女神の山に入り始めます。
「そこそこ時間かかったなぁ...これなら、森から移動したほうが良かったか?」
南にある女神の山に近い次元転移のゲートは二つあった。一つは、俺たちが出てきた天の怒りの降り注ぐ荒野。そしてもう一つが、シレンの穴でレストが飛ばされた森である。
実はその二箇所だと、森の方が女神の山に近い。以前、魔王が女神の山に寄生した時に向かったのだが、麓までの通り道にあの森があったからな。
ではなぜ荒野から選んだのかと言えば、一つは単純にタイミングが良かったから。ちょうどよく夜が明けるタイミングでゲートの位置に着けるとわかっており、状況確認をすることも踏まえてそこで出ると決めた。もう一つの理由は、魔物に襲われる確率が高いかどうか。
森の中では月明かりも星明かりも遮られてしまう。そうなると、陰に潜む魔物が本領を発揮してしまう。森の中では身動きが取りづらく、また魔物の発見が遅れて接近状態での会敵の確率も高まるため、視界が開けておりひとまず安全度の高い荒野から移動することにしたのだ。
けれど、ここに辿り着くまでそこそこ時間がかかってしまったのを考えると、多少無理をしてでも森から移動を開始したほうが早く着いて良かったかも...と思い始めてしまったわけだ。
「どう考えても、森から進んでいたらここまでの比じゃないくらいに回避の目が発動していたはずよ。カリヤはそこまで負担はないというけれど、流石に連続で発動してしまえば時間感覚が歪むわ」
まぁ確かに、あまりにも何度も発動したり、かなり遠い未来が見えたりするとなりがちではある。とはいっても、そこまで深刻なものではないがな。
「今見ているのが予知なのか現実なのかの区別が曖昧になるし、傷つく未来で精神も磨耗する...どちらかといえばこっちの方が怖いわね。もし処理が追いつかなくなって意識を飛ばせば、魔王は必ずその隙をついて出てくるわ」
「あ、その可能性は考えてなかったな...ならケアで荒野から向かうのが最適だったか」
「もちろん、時間を気にしないといけないのは正しいけどね。早速登ろうか」
女神の山の麓までたどり着いた俺たちは、少しの休憩でスタミナを回復させてから山を登り始める。
女神の山は魔王の山とは違い、きちんとした登山経路がある。山の外側を歩いて、時には山の内部にある二つの大空洞を通ったりもするが、全体的に傾斜は緩めで代わりにそこそこの距離を歩かされる。頂上は勇者選定の場であり、大空洞は人魔戦争中の避難場所にもなっていたりするため登山道は綺麗に整備されていて登りやすい。
「そういえば...女神の山の防衛機構は魔界にもあるのかな?」
女神の山の大空洞には、侵入してきた魔物を討ち滅ぼす魔法砲台が設置されている。魔王が女神の山に寄生した際はこの魔法砲台も乗っ取られて牙を剥いてきたわけだが...そもそも魔界にも魔法砲台はあるんだろうか?
「元々は女神のものだから魔界には無い...と思いたいけれど、一度魔王に乗っ取られているからあっても不思議ではないわね」
「ちゃんと調べるしかないか...そろそろだな」
山の中に入り始める。山に込められた魔法による明かりによってトンネルないは光に包まれており視界は良好。もう少し歩けば、一つ目の大空洞が見えてくることだろう。
「一旦そのまま進んでみよう。ダメそうなら回避の目が発動するはずだ」
そう言って俺たちはそのまま進み続ける。そうして大空洞の中に足を踏み入れた瞬間...回避の目が発動する。
「はは、ひとまず防衛機構はないようだな」
まぁあったとしてもレストのカウンターで全て一瞬で一掃できるから、魔力を使わなくてラッキー程度の差でしかないんだよな...とかいうことを考えながら俺は大空洞の天井を見上げる。
「代わりに、大量の魔物...!」
天井に張り付いていた魔物が降ってくる。
「めんどくさ...さっさと仕留める!」
落下しながら攻撃してこようとする魔物たちを見て、レストはすぐさま盾を合わせた。
その瞬間、全ての魔物の動きが捻じ曲がり、展開された半透明の盾に吸い込まれるように攻撃を叩き込んでいく。
「はい、終わり」
レストのカウンターが発動し、魔物が一斉に吹き飛ぶ。受け止めた全ての攻撃を、同じ威力で全ての魔物に跳ね返したのだ。自分自身の攻撃だけが跳ね返るわけではない。数十体分の攻撃が合わさった力が減衰することなく一体一体に跳ね返る。
結果、降ってきた魔物たちは皆吹き飛ぶ。数十体分の攻撃の衝撃が全身を突き抜け、肉体が丸ごと弾け飛んだ。
「時間ないんでしょ?さっさと進むよ」
「あ、ああ。助かるんだが...このあと白竜と戦わないといけないってのを忘れるなよ?」
「次の大空洞もここと同じだったなら、その時は全員で戦闘をして負担を分散しよう。魔力切れを起こして回復待ちをする方が時間がかかるから、魔力消費の激しいカウンターは一旦禁止だ」
「奪った魔力で全部補えるなら使っても良いよね?」
「まぁそれなら良いだろ。サクッと勝てる手段であることには変わりないからな...っと、進むか」
飛び散った魔物の死体、肉片や血溜まりを避けながら大空洞を進み、反対側の出口へと入る。しばらく進めばトンネルを抜け、山の外に出てくる。
「……ここから先は道中にも魔物が出てくるか...」
「下に落としちゃえ!」
屋外の登山道にも魔物が出始めたが、即座にクミリアが足を繰り出して蹴り飛ばし、山の斜面に魔物を放り込む。
「あっ、待て。女神の山は正規ルート以外を通ると...ほらやっぱり!」
たしか女神の山は、正規の登山ルート以外の場所を通ると元の位置に戻されるようになっていたはずだ。登山道を外れて遭難してしまわないようにという目的と、魔物の侵攻ルートを限定させて迎撃をしやすくするという二つの目的からそういう魔法がかけられていた。その魔法が、斜面に叩き落としたはずの魔物の帰還という形で牙を剥く。
「そういやそんな仕様もあったっけ...!だったら正面から殴るのみ!」
戻ってきたら魔物の攻撃を弾いて魔物の体勢を崩したクミリアは、拳に雷装を纏わり付かせるとそのまま顔面に拳を叩き込む。魔物は勢いよく後方に吹き飛ばされていって、登山道から逸れて山の下へ...そして、女神の山の魔法で元の位置に戻される。しかし、すでに魔物は絶命しておりピクリとも動かなかった。
「環境キルを狙えないのはちょっと面倒だな...」
「地道に倒していくしかない...ね!」
次に現れた魔物に一瞬で近づいたライトは、声を発しながら魔物の首を刎ねる。
「斜面を下るか登るかして奇襲してくる...そういう可能性がないからそこは気が楽だね。前後の警戒だけで十分だ」
「後ろは任せておきな。前は頼んだぜ」
「私もうーしろ」
クミリアとライトが前からやってくる魔物を倒してくれるため、俺とステラは後ろからやってくる魔物を警戒する。既にやってきた道だから、魔物がやってくるとすれば俺たちをコソコソと付けてきている奴に限られる。俺たちのことを見つけたとして、ここまで攻撃せずに着いてくるだけってのはあまり考えられないから、後ろから魔物が追いかけてくるとはあんまり思えないが...まぁ一応な。
「そんな後ろ向きに歩いて...足を踏み外しても知らないわよ」
「流石にそんなヘマするかよ...」
俺たちは前からやってくる魔物らを倒しながら登山道を登り続ける。少しずつ魔物が現れるペースが緩やかになり、二つ目の大空洞の入り口に差し掛かる頃にはもう魔物は現れなくなった。
「出てきても各個撃破されるだけだから、待ち伏せに作戦を変えたのかしらね」
「まとめてかかってこようが結末は変わらないだろうにな。それじゃあ行きますか...即カウンターは無しでな」
「魔力温存、分かってるよ」
レストが先頭になって、大空洞に続くトンネルを進んでいく。魔力消費の兼ね合いからカウンターはさせられないが、魔法なら吸収、物理なら受け流しと左右の盾で受け方を変えられるため、まず最初の攻撃をレストに防御してもらう作戦は変わらない。
「地上には魔物はいなさそうだな...また上に張り付いてやがるかな」
レストの肩越しに様子を伺うものの、魔物は目に入らなかった。角度的に、大空洞に入るまでは天井の様子を伺うことはできないだろう。まずは入るしかない。
上を警戒しながら進んでいき...いよいよ大空洞の中に入る。そしてパッと上を見上げるが...回避の目が発動しなかったことからも分かる通り、魔物は一匹たりともおらず攻撃が飛んでくることはなかった。
「魔物がいない...?なんとも拍子抜けな...」
と、俺が呟いたその瞬間だった。
俺の首筋を、トンっと何かが触れた。こんな時にいったい誰のイタズラか...そう思いながら振り向くと、そこには見慣れない人影があった。そして、それを見た瞬間に、俺の頭の中に情報が湧き出してくる。
「魔族...擬き⁉︎クソっ、触られた!」
俺がそう叫ぶと、ステラは敵意をむき出しにして魔族擬き目掛けて矢を放つ。しかし、すでにそこそこ距離を取られてしまっていたのもあり、見てからの回避が間に合ってしまう。
「カリヤ大丈夫⁉︎」
「触られただけだ...特に俺自身に何かが起こるわけではない。だからこそ、攻撃ではないと判定されて回避の目が発動しなかったのか...!」
「奴に触れられると、何が起こるの?」
「奴の固有能力が発動する」
おそらくはトンネルの出口の真上から降りてきたのであろう魔族擬きを見ながら、俺は流れ込んできた記憶を頼りに口を開く。
「奴の力は、フロートのそれに近い。模倣能力...しかし、触れた相手に変身するわけではない。触れた対象が過去に行動を共にしていた仲間への変身...そういう力だ」
俺に触れた魔族擬きは固有能力を発動させて形を変えていく。
「……誰になるんだろう」
「わからん。少なくとも今この場にいる者に変身することはないようだが...それ以外に共闘した者に変身するのなら、たかが知れてる。問題なく倒せるはずだが...」
魔族擬きの変身が落ち着いていく。形が整い、服装などが再現されていく。そうして少しずつ、目の前の相手が誰なのか判別できるようになって...
「……マズい」
変身対象が誰なのか、それを理解した瞬間に俺の口から声が漏れ出る。
「ニア!俺の記憶を全員に共有しろ!奴の使う魔法の全てを読み込め!」
「だ、誰なのよ、アイツ」
「フォルス...再誕世界で俺と行動を共にした転生魔法使いだ!」
完全に変身が完了した瞬間に、フォルスに変身した魔族擬きは俺たちに向けて光線を放ってくる。まだ記憶の共有が間に合っていないから、みんなにはあの魔法の正体がわかっていない...が、俺にはわかる。
「これは防げる...!」
前に飛び出し、腕に装着している盾で光線を受け流す。
「早く共有!」
「り、了解...!」
ニアが俺の記憶を読み取り、フォルスが使うことのできる魔法を全て共有する。模倣の傷を使い続けたことで、フォルスの魔法は全て熟知している。相手の手数が全てわかっているわけだから、そこそこ有利に戦いを進められるはずだが...皆にとっては初めて見る魔法が多いため、そこを乗り越えられるかどうかが鬼門だな。
「やぁやぁ、久しぶりだな幸希」
「っ⁉︎喋れるのか...くそ、警戒事項が一つ増えちまったな」
フォルスの扱う魔法の中に、伝承の語り手というものがある。現実が任意の物語と似通っていた場合に発動ができ、その物語の結末を現実に引き起こすという魔法だ。その魔法を使うには口頭での詠唱が必須であり、喋らない魔族擬きなら使ってこないだろうと思っていたが、変身によって話せるようになったのなら警戒する必要がある。
「な...名前呼びしてる!」
「……ステラ?今はそんなこと気にしてる場合じゃあ...」
なんか、ずるいなぁとでも良いだけな表情を浮かべ、ステラはほっぺたをぷくーと膨らませる。
「……とりあえず、倒せば良いんだよね!」
ステラは魔道具で空を飛ぶと、すぐさま魔族擬きに向けて矢を連射する。魔族擬きはそれを横目で見て半透明の壁を貼り矢を防御、そして鎖を地面から召喚してステラに差し向ける。
「こんな鎖、当たらないよ!」
大空洞はそこそこ広いため、自由に飛び回れるステラは悠々と鎖を回避していく。
「セイッ!」
そうしてステラが攻撃を引きつけている隙にクミリアが接近する。魔族擬きに効きやすい雷装を身にまとい、拳を突き出す。
「おっ...受け止めるなんて、やるね」
魔族擬きは身体強化で全身を強化し、真っ向からクミリアの拳を受け止めた。
「けど、雷装は止められない...!」
「雷装というのが何かは知らないが、効かないよ」
「っ...⁉︎」
魔族擬きはクミリアの拳に触れて受け止めた。そのため、雷装を直接流し込むことが可能...だというのに、魔族擬きにダメージはなかった。
「再誕世界じゃ雷魔法は普通に存在している!防御手段もあるから効かないぞ!」
「その通り、わかってるじゃないか幸希」
「チッ、その口で喋んじゃねぇぞ魔族擬きが!」
クミリアに攻撃する未来が見えたため、次元収納内の魔法を発射して回避行動を取らせることで攻撃を防ぐ。
「奴は魔法発動の予兆を見ることができる!魔法を使おうとすればその時点で察知されるぞ!」
俺の知っているフォルスの情報を叫んで共有する。魔法発動を事前に察知されるのはそこそこ厄介だが、さっきやった次元収納内の魔法を取り出す攻撃は、すでに発動済みの魔法を放つだけだから察知されることはない。攻撃手段としてかなり有用だろう。
「そして奴の魔力は無尽蔵!どんなに使っても魔力切れになることはない!常に魔力を放出していることにも気をつけろ!」
先ほど伝承の語り手を使われる可能性を考えておいてあれだが、そもそもとして再誕世界の魔法をこの世界で使えるかという疑問がある。聖杖世界の魔法の仕組みを再誕世界の神が真似ているからおおよそのシステムは一緒のはずだが、逆輸入することは本来不可能だろう。
しかし、神の使いや魔族の持つ特殊な能力はそういった世界の原則を凌駕する力を持っている...そのため、再誕世界の魔法をこちらで使うことも可能だ。実際、先ほど雷無効化の魔法を使っていたしな。
「常に魔力を放出している?それはメリットでしかないわ!」
ニアはそう言う。たしかに、魔法拡散で分解した魔力で魔法を練れるニアならば、相手が勝手に魔力を振り撒いている現状はいわばボーナスタイム。相手の魔力使い放題で、自身の魔力消費なしで魔法を使いまくれるのだからメリットでしかないと考えるのは当然だろう。
しかし、現実は違う。大きなデメリットが存在している。
それは、再誕世界の魔法を聖杖世界で使えることに関係している。再誕世界の魔法を使えるということはつまり、あちらの世界のルールがこちらの世界に持ち込まれているということを意味する。魔族擬きの無尽蔵の魔力も、肉体の魔力回復速度に起因しており再誕世界の肉体と魂の関係のルールが適用されている。
再誕世界にはもう一つ、魔力関係でとある現象が存在している。それが、魔力散布によって起こりうる極大のデメリット。
「近づくなニア!」
魔族擬きの放出した魔力を利用しようとして近づきに行ったニアの肩を掴み引き止める。
しかし、その瞬間に回避の目が発動する。大量の魔力がこちらに向けて放出される未来が見える。
「っ、何が...」
「危ない!」
レストが俺たちの前に出て右腕の盾を起動する。魔力吸収の魔法が発動して、魔族擬きが放出した大量の魔力を盾に吸い取り、魔力結晶に変えていく。
「今何をされそうになったの?」
「再誕世界は他者の魔力と自身の魔力が反発する。そのせいで、他者の魔力に満ちた空間は魔法使いにとっては毒...相当な苦痛に襲われることになる」
「なるほど...なら、アイツも私の魔力で反発を起こさせることができるのね?」
「可能だが無理だ。魔力放出で一瞬で周囲の魔力を押し流しちまう。それを狙うくらいなら普通に攻撃して防御を貫いた方が良い」
「そう...なら、そうさせてもらうわ」
ニアは魔族擬きに閃光を放つ。魔法での防御を貫くといえばこれだ。
「その魔法は...こうすれば良い」
「くそっ、俺が教えたばっかりに...!」
閃光は俺が教えたことでフォルスも使えるようになっている。仕組みの理解もされているため、壁を作っての防御ではなく軌道変更によって閃光を捻じ曲げての回避をされてしまう。
「ふむ、そろそろこちらの番と行こうか」
「……んなっ⁉︎」
回避の目が発動したことで、俺はようやく気がついた。ステラが回避し続けていた鎖...それが、空中に巨大な魔法陣を描き出していたことに。
いくつもの魔法陣が無数に折り重なっており、一眼見ただけではどの魔法が発動されるのか見当もつかなかった。唯一わかることは、大量の魔法の同時発射による攻撃が俺らに襲いかかること。
「レスト!!」
俺が叫ぶ頃には、もうレストは動いていた。大量の魔法が襲いかかってくるのならば、それら全てを跳ね返すまで。先ほど吸収した魔力があればカウンターの発動は十二分に可能だ。レストの魔力消費無しに盾が起動する...!
そして、それと同時にライトも動き出していた。魔法的な防御によってカウンターで致命傷を与えられなかった場合のために攻撃を仕掛けに行っていた。もちろん、先ほどの俺の話を聞いているためある程度の距離まで近づいたら、魔道具を変形させて剣を伸ばすことで魔族擬きの首を狙いにいく。
ステラも、魔法陣と化した鎖の隙間から矢を放って攻撃をする。防御はされてしまうものの、矢の防御に回らせることでカウンターに対する防御を取らせないように意識を誘導させる。
無心の弓を放つことで魔法陣を消し飛ばすこともできたが、一発や二発放ったところで全ての魔法陣を消しとばすことはできないため、全ての発動を止めることはできない。いくつか消して威力を落とすくらいなら、フルパワーで撃たせてカウンターで全て跳ね返した方が良いため、ステラは意識の誘導に徹した。
……しかし、それら全てを魔族擬き...いや、フォルスは凌駕した。
未来を見る魔法でも発動させたのか、魔族擬きは魔法陣を発動させて魔法を放った瞬間に全て霧散させた。明らかにカウンターを警戒しての行動...それにより、レストの盾によって跳ね返されるはずだった攻撃が消えてカウンターが不発になる。
そして何よりもヤバいのはここからだった。霧散させた魔法は魔力に戻った。それにより、大空洞内に魔族擬きの魔力が大量に散布された形になる。そうなれば、起こるのは一つ。
「っっっ!!??」
まずニアが苦しみ出した。ついでライトが苦しみだし、レストも同様に苦痛に悶える。魔力を増やし続けたニア、勇者候補三人分の魔力を持ったライト、昔の俺の速度操作によるパワーレベリングによって魔力が増えているレスト...通常よりも多くの魔力を持つ者たちが、魔力の反発に苦しみ出す。
「み、みんな⁉︎...たしかに、ちょっと苦しい...!」
「クミさんは何とか動けるよ...」
ステラとクミリアはまだ軽傷のようだった。速度操作による魔力増強によって魔力は増えているものの、三人に比べると魔力総量が少ないために被害が小さいのだろう。そして、魔力がこの中で一番少ない俺は、多少圧迫感があるもののほぼノーダメージであった。
「マズいライトが...!」
魔族擬きは苦痛に悶えるライトに攻撃を仕掛けようとしていたため、俺は急いで間に割り込み、次元収納内の魔法で牽制して距離を取らせる。
「三人は一旦離脱しろ!大空洞から出ればフォルスの魔力から逃れられるはずだ!」
「逃すつもりはないよ」
魔族擬きは魔法を放つと、出入り口であるトンネルを崩して塞いでしまった。魔法で壁を作ったならば魔法拡散やレストの盾での吸収で出られたものを...厄介だな。
「とりあえず下がってろ!こいつは...俺らで倒す!」
動ける三人で倒す他道はない。俺は刀を構えながら、フォルスに勝つ方法の模索を始めるのであった。
まさか擬きとはいえフォルスが再登場するとは思わなかったでしょう...私もです()
ちなみに、なぜ最後の魔力散布で回避の目が発動しなかったのかというと、それが回避不可能であったためです。
あの場面で大量の魔法から回避するためにはレストのカウンターが必須...しかし、それをするならば魔力散布は回避できない、といった理屈です。
意外と穴があるんですよね、回避の目...