前回の予告通り、とうとう岩手戦です。
実は今回で第四章26話目なのですが、もう少し続きます。
「いいか、みんな?絶対にここで壱式を仕留めるぞ。この暗殺の成否が、全ての命運を分けると言っても過言ではない」
八代が、半ば脅しをかけるかのようにして皆に向かって言い放つ。
「もちろん次善の策もあるにはあるが、ここで仕留められると楽で手っ取り早い。無理に気負わず、程々の緊張感を持って事に臨んでくれ」
「なかなかキツイこと言うなぁ。その程々ってのがどれだけ難しいか...」
「まぁ最終的に仕留められれば何でも良しだ。ささっと仕留めて帰ろうぜ」
「そ、そうだな...」
「それじゃあ始めよう。暗殺作戦開始だ」
俺がそう言うと、葉山が狙撃銃を岩手県庁に向ける。
俺らが今いるところは、県庁から数百メートルほど離れた歴史文化館の屋上である。鳥栖の透明化のハウリングを使って姿を隠しながら葉山の転移でここまで移動したため、壱式はここに俺らがいることを知らない。それゆえに、今は暴風が一切吹き荒れておらず気流は非常に安定している。
今なら、暴風に邪魔されずに狙撃が出来る。知事室があるのは岩手県庁の南側。この位置からなら十分狙える。この一発、外すわけにはいかない。葉山は呼吸を止めて手振れを抑え、慎重に照準を合わせ...
パシュッ、とサプレッサー越しの小さな発射音が鳴り、銃弾が知事室の中の壱式目掛けて飛び出す。
しかし、サプレッサーはほんの気休めでしかなかった。壱式は暴風のハウリングを持っている。その力によって、高速で飛翔し空気を切り裂く銃弾の検知が可能であるため、銃弾が発射されてすぐに壱式は狙撃に気が付いた。
だが、暴風での銃弾の対処は困難だ。暴風が集中しやすい屋内ならともかく、屋外を飛ぶ銃弾を暴風で受け止めるなり軌道を逸らして躱し切ることは、可能ではあるのだろうが難しいだろう。それも、発射に気づいてからではリアクションタイム的にも厳しいものがあるだろう。発射タイミングを目で見て確認できていたなら話は別だろうが、今回は間に合わない。
……だから、奴はもう一つのハウリングで対処を図ろうとした。
奴が持つもう一つのハウリング...暴風を手に入れる前に元々持っていた空間圧縮のハウリングによって、飛んでくる銃弾を空間ごと圧縮して破壊し、対処しようとする。
「今だ!!」
壱式は窓ガラスと壁を巻き込みながら空間を圧縮し、銃弾を潰しにかかる。銃弾は圧縮されて形を変え、推進力を失い真下へ落下する...はずだった。
圧縮が起こる直前、俺は那珂川の背中を叩いていた。五感強化のハウリングによってスローモーションになった視界を活用し、ベストタイミングでの合図を送ると即座に那珂川はハウリングを起動した。
物質修復のハウリング...それにより、潰れかけた銃弾は元の形に修復される。空間圧縮によって潰されそうになる側から修復がなされ、銃弾は一度も姿を変えることなく空間圧縮の領域を突破した。
「っ、外した...⁉︎」
空間圧縮を抜け出した銃弾は、壱式の肩に命中した。心臓であったり頭といった、致命傷になりうるような位置ではない。それゆえに葉山は驚愕の表情を浮かべる。
「ギリギリハウリングで軌道を変えてきやがったか...!仕方ない、プランBを...っ⁉︎」
一撃で仕留めることができなかったため、次の作戦に写ろうとしたその時だった。
突如として県庁を中心として暴風が吹き荒れ始めた。そりゃ、攻撃を喰らえばそうするわな..!
「振り落とされんなよお前ら...!奴は絶対にここで仕留めるぞ...!」
壱式は肩に銃弾を喰らった。治癒のハウリングをこっちが持っている以上、奴らにはその傷を治す手段なんてないのだからこのまま放置でもいずれ死ぬのではないかと思う人もいるかもしれないが、それではダメなのだ。
もちろん、そのまま死んでくれるのならそれで良い。しかし、放置した場合確実に他のアンチが壱式を殺してハウリングを受け継ぐことを選ぶだろう。周囲の都道府県は全て攻略済みであるため他の県のアンチが現れることはほとんど無いだろうが、自らの配下である弐式や参式に自らを殺させることで継承をする可能性は残っている。
親が死んだら子も死ぬのだから、弐式が壱式を殺したらその瞬間に死んでしまうのではないか...とも思えるが、もしも新たな壱式は親が死んでいても生き残るとしたらまずいことになるため、放置はできない。しっかり俺らの誰かがトドメを刺して、しっかりハウリングを奪う必要がある。
「次はお前だ!やれ!三次!!」
「了解です...!」
三次が暴風の中立ち上がり、ハウリングを起動しながら腰の辺りで構えた刀を抜く。
そして、納刀。
「カ...ハッ...」
次の瞬間、三次は倒れ込んだ。
「っ、大丈夫か⁉︎」
「ひ、疲労、が...」
過程省略のハウリングを行使することによって生じる、省略した過程で本来受けるはずだった疲労の急速発露。
今三次は、刀を抜いてから飛行のハウリングを起動し、空を飛んで岩手県庁の知事室に近づき、壱式が空間圧縮で破壊した壁から知事室に入って壱式を刀で切るという一連の動きを全て省略した。飛行のハウリングを得たことによって、俺が以前長野でやったような、障壁で階段を作って駆け上がるといったようなことをせずに遠距離攻撃が可能になった...だから、この攻撃をこの作戦に組み込んだ。
しかし、誤算がここで一つ。それは、暴風による体力消耗が思っていた以上に凄まじかったこと。ただ真っ直ぐ飛ぶことが出来ず、左右や後方に薙ぎ払われそうになる暴風に逆らって直進しなければならなくなり想定以上に消耗が激しかった。
「すんません...一発しか、切り込めなかった...!」
「一度は切れたんだろ?なら十分だ...!あとは間借りに集中していてくれ!」
「了、解...」
……さて。ひとまず、遠距離から確実に叩き込める攻撃は叩き込んだ。出来ればこの二つの攻撃で仕留めたかったところではあるが、仕方は無い。倒せはしなかったが、削るだけ削れたからな。あとは...
「俺がもぎ取る...!」
俺は殺されてもハウリングを奪われないという意味で一番リスクが低い駒で、なおかつ間借りによって複数のハウリングを操ることができる最強の駒。みんなが削ってくれて出来上がった最高のお膳立てを、俺が全て有意味なことにしてみせる...!
「全部、借りるぞ!」
この場にいる者、そして歴史文化館の中で待機している他のハウリング能力者のハウリングも全て借り、俺は歴史文化館の屋根の上から飛び降りる。そして、転移のハウリングを起動して知事室の中に出現する。
「チッ、もう逃げ出したか...!逃げてんじゃねぇぞ!」
開け放たれていた扉から知事室の外に出る。
その次の瞬間、待ち構えていたかのように現れてた複数の上位個体が俺に向けて暴風を放ってきた。
「突っ切る...よりもこっちの方が何倍も良い!」
雷身体強化のハウリングを使えば突破できそうだが、俺はその選択肢を捨てる。そして物質透過のハウリングを起動して床をすり抜け、二階へと降りる。
「これで奴らは動けない...!」
床をすり抜ける直前、俺は志摩の重複動作を上位個体達にかけていた。このハウリングによって、上位個体たちはあの位置で風を放つ動作をしばらく繰り返すことになる。攻撃を回避しながら敵の攻撃も封じる...下手に突っ切るよりも何倍も良い選択だ。
「さっさと壱式を追わねぇと...逃げ道も塞いで...!」
西条のハウリングを起動して周囲に罠を貼っていく。ただし、この罠には殺傷能力はない。まず見た目をめちゃくちゃ分かりやすくしてそこに罠があることを大っぴらに見せつける。
これによってここは通れないという意識を壱式や他のアンチに植え付けて行動範囲を絞る。もしアンチが触れたとしても、それでも攻撃は生じさせない。ただ、俺にだけ分かる様に罠が発動したこととどんな背格好の奴が触れたのかだけ情報が送られてくるようになっている。身体特徴によって壱式か否かを判別できるようになっているため、これで位置の特定も可能なわけだ。
一度触れた時に何も起こらなかったのを見れば、壱式は罠を無視して逃げ始めるはずだ。そうすれば、常に位置を特定できるようになる。触れられなくても消去法で特定できるし、触れてくれば即座にわかるって寸法だ。これで、もし入れ違いになってしまったり、永遠と見つけられないような状況に陥ってもいずれ追いつける...!
「逃げるなら多分ここなはず...!」
俺は壱式が使いそうな階段に向かって走り、そこでハウリングを起動する。
一つは、奈良で天川が手に入れた音を操るハウリング。もう一つが加古川の五感強化だ。一つ上の階では重複行動を喰らった上位個体たちが暴風を吹かせているためそのままでは何も聞こえないが、音を操って邪魔な風切り音を除外し、微かな足音を五感強化で聞き取ることで壱式がどこに向かったのかを感じ取る。
「……上の...五階か」
足音、反響音、階段の振動などからおおよその位置を割り出した俺は、すぐさま階段を駆け上がる。
「ここか!」
罠を貼りながら階段を登った俺は五階に降り立つ。すると視界の隅に、扉を開けて部屋の中に入っていく壱式の姿を捉えた。
「どうせ罠だから...!」
武器生成操作のハウリングで爆弾を生み出し、物体射出で壱式が入っていった部屋に向けて射出、扉と壁を爆散させる。
「やっぱりね!」
破壊された壁から部屋の中を伺うと、その部屋には壱式はおらず、抉り取られたかのように破壊された壁の向こう側...隣の部屋に壱式がいた。馬鹿正直に扉を開けて入ってきたところを、隣の部屋から空間圧縮で殺す算段だったのだろう。
「っ...!」
俺が部屋の外から追尾弾のハウリングで攻撃すると、壱式はギョッとした表情を浮かべて壁の裏に隠れた。追尾弾は直線的に壱式を追尾して、壁にぶつかり消滅する。
「逃がさねぇよ!」
転移のハウリングで壱式が逃げ込んだ部屋に飛ぶ。そして、壱式の姿を視認したその直後に宮津の持つ京都の行動規制を発動して壱式の身動きを封じる。
「ぐっ...っ!」
「おぐっ⁉︎」
壱式は横目で俺を見ると、暴風のハウリングで俺の身体を壁に叩きつけた。
「まずっ...!」
このままだと空間圧縮の攻撃が来る。そう思った俺は、物質透過のハウリングで叩きつけられた壁をすり抜け...すぐさま転移のハウリングで元いた部屋に飛んだ。
壁をすり抜ければ、壱式はおそらく壁越しに隣の部屋を丸ごと潰して俺を殺そうとするだろうからだ。これで、奴の裏をかけたはず...!
「潰れろ...!」
俺の視界から一度消えたことで行動規制の効力が無くなり動けるようになった壱式は、ハウリングを発動させる。空間が歪み、全てがひしゃげていく。俺が逃げ込んだと思い込んでいる部屋は、何もかもを圧縮されて押しつぶされた。
「血も肉片も無い...⁉︎」
出来れば勘付かれる前に仕留めたかったが、俺が隣の部屋に居なかったことに気がついてしまったようだ。下手なことをされる前に...!
「ッ、そこ!」
雷身体強化で高速で接近を試みると、気流の急変化を感じ取った壱式が空間圧縮を振り向きながら放ってきた。俺はそれを、足が壊れかねない急な方向転換で回避すると、風に逆らいながら地面を蹴って壱式に飛びつき、手から雷を壱式に流し込む...!
「グアァッ⁉︎」
俺が狙っているのはコイツの気絶。殺してしまったら俺にハウリングが移ってしまうから、俺はコイツをあまり傷つけることができない、雷で意識を飛ばせればいいのだが...
「く、そがァ!」
「っ⁉︎」
壱式は雷を耐え切り、俺を掴むとそのまま投げ飛ばしてきた。掴んだ際の摩擦熱を幻痛の熱で増幅させてやるが...コイツ、アドレナリンで痛みを無視してやがるのか...⁉︎肩に銃弾を喰らって、三次に一度斬られてるってのにどんな耐久力してんだよ...!
つーかまずい、空間圧縮がくる...!
「……コ゜ッ⁉︎」
空間圧縮とはまた別の、周囲に対する違和感。肺から勝手に漏れ出る空気。全身の水分が沸騰しそうな感覚。
俺は、瞬時に転移のハウリングを起動して部屋の外の廊下に飛び出した。
「や、ヤバすぎ...俺でもあんま考えないことを...!」
壱式は、暴風のハウリングを使って俺の周囲の空気を全て外側に押し流してしまった。それによって生じた真空により、肺の中の空気は押し出され、沸点の降下により全身の水分が沸騰しかけたりと、メチャクチャな状況に陥りかけた。治癒のハウリングもあるため即座に死ぬことは無いだろうが、あのままだと数秒で酸欠を起こして意識を失い、そのまま空間圧縮で仕留められていただろう。危ないところだった...!
「……って、マジかよ...!」
壱式は自ら知事室の扉を開け放つと、俺に向けて再度真空攻撃を仕掛けてきた。これを連発すればいずれ勝てるだろうと踏んだようだ。
「クソッ...!」
こっちは回避の一手を取るしかない。まずは俺の命が大優先だ。物質透過のハウリングで床をすり抜け、下の階へと移動する。
「下手に近づけば殺られる...!」
並みの遠距離攻撃では暴風や空間圧縮で無効化される。行動規制などで動きを封じたとしても、壱式はその場を動かずにハウリングを扱えるためほぼ意味をなさない。近づけば、真空に晒されて意識を奪われる...パッと思いつく作戦じゃ対処は無理...!
「なら、最終手段...!」
俺はそう呟くと、再度物質透過を発動して下の階に降りて壱式から距離を取る。今度は俺が追われる側...しかし、階段には罠を貼ってあるため壱式はそこを通れないと思い込み回り道を余儀なくされるから、追いつくまでには時間がかかる。万が一空間圧縮で床をぶち破って追いかけてきたとしても、先程打ち込んだ増幅熱のおかげで位置は探知できる。見つからずに逃げることはできる...!
一階まで降りた俺は、まだ五階に壱式がいることを確認してから準備を始める。壱式を追いかけるために罠を貼った際に、同時並行で行っていた準備の続きだ。最終手段として準備を進めていたが、こりゃやらなきゃ勝てない...!
「こ、こんだけ設置すれば...!」
暴風のハウリングは、実は屋外よりも屋内の方が厄介だ。それは、少しの空気の移動によってその空間全体の気流を乱すことが可能なため、単純に屋外で風を吹かせるよりも容易により強い暴風を吹かせることができるからだ。元から吹いている自然風を考慮しなくて良いのも理由の一つで、おそらく先ほどの真空攻撃も屋内の方が作りやすいはずだ。
だからこそ、壱式を屋外に引き摺り出す必要があった。しかし、壱式を掴んで外に放り投げるわけにもいかない。
それゆえに、発想の転換。壱式を屋外に引き摺り出すのではなく...
「建物そのものを破壊して強制的に屋外に...!!」
進めていた準備とは爆弾の設置。門川の武器生成操作で生み出した爆弾は既に岩手県庁下層の至る所に設置されており、それらの起爆スイッチを、ハウリングによる操作で...今、押した。
「テメェなら死なねぇって信じてるぜ?」
起爆させた瞬間に、俺は上空へと転移した。爆破による県庁崩落に巻き込まれないようにだ。
そして、俺は見た。崩落する県庁の中心部分...ちょうど壱式のいる辺りが徐々に歪められていくところを。吹き荒れる暴風によって瓦礫が外へと跳ね除けられていくところを。
「やっぱ、そうなるよなァ!」
崩落を終えた県庁の中心で、壱式は立ち続けていた。暴風と空間圧縮のハウリングを行使すれば、崩落の中生き残ることは可能だろうと踏んでいたが、ちゃんと生き残ってくれたな。
「これでテメェの隠れ場所は無い!決着をつけるぞ壱式ィ!」
俺がそう叫ぶと、聞こえたわけじゃなかろうに壱式は空から落ちている俺を見上げた。そして、近くに落ちていた瓦礫を暴風で持ち上げ、そのまま俺に向けて射出してくる。
「無駄無駄!!」
直線的に飛んでくる瓦礫を、飛行のハウリングによって左右に動くことで回避する。そしてお返しとばかりに追尾弾を放って壱式に攻撃を仕掛ける。
「まぁ止められるわな。だが、俺にだけ構ってていいのかなァ?」
壱式は俺に意識を集中させてしまっており、周囲への警戒を怠っていた。すでに県庁は崩壊しており、全方位どの方向から攻撃が飛んできてもおかしくないというのに、だ。
「ッ、アグァッ!!!」
壱式の足に穴が開き、血が噴き出す。おそらく葉山の狙撃だろう。気づくのに遅れて逸らせられなかったのか、それともなんとか逸らしたのに間に合わず被弾したのかはわからないが、この一撃はとても大きい。この一撃によって、最後に壱式に傷を負わせたのが葉山ということになる。おそらく、もうそろそろ壱式も限界であろう。出血多量で失血死すれば、最後に攻撃した葉山にハウリングが移るはずだ。
あとは、壱式の攻撃を避け続けて失血死を待てばいい...が、まだ警戒は緩められない。
「やっぱ、出てくるわな...!」
県庁の瓦礫の中から、アンチが何体か這い出てきた。壱式を自ら襲わせて殺させることで、壱式の権限を移して延命を図ろうという魂胆だろう。
「させるかよ!!」
ドンッ!と着地した俺は、雷身体強化で加速して周囲のアンチを刀で切り飛ばしていく。
「継承はさせねぇ!」
続々と這い出てくるアンチを、出てくる前に物質透過のハウリングを用いることで瓦礫越しに切断して仕留めていく。県庁崩落の最中に生じた瓦礫同士の摩擦は、視認できた分だけではあるが増幅させてある。そのため、瓦礫の中に埋もれているアンチの居場所は幻痛の熱による熱探知によって割り出せている。だから、壱式を襲おうとするアンチは事前にすべて殺せる...!
「敵に守られている気分はどうだァ壱式ィ!」
殺さないといけない相手を守るというとても奇妙な状況だが、これが最適解。流石にニ度目の狙撃はもう通用しないだろうから、俺は手を出さずに失血死を狙うのが一番...!追い込んだぞ...!
「こ、の...!」
壱式は苦悶の表情を浮かべている。いい加減限界だろ...さっさと死にな!
「ど、どうせ死ぬのなら...!」
次の瞬間、周囲の空間がゆがむような感覚を覚えた。空間圧縮...!最後に俺だけでも殺そうってか...!
「いまさらそんな攻撃喰らうかよ!」
後方に飛びのき空間圧縮の範囲から逃れる。壱式の近くにはもうアンチはいない。一度離れた隙に襲われることもない...!
……その判断自体は間違っていなかった。だが...
「なっ...なっ!?」
空間圧縮のハウリングは、壱式を中心として発動された。そうなれば当然壱式も巻き込まれるわけで...壱式の身体は一瞬で圧縮されて即死した。
「自滅...?」
刺し違えてでも俺を殺す気だった?いや、だったら自身を空間圧縮の中心にする必要はない。
「ま、さか...!おい葉山!!壱式の死体に光は見えるか!?」
あることに気が付いた俺は、通信機に向かって叫んだ。
『い、いや、見えてないぞ。お前にも見えてないのか?』
「ああ...最悪だ」
『え...?』
「あいつ、自殺しやがった...!自死でハウリングを俺らに渡すことなく消滅させやがった!!」
ハウリング能力は能力者を殺した相手に移る。それはアンチからアンチでも変わらない。しかし、自らが死の原因だとしたら?ハウリング能力が移るはずの相手は死んでいる。そうなれば、ハウリング能力は行き場をなくして消滅する...!
『ま、マジかよ...!そんなことできたのか...!』
「俺も想定外だ。暴風と空間圧縮...強力な攻撃手段を得られなかったのはめちゃくちゃ痛いぞ...!」
あの壱式も、それがわかっていて自死を選んだのだろう。このハウリングは絶対に渡してはならない。渡してしまったら仲間の死ぬ確率が大幅に上がってしまう。奪われるくらいなら、消滅させてしまった方が何倍もマシ...俺もその仕様を知っていたならばやっていそうな行動だな。
「……クソッ。割り切るしかないか...自死で復活するとかじゃないだけまだマシ...」
自死による壱式の権限の移動で死に体だった肉体がすべて治る、とかいうことが起こっていた方がもっと面倒だったからな。そうじゃないだけまだよかった...そう思うしかない。
こうして、岩手での戦いは何もリターンを得ることができずに終わってしまったのだった。
次善の策(自らが特攻する脳筋作戦)というね...カリヤくんらしいといえばらしいが、もっといい作戦はなかったんか...?
まぁ、実はまだ手に入れていないハウリングの中に空間圧縮に対抗できるものがあるので、それを手に入れられていれば話はまた別だったでしょう。
そんなわけで、次回はそのハウリングが登場します。