神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

108 / 109
8348字。

東京都庁突入回です。


最終壱式の完全対策

「ついに、最後の決戦...!」

 

都庁の真下の広場にある拠点で、俺ら突入組は最後の補給と休憩をとっていた。中に入れば、壱式を倒すまで外に出られない...確実にそうなるわけではないが、そうなるというふうに仮定し、覚悟を決める。

 

「覚悟の用意はできたな?あまり長く時間を取るわけにもいかない。準備ができているのならすぐにでも出るぞ」

 

突入組以外の人員は、この拠点に近づいてくる動物をひたすら迎撃し続けている。都庁の中、あるいは東京中に散らばっていた動物たちがこの拠点に向かって無数にやってきているのだ。こちらには無数のハウリングがあるため相当な時間持ち堪えることができるだろうが、ハウリングの使用はそこそこの疲労を伴う。いつ戦況が瓦解してもおかしくない危険も孕んでいるため、しばらくは絶対安心というわけでもない。そのため、向かうのならば早めに行く必要があった。

 

「わかった。行こう」

 

休憩は終わりだ。都庁に乗り込み、いち早く壱式を打ち倒そう。

 

「奴らの出現が途切れたタイミングでお前らを飛ばす...生きて帰ってこい。いいな?」

 

都庁内部には葉山が転移で飛ばす手筈になっている。物質創造の力で作られた都庁入口を覆うバリケードの中は、ひっきりなしに動物が出てきては撃ち殺されてを繰り返している。このままでは中に入るのだけでも一苦労なので、ほんの少しでも都庁入口からの動物の出現が収まった瞬間に転移で中に侵入し、攻略を開始するわけだ。こうすれば、少なくとも味方に背中を撃ち抜かれることはない。転移直後に動物に囲まれる恐れはあるため、それだけどうにかして対処する必要はあるがな。

 

「わかってる。ここまで来て死んでたまるか」

 

都庁突入メンバーは僅か四人。外の防衛に大幅に戦力を割かなければならず、肝心の突入メンバーの人員が大きく削られてしまったが、ハウリング能力者の中でも精鋭が、そして壱式のハウリングに対抗しやすい能力者が集められている。

 

まず、俺。無数のハウリングを間借りによって操ることができ、痒い所に手が届く、そんな役回りだ。動物たちにも幻痛の熱は効くため、動物にも上位個体にも一貫して攻撃を叩き込めるという点も評価されている。

 

「お前を殺すのは俺だ。そこんところ、忘れるんじゃないぞ」

 

そして、二人目は八代。予知のハウリングによる被弾確率減少、物質透過と物体反射による物体操作のハウリングへの対策として必須の人員だ。思考共有、空間拡張、幻影でのサポートも行え、直接的な攻撃力はあまり持たないものの重要な後衛だ。

 

「殺してやるからそれまで死ぬんじゃない...って、凄いこと言ってるな...」

 

三人目は延岡。人類が動物と一線を画しているのは炎を扱えるから...というわけで、純粋な火力要因として炎のハウリングを持つ延岡も参加だ。物体操作による攻撃も、爆炎で熱して気体まで強制昇華させてしまえば無意味である。全てを焼き尽くす炎で動物たちを遠ざければ戦闘を回避できる可能性もあり、なかなか便利だ。

 

「沖縄からここまで幾つもの修羅場を乗り越えてきたと思ってんだ葉山。行けるさ」

 

最後は古宇利。冷気で動物らを冷やしつくしてしまえば、身動きは確実に鈍り、そのまま低体温症で死に至らしめることも可能である。物体を凍らせることができないという弱点があるため物質操作に対する回答は持ち合わせていないが、そちらは八代の物質透過で補完できている。対生命創造ハウリングに特化しており、生命体を透過できない物質透過の弱点を補っているため問題はないだろう。

 

この四人は互いに互いの弱点を補っている。一点集中でカバーできない部分を別の一点集中や幅広い能力で埋め、全体で全ての隙を埋める。これを全ハウリング能力者三十一人ではなく四人という少人数で出来ているため、チームワークも取りやすい。都庁という決して広くない戦場で動くには、これが最適解であった。

 

「意気込み十分だな...そんじゃっ、行ってこい!!」

 

ちょうどいいタイミングで動物の出現が途切れたので、葉山が四人とも転移させて都庁内に突入する。

 

「まずは任せろ!!」

 

都庁に入ったその直後に動物に囲まれるが、即座に八代がハウリングを起動して周囲の空間を拡張し、動物たちとの距離を広げて時間を稼ぐ。

 

「凍えな!!」

 

「燃えろ!!」

 

古宇利と延岡がそれぞれ冷気と爆炎を反対側に撒き散らし、動物たちに攻撃を仕掛けていく。

 

「トドメは俺が...!」

 

炎はそのまま殺せるが冷気は即座に仕留めることはできない。よって、俺が武器生成操作のハウリングで銃を生み出し、冷気で動きが鈍ったところを撃ち殺すことで仕留めていく。

 

「こっちは完了!」

 

「一匹炎を突っ切ってくる奴がいるぞ!」

 

八代の声を聞いて振り向くと、延岡の炎に晒されながらも接近をやめない動物が一匹いた。普通の動物ならば炎に怯むはず。消そうともせずに、まるで一切熱くないかのように走るコイツは...!

 

「コイツ、下位個体か!」

 

俺は冷静にソイツに銃口を向けると、すぐさま引き金を引く。その瞬間、ソイツは機敏な動きで横っ飛びをして銃弾を避けようとする...が、増幅熱の消費と武器生成操作による軌道の操作によって銃弾は曲がり、頭を正確に撃ち抜く。

 

「消えない...やっぱりアンチのようだな」

 

屋外戦では雨が降っていたため一切アンチを見かけなかったが、当然屋内ならば雨に降られないのだからアンチはわんさかいるだろう。上位個体はもちろんのこと、動物の姿をとった下位個体も大量にいるはずだ。

 

「下位個体は動物に紛れてくるのか...なかなか面倒だな」

 

「痛覚がないから炎に晒されても突っ切ってくるしな...」

 

「臆することはない。近づいてくる敵は全て排除すればいいだけのことだ。このまま知事室に向かうぞ。古宇利が前、延岡は後ろを頼む」

 

「了解!」

 

アンチだろうが流石に極低温に晒されれば動きも鈍る。よって、進行方向には古宇利を配置して確実に動物もアンチも動きを鈍らせて撃ち殺し、比較的敵が来ないであろう後方を延岡の炎で焼き尽くし、たまに突撃してくるアンチを撃つだけで対処するという布陣を構成する。

 

「囲まれる前に突っ切るぞ!」

 

正面口からそのまままっすぐ進んだところにある階段を、先ほどの布陣のまま駆け上がる。近くにエスカレーターもあるが、電力供給が切られているのか動いていないため自力で階段を登っていく。

 

「武器と道は俺が作る!ひたすら殲滅しろ!!」

 

二階に上がった先にも、動物やアンチがごった返している。その全てと戦っていたらいくら時間があったとしても対処しきれないため、まず対象を区切る。障壁のハウリングを発動することで空間を区切り、外側にいる敵の接近を拒むのだ。

 

障壁はものに被せるように設置することができない。よって、完全に全ての敵を排除し切ることはできないが、わずかな隙間を見つけて障壁をジグザグに張り巡らすことで、少しでも内側にいる敵が少なくなるように展開していく。

 

それと同時に武器生成操作のハウリングで銃を生み出し、八代にも銃を持たせる。障壁の内側にいる敵を延岡と古宇利のハウリング、そして俺と八代の中で殲滅し、出来るだけ少ない戦闘で階層を抜けていく。

 

東京都庁の知事室は七階にあるらしい。そこにさえ辿り着ければ、あとは圧倒的火力で殲滅するのみ...!

 

「……ッ、足元!」

 

四階の敵を殲滅中、八代が突如叫びながらドスッ!と地面を踏みつけた。足を上げると、そこには潰れた蠍のような生物がおり、塵となって消えていった。

 

「デカい動物に気を取られすぎるなよ。足元注意だ」

 

「つっても、デカブツ処理しなきゃマズイんだよなぁ...!」

 

上の階に行くにつれて、より凶暴で強い大型生物が増えてきているように思える。虎やライオンなどの肉食獣に加えて、ラプトルのようなちょうど屋内に収まるようなサイズ感の恐竜も出てきており、そいつらを真っ先に倒さないと一瞬で喰われて終わりだ。

 

しかし、そういう奴らに気を取られていると、蠍だとかスズメバチなどの猛毒を持った小さな動物がいつの間にか迫ってきていて刺されたりもする。猛毒と治癒のハウリングは小樽から借りているから対処できなくはないけど、かなりのダメージと共に相当の疲労に襲われるだろうから今後の戦闘に大きく関わってしまう。

 

現状は八代の予知があるからある程度対処できるが、それが追いつかなくなると途端に終わりが近づく。空間拡張を使えば攻撃からは逃れられるけど、俺らの移動も同時に妨げてしまうから常用は出来ない。銃声が鳴り響いているせいで音での探知も難しいし、目で見てその存在に気づく他ないんだよなぁ...

 

「ゴリ押すしか対処法ねぇ!やられるよりも前にやるが一番!」

 

さっさと戦闘を終わらせて知事室に辿り着く、それが一番手っ取り早い。攻撃は最大の防御とはよく言ったものだな。一瞬で殲滅を終わらせられれば、周囲のこまい敵の索敵に十分時間を取ることもできる。無駄にあれこれ考えるよりも身体を動かした方が早い...!

 

「壁の裏!ゴリラが来るぞ!」

 

八代が叫ぶと、階段横の壁を殴り飛ばして破壊してきた。通常であればそこまでのパワーは出ないはず...物体操作の応用で強度を落としていたか、生み出したゴリラのパワーを自らを破壊しかねないレベルまでリミッターを外したのか...どちらかはわからないが、破壊された壁の破片が全て吹き飛んだのを確認してから冷静に銃を乱射してゴリラを撃ち殺す。

 

この手の瓦礫での攻撃は俺らには一切効くことはない。八代の物質透過のハウリングを間借りし、八代が古宇利を、俺が延岡に触れてそれぞれ物質透過をかけることにより、飛んできたものは全てすり抜けてしまうからだ。壁を破壊した直後にそのまま殴りかかってきていたなら話は別だったが、追撃がなかったため、瓦礫に銃弾が弾かれないように一瞬待ってから撃って終わりだ。

 

「こっちはもっと最悪を想定してんだ。それを超えてくんないと話にならないね」

 

俺の想定する最悪は、階段を登っている最中に何かしらの重い動物が上から階段を破壊しながら降ってくる、というものだ。階段の瓦礫は物質透過で防げるため問題はないが、その直後に降ってくる動物はすり抜けられないためそのまま押し潰されてしまう。瓦礫に阻まれて銃も届かないため、これをされたら急いで階段から離れる他ない。その瞬間に階段の出入り口を動物の大群で塞がれたらそれで終わりだ。

 

逆に言えば、それ以外の出来事なら対処できる。俺らが七階に辿り着くまでの間にそれをされなければ問題はない。

 

そして、今、七階に到着...!

 

「楽勝楽勝!!」

 

いくら動物を生み出してけしかけてこようが、無限に生み出せる銃の前には無力。物を操れたとしても、すり抜けてしまえば無意味。壱式の持つハウリングはどれも、俺らの前には通用しない。

 

「待ち構えるんじゃなくてさっさと逃げれば良いのに、馬鹿だなぁ」

 

動物に紛れて武器を持った上位個体が近づいてくるが、冷気で動きが鈍ったところに銃弾で脳天を撃ち抜かれてすぐに死んでいく。もうこれは、完全にワンサイドゲームだ。

 

「お前らの敗因はただ一つ。知事ごっこに囚われて最初から人類掃討に動かなかった。せめてハウリング二、三個奪われたタイミングで戦力集めて全面戦争してりゃ良かったのになァ!」

 

ハウリングを持っている者を殺すと、ハウリングを奪える。そのルールがある以上、アンチが一番戦力を持っていたのは47の壱式が全て揃っていたタイミングだった。一人、また一人と壱式が倒されるごとに人類にハウリングが渡り、戦力差が覆されていく。反撃側が劣勢なのは序盤のみで、終盤に近づくにつれて攻略は簡単になっていく。

 

そんな構造になっているのにも関わらず、壱式は自らの領土である都道府県から出ることはなかった。差し向けるのは弐式以下で、自らは絶対に知事室を離れない。時が経てば経つほど劣勢になるのを理解せず、ごっこ遊びに興じ続け敗北に近づいていく...それが壱式という馬鹿な生物だ。これが新人類?笑わせるね。

 

「ここに来てめちゃくちゃ煽るじゃん仮谷...」

 

「馬鹿にはしっかり馬鹿だって言ってやんねぇと逆に失礼だろ。そんで、そんな馬鹿にこれまで苦戦させられてきたことにそこそこムカついてるもんでね。色々言ってやんねぇと損だろ」

 

「それはそう...なのか?」

 

「煽り散らかすのなら仕留めてからにしな。変に抵抗されるのは御免だ」

 

「しょうがねぇなぁ...それはそれで別ベクトルの煽りではあるが、死に際の反撃を喰らうのは俺も嫌だね」

 

「やけに楽勝ムード醸し出してるが、大丈夫なのか?」

 

「問題ない。七階に辿り着いた時点で、俺らの勝利は決まっている」

 

「お、ということは...?」

 

「壱式を仕留める予知が見えた。この未来、覆えさせはしない」

 

「未来が見えてるのは俺らだけ。つまり未来を変える可能性があるのは俺らの行動の変化のみ。そして、このムードの中でも予知が変わらないってことは、これ以上に変なことをやらかさなければ壱式は仕留められるってわけだ。気楽に行こうぜ」

 

そうこうしているうちに、知事室の前にたどり着く。周囲に動物はもういない。部屋の中にはいるだろうが、部屋の大きさと壱式を巻き込みかねないことからしてそこまで数はいないだろう。大きさもそれほど大きくないと見た。

 

決して十分とは言えない護衛の数...余裕で殲滅できるだろう。

 

「じゃあ...終わらせようか」

 

知事室の壁に爆弾を貼り付け、爆発させて壁をぶち抜く。正規の侵入ルートである扉を通らないことで、奇襲を成立させる。

 

そしてすぐさま壊れた壁から古宇利が冷気を流し込む。一瞬で知事室の室温は氷点下まで下がり、筋肉の硬直により中にいた動物もアンチの上位個体も、そして壱式も動きが総じて鈍る。

 

それでもなんとかして動こうとする壱式に幻痛の熱を発動させる。わずかな身動きによって生じた摩擦熱を増幅させることで、痛覚に直接偽りの熱を叩き込む。実際に冷気によって感じている体感温度と、痛覚に伝わる偽りの熱による温度差によってさらなる苦しみが壱式を襲う。

 

「く...ぐっ...!」

 

ならばと壱式は生命創造のハウリングを発動させることにより、氷点下でも行動できる動物を生み出してくる。

 

それを見た延岡は炎を知事室内に撒き散らす。古宇利の冷気に耐え切れる動物は炎には耐えられない。耐えきれない熱にすぐさまぐったりして、そのまま炎に焼き尽くされていく。

 

炎にも冷気にも適応し、なおかつ俺らを殺せるほどの殺傷能力を持つ動物など存在しない。壱式が物体操作を使ったとしても、物質透過ですり抜けられる。

 

いくら壱式が抗おうと、死の未来は変えられない。

 

「もう、ハウリングを借りる必要もねぇな」

 

アンチが一体も居なくてハウリングの承認要求を出せなかった都庁までの道中とは違い、今なら壱式からハウリングを借りることは一応可能だ。けれど、現時点で奴のハウリングを完璧に無効化出来ているため、その必要は無し。

 

あとは、トドメを刺すだけだ。

 

「八代」

 

『ああ』

 

通信機に呼びかけると、返事と共に八代が隣の部屋の壁からすり抜けて出てきて、壱式の背後に回る。

 

破壊した壁から攻撃することでこちらに壱式の意識を集中させ、本命は物質透過を使える八代の背後からの奇襲...全てが作戦通りだった。

 

パンッ!と銃声が響く。八代の持つ拳銃から放たれた銃弾が、壱式の頭を貫いた。

 

「……あっけない結末だな」

 

古宇利はそう言いながら冷気の放出を止める。

 

「終わりってのは往々にしてそういうもんだ。俺がこれまでしてきた旅も、たいてい最後の戦いはあっさりとしたもんだった」

 

「そういうものか...」

 

壊れた壁から知事室の中に入っていく。壱式が死んだことで、生み出された動物たちも死に、塵となって消えていっていた。

 

「これで、終わりか...さぁ、約束だ仮谷」

 

「待て待てそう焦るな。お前が殺したんだからまずはハウリングの入手からな」

 

「お前...俺が気絶する分、時間稼ぎするつもりだったな?」

 

「そんなつもりはないさ。俺は逃げも隠れもしないさ。安心して寝ておきな」

 

「チッ...仕方ないか」

 

そう言って八代は壱式に向かって手を伸ばす。

 

「……なっ...⁉︎」

 

手を伸ばした八代の表情が驚愕一色に塗りつぶされた。

 

「どうした?」

 

「光が逃げて...おい待て、どこに行く!」

 

八代は何かを追いかけるような仕草をとるも、壁に阻まれてしまう。

 

「ちょっ、マジでどうした?」

 

「どうしたもなにも、光があっちに逃げやがった!今までこんなことなかったってのに...っ、うぐっ...⁉︎」

 

突然、八代が胸の辺りを押さえて蹲った。

 

「八代⁉︎...延岡、古宇利も⁉︎」

 

続くようにして延岡と古宇利も同じ場所を押さえて苦しみ出した。

 

「俺の中から...何か、出て...」

 

「何がどうなって...っ⁉︎」

 

その時、俺にも異変が起きる。いろんな人から借りていたハウリングの接続が次々と途切れていったのだ。

 

「間借りが解除された...⁉︎おい待て、まさかハウリングが...!八代!ハウリング!使えるか⁉︎」

 

「っ...何も、使えない...」

 

「やっぱり...!」

 

俺には何ともなかったのに、ハウリング能力者だけに異変が起こっていた。壱式のハウリングの光がどこかへ逃げていったことと、古宇利が呟いた、自身の中から何かが出るという言葉。そこから推測するに、全員のハウリング能力が本人の身体から抜け出て、どこかへ行ってしまったと思われる。

 

「壱式を全員殺したから...?世界のバグが消滅して、同時に本来なら存在しないハウリングも消え去った...?いや、でも...」

 

思考を回す。

 

俺の直感が、戦いはまだ終わっていないと告げていた。このままこの世界から離脱したら何かまずいことが起こる...そんな予感がしていた。

 

「八代!延岡!古宇利!自分の中から抜けていったハウリングの光はどこに向かって飛んでいった!答えろ!」

 

「む、向こうだ...!」

 

三人が指差したのは、先ほど八代が光を追いかけて向かおうとしていた方向だった。

 

「全部同じ...あの方向には何がある...?」

 

スマホを開いて地図アプリを起動する。あの方向は、東南東の方角だ。その方向に、何かがあれば...

 

「……首相官邸...⁉︎」

 

その方角の直線上に、首相官邸があった。偶然とは思えない。全ての壱式が各都道府県の知事であるかのように知事室に留まっていたことを考えると、国のトップが過ごすその場所に何も意味がない訳がなかった。

 

「……つ、繋がった...!」

 

俺はこれまで得てきた情報が持つ矛盾...いや、見落としていた謎に気がついた。

 

神様からは、魂の初期化を受けた者は一人だと聞いていた。そいつから全てのアンチ...新人類が増殖していった。

 

この世界に来て初めて受けた自衛隊の講習で得た情報では、アンチは壱式から漆式までおり、全ての長である壱式は47体いるとあった。だが、その47という数字はアンチらの宣戦布告から得たもの。真実であるという保証はどこにもない。

 

だが、この47という数字は信用していいだろう。そこに違いがあるのなら神様が訂正していそうなものだし、なにより47つ以外のハウリングを使っているアンチをこれまで見たことがないからだ。

 

しかし、ここで問題が一つ。壱式47体の中に、神様の言っていた最初の一人がいないのだ。全てのアンチの生みの親が壱式の中にいない。そもそも、壱式が壱式を生み出すのも変な話だ。

 

ここで、こう考えることで全てに合点がいく。壱式47体を生み出した最初の新人類が、まだ生き残っている。

 

「そいつが俺らの奪ったハウリングを全て奪い返したとすれば、辻褄が合う...ん?待てよ?」

 

もしそいつが生き残った場合、また新たに壱式を生み出してしまうのではないだろうか?そうなれば、また戦闘は一からやり直し...そして、日本の戦力である自衛隊の主力部隊が集中しているところに、奴らは47のハウリングを全てぶつけることもできる...!

 

「クソッ、そういう魂胆か...!」

 

「仮谷...何に、気づいて...」

 

「最後の敵が首相官邸にいる。そいつをぶっ殺してくる」

 

「なっ...お前一人で、か...?」

 

「当然だ。ハウリングは全て奪われている。となれば、残る戦力は俺だけだ。幻痛の熱という異能を使える、俺だけ」

 

俺はそう言いながら扉に近づく。

 

「お前らは一旦休んで後から来い。来るまでに全て終わらせといてやる」

 

呼び止めようとする八代の声を振り切り、知事室を後にする。

 

大どんでん返しで窮地に立たされたわけだが...まだ希望は残っている。

 

俺がこの世界に来た理由を、世界に見せつけてやろうじゃないか!




やけにあっさりと戦闘終了しましたが、当然これで終わるわけもなく...いよいよ最終戦です。
そして、次回でこの第四章 幻痛の熱が最終回を迎えます。
31話と少しオーバーしましたが、いよいよラストです。
最後の戦い、多分泥臭いものになるだろうなぁ...
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。