フォルスとの戦いの続きです。
「チッ、当たらん...!」
フォルスに変身している魔族擬きに近接戦を仕掛けにいくが、なかなか命中しない。音速の抜刀を放ってみたりするも、壁を張られて防がれてしまう。
魔法で壁を張っているのではない。周囲に撒き散らした魔力を操り、濃度の濃い部分を作り出すことで魔力の物質化を引き起こして壁にしているのだ。大空洞全体に魔力を行き渡らせているこの状況ならば、いつでも任意の場所に壁を作ることができる。ただの魔法の壁なら閃光で貫けるものを、魔力の壁であるがために攻撃が通らなくて非常に面倒だ。
魔力の物質化は再誕世界には存在しない、聖杖世界のルール。フォルスの知識にはないはずだが、魔族擬き側の知識でそれを行なっているのだろう。
フォルスの魔力量、魔力生成量でなければ無理が生じる防御方法だ。こんなやり方、普通の人ならすぐに魔力切れを起こす。常に魔力を垂れ流しにし、魔力を操り続ける...どことなく、クルイガを思い出す。アイツも大量の魔力を生み出して放出し続けていた。俺の記憶を読み取って変身したのなら、再誕世界の他の魔法使いの力も取り入れている可能性があるな...
……レストのカウンターを見抜いた未来視の魔法も、本来はジクルという転生魔法使いが使っていた魔法だ。コイツの脅威度をもっと上げるべきかもしれない。
「魔法使いだからといって、近接戦ができないと思われては困るね」
「そんなに戦えるなら自分で戦ってくれりゃ良かったのによぉ...!」
「自由に魔法が使えればこんなものさ。幸希が魔王と戦っていう間の私の活躍、君は知らないだろう?」
「知らねぇからこそお前に反映されてるはずがねぇんだよ...!上手いこと素体を利用してやがるな...魔族擬きめ」
「だとしても、クミさんの攻撃まで凌げるのはだいぶおかしいけどね。ここまで出来る人、武闘家でもそうそう居ないよ」
クミリアがそう言いながら攻撃を仕掛けにいく。魔力を全身に行き渡らせることによる身体強化と、魔法によるさらなる強化によって、クミリアの放つ高速打撃を魔族擬きは的確に捌いていく。
「お褒めに預かり結構。褒める暇があるなら、もう少し本気を出した方が良いと私は思うがね」
その時、回避の目が発動する。周囲に撒き散らされている魔力の一部が集まって魔法を形成し、後方からクミリアに襲いかかる未来が見えた。
だが、クミリアは攻撃を続ける。回避はせずに仲間に託したのだ。
「えいっ!」
ステラが無心の弓を放ち、魔法を形成しようとしていた魔力を消し飛ばす。
「ほう、それが幸希が発動させようとして失敗した魔法か。魔力を消し飛ばすとは、随分と興味深い」
「興味があるなら教えてあげても良いよ!ただし、その身に直接ね!」
そう言ってステラは続け様に無心の弓を魔族擬きに向けて放つ。
「っ、マズいな」
避ける以外にこの無心の弓から逃れる方法はないと悟ったのか、魔族擬きは急いで無心の弓の進路から飛び退いて逃れる。そして、魔力の一点集中放射によって推進力を生み出すことで回避後の崩れた体勢から無理矢理走り出してクミリアに近づく。
「ちょっ、速っ!」
クミリアは突然の速さに驚きながらも受けの構えを取る。あの構えは...!
「反撃流...!」
クミリアの取った構えは、冒険者の町ガルムでとある武道家が発見した反撃流と呼ばれる原初の魔法だった。特定の動作と呼吸によって発動するその魔法は、受けた攻撃の衝撃を完璧に受け流し、同時に発動させる魔法によって相手の行動を一時的に止めながら攻撃を繰り出すというまさに反撃のためにある技だ。
爆発的な加速をしながら放たれた魔族擬きの拳はクミリアの頬を撃ち抜くものの、原初の魔法によってその威力は全て受け流され、地面に流れ込んでいく。同時発動する魔法によって魔族擬きの動きを止めると、片足を上げて腹に蹴りを叩き込む。片足が地面から離れた瞬間に動けるようになっていたはずだが、魔族擬きは反応できなかったようだ。
「っ...⁉︎」
後方に弾き飛ばされる魔族擬きをステラの無心の弓が狙う。回避しようとするも、慣性が残っており思うように動けない。なんとか直撃は避けようと身を捩るものの、右腕が巻き込まれて消滅する。
「ぐっ...治せないか...!」
治癒魔法では失った腕を取り戻すことはできない。逆行再生を試そうとするも、消し飛んだ部位は戻らない。魔族擬きは完全な治癒は諦めて傷口を塞ぐのみに留め、血と魔力の漏出を防ぐ。
「そこ...!」
体勢を立て直そうとする魔族擬きに近づき、音速の抜刀を放つ。魔力の壁によって防がれてしまうものの、息をつかせぬ攻撃の応酬によって少しずつ負担を増やし追い込むことが目的。防がれても問題はない。
「ハァッ!!」
クミリアの飛び蹴りが魔族擬きの左肩に命中する。よろける魔族擬きと、さらに追撃しようとするクミリア。しかし、そのタイミングで回避の目が発動したため、その未来に従ってクミリアはその場を飛び退き、頭上から降り注ぐ毒性を持った液体を回避する。
「……クミリアへの防御が甘い...?」
なぜ今、クミリアの攻撃が当たったのだろう。俺の攻撃に意識を割いていた...というのもあるだろうが、自身の魔力が充満しているこの空間内ならば背後からだとしてもクミリアの接近に気付けないはずがない。俺の攻撃を止めたように、そもそもクミリアの接近を魔力の壁で止めてしまえば防御はそれで終わり...とても攻撃を喰らうとは思えない。
おそらく、クミリアに対する警戒が薄いのだろう。攻撃を喰らったとしても打撃による傷ならば十分に治癒可能だからだろうか?最も警戒すべきはステラの無心の弓であり、それだけを警戒しているのかもしれない。クミリアが攻撃のために近づいている間は、誤射を恐れて無心の弓を使ってこないだろう、という目論見もあるかもしれない。
……では、なぜ俺の攻撃は防ぐ?刀による斬撃は致命傷になりやすいとでも考えているのだろうか?何か、奴にとって不都合なことがあるはず...でなければ、ここまで必死になって防御する意味が説明できない。
「……ハッ、なるほど...!」
考えを巡らせて、そして気がついた。
鍵となるのは、フォルスの持つ記憶。魔族擬きが俺から読み取ったのは再誕世界に関する記憶のみだ。フォルスが知っていると俺が思っていることの記憶しか奴は持ち合わせてはいない。
だから、再誕世界以降の記憶は奴にはない。俺がその先で何を手に入れたか、何を失ったのかを知らない。
奴は、俺がまだ模倣の傷を持っている、そう勘違いしているのではないだろうか?もしそうだとすれば、俺の攻撃を徹底的に避けようとすることにも納得がいく。攻撃を受ければ、たちまち大量の魔力を俺が操作できるようになる。魔族擬きが魔法を発動させようとした瞬間に、使おうとしていた魔力を横取りして消費することで実質的に魔法発動を封じることもできる。そのため、付けた傷を治すことすら許すことなく攻撃を続けることが可能だ。
これが、俺の攻撃を避ける理由。危険度でいえば、ステラと同等レベルに危険だと言えるだろう。当たれば一撃死の無心の弓と、傷付けば魔法を封じられて死が確定する模倣の傷。相対的にクミリアの危険度が下がるのも納得である。
それがわかった今、俺がすべきことは一つ。何が何でも攻撃を当てるという意思を見せ続け、最大限に警戒させて注意をこちらに向けさせ続ける。勘違いを逆手に取り、他の警戒を疎かにさせて他の攻撃を通す...!
「ほーら避けてみな!」
次元収納から適当に魔法を取り出す。魔法発動を介さない魔法攻撃に、魔族擬きの反応は一瞬遅れる。防御自体は間に合ったものの、周囲への警戒が疎かとなってクミリアの接近を許してしまう。
首筋を狙って放たれる蹴り。それを回避しようとした矢先、ステラの放った普通の矢が魔族擬きのふくらはぎに命中する。無心の弓という魔法ではなく物理的な矢を放ったために気付くのが遅れたのだろう。そして、突然の痛みに意識を持って行かれた瞬間、クミリアの蹴りが突き刺さり、数メートルほど吹き飛ばされる。
「これで...終わらせる!」
大空洞の壁に叩きつけられ、よろめきながらなんとか立とうとする魔族擬きを狙って、超光速弾を放つ用意を済ませる。魔法発動を介さない攻撃ならば通る。未来視さえ使われなければ、事前に察知して避けることは不可能だ。一瞬で撃ち抜いてやる...!
……超光速弾を放とうとした瞬間、一瞬視界が揺らいだような、そんな気がした。だが、そんな瑣末なことを気にしてもいられない。そう思って発車するのだが...放った直後に異変に気づき、先ほどの揺らぎの原因を知る。
魔族擬きはまるで知っていたかのように超光速弾を回避した。放たれる前から動かなければ光の速さの光弾を避けられるわけもないため、何らかの方法で未来を見たのだろう。だが、未来視の魔法ではない。
なぜならば、一瞬ではあるが、魔族擬きの魔力がゼロになったから。
「リトライか...!!」
対象が致命傷を受けた際に、対象の魔力を全て消費することでその致命傷を受ける前の時間まで巻き戻す時間遡行魔法。ステラの持つ指輪と似て非なる致命傷防御。
おそらく、俺の放った超光速弾は一度は魔族擬きに命中したのだろう。しかし、リトライの魔法によって全てが巻き戻り、超光速弾発射前に魔族擬きの意識だけが巻き戻った。どんな攻撃が飛んでくるかわかっていれば、幾分かは回避も容易になる。こうして、初見にして必殺であった超光速弾を回避したのだろう。
「魔力が回復する前に仕留めろ!!」
リトライを使ったことで、魔族擬きの魔力はゼロになった。本来ならば、魔力が回復し切るまで魔法を一切使えなくなってしまう。しかし、再誕世界のルールが一部混じっている現状では、聖杖世界のそのルールは適用されない可能性が高い。おそらく、魔力が回復すればすぐにでも魔法を使うことができるだろう。再度リトライが発動できるまでになる前に仕留めなければならない。
「いやはや恐ろしい...もう少し、本気を出さないとならないようだな」
回避の目が発動する。周囲の魔力が魔法を形成して、俺たちを襲う未来が見える。
ただし、猶予がとても短い。ただ動くだけでは到底回避しきれないだろう。回避の目が発動しているため回避可能なはずだ。これは、魔力を消費して魔法拡散を使わなきゃダメか...!
そうして俺が魔法拡散を使おうとしたその瞬間だった。ワンテンポ早く魔法拡散が展開されて、魔族擬きの魔法が掻き消された。
「あの魔法使い...なかなか器用なことをするな」
「ニア...!」
一瞬だけニアの方を見る。魔力を見てみると、ニア周辺だけ魔族擬きの魔力が消えていた。周囲の魔力を消費して魔法を使用することによって自身との魔力との反発を消し、魔法拡散を使って攻撃を防いでくれたのだろう。
だが、そんなニアの顔は苦虫を潰したような表情を浮かべていた。やろうと思えば動けることが魔族擬きにバレてしまったからだろう。本来ならば奇襲できるタイミングまで取っておきたかっただろうが、俺らを守るために大切な手札を一枚切ってしまったり
「このタイミングでの復帰か...なかなか手痛いな」
魔族擬きは出来ることなら再度魔力を散布してニアの動きを封じたいことだろう。しかし、今はそれが出来るほどの魔力を持ち合わせていない。行動を許してしまう。
「畳み掛けるわよ!」
ニアが周囲の魔力を消費したことで、近くにいたレストとライトも動けるようになっていた。ニアは進行方向の魔力を消費しながら攻撃し、レストとライトの動く道を作る。
「ならば...全て止めよう」
大空洞全体に魔法拡散が貼られた。あらかじめ撒き散らした魔力を使って魔族擬きが発動させたのだ。これでニアが発動していた魔法拡散を上書きされ、ニアも放った魔法も消え...
「無駄よ!」
魔法拡散とは違い、今ニアが放った魔法は魔族擬きの魔力を使ったもの。魔族擬き自身の魔法拡散では消し去ることはできない。それに気づくことが遅れ、魔力の壁を張るのも間に合わなかった魔族擬きは放たれた閃光を避けることができず、左足の付け根に直撃する。
「ぐっ...っ!」
治癒魔法を発動される前に接近して、音速の抜刀を放つ。間一髪のところで防御されてしまうが、この攻防で俺に意識が集中する。
その隙をついて、背後からライトが近づいてきていた。武器を振り上げ、真上から一刀両断するつもりだろう。
しかし、それを見逃す魔族擬きではない。俺の視線を読んだのか、それとも足音で察知したのか、ライトの接近に気がついた魔族擬きはノールックで魔力の壁を作り出して防御を固める。
「それは読んでたよ」
ライトの背後からレストが飛び出し、右腕の盾を魔力の壁に押し当てた。その瞬間、魔力吸収が発動して魔力の壁を吸い取ってしまう。こうして障壁が消えたところに、ライトの武器が振り下ろされる。
ズバッ!と魔族擬きの背中が斬られる。体内の魔力を背中側に集めて防御していたのか、思っていたよりも深傷にはならなかったがそれでもかなりのダメージだ。
無心の弓での右腕消失、ステラの矢によるふくらはぎへのダメージ、ニアの閃光での左足付け根へのダメージ、そして今のライトの斬撃...魔族擬きにはかなりのダメージが蓄積している。そろそろ終わりが近いだろう。
「くっ...!」
さらにライトが追撃をしようとしたその瞬間、魔族擬きの姿が消失する。どこに消えた...?と考えて辺りを見渡そうとした時、回避の目が発動して未来が見える。
「なるほど...!クミリア!」
「あいよ!」
クミリアが少し移動してから蹴りを放つと、突如として出現した魔族擬きにクリーンヒットする。
「うぐっ...⁉︎」
「俺が教えた未来跳躍か。だが、使い方が悪いねぇ...」
魔族擬きが消えたのは未来跳躍によるものだった。そのまま距離を取っていればバレなかったものを、出現直後に攻撃することを選んでしまったために回避の目が発動して反撃を喰らうなんて滑稽だな。
「なぜバレて...この世界の未来視か...!」
流石にここまで綺麗にクリーンヒットさせてしまえば、未来を見る力を使っていることはバレるか。けど、未来跳躍中の出来事を奴は知らない。よって、俺がクミリアに指示を出したことを魔族擬きは知らないため、俺が未来を見る力を持っていると気付くことはできない。誰かが未来視を持っている...そういう大雑把なことしか把握できていないはずだ。
「……いや待て、魔法は魔法拡散で使えないはず...なら、あの魔法使いか...!」
魔族擬きのヘイトがニアに向く。未来視を発動させるには魔法拡散を無効化する必要がある。そのため、魔法拡散の上書きができるニアが未来視を発動させたと考えたのだろう。
「行かせないよ」
ニアの周囲には魔族擬きの魔力が無いため、遠隔で魔法を発動させることはできない。そのため直接の攻撃しに行こうとした魔族擬きだったが、その前にレストが立ち塞がる。
「そこを退け...!」
魔族擬きが魔力を放出して攻撃するが、レストは右腕の盾で魔力を吸収して受け止める。盾の裏側に魔力結晶が蓄積していき、覆い尽くさんとしていたためレストは結晶をちぎって放り捨てていく。
しばらくすると、魔族擬きの魔力放出が止まる。このまま続けても無意味だと悟ったのだろう。放出した魔力は吸収されてしまい、自身の手で操れなくなっているためやればやるだけロスになる...そこに気付くのが、少し遅かったな。
「さーて、そろそろお前も限界だろ。肉体も魔力もな」
度重なる被弾と、フォルスという運動慣れしていない子供の肉体で激しく動いたことによるスタミナ減少、そしてリトライと魔力放出による魔力減少...魔族擬きが限界を迎えるのはもう秒読みだろう。
だが、最後まで油断はしない。確実にとどめを刺し、雷装を流して魔族擬きを消滅させるまでは戦いは終わらない。
「さぁ、終わらせに行こうか!」
俺が一歩前に出ると、魔族擬きの警戒がマックスになる。すぐさま魔力放出で推進力を得て俺から距離を取り、その場に残した魔力を使って閃光を放ってくる。
「無駄無駄!さっさと諦めな!」
回避の目によって閃光の発射前から軌道を見抜いた俺は、軽々と閃光を回避して魔族擬きに近づく。
そして、まだ刀の射程圏内に入っていない状態から鞘に刀を押し込んで魔法を起動させる。
「お前には戦闘センスがない!」
空振りすると思った魔族擬きは、魔力の壁を作り出さずにそのまま距離を取ることを優先した。だからこそ、この攻撃は防げなかった。
刀の魔法が発動した瞬間に俺は手を離していた。鞘から推進力を得た刀は、俺の手という制御から解き放たれたことで射出という現象を引き起こし、魔族擬きに向かって飛び出した。もちろん、そのまま命中する。当たったのは柄の部分であるため致命傷にはならないものの、音速に近い速度で射出されたためダメージはかなりのものだ。
「ま、まず...!」
魔族擬きは模倣の傷を警戒したのか、急いで今しがたできた傷を治そうとした。
「あ、れ...?」
そして、気付く。付けられた傷を通じた魔力のパス...それが繋がっていないことに。治癒をすればパスは切れる。そのため、傷をつけたらすぐに能力を起動して魔力を繋げ、治癒魔法そのものを妨害する...それがセオリーだ。
ラッキー、そう思えるほど楽観的な思考をフォルスならするはずがない。俺がミスをした、なんて考えは絶対にしない。何か意図がある...思考を回し、魔族擬きはフォルスの思考を持って結論に辿り着く。
「まさか、もう能力は...!」
考えれば分かることだろう。速度操作は魔王に奪われている。創造の銃や衝撃の剣も奪われているから模倣の傷も...というふうにも考えられるが、確実に奪われているという証拠がある。
速度操作を奪われたのは、魔王に身体を乗っ取られ、そして死んだ後。それと全く同じ状況を伝承の語り手によって再現しているため、速度操作と同様に模倣の傷も奪われていなければおかしいのだ。
「大正解!」
俺がそう叫んだ瞬間に、ライトが飛び出した。治癒への専念、そして模倣の傷の不発動に気を取られていたせいで気付くのが遅れていた。
「っ...!」
魔族擬きは傷によってすぐには動けなかった。そのため、魔力放出によってライトの動きを封じにかかる。近くにはレストはおらず、ニアも離れている。よって放たれた魔力を回避することはできず、ライトに直撃する。
……だが、何も起こらない。放たれた魔力を突っ切ってライトは魔族擬きに近づいた。そして、すぐさま斬撃を浴びせる。
「なっ...そん、な...」
致命傷を負ったことにより、魔族擬きの身体が崩れ落ちる。スライム形状に戻り、フォルスへの変身が解かれたことによって放出された魔力も全て消滅する。
「とどめ...っと」
ライトは剣越しに雷装を流し込み、スライムの身体を全て消滅させる。
「ふぅ...強敵だったね」
「すまんな、俺の記憶力が良いばっかりにフォルスと戦う羽目になって...」
「そうね。少しでもあやふやに覚えてくれていればもっと楽だったのに」
「俺のせいじゃないよって言う流れじゃないんだこれ...にしても、最後どうやって攻撃したんだ?ライト。魔力反発が起こるはずなのに...」
「それって、魔力が多いから起こるんでしょ?だったら反発が起こらない程度まで魔力を放出して消費しちゃえば、苦痛無く動けるってわけ」
「あぁ...そうすれば良かったのか。なんで思いつかなかったんだろ...」
魔力量によって苦痛が生じるかどうかなんてこと、実際に動ける者と動けない者で二分されていることからすぐに分かるってのに、なぜ俺は魔力をわざと消費するという方法を思いつかなかったんだろうか...なまじ自分が動けるばっかりに、自分がなんとかするという方向で考えすぎたのかな。
「初めからその方法を使っていたら、最後の奇襲は叶わなかったから逆に良かったと思うけどね。それに...ちょっとやりすぎちゃって魔力切れ起こしちゃった」
「あらら...こりゃ一度元の世界に戻っとくか?その方が魔力回復早いだろ」
「そうね。みんな消耗してるし、早いけど退散しましょうか。白竜の目前までは辿り着けたことだしね」
そう言ってニアは次元転移のゲートを開く。
「いやはや、まさか勇者の加護を貫通して苦痛というデバフを与えてくるなんてなぁ...」
「そういえばそうだね。別世界のルールだから貫通しちゃったのかな...」
「あくまで自分の魔力の暴走だからかもな」
……などと会話をしながら元の世界まで向かうのだった。
久しぶりにいい感じの集団戦を書けた気がします...ちょうどいい強さの敵ってめちゃくちゃ大切なんだなぁという気持ちになりました。