神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8574字。

最後の戦い、そして第四章 幻痛の熱最終回です。


新人類の最終戦闘

「よっ、来てやったぜ」

 

首相官邸にやってきた俺は、執務室に入り中にいた最後のアンチに声をかける。

 

「……まさか、バレるとは思っていなかった」

 

アンチは振り返って俺の方を見ながらそう言った。

 

「そりゃ全員からハウリングが奪われて、光が飛んでった方向に首相官邸があれば誰だって勘付くだろうよ」

 

「気付いたところで、一人で飛び込む馬鹿はいないだろう」

 

「確かに馬鹿かもな。だが、動けるまともな奴が俺しかいなかったもんでね」

 

「なるほど...君、運が良いのやら悪いのやら...」

 

やれやれといった仕草をアンチは取る。

 

「君は運が良い。私の存在に気付いて、止めるチャンスを得たのだから。あと数時間もすれば、私は君たちの言う壱式を復活させることができる。もちろん、力も元通り...君たちはハウリングと言っていたか」

 

「やっぱりお前が全ての元凶だったか。全ての壱式を生み出した、この世界に生まれた最初のバグ」

 

「その通り。法則に従えば、私は零式と呼称される存在だろう。人類を滅ぼすという使命を与えられた、人類の敵だ」

 

「ハッ、自分で零式とか言っちゃって恥ずかしくねぇのか?」

 

「君らならそう呼ぶ、そう思っただけのことだ」

 

零式は少しムッとした表情を浮かべてそう言った。壱式のさらに上...零式はほぼ人間そのものだった。壱式を見て感じていたら生命体としての違和感も感じない。ハウリングと分裂増殖という特異な力を持つ点以外に、人間と差異はないのだろう。浮かべる表情も実に人間らしい。

 

「……君は運が悪い。なぜなら、47のハウリング全てを兼ね備えた存在の前に平伏すことしかできないのだから!」

 

そう言い放った瞬間に、零式は炎を俺に向かって放ってきた。

 

「ハウリングを使われることは織り込み済みだ!でなきゃ丸腰で来たりしない!」

 

そう叫びながら放たれた炎を回避する。

 

部屋に入るなり銃で撃たなかったのは、そもそも銃を所持していなかったから。銃を所持していないのは、武器生成操作のハウリングで利用されることを防ぐためだ。

 

「だがお前、どうやって俺らからハウリングを奪った?そこだけが気がかりなんで...ね!」

 

炎を回避した俺は、すぐさま零式に近づいて蹴りを放つ。

 

「ッ...」

 

避けきれないと判断した零式は、蹴りが命中した瞬間に物体反射のハウリングによって俺の身体を跳ね飛ばした。そして吹き飛ばされて回避不能な俺に向けて炎を放ってくる。

 

「……火力弱めだな。奪ったはいいものの、全力では振るえないらしい」

 

「なるほど、君は我々の力とは別種の力を持っていたのだったな」

 

蹴りの瞬間に叩き込まれた増幅熱と、炎があまり効いていない俺を見ることで、零式は俺の持つ異能の存在を思い出したようだ...気付いた、じゃなくて思い出したなんだよな。壱式やハウリングという俺らしか使っていない呼称を知っているのを見る限り、多分壱式の得た情報は全て共有されていると考えたほうが良さそうだ。

 

「元々君が持っていたのなら、奪い返せないのは道理か...」

 

「奪い返す、だと?」

 

「そうだ。奪われたものを奪い返す...それが、私だけが持つ力さ」

 

「なるほど、そいつは大層強そうな力だな!」

 

俺らは壱式を殺すことでハウリングを奪い取っていた。それを、零式の持つハウリングで奪い返すことで全員のハウリングを取り上げたのだろう。

 

……そういえば奴は、47のハウリングと口にしていた。つまり、自死によって継承されずに消滅したいくつかのハウリングも取り返していることを意味する。失ってしまったものだとしても、奪われたものなら復元して元に戻せるのだろう。

 

……ということは、だ。もし零式を殺してハウリングを奪うことができたのなら、同様に奪い返せるのではないだろうか?アンチによって奪われた人類の平穏を。平和だった日々を。失われていった命を。

 

希望的観測だが、可能性はある。

 

「俄然やる気が出てくるぜ...!よっ!」

 

零式が放ってくる炎を回避しながら、増幅熱をたんまりと溜め込んだ小石を投げつける。

 

「おっ、と。物体射出か。それは使えるのね」

 

零式に当たった小石がものすごい速度で返ってきた。物体反射で方向転換させて、物体射出で加速をさせたのだろう。反射だけで出せるような速度じゃなかったからな。まぁいくら速かろうと、移動しながら小石を投げていたから反射先に俺はいないんだけどな...ただ真逆に向きを変えるだけなら反撃の恐れはない。

 

「っ...!」

 

そして、ただ反射するだけでは増幅熱は防げない。なんなら、触れた瞬間に増幅熱の移動は完了できてしまうため、条件のせいで触れなければならない物体反射は幻痛の熱とは相性が悪いと言えよう。

 

「そーれ!」

 

増幅熱によって一瞬怯んだ零式に近づき、下から掬い上げるように蹴りを放って足裏を零式の顎に叩きつける。

 

「ッグ!!」

 

斜め上に吹っ飛ばされた零式は、そのまま背中から床に叩きつけられる。

 

「ほらどうした。立てよ。そんな傷、さっさと治せるだろ?47のハウリングがありゃよぉ」

 

俺は半ば煽るように言いながら零式に近づく。

 

「出来ねぇよなぁ?治せねぇよなぁ?今のお前はまだ不完全。全てのハウリングを満足には使えない...単純明快で簡単な力しかまだ使えねぇんだろ?」

 

これまで零式が使ってきたハウリングは、炎に物体反射に物体射出。様々なハウリングの中でも、起こしている事象は比較的単純なものだ。過程省略なり斬撃なり転移なりといった強力な力を使わないのはなぜか?特に、あまり効果が無いと分かっている炎を使い続けているのはなぜか...それは、ハウリングを奪い返した直後でまだ全てのハウリングを使えるわけではないから。

 

もし47のハウリングをフルで使えていたとしたら、流石の俺もお手上げだ。だが、そうじゃないのなら勝ちの目は大いにある。

 

「ッ...だったら、その間に私を殺し切ることだな!」

 

ジャキッと零式の手のひらの中に銃が生み出された。門川の武器生成操作...使えるようになったのか!

 

「ハッ、こちとら銃は怖くねぇんじゃい!」

 

放たれた銃弾の摩擦熱を極限まで増幅させて軌道を捻じ曲げ、地面に着弾させる。地面にめり込ませて止めてしまうことで、武器生成操作による銃弾の軌道変更も許さない。

 

「そういう急覚醒は警戒してんだよ最初から!」

 

すぐに追撃に行かなかったのは、本当は使えるけど隠しているハウリングであったり、ちょうど今使えるようになったハウリングとかいう後出しジャンケンを警戒するためだ。回避可能な距離を保ち、それを使ってきた瞬間に対処することで、零式のプランを崩して仕留める...それが俺の作戦だった。

 

銃弾を全て叩き落とした俺は、最高速度で零式に近づく。顔目掛けて銃を向けてきた瞬間に一気に体勢を低くし、スライディングしながら零式の足を払う。そして転んだ零式の背中に馬乗りになり、俺は懐からある物を取り出す。

 

「丸腰って言ったの、ありゃ嘘だ」

 

取り出したのは水風船。幻痛の熱で零式を仕留めることは困難であるため、一撃必殺の武器として持ってきていたのだ。

 

「簡単に敵の言うことを信じると馬鹿を見るぜ」

 

そう言って、俺は零式の頭に水風船を叩きつけた。

 

「……たしかに、馬鹿を見れたな。言葉通りにね!」

 

「なんで消え...グオッ⁉︎」

 

突如暴風が吹き溢れ、俺の身体は零式の上から吹き飛ばされた。

 

「っ...なぜ消し飛ばない⁉︎ちゃんと当たったはずだろ!」

 

身代わりのハウリングは使われていない。障壁で守られてもいない。確実に水はかかっていた。

 

だというのに、なぜ零式の身体は溶けない...!

 

「水で溶けるのは、壱式を生み出した際に生じた欠陥だ。私にまでその法則が適用されると信じるその姿、滑稽だな」

 

っ...そうか。壱式から弐式へ、弐式から参式へと劣化個体になるにつれて、アンチは何かしらの機能を欠損していく。言語であったり、人の姿であったりと段階によって失うものは変わるが、零から壱への劣化は水を受け付けないというものだったのか。

 

水は生命が生きる上で必要なものだ。それに一切触れることができないとなると、たとえ水がなくとも生き延びられるようになっていたとしても、生物としてはだいぶ破綻しているようなものだ。まずそこから、生物としての形を大きく欠損していたんだな...

 

「……欠陥が絶対にある法則はお前にも適用されてんだな」

 

軽くぼやいてから、俺は体勢を立て直す。今のはギリ事前に気付けた事実だ。想定が甘かったことは素直に反省しよう。

 

そして、勝ちへの道筋を再構築する。過程は先ほどと一緒。零式の放ってくる奇襲に対応してカウンターを叩き込む。そのカウンターとなる一撃を、水風船から別のものに変える必要があるわけだが...

 

「気を取り直して、今度こそ殺してやるよ」

 

「出来るものならやってみろ」

 

「出来るさ。こちとら何度世界救ってきたと思ってん...だ!」

 

走って零式に近づく。全身の動きを全ての神経を張って知覚し、全ての摩擦熱を増幅させていく。そして、それと同時に零式の身動きによって生じる摩擦熱も増幅させ、少しでも行動を阻害しておく。

 

おそらく、零式は増幅熱に気を取られていることだろう。ここで、俺の切り札を...!

 

「ハウリング承認要求!!」

 

「知ってるさ。もちろん拒否する」

 

一瞬で、俺の切り札がバッサリと斬られる。そりゃ、壱式の知ってることはバレてるわな...!

 

けど、この隙は見逃さない!

 

「カハッ...⁉︎」

 

承認要求を飛ばしたその瞬間、俺は背中越しに横に小石を放り投げていた。小石は壁に当たり、執務室の机に当たって向きを変え、増幅熱の消費により零式の背後から後頭部に命中した。壁や机に当たる音は俺や零式の声で遮られていた。切り札は最大の囮。本命を通すための陽動として使い潰す...!

 

「オラァッ!」

 

零式の頭が前に倒れ込んできたところに跳び回し蹴りを放つ。

 

「ッ!...ウゴッ!!」

 

「ハッ、自滅してやんの!」

 

零式は雷を身に纏い高速移動をすることで俺の蹴りを回避するも、扱い慣れてない力であったためか操作を誤り壁に激突していた。

 

当然、俺の動体視力ならば零式の動きは全て追えている。空気抵抗と壁への激突時の摩擦熱は全て増幅済みだ。

 

「く...!」

 

零式は動くたびに増幅熱が蓄積していく。神経に直接作用する熱が精神を焼き切ろうと零式を蝕む。炎のハウリングの副次効果によってある程度熱に耐性はできているだろうが、このまま続けば長くは持たないだろう。

 

だが、そんなに長くは待ってられない。新たなハウリングを解禁される前に仕留める...!

 

ボッ!と俺の足に炎が纏わりつく。溜め込んだ熱量が一定量を超え、溜め込まれた本来の摩擦熱が靴を燃やし始めたのだ。

 

「これで、終わらせる!!」

 

壁にもたれかかる零式に向かって走る。自滅によって身動きが取れない零式は、銃を俺に向けて引き金を引いた。せめてもの抵抗だろうが、一番厄介でもある。

 

「無駄だ!」

 

銃弾の摩擦熱を消費し、横に銃弾を逸らす。そして最短距離で零式に近づき...急にくるっと後ろを向いて、背後から飛んできていた弾丸に下から蹴りを当てる。

 

銃弾を横に逸らしたのは、零式に銃弾を操らせて背後から攻撃させるため。増幅熱を銃弾に残しておくことにより視界の外でも位置を特定し、正確に蹴りを当てる。そしてそのまま銃弾を零式に向けて蹴り飛ばす。

 

その瞬間、脚に溜め込んでいた増幅熱の半分を銃弾に込めることで、ハウリングによる軌道操作を上回る強さで幻痛の熱による軌道操作を行えるようにする。銃弾の軌道が無理矢理固定され、真っ直ぐ零式の元に飛んでいき...

 

左胸を撃ち抜いた。

 

「セイヤッッ!!」

 

続け様に零式の顔面を蹴り飛ばし、全ての増幅熱を叩き込む。この一撃で決着をつけるべく、全ての力を注ぐ。

 

そして...

 

「……事切れたか」

 

零式は死亡した。心臓を撃ち抜かれ、トドメの蹴りと脳への幻痛の熱による負荷が合わさり限界を迎えたようだ。ピクリとも動かなくなり...

 

胸の辺りから光る何かが...いや、光そのものが出てきた。

 

「これが、みんなの言うハウリングの光...」

 

俺はそれに向かって手を伸ばし、掴み取る。

 

その瞬間だった。

 

「オグッ...!!??」

 

異物が体内に入り込み、全身をかき乱すような感覚が走る。全身に何かが張り巡らされ、神経を刺激し、意識が朦朧としてくる。

 

「これ、は...!」

 

例えるのなら、魔王の乗っ取りに近い何か...殺した零式がハウリングと共に俺を乗っ取ろうとしてんのか...!

 

「ヅ!!」

 

意識が吹っ飛びそうになる寸前、舌を噛むことで無理矢理意識を表に引っ張り出す。

 

耐えろ、耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!  はぁっ、ぁっ、はぁっ、は、はひぃ...」

 

俺は何とか耐えきり、自分の身体を動かす。

 

「な、るほど...みんな気絶してたのは、このせいだったのか...」

 

アンチがハウリングを奪っても気絶しないのに、人がハウリングを奪った時に気絶するのは、この乗っ取りによる負荷があったからなのだろう。

 

「ってことは、みんな乗っ取られてたのか...?いや、潜伏してただけか...零式は、そこから情報を得てたってことね」

 

零式が自衛隊の持つ情報を知っていた理由に合点がいく。完全に乗っ取られていたら簡単に自衛隊を内部崩壊させられていただろうから、おそらく完全に乗っ取りが出来るのは零式だけなのだろう。

 

「運が悪かったな、お前。俺じゃなかったら乗っ取れてただろうによ」

 

自身を殺した人へと、ハウリングと共に乗り移る...もし他の奴らが零式を殺していたら、呆気なく乗っ取られて人間界に紛れていただろうな。壱式の再生成も間に合い、対抗しようとする自衛隊を内部から攻撃することもできる...俺が殺したことで、この最悪のシナリオは回避できたわけだ。

 

「マジで、俺がいなかったら詰んでたんじゃねぇの?この世界...さて、変なこと起こされる前に、やるべきことをやっておくか」

 

再度乗っ取りを企てられる可能性もゼロではないので、やれることは先にやっておこう。

 

俺は手を真上に上げ、奪った力を行使する。

 

「ハウリング起動...奪回!!」

 

アンチによって奪われたもの全て!俺に出来るところまで全て!取り戻す!!

 

「時間は取り戻せずとも、人や物、資源、本来あるはずだった世界に、戻れ!!」

 

俺の身体に刻まれたハウリング能力が発動する。アンチによって奪われたもの全てを奪い返し、擬似的にアンチが生まれなかった世界として再構築する。

 

「づっ...そりゃ抵抗するわな。けど、利用させてもらうぞ...!」

 

俺の中にいる零式が抵抗するものの、無視してハウリングの行使を続ける。

 

感覚でしかないが、多分もうそろそろ...!

 

「仮谷!」

 

バンッ!と扉が開く音がして、八代の声が響いた。

 

「おぉ、よく来たな八代。残念だが、お前の出番はもうないぜ」

 

「お前...やり遂げたのか...?」

 

「ああ。全てのアンチの生みの親、零式は殺した。今、そいつから奪った奪回のハウリング...奪われたものを奪い返す力で、アンチに奪われた全てを回収し終わったところだ」

 

「……それは、どういう...」

 

「上手くいってりゃ、アンチに壊された物や殺された人が全て戻ってきたはずだ。全部は流石に無理かもしれないが...少なくとも、俺が奪われたと認識しているものは確実に取り戻せているはずだ」

 

「……っ!それって...!」

 

「ああ、日田が生き返っているはずだ。おそらく、殺されたあの場所...福岡県庁で起き上がって、何事かと混乱してることだろうな」

 

「マジかよ、それ...!」

 

八代の瞳から涙がこぼれ落ちる。

 

「本当に悪かったな、八代。けど、これで許してくれるか?」

 

「あ、ああ...!日田が帰ってくるなら、俺は...!」

 

「そんじゃ、それついでにこれも許してくれ」

 

そう言いながら俺は、武器生成操作のハウリングを発動させ、手元に拳銃を生み出す。

 

「お前と交わした約束、破っちまう。すまんな」

 

「な...なにしてんだお前⁉︎」

 

生み出した拳銃をこめかみに押し付ける俺を見て、八代は驚愕しながら叫んだ。

 

「最後はお前に殺される...そのつもりだったんだが、そうもいかなくなってな。俺が殺されれば、殺したやつに全てのハウリングと零式の意識が移ってしまう。俺は耐えられたが、八代だとあっという間に身体を乗っ取られちまうだろう。だから、こうする。自死でハウリングごとこの世から全てのアンチを消し去る他ない」

 

「おま...日田が帰ってくるんだろ⁉︎だったら俺にお前を殺す理由はない!そのまま生きてりゃいい話だろ!」

 

「忘れたか?俺は目的を達成したらこの世界を出なきゃならない。出るためには死ぬ必要がある。お前との約束が無効になっても、結局は死ぬ必要があるんだ。そもそも、俺の目的はアンチの全滅。俺の中に零式がいる以上、自分ごと殺さない限り目的達成できないんだから死ぬのは当然だろ?」

 

「っ...お前、本気か?」

 

「もちろん」

 

「怖く、ねぇのか?」

 

「死ぬのには慣れてる。それに、頭をぶち抜くのは二回目だ。まぁ、一度目は魔王の邪魔が入って失敗したが」

 

「……」

 

「出来れば、早めに納得してもらいたいね。実は結構零式を抑えるのに体力使うんだわ...このまま時間かけてると、俺でも乗っ取られてジ・エンドだぜ?」

 

「……わかった。好きにしろ」

 

八代はそう言って、執務室を後にしようとする。

 

「最後に伝言を頼む。延岡と古宇利によろしく言っておいてくれ。平和になったこの日本で、何気ない日常を謳歌しろってな」

 

「そんなことくらい、自分の口で言え」

 

「いや、俺ここで死ぬんだって...ってそっか。これで良いのか」

 

俺は思考共有のハウリングを発動させた。関わりのある仲間たちにそれぞれ、一方的に言葉を送りつける。

 

「っ...お前...」

 

「じゃあな八代。友達と幸せにな」

 

執務室を出る八代の背中に最後の言葉を伝える。

 

扉が閉じ、執務室は俺一人だけになる。

 

「それじゃあ...終わりにしようか」

 

体内の零式がやめろと叫ぶ。

 

その言葉を無視して、俺は自らの頭を撃ち抜くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、戻ってこれたか」

 

神様のいる真っ白な空間に戻ってくる。ハウリングの世界...言うなれば鳴音世界から無事に目的を果たして戻ってきたわけだが...

 

「神様ーどこー?」

 

神様が見当たらない。どこにいるんだろう...

 

「……お、帰っておったのか。大詰めの作業に集中していたゆえ気づかなかったわい」

 

「作業...?あっ、そうだ神様。俺の中に零式ってまだ入ってる?」

 

体内に零式がいる状態で死んだわけだが、魔王の時みたく体内に残っている可能性が一応あるため聞いておく。

 

「もう抜けておる。あの生命体は肉体に寄生するタイプじゃからな。魔王のように魂に寄生するタイプなら話は違ったが、そうでなかったため死亡によってお主の身体が消えると共に消え去ったぞ」

 

「そっか、それなら良かった。それじゃあ魔王の様子は?」

 

「魔力の無い世界に送り込んだおかげで、再誕世界離脱後から変化はなさそうじゃの。まぁ与えた力は例のごとく魔王に取り込まれてしまったようじゃが...まだしばらくは復活してくることもないはずじゃ」

 

「なるほど、このまま魔力のない世界を巡れば、魔王復活のことを気にせずに時間潰しができると...」

 

「それなんじゃが...お主に朗報じゃ」

 

「朗報?なに?」

 

「聖杖世界でのお主の身体、その復元にようやく成功した」

 

「おっ、マジで⁉︎なるほどさっきの作業ってのはこのことか...!ってことは、また聖杖世界に戻れるのか⁉︎」

 

「その通りじゃ」

 

「よし!これで魔王問題とはおさらばだ...!」

 

聖杖世界に行けば、魔王は一瞬で除去することが可能だ。ライトの聖杖があれば、俺の体内の魔王を魔素を反転させることで強制的に滅することができるからな。魔王はしばらくは目覚めないし、サクッと除去すれば魔王とようやく離れることができる...!

 

「……喜んでいるところに申し訳ないが、そうもいかなくてのう...」

 

「……何か問題が?もしや、まだ聖杖世界には行けないとか?」

 

「行けるは行けるのじゃが...すぐに魔王を除去することは難しい。というのも、聖杖世界ではまた問題が起こっていての...お主が神の使いとして再度介入する必要があるのじゃ」

 

「えっ、またあの世界で何かが起こってんの...?」

 

「それを解決すれば、お主の中の魔王をどうにかすることもできるじゃろう。じゃから、お主は持ち込む能力を考えてくれ」

 

「……わかった。考えておく」

 

どうやら、聖杖世界ではまた何かが起こっているらしい。帰ってきてすぐではあるが、また新たな能力を考えなければならないようだ。

 

……けど、内心ワクワクしている。ようやく聖杖世界に帰れるのだから当然だろう。

 

「アイツら、変わってるかな...」

 

世界を何度も渡っているためあの世界でどれだけ時が経っているかわからないが、またみんなと会えるのだ。どう成長しているのか、とても気になる。

 

「俺もだいぶ変わっちまったが...受け入れてくれるかねぇ」

 

この手はだいぶ汚れてしまっている。そういう不安もあるが、多分みんななら受け入れてくれるだろう。

 

「……待ってろ、聖杖世界...!また、みんなと共に世界を救ってやる!」

 

俺は拳を高く突き上げるのだった。




これにて第四章 幻痛の熱は完結です。

今回事前に決まっていたことは、各都道府県にいる47の壱式の存在と、水の溶けるなり漆式までの劣化個体などのアンチの基本設定、自衛隊に入って戦闘をすること、そしてカリヤくんの翻訳によるハウリング承認要求くらいでした。

実はハウリングを奪う云々の設定は最初はなかったんですよね...それだとあまりにも単調になりそうだったので、突如追加しました。
カリヤくんだけが敵の力を使えるという感じにしようと思っていたんですが、それだと一人で無双しそうだったし、仲間との協力を描くためにも必要だろうと追加しましたが、そのおかげでいろんな戦闘が書けたので良かったんじゃないかな?

一番書いていてヤバかったのは、47のハウリングが後半になるまで全部決まってなかったことですかね...流石にアホだったので反省してます。

さて、次回からはついに聖杖世界に戻ってきます。
名付けて、第五章 回避の目。
ストックが危ういのと期末試験が近づいている関係上、次回の投稿は8/1とさせていただきます。
一年一ヶ月ぶりにあの頃の仲間が帰ってくる...!
ぜひお楽しみに!!
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