神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8235字。

今回は新潟です。


幻影空間の思考誘導

「け、県庁の中が異空間化してやがる...」

 

俺は新潟の県庁に突入した...のだが、建物の内部は外見よりもとても広く、また、とても異質で気分を崩すような見た目になっていた。

 

「あの二つのハウリングの合わせ技か...?」

 

新潟の壱式は、富山、石川、福井の三県からハウリング能力を奪い取っていた。富山からは空間の拡張のハウリングを、福井からは幻影のハウリングを奪ったらしい。この異様な空間は、その二つのハウリングによるものなのだろう。

 

ちなみに石川は物体の運動方向を反転させる反射能力で、肝心の新潟は思考の共有のハウリングらしい。物理的な攻撃力を持つハウリングは物体反射だけ。岩手の超攻撃的なハウリングの組み合わせとはまるで違うな。

 

……つーか、さ。空間拡張のハウリングなんてあったんだね...それがあったら、空間圧縮のハウリングを打ち消せたんじゃないのか?そうだとすれば、もっと楽に岩手攻略が出来たような...

 

ま、まぁ?その力があったとしても暴風による真空生成には対処できないし?あれだけの戦力が揃ってたんだし、十分なほどの手数はあったんだから過剰だよ過剰...空間拡張があったら、最後の自殺を止められたのでは?とか考えちゃダメ...!

 

「ああもう目の前に集中!無駄なこと考えんな!...つっても、見てたら精神崩しそうなんだよなぁこの空間...」

 

幻影のハウリングによるものなのだろうが、この異様な空間を見ていると少しずつ気分が悪くなってくる。

 

「すでに精神狂乱の壱式は倒したってのに...」

 

こちらの精神に干渉してくるハウリングを持った壱式は既に討伐されている。たしか、宮城の壱式だったか...石巻という女が精神干渉に耐えきって壱式を殺したって話を聞いた気がする。

 

「まさか幻影でこちらの精神を削ってこようとするとはね...さて、ここからどうしたものか...」

 

半ば異空間と化したこの県庁内を闇雲に歩くのは危険だ。壱式のいる知事室に行きたいが、事前に見た見取り図が何の役にも立っていないため自力で探す必要がある...つーか、本当に知事室にいるのか?そこからもう怪しいが。

 

「……ひとまず、見える範囲のアンチを殲滅する...!」

 

広がった空間の奥の方からアンチが近づいてきていた。そいつらに俺は原点回帰の水鉄砲を向ける。

 

奴らの持つハウリングの中には物体反射がある。触れたものしか運動方向の反転をすることができないらしいが、もし仮に触れたその瞬間に反射ができるとなると、奴らに銃は効かないどころか反射によって自らを傷つけかねない危険な武器となってしまう。

 

だから、水鉄砲を使う。物質透過のハウリングで水を通り抜けられないように、水に対しては物体反射のハウリングを使うことができない。触れた側から溶かせられる水がこの対面では最適だった。

 

「無駄遣い出来ないから...」

 

水鉄砲を向けたものの、まだ撃たない。水の補給ができる保証がどこにもないからだ。この異空間内から脱出することができるかもわからない。出来るだけ水は温存し、別の攻撃で戦う必要がある...が、物体反射のせいで攻撃手段は限られている。

 

俺の場合は...

 

「熱で苦しみな!」

 

アンチが歩く際に床との摩擦で生じた摩擦熱を増幅させる。見たところ県庁内には上位個体しかいない。俺の熱が特に刺さるはず...

 

「……チッ、やっぱ混ざってやがるよな...!」

 

俺は目に見えている範囲の全てのアンチの摩擦熱を増幅させたはずなのだが、そのうちの数体だけ、なぜか幻痛の熱が発動しなかった。

 

考えられる可能性は一つ。それは、幻影のハウリングによってそこにアンチがいると誤認させられたというものだ。

 

「幻痛の熱で見分けられるのは僥倖だな...ひとまず、本物は死にな!」

 

俺は幻痛の熱を発動できた実在するアンチに近づくと、勢いよく蹴りを叩き込んだ。

 

その瞬間、俺の足は逆方向に跳ね飛ばされて身体がよろけてしまう。

 

「おっとと、まぁこうなるわな...けど、まずダウンだ」

 

物体反射によって弾き飛ばされたものの、攻撃の衝撃そのものはそのままアンチに叩き込まれている。側頭部にクリーンヒットしたためその衝撃で脳が揺さぶれてるアンチはドサリと倒れ込んだ。

 

「次...!」

 

摩擦熱を脚に溜め込みながら蹴りを別のアンチに叩き込む。先ほどと同様に反射されるものの、ただ単純に運動の方向が反転するだけだから俺にダメージが返ってきたりすることはないので、一発重い攻撃をぶち当てることでアンチどもをぶちのめしていく。

 

「っと...いっちょ終わり、だな」

 

まだアンチがいるように見えているが、摩擦熱の増幅ができないため全て幻影による偽物だろう。そして、幻影とは本来なら存在しないものをあたかもそこにいるように見せかけることだ。存在しないアンチを生み出したり、何か別のものをアンチに見せかけることはできても、そこに存在しているアンチの姿を完全に隠すことは幻影のハウリングでは行えない。見えない敵がいることを考慮する必要はないだろう。

 

「さーて、どう攻略したものか...」

 

今回も色々とハウリングを間借りさせてもらっているが、それらをどう使えばこの異空間化した県庁の攻略に役立つかを思考する。

 

「空間圧縮で元の大きさに...ってのはリスク高いよなぁ」

 

空間拡張の対である空間圧縮のハウリングならば、押し広げられた県庁内の空間を元に戻すことが可能かもしれない。だが、それを自らの安全を確保しながら行うことが俺の技量ではできそうになかった。

 

もしも今俺がいる空間が、元々はとんでもなく小さな空間だったところをを拡張されて生まれた空間だった場合、空間圧縮で戻したらそのまま圧死...ってことになりかねないしな。リスク無しでリターンは獲れないが、流石にこれはリスクがデカすぎる。

 

「……一旦音に頼ってみるか」

 

五感強化と音を操るハウリングを発動させる。そしてパンッと一度手を叩き、ハウリングによってその音を遠くまで反響させる。

 

幻影はあくまで視覚に作用するもの。空間拡張の方はもうどうしようもないが、幻影の方は目じゃなく音に頼れば対処はできる。

 

「……なるほど。ひとまず、この階段は偽物なわけね。つーか罠怖すぎる」

 

音の反響音を聞き取ることで、周囲の本当の地形を知ることができた。それにより、目には見えているけど現実には存在していないものや、その裏に殺意マシマシで設置されている剣山のような罠に気付くことができた。

 

「えーっと、こっちかな」

 

異空間内を歩き、その足音の反響音で周囲を探知しながら進んでいく。本来ならば入り口から入ってまっすぐ進んだ県民ホールに知事室のある三階まで上がれる階段があるはずなのだが、空間拡張によって位置がずらされているようで少し探すのに手間取る。

 

「……おっ、存在しない壁発見。この向こうか」

 

音による探知のおかげで、本来ならばないはずの壁が見えていることに気付いた。反響音からしても、この向こうに上の階に続く階段がありそうだな...

 

「……っ!」

 

背後から接近してくる複数の足音を聞いて振り向くと、そこにはこちらに向かって走ってくる三人の上位個体の姿があった...

 

「っ⁉︎何でこいつら銃を...!」

 

その上位個体たちは銃を手にしていた。武器生成操作のアンチが作っていたものが残っていたのか?なんにせよ、まずはあれをどうにかしなければ...!

 

「没収だ!」

 

武器生成操作のハウリングを使い、上位個体たちの持つ銃を奪い取って分解する。

 

「なっ...コイツ、どうやって...!」

 

おっと、喋ったってことは弐式か。面倒だし、ちゃんと気絶させてやらねぇと...いや、ここは水を使う!

 

「消えな!」

 

水鉄砲の引き金を引き、水を上位個体にぶっかける。

 

「……消えない⁉︎なんでェ⁉︎」

 

「な、液体⁉︎」

 

俺も上位個体もお互いに驚いている。わ、訳がわからなすぎる...空間拡張で水鉄砲の軌道を変えて、その上で幻影で水がかかったように見せかけられた...?

 

「だが、液体なら...!」

 

「ちょっ、水が...⁉︎」

 

タンクに入っている水も含めて一瞬で消し飛んだ...つーかタンクが破裂した⁉︎

 

「蒸発のハウリング...⁉︎こいつらまさか...!」

 

ヤベェ、コイツら人だ!乾燥のハウリングを使ったってことは、この三人のうち一人は確実に彦根!残る二人も何かしらのハウリング能力者!お互いに相手がアンチであると幻影で誤認させられている...!

 

つーか、なんでここにいんだよ!俺以外の隊員は全員待機だって話だったろ⁉︎こうやって味方同士の戦闘が起こらないようにって八代の予知を元にそう決めたはずだろ...幻影と思考共有による誘導でここまで引き寄せたのか...?

 

「おい待てお前ら!俺は仮谷幸希だ!仲間!騙されてんじゃねぇぞ彦根!」

 

幻影は聴覚には作用しない。こうやって呼び掛ければ、この誤認も解けるはず...!

 

「チッ、思考共有でアイツの記憶でも覗き見たのか...?」

 

クソッ、どうしてそうなる!名前まで呼んだんだからそんな可能性考えずに信じろよ!

 

「こうなったら、ひとまず昏倒させるしか...!」

 

説得は意味をなさないと判断した俺は、一旦気絶させてこの場を対処することに決めた。

 

……その瞬間だった。

 

『戦え』

 

「ゥぐ...?」

 

まるで思考にノイズが走ったかのように、頭の中が揺さぶられる。

 

『殺せ』

 

「これ、は...」

 

『殺し合え!』

 

「思考の共有...!」

 

おそらく壱式のものであろう思考が俺の頭の中に差し込まれて、まるで俺自身の思考であるかのように焼き付いてくる。ただの情報共有なんかじゃない。完全なる思考の誘導...!

 

「アイツらもコレを...マジで戦うしかねぇか...!」

 

思考が歪まされているが、やるべきことを見失わなければ問題はない。全員幻痛の熱を含めた攻撃を叩き込んで気絶させる...!

 

「来るぞ!」

 

俺が攻撃の構えをとると、三人のうちの誰かがそう言った。そして...

 

「石巻!やれ!」

 

「っ、その名前は...⁉︎アグァッ...!!」

 

石巻の持つ精神狂乱のハウリングが、俺の精神を狂わせようと襲い掛かる。

 

先程の思考共有による思考の誘導が生易しく思えるほどの精神汚濁。脳内が赤黒く塗りつぶされ、焼き切れそうになる。内側からドス黒い破壊衝動のようなものが湧き出て、理性的な行動というものが全て吹っ飛びそうになる...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なりそうになるだけだ。実際には僅かな理性を保ち、狂いそうになる意識をなんとか繋ぎ止めている。

 

ギリギリで耐えているのは、石巻のように精神狂乱に多少の耐性があったからなのだろう。そして、俺が耐性を持っているのは、この感覚がとある事象に似ていたからだった。

 

「ハッ...嫌な慣れ方だぜ...」

 

この感覚、魔王が俺を乗っ取ろうとしている時に近い。意識が塗り潰されて俺の精神が水底に沈められるような感覚...幾度となく味わってきた。

 

魔王に乗っ取られないように、俺の意識を強く保ち続ける...同じ対処法によって、精神狂乱の作用からなんとか逃れる。もちろん全ての影響から逃れられたわけではない。だが、完全に狂うことは避けられた。

 

「まっ、狂っていたとしても、お前らの無力化くらい造作もなかっただろうがな」

 

聖杖世界で数回使った狂化のスキル。俺の場合は強烈な怒りによって強制発動してしまう危険性があったが、発動中でも敵味方の区別はついていた。もし精神狂乱をモロに喰らっていたとしても、コイツらを殺さずに無力化することは可能だっただろう。

 

「……ってわけで、目障りだ。消えろ...!」

 

床を蹴り、一瞬で上位個体に見えている隊員に接近する。さっきの会話からして、一番左にいるコイツが石巻...!

 

「セイッ!!」

 

跳び回し蹴りが石巻の側頭部を叩く。それと同時に少量の増幅熱を流し込み、脳の揺さぶりと幻痛の熱による熱で負荷をかけ、気絶を誘う。

 

「コヒュ」

 

運良く一撃での気絶に成功。石巻の気絶によって精神狂乱のハウリングが解除され、俺の精神を飲み込もうとしていた力が取り除かれる。まだ思考共有による誘導は残っているけれど、今更こんなので狂わされるわけがない。このまま二人も最低限の攻撃で気絶させる...!

 

「次...!」

 

次に狙うのは、まだなんのハウリング能力者かわかっていないもう一人だ。彦根の乾燥はほぼ攻撃性を持っていないから後回しで良い。変なことされる前に、もう一人の方を仕留める...!

 

「天童!」

 

名前を呼びながら彦根は、足元に転がっていた、先程俺が分解した銃の部品を蹴り飛ばした。

 

天童ってたしか、山形の...!

 

「おう!」

 

呼ばれた天童も足元の銃の部品を蹴り飛ばした。

 

すると、だ。何かの偶然か、蹴られた銃の部品同士が衝突し、片方が斜め上へと弾き飛ばされて尖った箇所が俺に向かって飛んできて...!

 

「うわっと⁉︎」

 

間一髪のところで上体逸らしが間に合い、飛んできた銃の部品を回避に成功する。

 

「ちょびっと面倒だな...!」

 

今の偶然は、天童のハウリングによって引き起こされた事象だ。混沌のハウリング...予想だにしないトラブルを引き起こす力であり、武器や機械の突然の故障や、突然床が抜けたりなどと様々な事象を引き起こすことが可能である。

 

何が起こるかは発動した本人にも未知数だが、事前に方向性は決められる。今みたいにトラブルが起こりうる状況を作り出せば、意図的に狙った事象を引き起こすことも可能だ。こっちの予想を超えた混沌を引き起こされるとやや面倒だな...

 

けど、そこまでヤバいハウリングではない。もし俺が銃を携帯していれば突然の暴発や薬室内爆発を引き起こされてしまうため非常に厄介だったが、物体反射のアンチと戦うことを見越して元々持ってきていないのが功を奏している。

 

こちら側が一瞬で詰まされるような混沌の種はこちらには無い。これ以上妙な動きをされてまた変な混沌を引き起こされたら困るので、なる早で仕留めよう。もう全員のハウリングが割れたから、過度な警戒も要らない。

 

ただ、最高速度で突っ込み、ぶちのめすだけ...!

 

増幅熱を脚に込めて天童に近づく。

 

「っとと⁉︎」

 

あと一歩というところで、ツルッと足が滑る。何もないところで足を滑らせてきたか...!だが、もう遅い!

 

「オラァッ!」

 

すぐさま拳に増幅熱を移し、顔面を殴り飛ばした。一歩足りないなら単純に全力で腕を突き出せばそれでいい。滑って前のめりになったんだからそのまま殴り飛ばすのが一番効率的だ。

 

「よっ、ほっ!」

 

天童を殴り飛ばした俺は、そのまま地面に手をついてハンドスプリングの要領で飛び上がると、そのまま連続跳びで彦根の方に飛びかかり掌底を頭に叩き込んで意識を落とす。

 

「……よし。これで邪魔者は消えたな...アンチに襲われないか心配だが、置いていくしかないか」

 

気絶したコイツらを安全なところに避難させようにも、そもそも県庁内から出られる保証もないし、中で安全な場所なんてないため、ここに置いていくしかなかった。こうなりゃ、さっさと壱式を気絶させて全てのハウリングを解除させるのが手っ取り早そうだな...

 

「ってわけで、さっさと行きますか!」

 

三人との戦闘やら精神狂乱やらで半ば忘れかけていた、目には見えるが実際には存在していない壁を通り抜ける。抜けた先には上へ続く階段があり、それを登って二階へ、そしてすぐ近くにあった三階へと続く階段を登る。

 

「知事室にはいないかも...とは言ったが、流石にそこにいないわけがないな。なんでそこに執着しているかはわからないが、必ずいるはずだ。そして、奴らにとって重要な知事室を、そう大きく認識を変えてくるとはあまり思えない」

 

奴らにとって知事室はとても特別なものらしい。でなければ、県庁ごと破壊された際にわざわざ物質修復のアンチを引き連れてきて全て修復することなんてしないだろう。

 

そして、重要な知事室をそう大きく弄るとは到底思えない。位置関係もあまり崩せないだろうし、おそらく本来の形とほぼ変わらない形で存在しているはずだ。

 

「奴ら、支配者でも気取ってんのかねぇ...まっ、その執着心のおかげで簡単に辿り着けたわけだが」

 

反響音による探知のおかげもあって、無事に知事室に辿り着くことができた。道中何度かアンチに襲われたものの、溜め込んだ増幅熱を込めた打撃で全て返り討ちだ。能動的な攻撃手段がないからめちゃくちゃ弱く感じるな。

 

「ってなわけで失礼するぜ〜っとと!いきなりか随分血の気が多いなぁ」

 

俺が知事室に入った瞬間、壱式が近づいてきて肉弾戦を仕掛けてきた。顔面めがけて放たれた拳を避けると、ヒュンッという風切り音が耳に入ってくる。幻影とかじゃなくて、ガチで壱式本人が殴りかかってきてんのか。なかなか珍しい。

 

「さっさとこの空間を元に戻してくれなきゃいけないんでね。サクッと決めさせてもらうぞ!」

 

壱式の身動きによって生じる摩擦熱を増幅させる。その熱によって一瞬怯んだところで、一瞬で間合いの内側に入りその腹に拳を...

 

「ッ⁉︎」

 

拳は壱式に届かなかった。空間拡張によって距離を広げられてしまったためだ。

 

「そんなん時間稼ぎにもならねぇぜ!」

 

俺はそう叫びながら壱式に向かって走り...それと同時に俺の体内に溜め込んでいた増幅熱を分離して壱式の元に向かわせる。壱式の回避行動を増幅熱で潰し、その隙に攻撃する...!

 

……って、さらに距離を広げた⁉︎増幅熱が当たる直前に⁉︎増幅熱の探知なんて出来るはずが...

 

「……思考共有で盗み見てんのか...!」

 

俺を思考を盗み見ているのだとすれば、増幅熱の接近の察知も出来るだろう。そして、初っ端から攻撃してきたことにも納得がいく。知事室に入ってくるタイミングも読めるし、さらには俺が壱式を殺せないということも分かるのだからそりゃ強気に攻撃してくるよな。

 

「まぁ、だったら何も考えなきゃ良いだけだ」

 

何も考えず、ただ反射的に行動する...普段はめちゃくちゃ考えながら戦う俺だが、そういう戦い方も一応可能だ。ただの猿真似だがね。模倣先は、明鏡止水のスキルを発動させたクミリア...!

 

「……ッ!」

 

壱式は空間拡張の解除によって、広げていた距離を一気に詰めながら殴りかかってきた。思考するよりも先に反射的に手を出し、顎を掌で突き上げる。

 

『左ストレート』

 

「んなっ...⁉︎」

 

追撃のために蹴りを放つ準備をした瞬間、左の拳が暴発した。届くはずがない距離なのに勝手に放たれて盛大に空振りをしてしまう。

 

「クソッ、いいように振り回されてんな...!」

 

空振りによって体勢を崩しかけた俺は、逆にわざと倒れ込むことで横に転がり、壱式から距離を取って反撃を防ぐ。

 

「お前がそうするなら、こっちはこうするまで...!」

 

先程の攻撃の暴発は、俺が思考をやめて反射的に行動することをしていた最中に壱式が思考共有を叩き込んできたために起こった出来事だ。思考停止では、こちらの攻撃は読まれないが代わりに行動を強制される危険がある...だったら、やることは簡単だ。

 

「つーか、俺はこっちが得意だったなァ...!」

 

逆に大量の思考を同時並行で進める。その場でできうる全ての行動パターンを脳内に浮かばせて、壱式に次の行動を読ませないのと同時に奴の思考を圧迫させる...大量の思考を相手に送りつけるのは、俺の十八番だ。

 

俺は壱式に向かって走り出す。様々な行動パターンを思考し、壱式の脳を圧迫させながら、俺は最後の詰めの言葉を言い放つ。

 

「ハウリング承認要求!!」

 

壱式はギョッとした表情を浮かべた。俺がアンチの言語を話したことに、そしてハウリングの承認要求をしたことに驚いていた。それによって、さらに壱式の思考が鈍る。

 

それは、無視できないほどに致命的な隙だった。

 

「ゴファッ...!!」

 

壱式の顔面に左の拳が突き刺さり、勢いよく後方へ吹き飛んでいく。

 

「お前が決めた左ストレートだ。よく噛み締めな」

 

俺がそう呟くと、壱式はビクビクと身体を震わせたかと思えば、がくりと横を向いて仰向けで意識を失った。

 

「……っと、戻ったな」

 

壱式の気絶によって諸々のハウリングが解除され、広がった空間は元に戻り見えていた幻影も消え去った。

 

「任務完了だ。適当に人連れてきて仕留めさせろ。あと、医療班を頼む。まんまと釣られた隊員を治してやってくれ」

 

壱式を倒した俺はそう通信機に投げかけると、万が一にも他のアンチに横取りされたり、自殺してしまわないように壱式を見張るのだった。




当初は全員県庁内に突入させて超乱戦にしようかと思っていたのですが、予知で幻影やら思考共有のハウリングが割れているのにわざわざそんなことしないよなぁ...ということになってカリヤくん単騎での突入になりました。

ちなみに今回で、現状攻略済みのハウリングは全て紹介し切りました。
実はもう残り四つなんですよね...もう終わりが近いです。
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