魔王の山到着〜戦闘まで。
「よっと...ようやく準備が整ったな」
そう言いながら俺は次元転移の空間の外に出る。
首を上に向けると、そこには聳え立つ山。そして、その上空に棲まう竜の姿が目に入る。
そう、俺たちは魔王の山の真下までやってきたのだ。
「またこの山登らないといけないんだ...」
レストがぼやく。この山に登山道なんてものは存在しない。ほぼ断崖絶壁である斜面をロッククライミングによって登る必要がある。魔道具で空を飛べるステラと、少ない魔力消費で飛べるニアは飛行によって登れば済むが、それらができない残りの四人は自力で崖登りをするほかなかった。
「ああ。それに加えて、今回はアイツが攻撃してくるかもしれないという問題もあるぞ」
魔王の山の麓に辿り着くまでの間はあの竜に攻撃されることはなかったが、流石に山を登り始めたら攻撃してくるかもしれない。両手が塞がっている状態で攻撃されたら、たとえレストだろうと対処は困難だろう...まぁ、コイツなら何やかんやで防御しそうではあるが。
「魔法で攻撃してきたら私が守ってあげるわ。魔法以外で攻撃された時は諦めなさい」
「全然安心できないな...はぁ、うだうだ言ってても仕方ない。登るぞ」
「了解!」
早速岩壁に捕まり、腕力で身体を引き寄せる。足場を見つけて足を乗せ、腕を伸ばして出っ張っている岩肌を掴んでまた引き寄せて...それを繰り返す。
速度操作が無いから速度は出せないし、速度探知がないから脆くなってる岩を見抜けなかったりと以前のようにはいかないが、二度目なのだから失敗はしないだろう。身体の動かし方は熟知している。魔界ではあるが、この山自体は登るのは二度目だからある程度安全なルートも把握できている。
もしも脆くなっている場所があったとしても、そこに触れる前に回避の目が発動して気づくことができるはずだ。だから、よっぽどじゃない限り落ちることはないだろう。あとは、どれだけスタミナを温存させた状態で登り切れるか...
「……たしか、この辺で他者付与のバフが消えてたよな?」
魔王の山を登っている最中、ニアがレストにかけていた魔法が解除されるといったことが起きた。他者にバフをかけることを禁ずる結界のようなものが貼られていたためにそのようなことが起こったのだが、今回は...?
「見た感じ、無さそうね。アレは魔王が作り出した結界だし、あの竜が同じものを展開していないならないのは当然ね」
「それもそうか...バフかけられるってんなら、最高戦力で行けるな。妨害もしてこないし、さっさと登ってあの竜倒しちまおうぜ!」
ヒョヒョイっと最後の一登りを済ませて魔王の山の頂上に着地する。魔王城が存在するためにかなりの広さで平坦な地形が形成されているが、魔界では魔王城が存在していないためただのだだっ広い空間と化してしまっている。
そして、上空には巨大な竜。山の頂上をすっぽり覆い尽くせるような大きさで佇んでいる。
「ここまで登ってきても攻撃してこないのか...実は案外平和な奴なのか?」
「魔界という先入観のせいで倒さないとって思ってたけど、ただここにいるだけの魔物なのかな?」
「けど、封印で毒気を抜かれた魔神って可能性もあるんだよなぁ...」
「いずれにせよ、下手に攻撃して刺激するのも怖いわね...どうしましょうか?」
「どうするつってもなぁ...」
動く気配のない竜を見て、あれこれと話し合っている...その時だった。
「うわっ、目ぇ開いた!」
竜は目を見開き、俺らのことをじっと見据える。
そして、口を開いた。
『聖魔集いし時、ついに来たり』
「喋り出した⁉︎」
「……え?変な音しか聞こえないけど?」
「……翻訳能力か。どうやら俺しか理解できないらしい」
法術世界で魔物の言語を翻訳したり、鳴音世界でアンチの言語を翻訳したりなどと、人外の言語を翻訳してきたからこの世界でもその設定がオンになっていたようだ。とはいえ、ここまではっきり聞こえるほど言語体系がしっかりしてるってことは...やっぱ、コイツかなり重要な奴だなこりゃ。
『ならば、試練を与えよう』
「試練だぁ?」
『魔の者よ。我を打ち砕くが良い!』
「魔の者?それに、我を打ち砕けって...クソッ、そういうことか!来るぞみんな!」
回避の目が発動した。竜が突然口を開き、黒に染まった炎のブレスを吐いてくる未来が見える。
「魔法...じゃない!回避だ!」
回避の目による未来を見たニアが魔法拡散を発動させようとするが、その瞬間にまた別の未来が見え出す。魔法拡散を発動させたにも関わらず、黒い炎は消滅せずに俺たちを焼き尽くす、そんな未来。
それを見た俺は、あの炎が魔法によるものではなく、あの竜の体内で形成された自然現象による炎だと判断して回避を選択する。ブレスは直線上に放たれるため、走れば効果範囲からは容易に抜け出せる程度のものだ。なんとか走ってブレスを回避する。
「急に攻撃してきたね...」
「どうやら、こいつは何らかの試練なんだとよ。そんで、アイツはぶっ倒して問題ないらしい...先に攻撃してきたしどのみち正当防衛だ!やっちまうぞ!」
「なんでそんなチンピラ風なのよ...回避と防御はカリヤとレストに任せるわ。四人で攻撃するわよ!」
クミリアとライトが前に出る。その瞬間にニアが空中に魔法で足場を形成し、その足場に二人は飛び乗って竜との距離を詰める。
「ちょっ...意外と遠い!」
「体格の圧に押されて気づかなかったけど、意外と距離があるね。直接叩きにいくのは難しそう...だ!」
ライトの持つ剣に緑色のオーラが纏わりつく。色彩剣装の緑は射程延長。見えない刃を伸ばして遠くのものを切断する技だ。伸ばした分だけ重量は嵩むが、ライトの膂力なら問題なく振るえるはずだ。
「ふんっ!」
ライトは目一杯剣を伸ばして竜を切り払いにかかる。腕を振り抜き、剣が竜に接触する...かと思われたその時、ガキンッ!!と竜の体表面に結界のようなものが現れてライトの剣は弾かれてしまった。
「なっ...弾いてくるか!」
「うわっ、クミさんもダメだ!」
クミリアは腕を伸ばして自らの視界を塞ぐことで、空気を固めて巨大な腕を作り出す。そうして作った空気の腕で竜を殴り飛ばそうとしたようだが、コレも同様に結界によって弾かれてしまう。
「ちゃんと防御してくんのか...いろんな攻撃を試すぞ!流石に無敵ってことはないはずだ!...っと回避!!」
竜が炎のブレスを吐いてきたので、また走って回避する。
「……って、なんか湧いてきた!」
「あのブレス、魔物を生み出せるのか⁉︎雑魚敵量産とか面倒な...!」
ブレスの着弾点から、全身が炭でできたような魔物が湧いてくる。動きは遅いが、どんどん増えられても困るな。だが、コイツばかり相手していても無意味だし...
「そいつらは僕らが対応する!」
「クミさんたちの攻撃効きそうにないしね。色々試しちゃって、ニア!ステラちゃん!」
ライトとクミリアが空中の足場から降りてきて、炭の魔物を殴り飛ばす。
「とりあえず、山から落としちゃえば良いでしょ!」
「そっちは任せるわ。行くわよステラちゃん」
ニアとステラが、降りてきた二人の代わりに足場の上まで飛んでいき、竜に向けて攻撃を開始する。まぁ、挨拶代わりの閃光と矢は結界で弾かれてしまったが...
「……閃光が効かないってヤバくね?」
単純に物理無効系の結界なんだろうと思っていたが、閃光すら弾くとなると流石に異変だ。なぜならば、閃光は基本的に、魔力で出来たものをすり抜けるという性質を持っているからだ。魔法拡散を通り抜けることはできないものの、万能な防御手段である障壁は通り抜けられるため大体の魔法的防御は閃光の前では意味を成さない。
しかし、あの結界は閃光を真っ向から受け止めた。なかなか特殊な防御であるようだ。軌道変更で逸らすわけでもなく、受け止めて処理するとは...あの結界、弱点とかあるのか?
「カリヤ!そっち行ってる!」
「んあ?よっ、と!」
炭の魔物が近づいてきていたので、刀による音速の抜刀で処理する。
「やること少ないし、こいつら処理しながら頭回すか...」
俺に出来ることは回避の目の発動と思考を回すことのみ。回避の目は発動すれば即座に全員に共有されるから俺はこの場にいるだけで良いため、能動的にすべきことは思考を回すことだけだ。ろくな攻撃手段を持っていないからな。知恵で活躍するしか道はない。
だが、それでは手持ち無沙汰になるため、せめて湧き出した魔物くらいは倒そう。ライトとクミリアがどんどん倒していっているけれど、実際に戦うことで気づくこともあるかもしれないし、コイツらを調べればあの竜に繋がる何かが見つかるかもしれない。俺はいつも通り、戦闘しながらの情報収集をすることにした。
ちょくちょく上の様子も確認しながら炭の魔物を攻撃し、死体を山の下に向けて蹴落とす。コイツら炭で出来てるから、もしあの竜のブレスに触れたら引火して大変なことになる可能性があるからな。引火したコイツを竜に投げつけて攻撃っていうギミックの可能性もあるが...それを試すのは打つ手なしの状況に陥ってからだ。
「……っ、また次が来る...!今度は下からか!」
魔王の山が突如として揺れ出す。地震で揺れに耐性がある俺は倒れずに済んだが、地上にいたライト、クミリア、レストは揺れに耐えきれず転んでしまう。
そして、俺たちのいる場所の真下から土の杭がドカンと突き出してくる未来が見える。俺は倒れていないため普通に回避し、ライトとクミリアは転んだ体勢から片手で跳び上がって杭を回避する。
残るはレスト。すぐには立ち上がれなかったようだが、盾を地面に向けることで、飛び出してきた杭を盾で受け止めることに成功していた。しかし、その衝撃は凄まじく、レストは大きく上方向に弾かれることとなる。
そして、その方向には大口を開けた竜。ブレスにレストが包まれる未来が回避の目で見える。
「っ...!」
レストは両腕の盾を合わせて完全反射を起動させた。あのブレスは魔法によるものではないため、コレが最適解であった。
ブレスが展開された半透明の盾に命中していく。全ての威力が跳ね返されるのは、放たれた攻撃を全て受け止めてから。あの竜の攻撃を全て跳ね返す...そういうつもりで、レストは竜のブレスを受け止めていく。
落下してきたレストをクミリアが跳んで受け止めるのと、ブレスの最後の一欠片を受け止め切るのはほぼ同時だった。
「全て...跳ね返す!」
レストが柄にもなく叫ぶ。
その次の瞬間だった。竜の全身が先ほど何度か見た結界に包まれたかと思えば、攻撃が阻まれた際に鳴る音が爆音となって周囲に響いた。
「は...?」
「なんで完全反射が防がれるの...⁉︎位置も距離も関係なく反射できるはずなのに!」
予想だにしないイレギュラーによってレストは混乱してしまう。というか、レストのこの必殺技の性質を知っている俺たちは全員混乱を避けられない。絶対に命中するはずの防御不可の反撃があの結界によって受け止められた。あり得ない出来事に直面したせいで、思考が鈍る。
「おかしいだろ...クソッ、何でも良い!効きそうな攻撃を片っ端からやり続けろ!」
「だったら、私も奥の手を...!」
ステラは空中を飛び回りながら無心の弓を構える。そして、お試しとばかりに一発竜に向けて撃ち込んだ。
軌道上の空気や魔素など触れたもの全てを消し飛ばしながら矢は飛んでいく。当然、竜を包んでいる結界も...
「消え...ない⁉︎」
「もう何でもありかよあの結界!!お手上げだろんなもん!」
全てを消し飛ばす無心の弓すら無効化するってどういうことだよ!物理現象どうなってんだ!
「まさか聖剣必須とかじゃねぇだろうなぁ!」
「っ...思っていたよりもヤバいわねこの竜。みんな!今回で倒し切らなくても良いわ!退却を選択肢に入れる!限界になるまで攻撃を試して、無理そうなら引き上げるわよ!」
そう、別に魔王城に入った時とは違って、今回は逃げることができる。無理そうなら一度次元転移の中に逃げ込んで、改めて策を練ることだって出来るのだ。策でどうにかなるのかはわからねぇけど...!
「正直もう退却してもいいと思うんだけど...!」
「まだやれることはある!つーかせめて一撃入れてからじゃないと逃げるに逃げれねぇだろ!全部受け止められててなんかムカついてんだよこっちは!」
「そんな!カリヤは攻撃何もしてないのに!」
ひっでぇこと言いやがるなレストの奴...!
「ニア!奴のブレスを軌道変更で直接返してやれ!」
「それって僕のと結果同じになるんじゃ?」
「レストのは古代道具による攻撃だ!奴の攻撃を直接返せば何か起こるかもしれん!」
「そういえばまだ試してなかったわね...やってみるわ」
魔法拡散で分解した魔力で魔法を練って返す、という方法をニアはしがちであるため、そもそも魔法ではないブレスを跳ね返すという思考に至っていなかったニアは俺の指示に従ってブレスの反射を試みる。
「……え、普通に当たったわね」
ニアの魔法によって軌道が捻じ曲がったブレスは、そのまま竜の元まで飛んでいくと、結界に遮られることなく竜を包み込んだ。
「自分の攻撃は防げないのか...けど、自分で生み出した炎だからかあんまし効いている様子はないな」
「あいつが普通に魔法を撃ってくれたら、魔力に戻してから好きな魔法を撃ち込めるのだけれど...」
先程使ってきた土の杭の魔法は、山全体に魔法を作用させている関係上、杭に対して魔法拡散を使ったとしても取り出せる魔力は微々たるもの。山全体に魔法拡散を発動させたとしても、得られるリターンは魔法拡散発動による消費を上回ることがないため旨みがない。
「この感じだと、どうにかして奴に打ち消しやすい魔法を使ってもらうのが最適解か...?」
「攻略法の一つではありそうよね。問題は、どうやって魔法を使わせるように誘導するか、だけど...」
『どうした。なぜ攻撃してこない』
「うっわなんか煽られた!」
「どうしたのよ急に」
「なぜ攻撃してこないって煽ってきやがったあいつ!攻撃してんのに全部受け止めてんのはそっちだろ!」
クソッ、あいつと対峙していると心の奥から負の感情が湧き出してきやがる...
「いいぜ、そんだけ言うなら攻撃してやんよ!光速の弾丸、受け止めてみやがれ!」
次元収納の魔道具を使って収納しているものを取り出す。取り出すのは、超光速弾。299792458m/sの光弾が竜に向けて射出される。
パァンッ!
超光速弾は何かに触れると速度に耐えきれず弾け飛ぶ。
だが、今音を立てて弾け飛んだのは、竜の肉体の一部だった。
「当たった⁉︎」
超光速弾は結界に遮られることなく竜の胴体に直撃してその身体を弾け飛ばした。長い胴体の切断とまではいかなかったが、かなりを抉り取ることができた。もう二発ほど撃ち込めばぶつりと切断することもできるだろう。
「光の速さで放てば結界が間に合わないのか...けど、そう何度も連発できるものじゃない...他も試すか!」
次元収納の中には超光速弾の他にも大量の魔法や武器を格納してある。魔王戦のために魔力消費無しで魔法を放てるように準備したものと、魔王戦後の速度操作と魔法の併用が出来ないことへの対処として準備したものの二種がある。この先使う機会なんて魔界以外じゃないんだし、無駄とか考えずに消費する!
「喰らいな!」
次元収納の中から大量の刀剣が飛び出す。いずれも、過去の俺が製作のスキルによって作り出したものだ。
「って、コレも当たんのかよ!」
一旦物量で押してみるかと考えて適当に放った刀剣だったが、全てではないもののいくつかは結界に邪魔されずに竜の身体に突き刺さっていた。
「当たるのと当たんないのがあるな...どういう違いだ?」
結界に弾かれてしまった刀剣は再び次元収納に格納する。それと同時並行で、あの結界の謎について思考を巡らせる。
「俺の攻撃なら多少当たるってことか...?」
次元収納内の魔法を幾つか放ってみる。すると、やはりいくつかは受け止められてしまったものの、結界に遮られずに命中する魔法もあった。
「単純に物量で突破してる雰囲気じゃねぇな。違いが思い当たらん...今の俺の魔法ならどうだ?」
4566ページ 閃光 黒 灰
適当な魔法...と考えて真っ先に思い浮かんだ閃光の魔法を放つ。しっかりと射程延長のカスタムを施して、あの竜に届くようにして...撃ち込む!
「おおっ、当たった!」
放った閃光は結界に遮られることなく竜に命中した。その巨大な体格からすれば微々たるダメージではあるが、きちんと当たることに意味がある。
「俺の攻撃なら当たるぞみんな!」
「原理はわからないけれど...この様子だとカリヤに頼るしかなさそうね。魔力は持ちそう?」
「まだそんなに使ってないからな。十分戦えるぜ」
「なら、ありったけのバフをかけるからあの竜を仕留めなさい。直接近づいて切断するでも、魔法を撃ち込むでも何でも良いわ」
「りょーかい!まさか攻撃側に回るとは思ってなかったが、こうなったらやるっきゃねぇ!」
ボルテージをどんどん高めていく。特に魔法の出力が上がるといったことは起こらないが、脳を戦闘モードに仕上げていくことで判断力を高めるためにテンションを上げる。
そうして精神面を高めていると、ニアの魔法がかけられて身体面の強化も施されていく。
「足場は頼むぜ?」
「当然よ。行ってきなさい!」
「おう!」
刀を腰の位置で構えた俺は、バフによる脅威的な身体能力によって数十メートルもの跳躍を行う。
「まずは...」
ニアが作り出した足場に着地すると、竜が俺を目で追いきる前に再度跳躍し、竜の目前に近づく。
「その眼を...っ、そう易々と攻撃させてはくれないか!」
回避の目によって、何やら不可視の攻撃に襲われることを知った俺は竜の頭に着地した瞬間に飛び退いて攻撃を回避する。多分、風か空間を操っているんだろうが...見えなくても、回避の目があれば避けられる!
「だが、いつかは隙が生まれるはず...そこを突く!」
ニアの作った足場を転々としながら、次元収納内の魔法を撃ち込んでいく。まずは眼を潰し、その次は超光速弾によってちぎれかかっている胴体の切断、その後仕留める...そういう算段だった。
「うぐっ...っっっ!!」
回避の目でも見れなかった攻撃を喰らい、脇腹を吹っ飛ばされるまでは。
「カフッ...ゴボッ⁉︎」
全身の力が抜ける。重力に引かれて俺の身体は落下していく。
引きちぎられたかのように吹っ飛んだ脇腹の傷口からドクドクと血が吹き出し、口からも血を吐き出す。
終わった...?
いや、まだだ。ニアの治癒魔法がある。ギリギリ生き残る可能性は大いにある。
だから、諦めるな。復活したその時のために、今の攻撃が何かを記憶に刻み込め。
攻撃を喰らった時、何かに噛み付かれたかのような感触が走った。見えない竜でもいるのか...?それとも、空気の操作によって成し得た攻撃なのか...
……ああ、マズい。まるで走馬灯を見ているかのように思考が加速しているが、それでも限度がある。俺はそろそろ地面まで辿り着くし、意識を保つのもそろそろ限界が近い。
そして、感じる。コレまでに幾度となく経験した死が近づいてきていることに。意識が身体から抜け出してしまうような感覚。スゥーッと身体の制御ができなくなっていくような、そういう感覚。
……違う。何かが変だ。
この感覚。死に瀕している状態とは何かが違うような気がする。
けれど、何度かこの感覚は味わったことがある。
これ、って...
トスッ...と、薄れゆく意識の中、クミリアにキャッチされたことがかろうじてわかる。
「撤退するわよ!次元転移内ならギリギリ使えるわ!早く!」
ニアがそう叫ぶ。
その直後、俺の意識は泥沼の奥に沈んでいくのだった。
カリヤくん、攻撃喰らっちゃいましたね...果たして、どうなることやら...