神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8153字。

移動やら戦闘やらの回です。


魔界の夜、湧き出す魔物

「探索し切ったけどガルムには結局何も無しか...」

 

「これじゃ壊し損だね...」

 

ガルムの全てを破壊し尽くし、中に住み着いていた魔物を倒したのだがこれといって情報があるとかそういったことは何一つなかった。魔神に繋がる何かは一切無く、ただ町を破壊して魔物を倒しただけになってしまった。

 

「この感じだと、他の町も同じっぽいかな...探索は無駄かもしれない」

 

「ってなると、一番何かありそうなのはあの竜になるわよね...」

 

北にある魔王の山にいる巨大な竜...目に見えて不審なのはアレくらいだ。魔神そのものではないにせよ、魔神に繋がる何かであることはほぼ確実だろう。

 

「……行くか、あそこ」

 

「そうだね。やることがそれしか見つからない以上、それをするしか道はない」

 

そういうわけで、俺たちはガルムから魔界の最北端にある魔王の山に向かうことになった。

 

「歩きだとどれくらいかかるのかなぁ?」

 

「さぁな。前に魔王の山に向かった時は、速度操作で全力で走りながら魔物の軍勢の中を正面突破していたから当てにならないんだよなぁ」

 

「ほぼノンストップで走ってたけど、確かあの時は少しだけ空間が歪んでいて本来よりも長い距離を走らされたりしたしね。魔王の山に魔王はいないから、今回はそうした妨害はないとは思うけど」

 

「あの時の加速度は流石に覚えてないから計算で導き出すのも無理だな。この速度だと半日程度ってところか...?」

 

「道中で魔物に襲われたらもっとかかるだろうね」

 

「いざって時に動けないと困るから走るわけにもいかないし、こればっかりは地道に進むしかないな。頑張ろうぜ」

 

……と、俺が言ったその時だった。

 

「っ...?」

 

全身に悪寒が走った。何かがヤバい...神経が危険信号を発する。

 

そして、回避の目が発動した。

 

「なっ...クソっ、そういうことか!」

 

見えた未来、そして夜空を見上げたことでその未来の意味を知った俺は、すぐさまニアの方を見て叫ぶ。

 

「次元転移に退避!!早く!!」

 

回避の目の未来は全員に共有されている。そのため、即座にニアは次元転移を発動させて空間に裂け目を作り出し、全員すぐにそこに飛び込んだ。

 

「あ、あっぶねぇ...」

 

「まさか、ここまでとは思っていなかったわね...」

 

回避の目で見えた未来。それは、全方位から突然湧き出した魔物になす術もなく蹂躙される未来。月や星が沈み、魔界全体が闇に閉ざされたことで活性化した魔物が大量に出現し、一瞬で囲まれてタコ殴りにされた。

 

もちろん反撃できないわけではな。しかし、陰に潜り込むタイプの魔物は闇の中を自在に動いて攻撃してくるし、その他の魔物も文字通り無限に湧いてくるため、持久戦に持ち込まれてそのまま時間をかけて嬲り殺しに遭うことになるらしい。

 

唯一の対処法は、こうして次元転移の空間に逃げ込むことだけだった。

 

「……流石に物量で押し込まれると無理ね」

 

「聖剣があれば話は変わるんだけどな。聖域展開で状況ひっくり返せるし」

 

「無い物ねだりに意味はないわよ...にしても、あれが魔界の夜なのね...」

 

「行けそうなら夜も動こうかなと思っていたけど、あれは無理...」

 

「流石に心が折れる数だったな...というか夜になるの早くない?まだそんなに時間経ってないはずだけど」

 

ガルムでの戦闘もそこまで時間は経っていないはず。気にして空を見上げてはいなかったけど、それにしても月が沈むのが早い気がする。

 

「多分、元の世界と一日の長さはリンクしていないんじゃないかしら。外ではちょうど真昼の時間帯のはずよ」

 

「今度出た時に、月がどれくらいの速度で動いているか確認しておくか...定期的なら良いけど、もしかしたら不定期の可能性もあるし。またああやって蹂躙される未来は見たくないから、出来ることなら未来が見える前に退避を済ませたい...」

 

能力の性質上分かっていたことだけれど、回避の目で見える未来はなかなかにショッキングなものだ。自分や仲間が傷つけられ、挙げ句の果てには死亡する未来を見せつけられるのだ。回避するためとはいえ、そう何度も見せつけられれば精神を崩しかねない。

 

「というか、また月が昇るまで待機しなくちゃなのよね...これ、移動が一番時間かかるわね」

 

「月の出ている間しか俺らは動けないからな。ってか、大事な戦闘中に夜になったらヤバいよな。あの竜と戦うタイミングにも気を配らないとダメか...」

 

「やっぱり、魔界は全てが僕らに不利に働くね...けど、悲観してばかりじゃいられない。しっかり休んで、明るくなったらすぐに移動を再開しよう」

 

「だな。それまで休憩...って、え?」

 

回避の目が発動した。

 

その次の瞬間、空間を引き裂いて一体の魔物が次元転移の空間に飛び込んでくる。

 

「ちょっ、入ってきた⁉︎」

 

安全圏だと思っていた次元転移の中に魔物が入ってきたことに驚いていると、魔物はすぐさま俺に狙いをつけて攻撃してきた。

 

「俺狙いかよ...!」

 

魔物の鉤爪を左腕の盾で弾く。その直後、ライトが魔道具を変形させて離れた位置から魔物の背中を突き刺した。魔物の動きが鈍る。

 

「「セイッ!!」」

 

俺とクミリア、同時に放たれた蹴りが魔物の頭部を両側から叩く。骨を砕く感触が伝わり、魔物は力無くどさりと倒れ込んだ。

 

「ふ、ふぅ...焦ったぜ」

 

一息ついて、少し鼓動が速くなった心臓を収めようとする。

 

「まさか、次元転移の中に入ってくるなんてね...」

 

「次元転移も魔法だからな...魔物が同じ魔法を使ってくる可能性は十分あるし、あり得ない話ではない...けど、急にこられると肝が冷えるな」

 

「今後も同じようなことが起こるとなると、次元転移も絶対安全圏とは言えないわね」

 

「全部の魔物が次元転移を使えるわけじゃないし、逃げ込む意味はあるけどな。気が抜けなくなったのはどうしようもないが」

 

「回避の目があって良かったね。どんな奇襲でも察知出来るから、ずっと警戒している必要はない。カリヤの負担が自ずと増えるから、そこだけ申し訳ないけど...」

 

「そこは気にしないで良いぞ。速度操作と同じで寝ている間にも使えるし、魔力消費も無いから負担も無い。あとは未来を見てすぐに動けるかどうかだけど、未来が見えてる以上回避可能であることは確定しているから、まぁ何とかなるだろう」

 

「そうだと願うことしかできないわね...ひとまず休憩!魔物が来たら動ける者で対処する!これで月が昇るまで待つわよ!」

 

そう言ってニアがまとめた瞬間、また空間を引き裂いて魔物が侵入してくる。

 

「ああもうひっきりなしに!」

 

こりゃ落ち落ちと休憩してられないな...と思いながら迎撃する俺たちであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一番ヤバいのは魔界に俺らがいる時だけ時間経過が起こる...だったけどそんなことなくて良かったな」

 

あれから何度か魔物が侵入してきたものの無事に撃退し、月が昇ってきたことを確認して魔界に出てきた。今は、月がどれくらいの速さで動いているかを見ながら魔王の山に向かっている最中である。

 

「何その可能性...恐ろしいこと考えるわね」

 

「そんなことが出来るなら最初からずっと真っ暗の夜に出来るんじゃない?」

 

「それもそうか。そんで、そういうことしてこないってことは魔界を自在に操れるような存在はいないってことになるよな」

 

「そもそも魔界を作ったのは女神様だし、できるとしたら女神様くらいじゃない?封印されてる魔神には難しいだろうし」

 

「女神か...神様経由で俺に協力を頼むなら、もっと情報提供してくれよな...」

 

何をするにも情報は必須。女神が魔神復活を本当に恐れているのなら、目的遂行に必要な情報くらいくれてもいいと思うんだけど...神って奴の考えてることはわからんな。

 

「……っと、魔物の群れがいるな。回り込むか?」

 

月明かりがあるため影の魔物は出てこないが、それ以外の魔物は普通に出てくる。遭遇率は低いものの、群れとなって行動していることが多くて、一回の戦闘で十体ほどと戦う必要がある。苦戦はしないだろうけど、回避できるならするに越したことはない。

 

「いいや、突っ切ろう。見つからないように回り込むよりも、速攻で倒して進んだ方が早い。行動時間に制限がある以上、早く進める選択をすべきだ。それに...」

 

魔物たちが俺たちに気付いたのか、こちらを見てくる。

 

「もう見つかっている」

 

「オーケー戦闘開始!」

 

「あっ、あの魔物クミさん見たことある!泥で出来てて打撃は効かないよ!押し潰しても意味なし!」

 

「それなら魔法の出番ね。まずは動きを...!」

 

地面を滑るようにして迫ってくる魔物に対して、ニアは氷の魔法を放つ。しかし、魔物は泥という半液状の身体の特性を生かして身体を変形させることで魔法を回避...しようとしたものの、魔法は魔物のすぐそばで弾け飛んだ。氷の破片が周囲に散らばり、魔物に命中する。

 

だが、小さな氷の破片では魔物にダメージを与えられない。少し泥を吹き飛ばしただけで、すぐに泥によって威力は減衰し氷の破片は魔物の体内に埋まる...が、それこそがニアの狙い。その氷を喰らった魔物たちは、内側から凍結していき身動きが封じられる。

 

「あとは砕くだけ...!」

 

凍らせてしまえばあとはこっちのもの。クミリアの打撃、ライトの魔道具、ステラの矢が次々と凍った泥の魔物を打ち砕いていく。

 

「……よし、先に進むわよ」

 

基本、魔物との戦闘はこんな感じであっさり終わる。夜の圧倒的な物量はどうしようもないが、十体くらいならば近づかれる前に遠距離攻撃である程度数を減らすか身動きを封じることができて、人数差が上回ったところに残党狩りをして終わり。特に苦戦することもない。

 

「なんか、魔界の魔物って大したことないよな。これならサーマルの作った巨大化魔物の方が何倍も厄介で強いぞ」

 

サーマルという魔族は、エネルギー増幅の固有能力を持っていた。運動エネルギーや熱エネルギー、魔力などを増幅できるのだが、魔素を増幅させることもできる。魔物の体内にある魔素を増幅させることで魔物の力を一気に増大でき、そうした結果、巨大化したり特殊な力を魔物は得ることとなる。

 

巨大化魔物は体内にある魔素を攻撃によって排出しなければ倒すことができないため、ライトの聖剣の必殺技、聖杖による魔素反転が無ければ戦闘の長期化は避けられない。図体がメートル級にデカいため攻撃は当たればほぼ即死。魔界による魔素バフで強化された魔物十体と戦うよりも巨大化魔物と戦う方がよっぽど大変だ。

 

「そういえば、元の世界で見たような魔素で強化された魔物ってまだ見てないよね?」

 

たしかに、魔域と化した森で会ったような、過剰な魔素によって特殊な力を得た魔物とはまだ出会っていないな。

 

「……多分、ここにいる魔物は元から魔界にいた魔物だからじゃないかしら。魔域という本来ないイレギュラーな場所で生まれたから特殊な魔物が生まれたのであって、最初からここにいた魔物は魔素で埋め尽くされているのが普通なのだから変異することがない...」

 

「なるほどたしかに」

 

「言ってしまえば、魔素だけしかない空間ってシレンの穴や魔王の山もそうだったからね。聖素がある場所で生まれる魔物が、魔素しかない空間にいることで初めて魔素過剰による変異を起こす、と考えれば不思議じゃない」

 

「そう考えると、状況的にはマジでシレンの穴の時に近いんだな。考えること少なくて助かるわ...っと、新手が来たな」

 

前方から、モゾモゾと蠢きながら近づいてくるスライム状の魔物が現れた。

 

「泥とは違うけど、また凍らせれば良いわよね!」

 

ニアが氷の魔法を放つ。

 

しかし、魔物は自らの一部を飛ばして氷の魔法を撃ち落とした。当然撃ち落とすのに使った部位は凍るものの、身体から切り離されているため大したダメージにはならない。

 

そして、魔法を撃ち落とした魔物はウヨウヨと形を変えていき...

 

「人型になったな...こんな奴シレンの穴にいたか?」

 

「見覚えはないね。元の世界でも見たことがない」

 

「新種か...総員警戒」

 

人の形を取った魔物は、虚空から槍のようなものを生み出した。あの槍自体はスライムじゃないっぽいな...魔法で生み出した物体か。

 

「……ちょっと待って。あの姿、何かで見覚えが...」

 

「っ、来るぞ!」

 

魔物は生み出した槍を振り回しながらこちらに向かって走ってくる。走ってくるのに合わせて全員が適正距離を保ち、まずクミリアが迎撃に向かう。

 

「とぅっ!」

 

魔物の槍を弾き、クミリアは魔物の顔面目掛けて拳を放つ。

 

その瞬間、回避の目が発動する。魔物の槍が、まるでライトの持つ魔道具のように変形してクミリアの背後から突き刺さる未来が見える。

 

「ちょおっ⁉︎」

 

クミリアは咄嗟に雷装を発動し、全身に雷を走らせる。雷によって筋肉を刺激し、身体能力を大幅に向上させて急加速、なんとか背後から迫る攻撃を回避する。

 

「何今の!びっくりしたぁ!」

 

「あれはスライムじゃないはず...魔法で武器を変形させた?」

 

「いいえ、魔法を発動させた様子はなかったわ。あれはむしろ...」

 

「僕の魔道具に近い...というかそのもの!」

 

魔物はクミリアに追撃を仕掛けようとしていたため、ライトが背後から切り掛かって防御させることでそれを防ぐ。

 

それに合わせてステラが上空から矢を放つ。ライトの攻撃を防御している魔物はこの矢を避けられない...かと思われたが、またしても槍が変形して矢を弾き飛ばしてしまう。

 

「そう、か...聖剣を通して得た過去の勇者の記憶で見たんだ。コイツは...!」

 

武器の端を伸ばして攻撃してこようとしたので、ライトは鍔迫り合いをしながら魔物の腹を蹴り飛ばして距離を取る。

 

「過去に存在した魔族...それを模倣している魔物だ!固有能力は魔道具の生成!」

 

「は?コイツ実質魔族ってこと?めんどくさ...ってか、魔道具を作るってことはマジでライトのと同じやつなのか」

 

「そうみたいだ。魔道具だから魔法拡散も効かない。厄介な相手だ」

 

「とはいえ魔物でしょう?魔族の再現には魔法を使っているはず。そこを止めてしまえば...」

 

「流石に魔法で再現できるとは思えない。過去の神の使いの力が聖界に残っていたのを考えると、魔族の力が魔界に残っていてもおかしくないから、それを取り込んでいるんだと思う。魔族の力を止められるとしたら略奪の魔法くらいかな」

 

略奪の魔法は、相手の一番の武器を奪い取り所有権を奪う魔法である。魔族にそれを発動させた場合、その固有能力が奪う対象になるが固有能力は魂に宿っているため奪うことができない。しかし、魂を引っ張ることはでき、それによる苦痛で一時行動不能と能力の発動に制限をかけることが可能だ。まぁ、消費魔力がデカすぎるためそうそう使えるものではないが...

 

「ほぼ無理ってことね。じゃあ、正攻法で倒すしかないわね...!」

 

ニアが閃光の魔法を展開し、魔族擬きの周囲から一斉放射する。

 

「っ...面倒ね」

 

光の奔流に魔族擬きが飲み込まれたかと思われたが、一瞬で閃光は跡形もなく消え去ってしまった。

 

「まさか、魔法拡散を発生させる魔道具か...?前にそんなの見た覚えあるけど、マジで面倒だな」

 

魔法拡散は発動者以外の魔法を魔力に分解する。しかし、今回は魔道具が魔法拡散を発動させている。そのため、魔道具を起動している魔族擬き含めて全員が魔法を使用できない。

 

魔族擬きの魔法も分解されてしまうため、ニアのお得意である相手の魔力を利用しての魔法行使も意味をなさない。まぁ、魔族擬きは普通の魔法を使ってきていないからそれは見込めないけども...魔法拡散を上からかけて上書きするという方法も、魔道具の魔法は無効化できないという特性により不可能。ニアは完全に戦力にならなくなったことを意味しているな。

 

「全部物理で何とかするしかない。全員でかかるぞ!」

 

俺の合図で、クミリアとライトが同時に魔族擬きに接近する。魔法拡散によってバフ魔法が使えないが、そんな状況は魔王城内で経験済み。バフがなくとも攻撃できる実力はある。

 

……しかし、擬きとはいえ相手は魔族。そう易々と攻撃を喰らってくれるとは思えない。それがわかっているからか、左右から同時に攻撃を仕掛けにいく二人は牽制程度に動きを抑え、魔族擬きの出方を探る。

 

「っ⁉︎」

 

二人の攻撃の瞬間、魔族擬きの手の中に感圧式スイッチのようなものが生み出され、それが押される。すると、クミリアとライトの位置が入れ替わり、攻撃が空振りする。

 

「位置入れ替えの魔道具...!」

 

ライトは即座に入れ替えに対応して振り返る。牽制程度の攻撃に留めていたのが功を奏して、すぐさま攻撃に転ずることができて...

 

「っ、ライト!」

 

回避の目が発動し、ライトの武器がクミリアを切り裂いてしまう未来が見える。回避の目が発動したならば、その事象は回避可能。ライトが攻撃の手を緩めると、その瞬間に魔族擬きとライトの位置が入れ替わる。

 

「なるほど...!」

 

武器を変形させることで、ギリギリのところでクミリアに当たってしまうのを回避したライトはすぐさま背後蹴りを放って攻撃する。しかし、魔族擬きはタタッと足捌きで蹴りを回避して距離を取る。

 

「クミリアは下がれ!一人でやる!」

 

「了解!」

 

一対一ならば、位置の入れ替えによる影響は少ない。誤って味方を攻撃してしまう可能性を潰せる。そして、聖剣を通じて過去の勇者の記憶を一部引き継いでいるライトは、この魔族擬きの元となった魔族の知識があるからタイマンを張るなら適任だ。

 

「まずは、そのスイッチを破壊する...!」

 

武器を変形させ、位置入れ替えの魔道具を持つ左手を狙う。

 

「一度破壊された魔道具はしばらくの間生成不可になる!本体を叩くより先に手数を切り落とす!」

 

鞭状に変形したライトの武器が魔族擬きの左手を狙う...が、同じく変形した魔道具が鞭をはたき落とす。

 

「はぁっ!」

 

しかし、ライトが一歩上手だった。左手に持っていたナイフが魔族擬きの手首を切り裂いた。

 

この魔道具は、総質量が変わらなければ分割することができる。鞭という軽い武器を用いることでナイフを生み出す余力を残しつつ攻撃を防御させ、その隙に手首を切り落とす。作戦が綺麗に刺さったわけだ。

 

……しかし、魔族擬きも一筋縄ではいかない。手首が完全に切り落とされるその寸前に、最後の力でスイッチを押していた。

 

「っ...⁉︎」

 

魔族擬きが立っていた位置に、レストが立っていた。レストは俺とニアを守るためにすぐそばにいたはず...俺は咄嗟に振り向きながら蹴りを放つ。

 

ガキンッ!と俺の蹴りは盾へと変形した魔道具によって防がれる。

 

「この距離でも入れ替えれんのかよ...!」

 

ここに来たのは、明らかに攻撃に参加していない俺やニアを先に潰すためか?魔法拡散で何もできないニアと、攻撃手段に乏しい俺を的確に潰しにくるとか勘弁してほしい。

 

「耐えろ!」

 

ライトはその場に落ちた魔族擬きの手の中にある魔道具を破壊してから、レストと共にこちらに向かって走る。位置入れ替えの魔道具がない以上、あとは纏めて叩くだけ。合流さえ済んでしまえばこの状況もなんら問題はなく、俺がニアを守って時間稼ぎをすればそれで良い。

 

ニアがバックステップをして魔族擬きから離れる中、俺はすぐさま走って回り込みニアの側によって左腕の盾を構える。自在に変形する魔道具の攻撃に対応すべく、魔族擬きの一挙手一投足に警戒する。

 

……しかし、魔族擬きは攻撃してこなかった。代わりに新たな魔道具を生み出し、ポロッと足元に落としていた。

 

そこそこ重量がある魔道具なのか、落ちた魔道具はズドンと音を立てて地面に埋まった。そして、上に向けて光を放った。

 

「なっ...コレって...!」

 

「不可侵の結界!闘技場のに近いが、出入り不能にするためだけの魔道具!」

 

結界が周囲に展開され、外との行き来が不可能になる。分断された...!

 

「ま、間に合った!」

 

「ステラ...!中にいるのは三人だけか...」

 

展開し切る前に中に入れたのは飛行魔道具によって高速移動が出来たステラのみ。この魔族擬きは、俺とニアとステラの三人で倒さないといけないらしい。

 

「……やるっきゃねぇ...!いくぞ二人とも!」

 

俺は武器を構えて、先頭に立つのだった。




聖界に過去の神の使いが現れたのだから、過去の魔族も現れて良いだろうということで参戦。
魔道具を生み出すという単純かつ強力な相手に、攻撃手段に乏しいカリヤくんはどう立ち向かうのか...乞うご期待。
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