森の中はこれで終わりです。
「流石にそろそろ魔力がキツくなってきたかも...」
強力な魔物を討伐してからも、森の中を散策しては魔物と戦うのを繰り返していたのだが、ここでステラに限界が来た。
「まぁずっと空飛んでたし、無心の弓もそこそこ使ってたから仕方ない。降りてきて休みな」
「うん、そうする」
ステラは魔道具を解除してふわりと地面に降り立つ。
「勇者の加護で聖素を内に溜め込んでいるけど、流石に回復速度はそこそこなのか」
「魔素と聖素が半分半分の場所くらいかなぁ体感だけど。ゼロよりかはマシってレベルだから、回復までかなり時間かかっちゃうんだよね」
「ほんとに、まだマシレベルなんだな...この様子だと、魔界じゃかなり休み休み動くことになりそうだな」
「出来るだけそうならないように、カリヤが持ってた魔力を溜め込む魔道具を私たちも手に入れて魔力を溜め込むことになってるんだ。まだ手元にはないんだけどね。あと少ししたら、国の保管庫の魔道具を貰えるんだって」
「へー、たしかにあの魔道具があれば魔力の問題もそこそこ解決するか。にしても...これまで魔力で困ったことなんてほぼないから、なんか新鮮だな」
「カリヤの回復速度加速とライトの聖域展開があれば、いつでもどこでも魔力を一瞬で満タンに出来たからね。あの頃が懐かしいよ...今のコレが本来の感覚なんだろうけど、一番頑張ってた時期がそうだったから印象が強すぎていつまでも感覚が抜けきらないんだよね」
「なんかごめんな...」
「謝らなくて良いよ〜その代わり、ちゃんと私のこと守ってよね♪」
「もちろんだ...けど、ステラは弓矢あるんだから俺に任せきりになるなよ〜」
「えー、ケチ」
「ケチってんのはステラの方ですよっと、そこか」
4566ページ 黒のみ 閃光
視界内に魔物がいたので、そこに向けて閃光を撃ち込む。
「回復は早いとはいえ、俺の魔力も無限じゃないんだからな。まだ矢は残ってるんだし、出来るだけ俺が守ってやるけどいざとなったら頼むぞ?」
「はーい」
ちょっと不服そうにステラは返事をする。久しぶりにこうやって一緒に戦っているもんだから、俺に甘えたいんだろうなぁ...けど、正直今の俺よりステラの方が強いから、守ってもらう甘える側は俺じゃねとも思うわけでして...
「というか、ステラが魔力尽きかけてるなら多分みんなもそこそこ減ってるはずだよな?だったらそろそろ合流して離脱したほうがいいと思うんだけど...」
「問題はどうやって合流するかだね。私からは連絡取れないし、ニアの念話待ちかなぁ」
「念話なら俺も使える...けど、ダメか。戻ってきてから初使用だからニアに直接繋げるのは無理...」
一度繋げたなら、専用回線を使ってどんなに遠くても会話をすることができるけれど、最初はそうはいかない。前使ってた奴は俺が一度死んだことで切れているだろうし、同様にニアから俺に連絡を取ることも無理だろうな。
「ステラにかかってくるのを待つしかないか。あと出来ることは、森の外に向かって進むことだけども...どっち行けばいいかわかる?」
「わかんない。結構闇雲に動いちゃったから方角も位置もわかんないや」
「新米冒険者みたいなミスしてんな俺ら...こういうところも、速度操作に頼り切りだった弊害なのかな...空見上げても木のせいで何も見えないし、ひとまずまっすぐ進もう。変なことが起こらなければ、いずれは外に出られるはずだ」
「脳筋〜けど、それが確実だもんね」
「方向感覚が乱されてぐるぐる回るってのも嫌だし、目印を作っておくか。
「え、大丈夫なの?もし向こうに誰かいたら...」
「この森の中にいるのは俺ら勇者パーティーだけ。そして、みんなは回避の目の対象だからもし誰かいたら事前にわかるから問題ない」
「そっか...あれ?だったらそれを使えばみんなの居場所がわかるんじゃない?」
「あー...一応できるかもだが、非効率的だな。それをしても、わかるのは方向だけ。どこまで離れてるかはわからないし、みんなも森の中を移動してるから何度も同じことをしなけりゃ現在地の特定は無理。手間を考えると、あんまり良い手じゃないかな」
「そっかぁ...じゃあやっちゃえカリヤ!」
「おう、任せとけ」
適当に方角を決め、その方向に指を向ける。そして、魔道具を介して次元収納を発動させる。
「撃ち抜け」
そう呟いた瞬間、開けた次元の裂け目から何かが飛び出し、一瞬で前方の木を薙ぎ払う。その余波と熱と破片がさらに木々を薙ぎ払い、一直線状の道を作り出す。
「相変わらずやばいね〜それ」
「だな。残弾に限りあるし、慎重に使わないと...」
初歩中の初歩の攻撃魔法である光弾を速度操作で加速し、次元収納に一度しまう。そして、取り出した光弾をさらに加速...コレをひたすら繰り返す。速度操作は本来加速に上限値が存在し、さらに速度操作の範囲外に出たら元の速度に戻るという特性を持つが、次元収納に入れたものは入れた瞬間の状態を保持するという性質を活かすことで、この特性を無視し再加速をすることが可能なのである。
そうして無限に加速を繰り返し、光の速度にまで達したのがこの超光速弾である。一度何かに当たると自らの威力に耐えきれずバラバラに霧散してしまうため、貫通させてまとめて複数体を貫くといった運用は出来ないが、その余波と空気を引き裂く際に起こる熱などによって後ろの敵にも火力を出せる。だからこうして、まるで貫通して見せたように後ろの木も薙ぎ払えたのだ。
「ひとまず、うまく行ったな。進もうか」
「そうだね。できれば、今の音でみんな気づいてくれたらもっと嬉しいんだけど...」
「森の中だし、草木に遮られてあんまり遠くまでは響かないかもな。気づいてくれたらラッキー程度に考えておこう」
そう言って、俺らは超光速弾によって生み出された一本道を歩き出す。
「……っ、魔物が来てるよ!」
草をかき分ける音が聞こえて、ステラが反応する。
「下がってな。俺に任せとけ」
刀に手を触れ、魔物を待ち構える。
「……今!」
魔物が草陰の中から飛び出してきたその瞬間、回避の目が発動した。それによって魔物の攻撃の軌道を知った俺は、その動きよりも早く刀を鞘に押し込んで魔法を起動し、音速の抜刀によって魔物の身体を一刀両断にする。
「近づいて攻撃してくるような奴なら大抵カウンターできるな。けど...」
飛んできた魔法を横に飛び退いて回避し、着地の瞬間に駆け出して魔法を撃ってきた魔物に近づいて刀で袈裟斬りにする。
「魔法使ってくるような奴は回避しか出来ないんだよなぁ」
「回避できるだけでも凄いと思うんだけどね」
「攻撃そのものを潰せないし、危険を承知で近づく必要があるってのがちょっとね。魔法がもっと気軽に使えたら楽なんだけど...」
「そこはニアが何とかしてくれるんじゃない?」
「それもそっか。ニアが先出しで魔法拡散使えば魔法も発動前に止められる...とはいえ、魔力の限界もあるし全部を止めるのは無理があるか」
「出来る限りやってみるつもりではあるけれど、それ、期待しないでちょうだい」
「うおっと...来てたのか、ニア」
「クミさんもいるよー」
ステラと話していたら、いつの間にか近づいてきていたニアとクミリアが会話に混じってきた。超光速弾に気がついて来たみたいだな。
「回避の目で見た未来を元に、即座に行動を変えるって意外と難しいのよ。未来を見終わる瞬間がわからないのに、終わったらすぐに元の時間軸に戻される。元々何をしようとしていたか、どんな未来を見たか、どうすれば回避できるか、一瞬で複数のことを考える必要があって頭がこんがらがりそうになるわ」
「マジで?そんな頭がこんがらがるなんてことなったことないんだけど...」
「そりゃカリヤは思考速度加速の経験と鳴音世界での予知経験があるから何とかなるんでしょうが、普通そこまでのこと出来ないわよ」
「え?できるけど?」
「……クミリアは感覚で動いてるだけでしょ」
「私もそんなに苦戦した覚えはないけど...」
「ステラちゃんまで...⁉︎もしかして、苦戦しているのは私だけ...?」
「まぁ二人は体を動かすだけだからな。魔法陣を脳内で構成する必要のあるニアとはあんまり比べられるものじゃないだろ」
「そ、それもそうよね...もう少し感覚的に動けるようにした方がいいのかしら...」
ニアも俺と同じでめちゃくちゃ考えながら動くタイプだ。俺との間にある差は経験のみ。この世界の人間ならば、努力次第でいくらでも適応できるからいずれ慣れてくるだろう。
「ところで、ライトとレストがどこにいるか知らないか?ステラの魔力が無くなりかけててそろそろ離脱しようかと思ってるんだが」
「どこにいるかまではわからないわね...にしても、それならそうと念話で言ってくれれば良かったのに」
「全部リセットされてるからニアとの念話が出来なかったんだよ。一回接続してくれ」
「なるほど、そうだったわね。コレで良いわよね?」
ニアの声が頭の中に流れてくる。これで以降はどこからでも俺から連絡が取れるようになったな。
「それと、離脱の件は私からライトに伝えておくわ」
「サンキュー、俺らはこのまま向こう行って離脱するぞ」
「……悪いけど、そうも言っていられなくなったわ」
「どうした?」
「ライトは交戦中。そして、彼が言うにはこの魔物を倒さないとこの森からは出られない...ですって」
「マジで...?魔物を倒さなきゃ出られない...そいつが俺らの方向感覚を乱してくるせいで出られないのか、それとも空間を弄られて出られないのかはわからんが、ライトがそうだっていってるんなら本当なんだろう。加勢しに行くぞ。場所はわかるか?」
「ええ、案内するわ」
魔力探知によってライトの位置を捕捉したのか、ニアは迷いなく進み始める。その後ろに俺たちはついていく。
……超光速弾使ったのもったいなかったなぁ...という言葉はグッと心のうちにしまうのだった。
「あの向こうよ!」
ニアの指差した方向から、剣がぶつかり合うような金属音が響いてくる。
「まだ戦闘が続いてんのか...二人だけとはいえ、苦戦するほど強い魔物なのか...?」
近づいてもなお回避の目は発動していないから、魔物がしてくる攻撃はそれほど脅威でもなく難なく回避なり防御できるようなものなのだろう。となると、戦いが続いている理由はライトたちの攻撃が魔物に届いていないということになる...能動的に攻撃できるのはライトだけとはいえ、カウンターで強烈な一撃を叩き込めるレストがいても決めきれないのは少し異常だな。
「二人が苦戦するなんていったいどんな敵なのやら...って、人...?」
目に映ったのは、二メートルほどの体格の人型の敵。二対四本の腕を持ち、剣と杖を二本ずつ持っている。
「流石に腕四本は人じゃねぇよな...なら魔族か⁉︎」
魔族...人の姿を形取り、人並みの知性を持って世界をかき乱す魔王直属の魔物の一種。全て倒したものだと思っていたが、まさか新たに生まれてきたのか...?
「いや違う!これはただの魔物!そういう姿なだけだ!」
「何だよ傍迷惑な...加勢してさっさと仕留めるぞ!」
そう言って俺たちは魔物に向かって一歩踏み出す。
その瞬間、魔物の持つ杖が光を放ち、こちらに向かって大量の魔法の弾幕が飛んできた。
「なっ...え?」
魔法の弾幕が放たれたにも関わらず、回避の目は発動しなかった。困惑しているうちに魔法は俺らの周囲の地面や草木を撃ち抜いていく。
「当たら...ない?」
「コイツさっきからずっとこれだ!ノーコンなのかわざとなのかはわからないが奴の攻撃は全て外れる!」
「どういうことなの...?けど、回避の目が一度も発動していないことの説明にはなっているか...俺らの行動を牽制で縛って、この森の中に閉じ込めておくつもりか?」
魔物の攻撃は当たらない。だが、こちらが動いて当たりに行ってしまえば話は別。俺らに攻撃を浴びせるよりも、回避ミスで自ら当たりに行ったり、そもそも一切近寄らせないことで消耗させる方がコイツにとっては都合がいいのだろう。
「カウンター狙いで奴の放つ魔法を受けようとしてみたけど、近づいたら全部横に逸れていった。触れることすらできないよ」
「えー...やってることが謎すぎるな。とりあえず...やっちまえ、ニア」
「私もだいぶ魔力少ないんだけど...やるからさっさと決めなさいよ!」
そう言いながらニアは魔物を中心として魔法拡散を発動させる。ニア以外の魔法がその領域内では全て霧散するため、魔物の魔法全てが封じられる。
「今だ行くぞ!」
俺とクミリアが魔法拡散の領域の中に入る。一歩早く入ったクミリアは、いつも使っているバフの魔法が無効化されて少し動きが鈍くなるものの、脚力を爆発させて速度を落とさずに魔物に近づいて蹴りを放つ。
その蹴りを魔物が剣の腹で受けたところで、俺がクミリアの背後から飛び上がり、魔物の剣に刀による音速の抜刀を浴びせる。魔道具であるため、魔法拡散による影響は受けずに音速の抜刀は実行されて魔物の剣を叩き折る。
「……って、反撃せずに逃げるのか。マジで何なんだコイツ...」
剣を一本折られた魔物は、俺らに反撃するでもなく後方に飛び退いて距離を取った。危害を加えようというそぶりがないというか...なかなか不気味だ。
「防御だけは一丁前にやるんだよなぁ...」
ステラが弓矢で追撃するが、矢は無事な方の剣で弾かれてしまう。
「けど、ニアのおかげで近づいて攻撃できるようになった。逃げられて森から出られなくなる前に仕留めるよ」
「オーケー、回避の目対象認定!絶対に当たる一撃を模索するぞ!」
取り回しのきくダガー二本に持ち替え、前線攻撃担当のクミリアとライトと共に魔物に近づく。
変幻自在のライトの武器がうねって蛇のように魔物に襲いかかる。クミリアの拳が一直線に魔物を穿とうと放たれる。投げられた左手のダガーと、低めの軌道からの右手のダガーの一閃が同時に魔物に迫る。
しかし、回避の目は発動しない。
四種の攻撃は四本それぞれの腕が防いでしまった。魔法が発動できない杖や折られた剣でも攻撃を防ぐことくらいは出来る。全ての攻撃が受け止められ、魔物の肉体へのダメージはゼロであるため回避の目は発動しなかった。
「っ...⁉︎」
このタイミングで回避の目が発動した。攻撃を受け止めた魔物は折れた剣を放り捨てると、その腕を俺に向けて伸ばしてきて掴み取る...そんな未来が見えた。
「ちょっ、急に動いたと思ったらなに⁉︎」
慌てて俺は後ろに飛び退き、魔物の伸ばした手から逃れる。
「掴もうとしてきた...?わからん!」
「カリヤは下がってて。もしかしたら、カリヤの中の魔王を狙っているとかなのかもしれない」
「ありうる話ではあるけど...ほんと、色々とわけわかんない魔物だな!」
ライトの指示に従って俺は魔物からどんどん距離を取る。そうしてレストのいる位置まで下がって...
「……って、追いかけてきやがった⁉︎レスト!カウンター!」
「無理!発動できる魔力無い!」
「クソッ、色々状況がマズいな...!」
レストの魔力不足によってレストの完全反射は使えない。魔法を吸収する右腕の盾の力を使えば、完全反射のための魔力を集められるけど今魔物は魔法を使えない。ニアの魔力を一度吸収させるのは非効率的だから、完全反射は諦めよう。そんなことするくらいなら、直接ニアに頑張ってもらう方が良い。
という思考を、回避の目を駆使して魔物の手を回避しながら行う。
「俺が引きつける!その間に仕留めろ!」
魔物に完全に背を向けたとしても、回避の目があればどこから手が伸びてくるか完璧に把握することができるため、俺は逃げることだけに専念する。
右へ左へ、手が近づいてくるたびに切り返し、減速と再加速を駆使して距離を調節しながらギリギリ捕まらない範囲に居続ける。下手に頑張って逃げすぎると、魔物が本気を出してきた時に後がない。本気を出さずとも捕まえられそう...そう思わせて、そこそこの力で動いてもらう。そうすれば俺も体力を温存できるし、みんなも攻撃を当てやすいだろう。
その時、回避の目が発動する。弓矢が放たれて、魔物の喉元を射抜く未来だ。
「ナイスステラ!」
回避の目で見えた未来の通り、魔物の喉元を矢が射抜いた。しかし、魔物の動きは止まらない。致命傷にはならなかったようで、依然として俺を追いかけ続ける。
「いい加減...止まりな!」
魔物の背後からクミリアが飛び出し、頭目掛けて回し蹴りを放った。魔物の意識は俺に向いている。先ほどの矢を防御できなかったように、攻撃への注意がおろそかな魔物に蹴りが当たる。
……なんてことはなかった。
「ええっ⁉︎」
クミリアの蹴りが魔物の頭を蹴り砕くかと思われたその瞬間、魔物の頭が奇妙な形に歪んでクミリアの蹴りを避けたのだ。回避の目が発動しなかったことから当たらないんだろうとは思っていたが、まさかそんな挙動で避けるとは思っておらず俺もクミリアもひどく驚く。
「そ、それなら...!」
驚きつつも、クミリアは今度は胴を狙って拳を放つ。それと同時に、ライトも飛び出して首を剣に変形させた魔道具で狙う。
しかし、今度も同じ。魔物の身体が歪に変形して、攻撃を回避されてしまった。
「何が起こって...」
「魔法拡散があるから魔法で避けたわけじゃないはず...」
「だったらこれはどう?」
ニアが閃光を放つ。すると回避の目が発動して、それと全く同じように魔物の身体を貫いた。
「魔法は当たるのね。矢も当たるから、遠距離武器に弱いのかしら」
「……いや、もしかしたら...!」
俺は咄嗟の思いつきを信じて逃げるのをやめ、閃光を受けたにもかかわらずまだ迫ってくる魔物を待ち構える。弾かれて片方しかないダガーをしまい、刀を腰の位置で構えて抜刀の用意をする。
「一撃で...決める!」
回避の目で魔物の手の軌道を読んだ俺は、音速の抜刀によってその手のひらを切り裂き、肘の辺りまで腕を切断する。そして、振り抜きながら手を離すことで音速状態のまま刀をすっぽ抜けさせ、魔物の脳天を刀で貫く。
「……ふぅ、ようやく仕留められたか」
ようやく魔物は動かなくなる。刺さった刀を引き抜いても身じろぎひとつしないから、流石にもう死んでいるだろう。
「多分コイツは、魔素しかないこの環境で育ったせいで、聖素を極端に嫌うようになっちまったんだろう。放つ魔法はみんなから勝手に逸れていくし、みんなの攻撃は身体が拒絶して歪な形で回避される...そんで、勇者の加護による聖素を持っていない俺だけは拒絶反応を起こさないから、魔物も攻撃できるし逆に俺も攻撃できた。そんなとこだろうな」
「よくあの情報量でそこまで導き出せるわね...にしても、そんな性質の魔物、これまで見たこともないわ。ここが魔域だから...?」
「そうなると、魔界の魔物も同様の性質を持っている可能性があると思った方がよさそうだね」
「あくまで俺の予想があってればの話だけどな。そして、もし俺の予想が正しいのならば、魔物に近接攻撃を仕掛けられるのは俺だけということになってしまう。なんとかしないとまずいだろうな」
重要な戦力であるライトとクミリアが機能停止するのはとてもまずい。レストも攻撃を受け止めるという役割を遂行できなくなるし、勇者パーティーの半分が使い物にならなくなるのは致命的だ。
「身体の外に漏れている聖素を内側に抑え込められれば反発することもないと思うんだが、出来るか?」
「細かな調整が必要になるけど、可能だとは思うよ。後でやってみる」
「助かるわ。そんじゃ、魔物も倒したことだし帰るとしますか...次元転移分の魔力は残してあるか?」
「もちろんよ」
「……ってか、次元転移があれば出れたんじゃ?」
「無理だったよ。森の中は無限の広さを持っていた。圧縮された別空間を進むことで移動を短縮する次元転移じゃ、原理的に無限の距離は移動できないから外には出られない」
「なるほど、すでに実験済みだったか。にしても、とても一介の魔物が持てる力じゃねぇよなぁ...魔界にはこのレベルがうじゃうじゃいるんだろうか」
ちょっとした不安を抱えながらも、俺たちは次元転移の穴の中に入り、森から離脱するのだった。
変な魔物が出てきましたが、単純に魔域の影響というだけでこれといって深い意味のある敵ではないです...少なくとも現状は。
もしかしたら設定を有効活用して後から使う可能性はゼロではない...のちの自分にぶん投げます。
次回はそろそろ魔界に突入です。