解説パート二話目+ちょい戦闘回です。
「魔神討伐、そして魔界の再封印...か。かなりエグいタスクが湧いてきたな...」
ライトの口から出てきた事柄に頭を抱える。やらなきゃならないことの規模がデカすぎる...つーかこれ、魔王討伐よりも大変なんじゃ...
「……そもそもなんで魔界の封印が解けたんだ?今のシレンの穴に女神が封印したんだろ?今頃封印が解けるとは思えないんだが...」
魔神関連の話は魔族であるアクセルから聞いている。その中に、魔界の封印は定期的に強化...というより再封印が施されているという話があった。シレンの穴の攻略後、聖剣の機能の完全開放のために聖剣を穴に刺すのだが、その瞬間に封印の再展開がなされるのだ。
俺らの一つ前の代の勇者はシレンの穴の攻略が最後まで出来なかったため封印は一時的に緩んではいたが、俺らが攻略したからまた再封印出来ているはず。まさか一回できなかっただけで解けるような封印でもあるまいし...
「もしかして、魔王が女神の山を乗っ取ったりしたのが関係あったりする?」
魔王の目的は、自らを生み出した魔神の復活。それを成し遂げるために、魔王はシレンの穴の封印を解こうとしていた。その時間を稼ぐために、魔王は勇者を倒そうとしていたのだ。
そして魔王は俺らとの戦いの中で、女神の宿る山の乗っ取りを画策した。女神の力を逃すことで女神を乗っ取られることは避けられたが、これによって各地の聖素と魔素のバランスが崩れ、聖域の位置が変わったり魔域と呼ばれる空間が生まれたりもした。それらが影響して、封印が緩んだ可能性はあるな。
「……原因はわかっている」
「あっ、わかってるんだ。何が原因なんだ?」
「封印には何も干渉された痕跡が残っていなかった。自然に崩壊していたんだ。まるで、長い時が経ってしまったかのように」
「経年劣化だと...?ライトが再封印したはずなのに、たった一年で...?」
「珍しく察しが悪いわねカリヤ」
「え?...あっ、まさか...速度操作で...⁉︎」
「その通りだ。魔王はカリヤの身体を乗っ取っている間に、シレンの穴の封印を加速させていたんだ。時を加速させて、時間経過で朽ちさせた」
「なる、ほど...俺の身体を乗っ取ったのは、加速による封印の破壊という目的もあったのか...!」
「それがわかったことで、あの時の魔王の不自然な行動にも説明がついた。あの時の速度操作は、減速を発動させている間は何か一つのものしか加速させられなかった。けど、逆に言えば一つはできる。だから、全世界を止めながら自身を加速させて僕を一瞬で殺してしまえば、それで魔王は自らを阻む敵を排除できたわけだ」
「けど、それをしなかった...それは、シレンの穴の封印を加速させていたから...!」
「戦闘の途中から、カイの熱操作を使うことで魔王に唯一の加速枠を体温維持に使わせることができたから封印の完全解除は防ぐことができたけれど、気付いた頃にはもう手遅れだった。再封印は出来ず、少しずつ封印は解けていって、ついこの前、致命的な綻びが生じた」
「くそッ、じゃあ封印が解けたのは俺のせいじゃねぇか...!」
俺の速度操作がなければ、シレンの穴の封印が解けることはなかっただろう。完全に俺の失態だ。
「カリヤのせいじゃない...と言い切ることは出来ないね。けれど、カリヤがいなければそもそも僕たちは魔王を倒せていない。カリヤが悪いと思っている人なんて誰もいないさ」
「っ、でも...」
「申し訳ないと思うなら、今回も手伝ってくれ。負い目を感じるなら自分でケリをつけるんだ」
「……そうだな。それもそうだ。俺が原因ならしっかり魔神ぶっ倒して再封印してやらねぇとな」
クヨクヨしてもいられない。過去はやり直せないのだから、今から出来ることに集中しなくては。
「つーか、ここまで魔王の思う通りに進んじまったわけか...」
「たしかに、封印が解けたんだから魔王のやりたかったことは叶っちゃったのかぁ」
「ワンチャン、目的達成したからもうカリヤの中から魔王が出てきたり...って、流石にないか」
「カリヤの持つ特殊な力は魔王にとっても便利なものだろうからね。新しい身体になって魔力が減っているからそこは不便だろうが、それを凌駕するメリットがある」
「コレばっかりはしょうがない。魔神を倒して魔界を再封印、魔王の目論みを完膚なきまでに破壊してやるしか道はないな...ところで、結局聖剣は今どうしてるんだ?手放した...って言ってたけど」
魔神がどのような存在かはわからないが、聖剣の持つ力は魔神にも有効だろう。必殺技である聖杖が使えずとも、聖域展開は魔素で覆われている魔界を探索するには必須だろうし、何かとないと困るはずだ。
「聖剣は今、シレンの穴にある。魔界の封印は解かれたが、まだギリギリこの世界とは接続されていない。その接続の先延ばし、そして封印の亀裂から漏れ出る魔素の影響を防ぐために聖剣を突き刺しているんだ」
「なるほど、じゃあ魔界に入る時には聖剣も持っていけるんだな?」
「いや、聖剣は置いていく。僕たちが魔界を探索して魔神を倒している間にこちらの世界が滅んでいた...なんてことになったら困るからね。僅かでも封印を持たせるために聖剣はそのままだ」
「え...それで魔神とは戦えるのか?というか、魔素しかない魔界の中を聖剣なしで活動する気なのか...?無理じゃね?」
以前、聖域のように魔素のみで構成された空間である魔域の調査をした時、魔王が中にいた俺と勇者の加護によって守られていたライトを除いた四人は、その魔素に当てられて体調を崩していた。世界全てが魔素で覆われた魔界では、それ以上に人体に影響が出てもおかしくはない。だというのに、聖域展開という回避手段を持つ聖剣を持っていかないのは、自殺行為ではないだろうか?
「それは問題ない。それ用の対策は済んでいる...そうだ、それならカリヤにも同じ処置をしておかないとな」
「処置...?」
「詳しい話はおいおいよ。カリヤの中にいる魔王と競合を引き起こす可能性もあるし、処置をするにもまず身体調査は必須...それが済んで、実際に処置を施すって時になったら説明するわ」
「魔界の中でも問題なく活動できるようにしているから、そこは安心してほしい」
「そ、そうなんだ...なら良いけど、聖剣なしじゃ攻撃面が不安では?」
「そこはまぁ、ここ一年の修行の成果の見せ所さ」
「急に脳筋だな...俺はあんま攻撃に参加できないから、頼むぜ?」
「任せてくれ。カリヤが思っている以上に、僕らは成長しているから」
「俺のハードルは高いぞ〜?」
「そこまで言われるとちょっと自信無いけどね...さて、コレでこちらから話すことは終わりかな。何か気にあることがあったら聞いてほしい」
「んー、特には...あっ、じゃあこれだけ。魔界に行くのはいつか決まってるか?準備期間はどれだけ取れる?」
「意外と猶予は長いよ。このままのペースだと、聖剣があっても抑えきれなくなるのがおおよそ三ヶ月後...魔界の探索にかける時間や、ある程度余裕を持たせたいのを考えると、一ヶ月は準備に充てても問題ないはずだ」
「結構長いな。切羽詰まってる状況かと思ってたけど、意外とそんななんだな」
「あくまで予測値だから、急に早まる可能性も十分あるけどね。けど、準備なしに無闇に突っ込んでも駄目だから、何が起こってもいいように準備は万全にしたい」
「それはそうだな...にしても、一ヶ月か。それまでにどれだけ強くなれるかな...」
「そっか、この一ヶ月でカリヤを強くしてあげないといけないんだね」
「私たちの足手纏いにならないよう、自分でしっかり動けるようになってもらわないと困るわ。全力で励みなさい」
「わーってるよ。足手纏いになるつもりはないさ。流石に全盛期は不可能だが、少しでも近づいてみせる。まず手始めに魔力をっと」
体内の魔力を操り、全身から放出させて魔力切れ状態を作り出す。この世界では、魔力切れを起こして自然回復により全快するたびに魔力が増えていく。
前回は、魂を他者と入れ替える特性を持ったシレンの穴すぐ近くのダンジョンを悪用して、俺の身体の魔力を使い切らせてから速度操作を使ってすぐさま回復させるという方法で莫大な魔力を得ていたため、全盛期の魔力量にたどり着くことは完全に不可能だ。けど、塵も積もれば山となる...少しでも魔力を増やさないとな。
「……相変わらずの魔力操作技術ね。あっという間に魔力を放出し切るだなんて」
「言ったろ?記憶と技術と経験は残っている。コレくらい朝飯前さ」
「そう...ところで、そんなにあっさり魔力を枯らして良かったわけ?回避の目とかいう予知の力も使えなくなるのでしょう?」
「んいや、速度操作と違って回避の目は魔力を使わないで発動できるようになっているから問題ない。魔力切れで未来が見えなくなって被弾するとか馬鹿らしいからな」
「そ、なら良いわ...カリヤ、少しそこで待ってなさい」
「え、何どこ行くの?」
ニアは立ち上がると、隣の部屋へ行ってしまった。何しに行ったんだろう...と思っていると、ニアは何かを持って戻ってきた。
「それは...!」
ニアが持ってきたのは、正六面体の何か...俺にとって見覚えのあるものだった。
「装備即時着脱の魔道具...!」
次元収納という別次元に物をしまうことができる魔法とリンクさせることで、瞬時に武器や防具を装備できたり、次元収納の中のものを取り出すことができる魔道具である。シレンの穴で手に入れたこれを使っていろんなことをしたものだ。
「貴方の持ち物は全てこれに入っているわ。コレを常時起動できるようになるまでは私が預かっておくから、必要なものがあるならいつでも言いなさい」
この魔道具は使用している間常に少量の魔力を消費し続ける。以前の俺は速度操作による魔力回復速度加速を常に発動させることで魔力消費を帳消しにしていたが、今の俺にはそれは不可能。常に起動しながら他に魔法を使って戦闘も出来る量の魔力がなければならない...ひとまずの目標はそこだな。
「マジ助かるニア...!それじゃあ前まで装備してたもの一式出してくれ。前の感覚を取り戻したい」
「わかったわ。
ニアが魔道具の限定起動の呪文を唱えると、魔道具が淡い光を出し始める。そして、ボトボトっと空中からものが現れて机の上に置かれていく。
「あ〜、懐かしー!」
ダガー二本、刀、鞭に弓矢に盾、そして魔力銃と拳銃...以前使っていた武器がどんどん出てきて懐かしい気持ちでいっぱいになる。
「……いや、多いな。俺こんなに持ってたんだっけ...」
「コレ全部装備していたの、今考えてもアホよねぇ...速度操作で動けるから何とかなっていたのでしょうけど、今は無理よ。全てを装備するのは諦めなさい」
「アホ言うなし。けど、切り捨てないとなのは間違いないな...」
そう言いながら俺は、ダガー二本と刀、左腕に取り付ける小型の盾と拳銃を手に取る。
「十分多いわよ」
「コレでも削った方さ。攻撃の参加はあんましないだろうから、自衛に必要な分だけ付けておくよ」
中遠距離武器である弓矢は候補から外れ、鞭も限定的すぎて外れる。そして、魔力量が少ないから魔力銃は有効に使えないためこれも外れる。残りは全部使い道があるため必要だ。誰が何と言おうと必要である。
「あとコレがあるけれど...まだ渡さないでおくわ。勝負所まで温存しておくことね」
「あっ、それがあったかぁ」
ニアが俺に見せてきたのは腕輪だった。魔力を蓄積できる魔道具であり、常に俺の魔力を蓄積させてきたおかげか、俺の魔力を吸い取る速度が尋常じゃないほどに早くなり、尚且つ容量があり得ないほど大きくなっている。
ライトと魔王との最終戦闘にて、俺の魔力を一気に吸い取ったことによりこの腕輪には相当な量の俺の魔力が蓄積されている。コレを使えば、外付けの魔力タンクとして魔法発動に役立てることができるだろう。
「おっけ、持っておいてくれ」
「最後にコレね」
「おわっ、ヤバい懐かしすぎて泣きそう」
「そこまで?」
ニアが取り出したのは腰に取り付けるポーチ。それを開けると、中から本が出てきた。
魔法図鑑...俺の魔法の師匠であるリヒトが作った、この世界で発見されている全ての魔法の呪文と魔法陣が描かれている本である。俺は、コレを閉じてポーチにしまったまま魔力を流し込むことで魔法を発動させていた。速度探知と俺の魔力操作技術があって初めてできる技だ。
「速度探知がないから100%の力は出してやれないけど、また頼むぞ〜おーよしよし」
「ペットじゃないんだから...コレで装備は全てよね?」
「そうだな、サンキューニア」
「カリヤ?」
「ん?どうしたよステラ?」
名前を呼ばれながらステラに突かれたので首を傾げながら聞く。
「これ、忘れてなーい?」
「……そっか、コレもあったな」
ステラが見せてきたのは指輪だった。過去改変の指輪...持ち主が致命傷を負った際、蓄積された魔力を使って致命傷の原因となった攻撃を防御することで過去を改変し、攻撃を受けたことを無かったことにする強力な魔道具である。たしかステラに渡していたはずだが、そのまま持っていてくれていたらしい。
「けど、それは受け取らない方がいいかな」
「どうして?今のカリヤの方が必要だと思うけど」
「たしかに、戦力的に一番弱いのは俺だ。回避の目があっても死ぬ可能性は高い...けどさ、もし俺が魔王に乗っ取られた時に、コレ持ってたら面倒だろ?」
「あっ...」
「それに、俺はみんなが死んじまう方が嫌だ。原因の一部が俺にあることで、この世界の人に死んでほしくはない...別に、自分の命は捨てていいと思ってるわけじゃないぜ?みんなのことが心配なだけなんだ。だから、これはこれからもステラが持っておいてくれ。いいな?」
「……うん、カリヤがそう言うなら、わかった。けど...」
「けど?」
「ヤバい時は投げ渡すから、ちゃんとキャッチしてよね」
「了解。まぁ、そうしなきゃならない状況にならなければいい話だけどな」
「綺麗にフラグを立てたのはわざと?カリヤ」
「お前の口からフラグなんて言葉が飛び出すとは...完全に地球文化に染まりやがって、レストよぉ」
「はいはい話が脱線しすぎよ」
ニアが手を叩き、話の流れを戻す...戻すといっても、どこに戻ればいいか分からないな。今どんな話してた?
「カリヤに渡すものはもう無し、この場でやれることももうない...となれば、やることは一つよ」
「一つ?そんな択一になる状況か...?」
「カリヤの特訓、そして回避の目とやらの実験よ」
「二つじゃねぇか」
「細かいこと気にすんじゃないのよ。ガネルの闘技場にさっさと行くわよ」
そう言いながらニアは次元転移の裂け目を開くのだった。
「まさか、この世界に戻ってきて早々にクミリアと戦うことになるとは...」
闘技場にやってきたわけだが、俺の訓練と回避の目の検証を兼ねてクミリアと試合をすることになった。もちろん、ガチでやったら勝てないし今の俺じゃクミリアを倒すことなんて到底無理だろうから、ひとまず回避に専念してどれだけ避けられるかを試すことになっている。
「こっちも驚きだよ、まさかまたカリヤと一戦交えられるだなんてね。まさか鈍ってたりはしないよね?」
「どんだけ世界を巡ってきたと思ってんだ。舐めてもらっちゃ困るね」
「いや、バフ使わないでって言われたら流石に舐めるよ...?」
「フルで使われたら何やっても回避不可能なんだからしゃーないだろ。不可能だと予知すら出来ずに殴り倒されるだけなんだからなこちとらは」
「どうして強気になれるのかわからない...そろそろ始めるよ。準備はいい?」
「問題ない。来なよ」
そう俺が言った瞬間だった。突如として放たれたクミリアの回し蹴りが俺の側頭部を叩く予知が見える。
「ハッ、これくらいなら予知無しだって...!」
回避の目による攻撃の予知は、対象が何も行動をとらなかった場合に被弾するなら発動する。よって、回避の目がなくとも避けられる攻撃でも予知は発動する。自力で避けられるものでも発動するのはちょっと無駄なように思えるが、前もって回避ルートを組めるから咄嗟の回避よりも状況が良くなるからちょっとはマシなのかもしれない...
と、そんなことを考えながら俺は軽く屈んで回し蹴りを回避、頭上をクミリアの足が凄まじい速度で薙ぎ払っていく。
「っと、流石に大振りすぎたかな?だったら細かいのを...!」
回し蹴りの体勢から一瞬で姿勢を立て直したクミリアは、その場で一回跳ぶとスプリットステップの要領で瞬発的に加速して接近してくる。
「よっ、ほっ!」
そうして近づいてきたクミリアは細かい打撃を素早く連続で放ってくるが、クミリアが跳んだ瞬間にはもう予知が見えていたため、全ての打撃を手で弾き逸らしていく。
「速さで俺に敵うとは思わないことだな。速度操作がなくとも鍛え上げられた動体視力は自前で持っているから、ただ速いだけじゃ予知が無くとも見切れる」
「ありゃ、だいぶ身体スペック凄いことになってんね。そんなだったっけ?」
「速度操作のあった頃の感覚を取り戻そうとしたらこうなるのは自然さ」
「そうかなぁ?...余裕そうだから、そろそろギアを上げてくよ!」
「っ!」
予知が発動する。ギアを上げたと言っていたが、にしてはかなり速くなっており対処が厳しくなってくる。
予知を見て攻撃を回避しようとした瞬間にまた別の予知が見えるといったことが頻発しているのだ。単純に攻撃の密度が高いのもあるが、回避しようとした瞬間に、それを見たクミリアがその瞬間に攻撃内容を変えて無理矢理当ててこようとするからまた予知が発動するんだよな...
一瞬一瞬に予知が挟まるものだから、時間の進みがやけに遅く感じる。軌道がわかってる攻撃ほど避けやすいものはないから今のところなんとか回避できてはいるが、これ先に脳の処理が追いつかなくなりそうだな...
「っと、これは...!」
脇腹目掛けて放たれる蹴りの予知が見えた俺は、その直前に放たれていた拳の弾き方を変え、すぐさま手首を掴んで引っ張り体勢を崩させることで次なる攻撃を防ぐ。
「危ねぇ危ねぇ。たまにこういうことしなきゃならんのよな」
回避の目による予知の中には、回避や防御じゃどうやっても防げないだろというものが見えることがある。そういうものは、こちらが先に攻撃することによって潰すしかない。攻撃は最大の防御とはよく言ったものだが、予知の中からそういう類のものを見抜かなければならないためかなり難易度は高めだ。
クミリアの手を離し、バックステップで距離を取ってクミリアの動きを見る。今の俺の力じゃ、さっきので反撃を喰らわなかったのはなかなか奇跡だ。多分二度目は通用しない。なるべく回避で避けられるように、体勢を整えておく。
「へぇ〜そういうこともするのね。だったら...こうしようかな」
クミリアは普通に歩くようにして近づいてくる。攻撃の予知はまだ見えない。いつ来る...?
「……っ⁉︎」
クミリアは俺の顔面目掛けて拳を放ってくる...が、回避の目は発動していない。ってことは当たらない...?フェイントでの牽制...いや、回避不可能だから見えていないという可能性もある...が、この速度の拳を俺が避けられないはずがない。となるとやはりフェイントだろう。ならば、変に未来を変えないためにも何もしないことを選んだほうがいいはずだ。
この攻撃は当たらない。直前で止まって、別の攻撃をするはずだ。距離的にも当たらない...
……本当に?クミリアなら当たらないはずの拳をもう一歩踏み込んで当てることができるのでは?直前に攻撃内容を変えたことによって回避不可能になった場合、回避の目はどんな挙動をする?直前までその意思はなかったわけだから、攻撃を思い直した瞬間に回避の目の発動判定が入って、回避不可能ならそのまま発動しない可能性が...
「くそっ...っ⁉︎」
俺は悩んだ末に回避を選んだ。地を蹴り後ろに跳ぼうとした。
その刹那、回避の目が発動する。空振った拳の勢いを活かして俺に詰め寄り、服を掴んで引き寄せ、そのまま腹に一発拳が叩き込まれる未来だった。
フェイントによって俺に回避などの行動を強要し、行動に移したことで生じた隙を狙う...それがクミリアの作戦だった。
俺はもう地を蹴っている。着地までこの動きは変えられない。変えられるのは上半身の動きのみ...服を掴もうとするクミリアの手を弾いて防御を...!
「んなっ、ゴフッ⁉︎」
クミリアの手を弾こうとした瞬間、その手は俺の手をがっしりと掴んで引き寄せた。そしてすぐさま俺の腹に拳が突き刺さる。回避の目は発動しなかった。
「っ〜〜!!くっそ、やられた!」
俺に一発叩き込んだことで試合が終了し、今しがた受けた傷も元通りになる。
「顔への攻撃はフェイントだろ?分かってたのに避けちまった...」
「あー、当たらないっていうのもわかっちゃうのか。あそこで動いてくれなかったらちょっと面倒だったなぁ」
「いまいち能力を信じきれなかったな...これならもっと回避の目の性能上げとけばよかった...」
回避の手段までは予知出来ないようにしたのは魔王に乗っ取られた場合を想定したからだった。けれど、今の試合でそこそこ回避の目に欠点があることに気がついてしまった。こりゃ慣れるまでに苦労しそうだな...
「……色々検証したいことができたな。みんな、協力頼むわ」
定義詰めが甘いところがあったため、俺自身もこの能力を理解しきれていない。この能力を使いこなすために、みんなの力を借りるとしようか。
回避の目、便利ですが回避方法は自身で考えなきゃならないのが難しいところ...まぁカリヤくんの動体視力と思考速度なら問題ないでしょう。