竜との戦闘の続きになります。
「……こ、こは...」
目が覚める。目の前に広がっている光景は、神様のいる空間や次元転移の中のような白い空間ではなく、戦闘の跡が残された魔王の山だった。
「つーか、俺、何で立って...」
「気がついたのね、カリヤ...本当にカリヤ?」
「何言ってんだよ。俺がカリヤじゃなかったら誰なんだよ」
変なこと聞くなぁニアの奴。
「あっ、傷治ってる...治してくれてありがとなニア。それと、竜の姿が見えないけどアイツどこ行ったの?」
「……そうかもとは思っていたけれど、覚えていないのね...」
「え?何の話?」
「まず、その傷を治したのは私じゃないわ」
「え、そうなの?じゃあ誰が...ライト?」
「僕じゃない。カリヤ...君自身が治したんだ」
「……俺、確実に気絶してたんだけど。というかあんな傷を治癒するなんて無理だよ俺には。逆行再生が使えれば話は別だが、あの意識状態で使えたとは思えない」
「でもでも、本当にカリヤが自分で治してたよ?みんなでニアの開けた次元転移のゲートに逃げ込もうとしたら、カリヤが急に起き上がってクミさんの手から抜け出したかと思えば、みるみるうちに傷が治って...」
「そうそう。クミさんビックリしちゃったよ」
「流石にあり得なさすぎる...一体どうしてそんなことが...待てよ?あの時に感じた感覚、まさか...」
「そのまさかよ。おそらくカリヤは、一時的に魔王に身体を乗っ取られていたのでしょうね。死なないためにカリヤの身体を修復して、そして敵であるあの竜をそのまま倒した...そう考えられるわ」
意識を手放す直前に感じた感覚、あれは魔王に身体を乗っ取られる時のものに酷似していた。
「マジかよ...けど、納得だ...」
「とりあえず、カリヤが意識を失っている時の出来事を共有しておくわね。みんなの見たものをそのまま共有するわ」
思考共有の魔法の応用によって、俺の頭に大量の情報が流れ込んでくる...
「撤退するわよ!次元転移内ならギリギリ使えるわ!早く!」
ニアが叫ぶ。ニアのみが扱える、死んでいなければどれだけ重症でも忽ち治癒することができる複合魔法は発動のために様々な制約を抱えていた。特に、魔法発動に必要な魔力を補うために、聖域の中で、尚且つ未来の魔力回復を先取りして消費するという手順が必要であった。
しかし、それは過去の話。その手順が必要だったのは、その時のニアの総魔力では発動がギリギリだったから。魔王討伐から一年が経ち、さらに魔力を増やしていたニアはそういった諸々の制約を必要としていなかった。そのため、魔素がない次元転移の空間内であれば残り魔力量から鑑みても発動させられる...そう考えての行動だった。
だが、ニアが次元転移のゲートを開いて入ろうとした瞬間、異変が起こる。
仮谷幸希の身体が突然動き出し、クミリアの手から離れたのだ。
「なん...なんで動け...⁉︎」
全員が困惑していると、仮谷幸希は吹っ飛ばされた自身の脇腹を凝視する。そして、手に力を込めたかと思えば、傷口から体組織が湧き出してきて傷を埋めていき、元通りの状態まで戻してしまった。
「治癒...じゃ今の芸当は出来ない。今のは、いったい...⁉︎」
魔法を熟知しているニアだからこそわかる異質な治癒。その事実に驚いていると、仮谷幸希は上を見上げてポツリと呟く。
「アレを...倒せば良いのか」
その瞬間、仮谷幸希の姿が消失する。
どこに消えた?皆が辺りを見渡していると、クミリアが真っ先に仮谷幸希を目撃した。仮谷幸希は竜の真上に出現しており、刀を構えているところだった。
地上から一瞬であそこまで移動したというのか。目にも留まらぬ速さでの移動...まるで、昔の速度操作を操る仮谷幸希のそれだ。
「まさか...魔王⁉︎」
速度操作を現在使えるのは仮谷幸希ではなく魔王である。あの力を行使しているのならば、今仮谷幸希の身体を操っているのは魔王であるということになる。
「魔王が...戦っているというの?」
仮谷幸希は落下しながら刀を鞘に押し込む。トスッ...と竜の上に着地した瞬間に音速の抜刀が放たれ、竜の体に鋭い斬撃が加えられる。
その直後だった。仮谷幸希の右肩が抉り取られる。見えない不可視の攻撃...それを喰らった仮谷幸希は一瞬で竜の上から消えてニアの作り出した足場の上に着地すると、傷口を完璧に修復していく。
「速度操作による自己修復加速...?けど、あそこまで綺麗に治すことは不可能なはず...」
だが、現に仮谷幸希の傷は完璧に治癒している。治癒魔法との複合...かとも思われたが、速度操作発動中に魔法は使えないはずだ。治癒の理屈が誰にもわからなかった。
「近づくと発動する空間切断か。面倒だな...」
「なら、近づかなければ良いだけのことだろう」
仮谷幸希は一人でぶつぶつと呟きながら、銃をしまっているホルスターに手を触れる。
装備している銃を使うつもりなのか...その場にいた者は皆そう考えたが、違った。フッ、と仮谷幸希の目の前に銃が生み出された。仮谷幸希はそれを掴み取ると、竜に銃口を向ける。
そして、竜の眼を狙って引き金を引いた。
放たれた弾丸は竜の眼に向かって空気を引き裂きながら突き進む...が、竜が目を閉じると、その硬い瞬膜によって弾丸が弾かれてしまう。
「威力も速度もお粗末だなこりゃ...」
「だったら、もっと強く、もっと早くするだけ!」
仮谷幸希は再度引き金を引く。
すると、先ほどの銃声の何倍もの大きさの音が響き、銃が内側から破壊される。あまりにも強い衝撃が走ったために、銃自身が耐えきれなかったのだろう。ものすごい勢いで銃弾が発射されるが、同様に銃の破片も飛び散って仮谷幸希に突き刺さる。
「ッグ...やりすぎたか」
「問題ない。すぐに治せる」
破片の刺さった傷口から肉が復元されていき、押しのけられて破片が体外に飛び出す。
「そんなことより、まずは片目をやれたな」
仮谷幸希が傷を治している間に、放たれた銃弾は竜の目を貫いていた。瞬膜を閉じるまもなく貫かれたようだが、おそらく瞬膜を閉じるのが間に合っていたとしても貫けるほどの火力は出ていただろう。その証拠に、銃弾は目を貫通してそのまま頭蓋を貫通して後頭部から飛び出していた。
「もう片方は...また自滅するのも面倒だ。魔法で仕留めるとしよう」
仮谷幸希の手のひらの上に、閃光が生み出される。どうやらカスタムによって、魔力を注ぎ込めるだけ注ぎ込むことで際限なく強化できるようにされているようだが...
「……なんで、魔力切れしないのよ」
その光景を見ていたニアがポツリと呟く。
「あの魔力量、今のカリヤの何倍もいっている!あり得ない!」
「速度操作で魔力を常に回復させ続けている...?けど、魔法と併用できないはず...まさか、その縛りすら解いたのか?」
速度操作と魔法を同時に使えないという制約は、仮谷幸希が魔王と戦闘している最中に作り出した縛りだ。魂に宿る能力である速度操作に制限という名の楔を打ち込むことにより、能力を一時的に大幅に強化する。そういう行為によって同時併用不可の縛りが生み出されたわけだが、魂に巣食う魔王がその制限を取っ払った可能性は大いに考えられる。
「いずれにせよ...あの竜を倒した後、あの力が私たちに向く可能性がある。覚悟はしておいた方がいいわね...」
今はあの竜を倒すことに専念しているようだが、仮谷幸希を操っている存在が竜を倒してすぐに主導権を仮谷幸希に返すとは到底考えられない。直後に攻撃される可能性は高い...が、その強大な力に立ち向かえるかと言われると疑問だった。
現在見えているだけでも、まるで瞬間移動でもしたかのような速度で移動が可能な速度操作、自傷の可能性もあるが圧倒的な威力を叩き出せる銃を生成できる創造の銃を仮谷幸希は使いこなしている。魔法と同時に速度操作も使えるようで、出来ることはあまりにも多い。
そして、おそらくではあるが他の能力も使えるはずだ。ありとあらゆる攻撃を受け止められる衝撃の剣に、傷つけた相手の魔法を扱える模倣の傷、そして偽りの熱を与える幻痛の熱...いずれも非常に厄介な力だ。
回避の目は使われないであろうことだけはまだ救いだろう。あの力はまだ仮谷幸希本人の手中にある。それは、先ほどから仮谷幸希が攻撃を受ける際に回避の目が発動しておらず、勇者パーティーの皆に共有されていないことからも明らかだ。空間切断の方は発動しない不可避の攻撃の可能性もあるが、銃の破裂は予見できないわけがないためそもそも回避の目は使えないと考えるのが自然だった。
……まぁ、回避の目があろうがなかろうが、他の能力五つを使われる時点でだいぶ負け濃厚ではあるのだが...
と、ニアやライトが考えている間に閃光のチャージが終わったようで、仮谷幸希の所有する魔力の何倍もの量を注ぎ込まれた閃光が竜に向けて放たれる。
威力重視にされたためか速度は遅く、そのせいで竜が防御を固めるのを許してしまう。多数の防御魔法が組まれ、閃光を阻む壁を作り出す。閃光は魔法で作られたものをすり抜けるため、それらの壁は意味をなさない...ということにはならない。魔力を高密度で編み上げると、通常の物質と同じ性質を持ち始める。そのため、あの防御魔法は現実の壁と性質は同じであり、閃光を受け止められるようになっていた。
……あれが、通常の閃光だったなら。
単純な火力が、竜の作り出した防御を悉く貫いていく。威力減衰など起こらない。あってないようなものとして貫通し、真っ直ぐ竜の眼まで飛んでそのまま貫いていく。当然、頭部を貫通して遥か彼方まで飛んでいく。
「これで眼は潰せたか。あとは仕留めるだけ...だが、このまま閃光を撃ち続けるのはあまりにも味気ない」
「しかし、閃光以外の魔法はあの防御魔法で防御されてしまうだろう」
「……ならば、どうせ治るのだから近接で良いだろう。まずは、あの千切れかかった胴を切り落とす」
そう仮谷幸希が言い放つと、その直後に竜が攻撃を仕掛けた。大雑把な広範囲ブレス...目が見えていないため、直前まで仮谷幸希がいた場所に攻撃したのだろう。
しかし、そんな攻撃、当たるわけがない。一瞬で竜の背後に出現した仮谷幸希は、刀の魔法を起動させてザンッ!!と千切れかけの竜の胴体を切断する。
「チッ、面倒な...」
攻撃を受けたことで仮谷幸希のあらかたの位置を掴んだ竜は、不可視の空間切断によって仮谷幸希の足を切り飛ばす。しかし、すぐさま新たな足が生えてきて、ニアの作った足場に着地する。
「あの竜、どこまでやれば死ぬんだ?」
仮谷幸希が呟く。両目を潰し、胴体を切り飛ばしたことで半分の程の大きさまで削れたわけだが、それでもまだ竜は動き続ける。どうやら、もっとダメージを負わせなければこの竜を倒すことは叶わないようだ。
「……まぁ良い。死ぬまで殴り続けるだけだ」
刀をしまった仮谷幸希は、手を数回パンパンと叩く。すると、膨大な熱が発生して仮谷幸希の手を炎が包み込む。
摩擦熱の増幅...まさしく幻痛の熱であるが、それにしても熱の増幅量が凄まじい。すぐに発火が起こっているということは、偽りの熱の増幅と共に実際の摩擦熱も一気に膨れ上がったことを意味している。この光景を見ると、幻痛の熱は仮谷幸希本人以上に使いこなしているように見受けられる。
炎が手に纏わりつく。しかし、仮谷幸希はノーダメージ...というわけではなく、皮膚は焼けこげていくし溶け落ちそうになっていた。だが、すぐに再生しているため表面上はノーダメージのように振る舞っていた。幻痛の熱に付随している熱耐性が意味をなさないほどの高温。それを纏ったまま、仮谷幸希は竜の頭の上に飛び乗る。
そして拳を振り上げ、ドスッ!!と音速の打撃が竜の頭に命中した。
反撃とばかりに空間切断が仮谷幸希を襲うが、再生の速さを上回ることができず攻撃した側から治癒してしまい意味をなさない。竜に対するダメージだけが一方的に蓄積されていく。
「……模倣完了」
仮谷幸希は突然殴る手を止めながらそう言った。
その次の瞬間、仮谷幸希の立つ付近の竜の肉体が斬り飛ばされていく。仮谷幸希は少しも動いていない。先程まで何度も喰らっていた空間切断を行使しているかのようだった。
考えられる可能性は一つ。模倣の傷による竜の魔法のコピーだ。あれだけの傷を負わせられれば、相手の魔力と無際限に繋がることができるだろう。逆に言えば、両眼を潰し、胴体を切断して、頭蓋がへこむほどに殴り続けることまでしなければあの空間切断を引き出すに至らなかったということでもあるが...
「全て、斬り飛ばす」
手についた炎を消し、再生を済ませながら竜の身体を切り飛ばしていく。攻撃範囲はそれほど大きくないようだが、超高速移動によって走りながら切断していくことにより、無理矢理攻撃範囲の狭さをカバーして竜を滅ぼしていく。
そうして仮谷幸希は、一片たりとも竜を残すことなく斬り飛ばし、満足気に地上に降りてくるのであった。
「これで、試練も終わるだろう」
仮谷幸希が呟くと、周囲に飛び散った肉片や血液がジュワッと分解されて塵になる。そして、塵が動き出したかと思えば、空中のある一点に集まっていき巨大な竜を再構築していく。
『良くぞ我を打ち倒した』
復活した竜が声を発する。その声は勇者パーティーの皆には意味が理解できなかったが、ニアがその声を完全記憶して仮谷幸希に伝えることで伝達を成し遂げていた。
『残るもう一つの試練、仲間と共に踏破するが良い』
竜はそう告げると、南の方向に飛び立っていく。
魔王の山の頂点には、展望の魔法が付与されている。それにより、本来の標高から考えると摩訶不思議なほど視界が開けており、この世界全体を一望することができた。それは魔界でも変わらないようだった。
その機能を駆使して竜の行方を見届けていると、竜はこの魔界の中心...シレンの穴の真上辺りで動きを起こした。空間にヒビが入り、割れて穴が開く。その中に消えていったのだ。
「消え、た...?」
空間の裂け目に竜が消えたのを見たニアがそう呟いた、その時だった。
ギャオオオ!!!
と咆哮が魔界中に響いた。
「また⁉︎」
音の発信源であった南側を見ると、魔界の一番南側に位置している女神の山の上空に竜が現れていた。先ほど倒し、空間の裂け目に消えていった竜とは別物であると一目でわかる。魔王の山にいたのは黒竜で、今回現れた女神の山のは白竜だからだ。
「もう一つの試練...というのは、アレのようだな」
仮谷幸希がそう呟く。先ほどの竜の声を理解できていなかった勇者パーティーの面々は、その仮谷幸希の呟きによって少しだけ状況を把握する。
「アレも倒す必要があるが...」
「っ...!」
仮谷幸希が横目で勇者パーティーを見る。戦闘になるかも知れない。緊張感が雷のように全身に走り、各々武器を構えて警戒する。
「……フッ、せいぜい頑張ることだな」
仮谷幸希がそう言い放つと、目を閉じる。
そして、一瞬身体がふらついたかと思えば、ゆっくりと目を開き、キョロキョロと辺りを見回しながら口を開く。
「……こ、こは...」
その声を聞いて、本物の仮谷幸希の意識が戻ってきたのだと察したのであった。
「……理解できたかしら?」
「あ、あぁ...一応、な」
頭に流れ込んできた情報の整理がつき、外の出来事に意識を向けることができるようになる。
「と、とりあえず、みんなに怪我がなくて良かった...」
俺がそう言うと、少し周囲の空気が冷え込んだ気がした。
「……カリヤさぁ、すぐ人の心配をするよね。自分が一番危険な状態だったのに」
「うっ...たしかに攻撃を喰らって死にかけてた俺が人の心配してる場合じゃないか...けど、魔王が一時復活したにも関わらずこうして無事だったのは喜ばしいことだろ?な?」
「素直に喜べはしないけれどね。見逃されただけ。僕たちのことを殺そうと思えば出来たはずだ」
「それは...たしかに」
「逆に言えば、私たちを殺せない理由があるとも考えられるわね。それが何なのかは見当もつかないけれど」
「みんなに攻撃しなかった理由か...クソッ、魔王が俺の記憶を読むみたいに、俺が魔王に干渉できれば真意がわかるんだが...」
「出来ないんでしょうけど、試みるのもやめておきなさい。下手に魔王に近づこうとして、また乗っ取られたら洒落にならないわ。あの力を行使されれば、私たちは誰一人として敵わない可能性が高いのよ」
「……そうだな。みんなの記憶を見せてもらって、初めて魔王の戦いを客観視できた。そして、理解できた...俺がコレまで使ってきた力、それら全てを使われたら、俺らはなすすべもなく負ける...殺される」
全ての速度を操れる速度操作。大火力を備えた物理遠距離攻撃を可能とする創造の銃。使ってはいなかったが、どんな攻撃でも受け止められる衝撃の剣。相手の魔力を消費しながら攻撃できる模倣の傷。認識可能な範囲のすべての摩擦熱を増幅できる幻痛の熱。単独でも強力な能力を五つも行使できる魔王は、今や最悪最強の敵と化している。俺が、この化け物を生み出してしまったのか...
「あの様子だと、俺より使いこなしている能力もあればあまり有効活用できない能力もあるようだが、それでも厄介極まりない」
速度操作はある程度自由に使いこなしているように見えた。
創造の銃は、銃の知識が不足しているためかうまく使えていないように見えたな。
衝撃の剣を使っていなかったのは、あくまで受けの力だからだろう。竜の空間切断は見えないし予兆も無いから、そもそも受け止められるものではなかった。それがわかっていて使っていないと考えるべきだ。得手不得手かは見ていないからわからないな。
模倣の傷は、ひとまず使えるということまでしか分からないな。あそこまで傷をつけないと魔法を使えなかった理由が、単純に元々そこまで傷をつけなければ俺でも模倣できなかったからなのか、それとも魔王が使うと必要な傷の量が増えているのか、どちらかなのか判別不可能だからだ。
幻痛の熱は、まずどう見ても火力が向上していた。それに、速度操作との相性が抜群だ。幻痛の熱で摩擦熱を増幅するには、その摩擦熱を何らかの形で認識している必要がある。速度探知によって周囲全てのものの動きを見ることができるため、それと組み合わせればどの位置の摩擦熱でも増幅させられるだろう。一度動けば、服と皮膚の摩擦熱を増幅されかねない。非常に厄介な組み合わせと言えよう。
「……一番はそもそも魔王に意識を乗っ取られないようにする、なんだよな」
「それが出来るのなら苦労はしないけれど、出来るの?」
「今回は攻撃を喰らって意識が飛んだところを付け込まれただけだから、また今回みたいに気絶しなければなんとかなると思う。また寝てる間だけ乗っ取りが起こる可能性はあるけど、その場合はそこまで派手に身体を動かすことは出来ないはずだし、問題はない...はずだ」
「心配になるわね...魔王復活云々は私たちにはどうにもできないこと。頑張って食い止めなさいよカリヤ」
「うぅ、頑張る...」
やはり、俺が魔王に身体を乗っ取られるか否か、それがこの世界の運命に大きく関わっているよな...魔神の討伐、そして聖杖による魔王の消滅まで絶対に乗っ取られないようにしないとだ。気合いだぞ、俺!
「……え、えーっと、とりあえず、次の目標はアイツってことで良いんだよな?」
「だいぶ無理矢理話逸らしたね...まぁ、そうだね。さっきの黒竜を倒すのが試練だったなら、あの白竜も倒すべき試練だと考えるのが自然だ」
「黒竜が次の試練って言ってたし、黒竜が消えた直後に現れたんならまぁアイツがそうだよな。そんじゃっ、アイツ倒しにいくぞ」
「そんなに焦らなくても良いんじゃない?」
「早いに越したことはないだろ。頑張ると宣言したとはいえ、いつ乗っ取られても不思議じゃないんだ。急ぐに越したことはないだろ」
「急ぎたい気持ちもわかるけれど、その前に身体検査よ。速度操作で無理矢理直した可能性が高い以上、治した身体よどこかしらに異変が起きていても不思議じゃないわ。そろそろ夜も近いし、ここらで一度元の世界に引き上げておきましょ」
「えー...いや、流石にそうするべきか。元の世界に戻るなら聖素のおかげで魔王乗っ取りも遅らせられるだろうし」
「納得したみたいね。それじゃあシレンの穴まで戻るわよ」
ニアが開いた次元転移の裂け目に入る。
黒竜は倒したものの、まだまだ魔界調査は続く...
ついにカリヤくんの乗っ取り発生...果たして二度目が起こる前に事を終わらせられるのでしょうか?
p.s.脱字を修正しました。