけない。睦個人がさまざまな顔を持っている以上、その芯になり得るのは人格ではなく才能だ。

 だが睦は自身の才能を愛すどころか気付けていない。故にこのままでは崩壊するのは必然なのだ。

 

「祥?」

「……へ? あ、ああ。すみません、ぼーっとしてしまいました。ええっと、そろそろお時間ですわね。ありがとうございます、明日もよろしくお願いしますわね?」

「はいはーい! 愛しの祥ちゃまの頼みだもの! いつでも大歓迎なのさなのさ!」

 

 ニカっと笑う演技指導の幼馴染。何故か場がピリピリしている気がする……。

 

◇◆◇

 

「祥、お風呂いこ」

「さ、祥ちゃんお風呂一緒に行こ!」

「え、ええ、構いませんが……折角ですので5人でいかがでしょう? 裸の付き合いは古くからある日本の伝統文化ですわ」

「え、いやあたしは」

「はいつべこべ言わずにレッツラゴーですわ! 睦、にゃむを引っ張ってくださいまし!」

「ぎぃああああ!!! 力強い! むーこ思ったよりフィジカルある!」

 

 無理やり大浴場に連れて行かれたにゃむ。

 そこでにゃむ含めメンバーは凄まじいものを見ることになる。

 

「え、さきこデカ……」

「わ、わぁ、わぁあぁあぁぁあ……見てない! 見てないから!」

「一緒に入ってないうちに……何が……あったの……」

「私の尻も負けていませんが」

「なんですのジロジロと……。ほら、入りますわよ」

 

 もはやスパ施設くらいの様々な湯がある空間に祥子と睦を除く3名は唖然とする。睦は平然と祥子の手を引いて、催促をした。

 

「祥、洗って」

「ええ、勿論ですわ」

 

 睦の髪を丁寧に洗っていく。こういうことをするのは随分と久しぶりだった。現実の方でも、また洗わせてくれる日が来るのだろうか。

 

(本当に都合の良い夢ですわね。あの子を壊したわたくしが、またこんなふうに触れているだなんて)

「祥? 考えごと?」

「え、ええ。すみません。またぼーっとしていました。お湯で流しますわよ」

 

 慌てる祥子。そして祥子を鏡越しに無言で見つめる睦と、後ろで羨ましそうに尻尾を振ってる初華。

 初華の髪を洗っている瞬間も、海鈴の身体を誉めている瞬間も、にゃむのスキンケア講習を受けている最中も、祥子は睦についてずっと考えていた。

 

 睦の望むこととは一体なんなのか。

 祥子を想ってAve_Mujicaについて来てくれたこの少女は、最終的に何を望むのか。

 かつてにゃむは言った。

 ーー睦はAve_Mujicaに居てはいけない。

 睦はもっと上を目指せる存在だ。自分如きが鳥籠に閉じ込めていて良い存在ではない。祥子は今、心底そう思っている。

 

(答えなんて……でませんわ)

 

 睦を見て苦しそうな顔をする祥子。そんな祥子の視線に気づき、睦は何やら考え込むようにしていたが、ついぞその件について会話することなく入浴イベントは過ぎていった。

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