人対人の戦争...とは言ったものの、基本は魔族との戦闘になると思います。
「これで全部か⁉」
みんなと協力しながら最後の荷物を搬入し終えた俺は、近くにいたアンスに声をかけた。
「ああ!もう行っていいぞ!」
「了解!じゃあユーリ借りてくぞ!」
「借り...え?」
困惑しているアンスの横を通り抜け、ユーリの肩を掴む。
「え、なに?」
「お前の力が必要だ。俺と一緒に壁の上まで登ってもらう。落ちないようにつかまっててくれ」
言われるがままにユーリが俺の体にしがみついたのを確認してから能力を発動させ、魔力銃を作り出す。それをワイヤーモードに切り替え、センフリを囲う壁の頂点めがけて射出、ワイヤーを巻き取って上へと昇る。
「うわなにこれ速すぎ怖い!!」
「我慢しなそして衝撃注意」
壁の上へとたどり着いた俺は、くるっと一回転しながら着地する。うまい具合に衝撃を和らげながら着地したつもりだが大丈夫かな?
「す、すごい高い...なんで僕をここに?」
下を覗き込みながらユーリは俺に問いかけてくる。
「さっき言ったろ?お前の能力、千里眼の力を借りたいんだ」
「……ここから隣国の兵の様子を見たいってこと?」
「そういうことだ。頼めるか?」
「ここまで連れてきてから言わないでよ...わかった。付与するから僕の力は自由に使ってくれ」
「助かる」
俺の肩にユーリの手が乗っかる。その瞬間、一気に視界が縮小拡大されて遠くで陣形を汲んでいる隣国の兵の顔まで認識できるようになる。
「どこまで拡大するかはカリヤ自身で決められるようになっているからうまく調節して」
「了解」
うまいこと拡大倍率を調節し、まずは大まかな様子を観察する。
「これは...だいぶ戦力差があるな」
こちらの兵士の数が1だとすると隣国の兵は大体3.5くらいだ。そりゃそうだろう。隣国はこの街を陥落させるために兵を集めているはずだ。だがこちらは駐在していた軍の兵士だけ。人数差が生じるのは免れない。この人数差で済んでいるのはまだ幸運といえよう。
見たところ武器の性能差はそこまでなさそうだ。まぁそれは俺らが急いで足りない武器を輸送してきたおかげなのだが、それは置いておこう。とにかく、目に見える武器に大差はない...目に見えるのはな。
一番の問題は能力だ。これが一番厄介。聖杖世界では特殊な力は魔法だけで、その種類には限りがあるし全員が使えるものだからまだ対策ができた。けれど、この世界の能力は一人一つの固有なもの。多少の被りはあれど、全員が同じ力を振るってくるわけではないから予想できず対策の仕様がない。そして能力は基本一人一つであるがために、人数差が能力の数に直結する。つまり、こちらとあちらでは使える能力の数が3.5倍違うわけだ。それがわかってしまったから、だいぶ戦力差があると声に出てしまった。
「けど、やりようは全然あるな」
あの集団の中に潜む魔族を殺してしまえば、おそらく隣国の軍は瓦解するだろう。それは相手の魔族の中に精神干渉系の能力持ちがいてこの戦争を引き起こさせたという仮説もあるが、自軍の中に魔族が紛れていたと判明すれば戦争どころではなくなるだろうという期待も含まれている。もしそのどちらも起こらなかったら、ちょっと面倒だが魔法弾で全員の意識に干渉して戦争をやめてもらうことにしよう。
能力の数の問題も、魔力弾があればおおよそ解決する。魔力弾をこの世界の人に撃ち込めば、魔力に拒絶反応を起こして能力使用不可状態になり、動きもある程度封じられる。近くにいる人に片っ端から魔力弾を当てていけばそれだけ戦力を減らすことにつながるのだ。センフリ側はこの戦争に勝った後の交渉材料とするために、気絶した隣国の兵は殺さずに捕虜として捕らえることになっているらしい。俺に魔力弾を撃ち込まれて無力化された兵を見つけても捕虜になるだけで殺されはしない。戦死者をなるべく出さないという目的も同時に達成できるわけだ。
「……よし、じゃあ魔族を探すか」
俺は一目見ただけで魔族かどうか見分けることができる。それはユーリの千里眼の影響下でも変わらず、顔が見えれば魔族かどうか判別可能だ。だからある程度広めに見える程度の倍率にして、魔族の反応があればズームして個人を特定していく。
「一人...二人...三人目みっけ。二人は最前線で、一人は最後方...あいつがトップかな」
一番後方にいる魔族がおそらくこの軍を率いているトップだろう。あいつを殺せれば...けれど、かなり守りが堅いな。強そうな護衛らしき人を何人も周りに侍らせている。センフリの魔族が護衛をつけていたはずなのに死んだことをあっちは知っているはず。二の舞にならないように対策しているだろう。遠距離攻撃対策は万全とみていいな。ここから攻撃しても無駄だろう。
それに対して最前列にいる魔族二人はどうだろう。そこにいるということは、かなりの武闘派なのだろうと予想ができる。能力も攻撃向きだろうな。けど、今はまだ開戦前だから油断しきっている。今なら攻撃できるかもしれない。魔族のすぐ真後ろには人は立っていないから、貫通して普通の人が巻き添えを食らうなんてこともないはず。絶好のチャンスだ...!
「この距離なら射程距離なはず...」
マクラミンTAC-50という対物ライフルを生成する。過去に3540メートルの狙撃に成功したという狙撃銃だ。距離的には十分すぎるほどの射程圏内である。
……まぁ、当てられる技術があればの話だが。
俺の技術じゃ狙撃なんて不可能だ。風による軌道のずれの補正や重力による落下の補正、そもそも手振れを抑えることすら難しい。速度操作があったら、すべてを無視して弾丸を直進させて命中させていたところだがそれもできない。どうあがいても弾丸は目標からずれたところに着弾し、狙撃がばれてしまう。変な方向に飛んで人を傷つけてしまう恐れすらある。普通じゃ撃てない。
「裏技は使ってなんぼだな」
もう片方の手に魔力銃を生み出し、これから装填する弾丸に魔法弾を撃ち込む。よくある追尾性付与の魔法だ。おそらく、すでに放った魔法に後から追尾性を付与するために作られた代物なのだろうが、喜んで悪用させてもらうこととする。
魔法の効果を得た弾丸五発が入った弾丸を装填し、ボトルハンドルを起こして手前に引いてから戻して装填する。これで準備は整った。千里眼の倍率を弱めてからスコープを覗き、魔族に狙いを合わせる。ずれの補正などする必要はない。照準のど真ん中に魔族の頭を合わせれば、あとは自動で頭めがけて飛んでいく。
「これで死んでくれたら楽なんだけど...!」
息を止め、照準のど真ん中に魔族の頭が入った瞬間に引き金を引いた。大きな破裂音とともに弾丸が発射される。
「どうだ...?」
コッキングして次弾の装填をしながらスコープを覗き、狙った魔族の様子を見る。
「……っ、弾かれた⁉」
魔族の周りで何かが一瞬光ったかと思えば、魔族の足元に弾痕ができていた。何かしらの能力で弾かれてしまったのだろう。
「一応もう一発...ってマズっ⁉」
またもや魔族の周りで何かが光ったかと思えば、ものすごい勢いで何かがこちらに飛んできているのが見えた。俺は急いでユーリに俺の身体にしがみつくように指示を出してから銃を片手にその場から飛びのいた。
次の瞬間、光線のようなものがさっきまで俺らがいた場所に照射され、足場にしていた壁がドロドロに溶けだした。
「やばい俺が撃ったってばれてる⁉」
狙撃は一発ごとに位置を変えるのがセオリーだ。この世界ならそんなことしなくても大丈夫だろうと高をくくっていたが間違いだった。奴はあの位置からでも攻撃をできるほどの力を持っている...!
「クソッ!ユーリ降りるぞ!」
手に持っていた追尾付与の魔力銃は消さずに投げ捨てて新たに別の魔力銃を生成、壁に撃って重力の向きを変えて壁を一気に駆け降りる。
その最中、狙撃銃を無理やり魔族に向けて引き金を引き、残っていた四発の弾丸を高速コッキングによって打ち切ってしまう。大雑把な狙いでも一瞬照準があってしまえば弾丸は魔族のもとまで届く。
「……全部撃ち落としやがった⁉んで自動カウンターかよ!!」
放たれた弾丸はすべて撃ち落とされて魔族の足元に穴をあける。そして、またしても再程の光線が放たれた。おそらく、こう檄が飛んできた方向に向けて自動的に放たれるカウンターなのだろう。
走りながら撃ったため、あの光線が俺たちに当たることはない。だが、どう考えても壁には命中してしまう。この大きさの壁がすべてドロドロに溶けてしまったら...考えるまでもない。何とかして止めなければ。
「あれが光の熱で溶けただけなら...!」
狙撃銃を消し、重力操作とは別の魔力銃を生み出す。そして壁に向けて魔力弾を放つ。
魔法弾の着弾と同時に、壁の表面に巨大な氷の塊が張り付いた。そこに魔族の放ってきた光線が命中し、氷の塊を溶かす。
「……よし受け止めれた!」
あの魔族の能力はおそらく光を操るもの。壁をドロドロに溶かしていたのは圧縮された光の熱によって溶けただけで、別に溶解液のようなものを飛ばしてきたわけではない。何かしらの方法、例えば氷とかで冷やしてしまえば光線を受け止めることが可能だ。
まぁ氷のせいで光が反射して被害が拡散する可能性もあったが、そうはならなくてひとまず安心だ。熱を吸収してしまえば光自体には害はないのかもしれないし、広範囲に拡散したために集められた光が弱まったから被害が出なかったのかもな。とりあえず、壁に風穴が開かなくてよかった。
「巻き込んで悪かったなユーリ」
なんとか下まで降りることができた。背中にしがみついていたユーリが恐る恐る地に足をつけ、そのまま地面にへたりと座り込む。
「……本当に怖がらせてごめんな。みんなのところに戻って安全なところに隠れててくれ」
「わ...わかった」
ユーリは軽く腰を抜かしていたようだがゆっくりと立ち上がると、そのままセンフリの中へと向かって歩いていく。
「あっ、そうだ。ユーリ!アンスに会ったらこれで頭を撃ち抜いてくれ!」
一本の魔力銃を生み出した俺は、それをユーリに向かって放り投げた。
「え?撃て、って、え...?」
「伝言のようなものだ。重要なことだからよろしく頼むぜ」
「……なんか、色々勝手だよね。強引っていうか...」
「この戦争を止めるために必要なことだ」
「よくすぐそんな返しが出来るね...わかったよ。撃てばいいんだね」
そう言ってユーリはセンフリの中へと戻っていった。
「……って、なんだなんだ?」
意識がユーリから離れてようやく気づいた。なんか知らんが、周りにいた兵士に取り囲まれていた。
「……あっ、もしかして怪しまれてる...?ってかそうか思いっきり余計なことしでかしちゃったもんな」
勝手に壁の上に登り、攻撃して反撃を喰らって壁を凍りつかせて...うん、普通に考えたらヤバいわな。
「めんどくせぇ〜」
洗脳の魔法弾で近くにいる兵士を撃ち抜く。出来るだけ立場が上っぽい人を狙い撃ち、俺が軍の一員だと誤認させる。軍服じゃないのは元々非番だったからなどと適当な理由を作り、ちょっとトラブルメーカー気質があるというような認識にわざとさせておく。そして洗脳した人の口から俺のことを説明してくれれば、怪しい奴という認識も変わるはず...
「想像以上にうまく行ってしまった...」
あれよあれよとことが進んでしまい、軍服も手に入れてしまった。どうやらかなりの高官を洗脳してしまったようで、遅れてやってきた(という認識になっている)俺に懇切丁寧に状況を教えてくれたりもした。
んで、なんやかんやで前線の部隊に配属されたんだけど...
「ん?何か言ったか?」
「いえ何も...」
隣にいた男が話しかけてきたが、俺はそいつから顔を逸らしながら答えた。
なんで...なんでこいつがここにいる?
「……なぜ顔を背ける?」
「い、いやーちょっとね」
「一緒に戦うんだ。顔くらいは見せてくれ」
うおっ、こいつ能力で無理矢理頭をっ⁉︎
「……ん?どこかで見たような...」
「そりゃ同じ軍なんだから道ですれ違ったりはしてるでしょうよ」
「そうかな。何か忘れているような...」
俺の顔をまじまじと見ながら、目の前の男...過去に、政治家魔族の護衛をしていた空気を操るあの男は訝しんでいた。あの異常なほどの強さは軍人だったからなのかよってかちゃんと記憶は消したはずだろなんで記憶微妙に残ってんだ!
「……まぁいいか。ところで、君の力はなんだ?壁を凍らせていたみたいだが、壁の上まで登っただとか壁を走って降りたって話も聞いて何が何だかわからん」
……なんで答えよう。多分、マルチだって説明したら面倒なことになるだろう。うちの軍にマルチはいないはずだって返されるかもしれないし、もしマルチならもっと噂されてないとおかしいってことになるかもしれないからな。だから、うまいこと単一の能力で説明できないものか...物質生成をうまく拡大解釈させて適当こくしかないな。
「えと、物質生成系の能力ですね。氷を作れたり、こうやって剣を作れたりと色々応用が効く力で...」
銃剣の銃抜きで剣を生み出し、物質生成能力であることを見せつける。
「なるほど、それで手ぶらだったわけか。ちなみに俺のは空気を操れる力だ」
うん、知ってる。
「そっちもなかなか応用が効きそうですね。空気を固めて壁とか武器を作れるのでは?」
「その通りだ。だが、空気は見えないだろ?周りを巻き込んでしまう恐れがあるから、建前上チームに所属してはいるが単独行動を取らせてもらうことになっている。意外に不便なんだよ」
……さっき一緒に戦うとか言ってなかったか...?ってかこいつも単独行動するのか。こいつに先に動かれると俺が単独行動しにくくなるじゃんやめてくれよ。
「力を使いすぎるとぶっ倒れちまうしな...もし倒れてる俺を見つけたら助けてくれよ?」
「見つけられたらな」
そもそも倒れないでくれ。
「ってかさ、俺らはいつまで待機してればいいんだろな?さっき攻撃されたんだからもう動いていいだろうに」
「こっちはあくまで防衛側。攻めてこないならその間しっかりと準備をするだけだ」
そうは言ってみたものの、いつまで経っても隣国側が動かないのも不自然だ。あっちも何か準備してるってんなら、こっちが先に攻撃するっていうのもありなんだが...
『伝令!伝令!』
っ⁉︎頭の中に声...テレパスの指示?
『敵軍左翼側の進軍を確認!繰り返す!敵軍左翼側の進軍を確認!』
「左翼側ってのは、こっちから見ての話だよな?」
「ああ、俺らがいる側だな。そろそろ出番ってわけだ」
ようやく動き出したらしい。なんでこのタイミング?とは思うもののひとまず戦闘準備を...
『っ!緊急事態!左方の森の中から伏兵多数接近!一個師団級と予測されます!』
「はぁ⁉︎」
伏兵がいたってので、奴らがこの時間まで動かなかった理由はわかったが一個師団⁉︎この世界の一個師団がどのくらいの人数なのかは知らんが、そう翻訳されたってことは普通に数千人から一万数千くらいって考えていいんだよな⁉︎人数おかしいだろどうやって隠れながらここまで近づけたんだよなんかの能力か⁉︎
「んでそれと同時に本軍も出撃...正面と側面から同時に叩いて一気に崩そうって魂胆か...!」
人数差がさらに増しただけでなく多方向からの攻撃...これは、犠牲者を最小限にするのも一苦労ってか普通に負けかねない。早速ピンチだ。
今の俺には全てを救う力はない。できることは...最速で魔族を潰すこと。それしかやれることがない。反応からして魔族は三人しかおらず、前方の本軍に三人いることは目視しているため、左から来る敵の中に魔族はいないとわかっている。
だから、俺は魔族のいる前方へと一気に走り出した。
「……へあっ⁉︎」
「まさか、同時に同じ行動を取るだなんてな」
うわっ、こいつも走り出してる!なんでついてきてんだよ下手な真似出来なくなっちまったじゃねぇか!
「チッ...俺は先に行ってるぞ!」
隣を走る男には見えない位置で魔力銃を作り、自分を撃ち抜いて身体強化をする。
「お前速いな。まさか力使ってギリギリなんてな」
クソッ、こいつ自分にだけ追い風を作って追いついてきやがった!
「……あーもうしゃあねぇ!おいお前!名前聞いてなかったななんて名だ!」
「シンだ」
「じゃあシン!俺はカリヤだそして今から俺がやることに付き合え!それが戦争を終わらせる最短ルートだ!!」
「……へぇ、面白そうじゃないか。そこまで言うなら付き合ってやる!」
よし!このままうまいこと言ってコイツを利用してやるぜ!
「で、何をすればいいんだ?」
「この戦争には魔族が絡んでいる!そいつを見つけ出し、殺す!自軍の中に魔族が紛れていたとなれば混乱は避けられない!そうやって敵の統率を乱せば...!」
「なるほど理解した!だが、どうやって魔族を見つける?」
魔族がいるってことには何も言わないんだな...まぁいいや好都合だ。
「俺の能力はなんでも作れる。誇張じゃなく、本当になんでもだ」
高速で走りながら、俺は魔力銃を作る。威力は低くていい。射程と弾速重視で、軍の先頭に立ってこちらに向かってきている魔族にここからでも当てられるものを作り出し、それを魔族の方に向ける。
「たとえば、魔族を見分ける道具...とかな」
引き金を引く。弾が発射され、魔族の肩に命中する。そして命中箇所が発光する。
……当たってよかった。横に逸れたり魔族の能力で逸らされたらヤバかったな。光るのは魔族関係ないから、普通の人間に当たったりしてたら終わってた。
「あいつが魔族だな」
「……それ、物質生成というより妄想実現では?」
「かもな。でも、アイツが魔族だってことには変わりない。まずはアイツを殺すぞ」
「了解!俺が空気の壁を作って二対一にする!」
「じゃあ一応近くにいる奴は俺が黙らせておく!」
二人で魔族に近づき、同時に飛びかかる。俺が魔力弾で魔族の周りにいて今にも攻撃してきそうな奴を撃ち抜き、シンが空気の壁で四方十数メートルの結界を張る。
「よぉ魔族。死んでもらうぜ?」
「……へぇ、お前があいつの言ってた魔族殺しか」
「っ...!」
クソッ、切断と空間置換の魔族の記憶は消せていなかったか...!
「まさか、この場にいるとは思わなかった...が、来てくれて嬉しいよ」
「あ?」
「ここでお前を殺せば、ハルラは俺のことを気に入ってくれる...!」
「おぉ、そういうタイプか...じゃあ死ね」
俺が言葉で注意を惹きつけ、魔族の背後からシンが空気の剣を持って切りかかる。二人だからこそできる戦い方だ。
「後ろか」
魔族はバッと後ろに振り返り、シンに向かって腕を振るった。シンの身体に腕が突き刺さ...ることはなく、シンの姿がぐらりと揺らいだ。
空気を操り、光を屈折させて位置を誤認させたのだろう。本当は、俺から見て左側から魔族に飛び掛かっていたのだ。
シンの持つ空気の剣が、魔族の左腕を切り裂いた。切れ味はそこまで強くないのか、ちょっとした切り傷をつけて出血させただけに止まったが、まずは一撃だ。
そして、今度はシンの方に意識が向いたから俺がフリーになる。拳銃を生み出し、魔族に向けて引き金を...
「っ!」
魔族はドンッとシンを蹴り飛ばすと、一気に姿勢を落として地面に手をつき、俺の足を蹴り飛ばして払う。
「チッ、外したか...!」
足払いされながら無理矢理照準を合わせて撃ったが、クリーンヒットするわけもなく脇腹を掠るだけでそのまま地面に穴を開けた。
「あー痛い痛い。よくも傷つけてくれたなぁ〜」
……こいつ笑ってる...?
「やっちまったなぁお前ら。ここからは虐殺だぜ?」
「なん...で...」
ん?シンが魔族を見て青ざめている。ゆっくりと後退りして、そのまま腰を抜かして倒れ込んだ。
「なるほど、最愛の妹か。泣けるねぇ...」
「俺は...なんてことを...!」
うわっ、泣き出した。シンはボロボロと涙をこぼしながら頭を抱えて懺悔していた。何か幻覚を見ているのか...?
「で?お前は俺が誰に見えるんだ?」
こいついったい何を言って...っ⁉︎姿が変わって...
「おま...は?」
「なるほど。こいつがお前が一番会いたい奴か。しかも、死人とはな」
「アク...セル...!」
なんとなく、わかった。こいつの能力は、その人が一番会いたい人の姿を見せる力だ。発動には、対象者から攻撃を受けて傷つくこと。この発動条件のせいで、一番会いたい人を傷つけてしまったという認識が生まれ、普通の人は戦闘に支障が出てしまうことだろう。
……これは...かなりの強度の認識改変だな。アクセルは俺がこの手で殺して、消えたところも見届けた。なのに、目の前のこいつがアクセル本人であるかのように見えてきた。おそらく、しばらくしたら元の魔族の姿すら忘れて、初めからアクセルがそこにいたかのように記憶も歪められるだろう。
「どうだ?この力、最強だろう?もうお前は戦えない。もう会えないと思ってた奴と再会しちまったんだからな。戦えるわけがねぇ」
……何を言ってるんだ?こいつ。
「まぁこれから本当の再会が出来るだろうよ。あの世で涙の再会でもするんだな」
「……お前、意外と純粋なところがあるんだな...」
「……あ?」
まだ、ギリギリこいつは偽物だと認識できている。この認識が消える前に、これだけは言ってやろう。
「一番会いたい人...それは、愛情とか友情とか、そういった要因でしか選ばれない。そう思ってるから攻撃されないと思い込んでいるんだろ?」
拳銃を魔族に向ける。
「そいつはさ、俺が殺したんだ。殺して、また会うって誓いあったんだ。けど、この姿での再会は望んでいない。この姿のアクセルなら、もう一度殺せる」
もし、ライトやステラの姿が見えていたならば、俺はなすすべもなく殺されていたことだろう。アクセルだからこそ攻撃ができるし、アクセルも魔族だからこそ、目の前のコイツが魔族だという能力の反応と矛盾を起こさず、殺さなければという意志が強まる。
「ああ、だから...」
……また、会えたなアクセル。
「もう一度!殺し合おう!また遊ぼうぜアクセルッッ!!」
アクセルに向けて、拳銃の引き金を引いた。
さらっと明かされましたが、カリヤくんが一番会いたいのってアクセルなんですよね。
カリヤくんもアクセルも、お互いに脳を焼いてるよ...また聖杖世界に行った時にアクセルの転生体に会えたら良いなー、なんてね。