神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8377字。

魔王戦も終わりが近づいてきました...


滅び迎えし魔界

「俺はまだ!止まらない!」

 

アクセルの力を使って魔王に近づく。

 

「あり得ない...レジリスの力ではあの状態から復帰することは不可能なはず...!」

 

「あり得るんだよなぁそれが!」

 

音速の抜刀を放ち、魔王を斬りつける。

 

「わからない...何故だ⁉︎」

 

「ならもう一度殺してみろよ!俺は逃げも隠れもしねぇぞ!」

 

俺は防御を捨て、魔王に最短距離で近づき攻撃していく。

 

「ならば...望み通りにしてやる!」

 

俺の攻撃を衝撃の剣で捌き始めた魔王は手元で魔法を発動させた。それと同時に回避の目が発動して、魔法が俺の腹を撃ち抜く未来が見える。

 

しかし、俺は回避せずまっすぐ魔王への接近を試みた。魔王は回避の目のことを知っている。そのため、確実に未来が見えているはずなのに突っ込んでくる俺を見て驚愕しながら魔王は魔法を放った。

 

魔法が俺の腹を貫いた。鮮血と肉が飛び散る。

 

だが、それでもなお俺は足を前に進める。そうしている間に、撃ち抜かれた俺の腹は修復が済んでいた。

 

「この速度、やはりあり得ない...!」

 

「なんか言ったかァ?つべこべ言ってねぇで殺してみやがれ!」

 

ノーガード、攻撃一辺倒でひたすら攻め続ける。条件さえ整っていれば、俺は死ぬことはない。こちらが全力で攻撃を続けることで魔王の攻撃の機会を潰し回避と防御に専念させる。

 

「っ...!」

 

魔王は速度操作で自身を加速させ、俺から一瞬で距離を取った。そして、遠距離から大量に魔法を放ってくる。

 

「無駄無駄!」

 

キネットの力で魔王の背後に出現する。いくら距離を取ろうが、魔素を止めていなければそんなもの無意味だ。

 

魔王が背後に転移した俺に気付くよりも前に蹴りを放つ。その瞬間、空気との摩擦熱をサーマルの力で増幅したことにより脚が燃え盛る。炎を纏った蹴りが魔王の側頭部を蹴り抜き、さらにその威力を増幅させることでダメージを無理矢理増やしていく。

 

「ステラ!」

 

「うん!」

 

雷装の矢が空から降り注ぎ、蹴り飛ばされた魔王に突き刺さる。雷装が魔族擬きの身体を消滅させていく...が、魔王は刺さった矢を引き抜くと、消滅した身体を再生させていく。

 

「チッ...魔素を止めないのってそういうことだよな」

 

魔素を止めるとキネットの転移が封じられ、他の魔族の能力も弱体化するというのにそれをしない理由。それは、魔王自身の魔力回復を阻害しないためだろう。

 

魔王は出来るだけ依代である魔族擬きの身体を維持する必要がある。肉体の再生は必須、他にも速度操作や攻撃で使う魔法などに魔力を消費するとなると、流石の魔王も魔力回復をしなければそろそろ限界が来る。そのため、魔素を減速せずに自身の魔力回復速度の加速に努めているのだろう。

 

「こっちも向こうも魔力は無限...このままジリジリやり合うしかないか?」

 

魔王を確実に滅ぼす方法を考える必要がある。身体を滅ぼしたとしても魔王本体が何かに乗り移るだけでイタチごっこになるため、魔王自体を滅ぼさなければならない。現状、条件を満たせるのは聖杖と無心の弓だろう。だが、聖剣は今手元にない。選択肢は自然と無心の弓に絞られる。

 

どうにかして、俺かステラが無心の弓を魔王本体にクリーンヒットさせられるようにお膳立てする必要があるな。

 

「そのためにも、攻撃あるのみ...!」

 

魔王に向かって刀を構えながら近づき、真上から振り下ろす。魔王はそれを見て衝撃の剣で受けようとしてきた。

 

だが、そんな簡単な防御をしてくることくらい読めている。転移で魔王の背後に回り、防御のない方向から斬りつける。

 

「さぁトレードオフだ!テメェはどっちを取る!」

 

転移攻撃を防ぐか、魔力回復を諦めるかの二者択一。魔王を倒すにはひたすら理不尽を叩き込むしかない。

 

「ぐっ...ならば!」

 

魔王は再度俺から距離を取った。どの選択をするのだろうかと思いながら俺は転移しようとする。

 

その瞬間、回避の目が発動する。クミリアが光速の魔法に撃ち抜かれる未来だった。

 

「まずっ...!」

 

転移によってクミリアを退避させる。

 

……だが、転移させたことによって未来が変わる。魔王の魔法の矛先が変わり...

 

「ゴフッ...!!」

 

「トレードオフは貴様も同じだ。仲間を守るか自己犠牲か、選ぶが良い!」

 

魔法が俺の胸を撃ち抜き、心臓を消し飛ばす。傷自体は即座に治癒するものの、どうやらこちらも厄介を押し付けられたようだ。仲間を人質に取られ、仲間の回避を優先すれば俺を撃つ...そう魔王は言っている。

 

「クッソ...!」

 

またしても回避の目が発動する。今度はライトとステラの二人が撃ち抜かれる未来が見えた。

 

……もしここで、二人だけ転移させたらどうなるだろう。もしかしたら、今度は俺以外の転移していない誰かを撃ち抜くかもしれない。

 

その可能性を捨てきれない以上、この手を取るしかなかった。

 

「っ...!」

 

全員を無差別に転移させる。速度探知に慣れていない魔王は、すぐに転移先を把握して魔法を放つことができないだろう。居場所を探るには目視での確認が必須。

 

だから、俺は魔王の目の前に転移した。魔王の顔に手を伸ばし、無理矢理視界を閉ざしにいく。

 

「ッグ...ハァッ!!」

 

魔王の放った魔法が俺の両腕を吹き飛ばした。走る痛みに耐えながら魔力を身体から放出し、魔力の腕を作り出して刀を握る。

 

「自己犠牲を選ぶか...!」

 

「そりゃそうだろ!死なねぇからなァ!」

 

魔王の展開した衝撃の剣の隙間を縫うようにして刀で攻撃していく。

 

「だから、こういうこともできる...!」

 

刀での攻撃が衝撃の剣の全面展開によって防がれるようになった瞬間に、俺も衝撃の剣を発動する。魔王の衝撃の剣を切り裂いて消滅させ...そしてすぐさま吸収した衝撃エネルギーを、衝撃の剣の解除によって周囲に無差別に放出する。

 

魔王と俺は同時に後方へと吹き飛ばされる。より爆心地に近かった俺はより勢いよく吹き飛ばされて地面に激突し、すぐに何事もなかったかのように傷が治癒される。先ほど吹き飛ばされた両腕も同時に復元された。

 

一方魔王はというと、自身の速度を減速させることで体勢を立て直すことに成功していた。地面に着地し、減速を解除させて...後ろに吹っ飛ぶ。

 

「ハッ、やらかしてやんの!」

 

速度操作は、解除すると発動前の元の速度に戻るという性質を持っている。吹き飛ばされた状態から減速させたのだから、解除すればまた後ろ向きの速度が復活するのだ。堪え切ったと思っていた魔王はバランスを崩しながら後ろへと再度吹き飛ぶ。

 

そして、そこには先ほど転移させたクミリアが立ちはだかっており...!

 

「セイヤッ!!」

 

雷装を込めた拳が魔王に突き刺さった。魔族擬きの身体が弾け飛ぶ。だが、魔王本体へのダメージは少ないため、魔王の修復魔法によって弾け飛んで消えていった身体は補充されていく。

 

「やはり...貴様らから葬るべきか...!」

 

っ...まぁ、そりゃいくら攻撃しても死なない俺なんて後回しにするよな...!人質みたいなものじゃなくガチで殺しに来られるのは流石に困る...!

 

「クソッ、もっと身を削るしか...!」

 

『流石に無茶しすぎ』

 

『この力は偶然で成り立っています。無理矢理発動させているもの...これからも成功するとは限りませんよ...』

 

「けど、やるしかない!」

 

そう言って、治癒を終えようとする魔王に近づこうとしたその時だった。

 

『私に策があるわ』

 

「……え?」

 

頭の中に声が響いた。魔族たちの声ではない。ニアの声だった。

 

「なんで...⁉︎」

 

『落ち着いて聞きなさい。くれぐれも魔王にはバレないように』

 

これは明らかに念話だ。だが、魔法拡散の影響下では使えないはずだ...なぜ使えている?

 

『奥の手よ。私には魔法拡散下でも魔法を使う術がある...魔王に知られると困るからってカリヤには教えなかったけどね。それを使うわ』

 

そんな方法があるのか...⁉︎と驚きながら俺は魔王に刀で攻撃を仕掛ける。魔王に悟られないように平然を保ちながら、その場で出来る最善の攻撃を仕掛けにいく。

 

『だから魔王に私を攻撃させなさい。それが一番動揺を誘えるし、チャンスにもなる。最初の一撃は絶対に決めたい』

 

……りょーかい!どんな策かは知らないが頼むぞ!

 

『失敗はしないわ。まぁ、見てなさい!』

 

念話が途切れる。さて、策とは何なのだろうか...

 

『雷装・剣』

 

この後何かが起こると悟られないように、俺も手札を一つ切る。ここまでは衝撃の剣を主に使っていたために使えなかった雷装・剣を刀に対して発動させたのだ。

 

魔王は俺が武器に込める雷装を使えることは知っている。だからこそ、雷装が効く魔族擬きの中に入った後、魔王はずっと俺の雷装を警戒していたことだろう。ここで使うことで、俺の雷装に魔王の注意を完全に引き付ける。

 

「くっ...ここでか!」

 

魔王は俺の雷装を見てすぐさま距離を取る。衝撃の剣を使って防御しなかったのは、俺の衝撃の剣で無効化されるのが目に見えているからだろう。

 

「貴様は邪魔だ!消え失せろ!」

 

「ちょっ⁉︎」

 

魔王は魔法で風を吹かせると、速度操作であり得ないほどの暴風と化して襲いかかってきた。俺の身体なんて簡単に吹き飛ばしてしまうほどの暴風は俺を空中へと放り込んでしまう。

 

「まずは...人数を減らす!」

 

そう言って魔王は手のひらをニアに向けた。魔法拡散によって無力されているニアを先に落として人数を減らしておこうという魂胆だろう。もしかしたら、魔力消費の激しい魔界全体の魔法拡散を早めに解除したいのかもしれない。ニアさえ仕留めれば、魔法拡散を発動させ続けるメリットが少なくなるからな。

 

まぁ何にせよ...魔王がニアを狙ってくれるのは好都合だ。念のため他のみんなに飛び火することがないように転移の準備だけしておく。

 

……そして、今俺はあることに気がついた。

 

魔王が今まさに魔法を放とうとしているのに、回避の目が発動していないという事実に。

 

そこで俺の脳は急激に回り出す。

 

回避の目が発動しなかったということは、あの魔法は回避不能の攻撃ということになる。ならば、ニアを転移させて...いや、ダメだ。回避不能なら俺は何をしても無意味。ニアが魔法の餌食になるのは確実...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いや、待て?回避の目が発動しない可能性はまだある。攻撃それ自体がそもそも無い可能性。そして、回避の目による干渉が無くとも初めから防御や回避に成功することが決まっていた場合だ。

 

ならば、ニアの奥の手とやらがあの魔法を回避する手段たりうるのかもしれない...そうだと信じるしかない!

 

心の中の不安は拭いきれないが、それでもニアを信じた。すると...

 

「……え?」

 

ニアが懐に入れていた手を取り出す。その手には板状のものが収まっており...

 

「スマ、ホ...?」

 

俺がそう呟いた瞬間、魔王の魔法がニアに向かって放たれた。速度操作によって光速まで加速させられた魔法は一瞬にして命中する...

 

そのはずだった。

 

「なっ...⁉︎」

 

魔王は驚く。なにせ、放った魔法が空中で突然消滅したからだ。

 

それを見たニアはふっと笑う。そしてスマホを振り翳したかと思えば、発動するはずのない魔法が魔王に向けて放たれた。

 

「なに...⁉︎」

 

魔王の表情がさらに強張る。だが、対処は適切。放たれた魔法が閃光でないことに気付くと、すぐさま障壁を展開して防御の構えに入る。

 

「この異常事態で、その程度の対応しかできないのね」

 

魔王の貼った障壁が消失した。ニアの放った魔法を受け止める壁が無くなり、魔法は魔王を貫く。

 

「底が知れてるわね、魔王」

 

「なっ...一体何が...!」

 

「分からないならそれで良い。未知に恐怖しながら消えなさい!」

 

幾つもの魔法が放たれる。魔王は慌てて魔法で迎撃しようとするも、またしても魔王の魔法は消滅してしまう。

 

「バカな、魔法拡散だと...⁉︎」

 

ニアは魔法を使えない。そういう前提が完全に覆され、魔王は混乱に陥る。

 

そんな様を見ていると、自然落下によって空中に巻き上げられていた俺は地面に叩きつけられた。致命傷を負うもののすぐさま回復したので、俺はニアの元に駆け寄る。

 

「おーいニア!どういう原理だよその奥の手...って、え、そういうこと?」

 

近づいたことで、俺はカラクリに気がついた。

 

ニアの持っているスマホから音声が発せられていたのだ。その音声はあり得ないほどに早回しされていたが、かろうじて何かしらの魔法の呪文であると聞き取れた。

 

「スマホを魔道具として使ってんの?え?頭おかしい」

 

普通じゃ思いつかない発想に、思わず罵倒に近い褒め言葉が飛び出す。

 

魔法拡散は発動者以外の魔法を分解するが、魔道具が発動した魔法は分解できない。だからステラの飛行魔道具やレストの盾、ライトの聖剣や変形できる武器は魔法拡散下でも使うことができた。

 

ニアはその、魔道具の魔法は無効化できないという性質を利用したのだ。スマホに魔法呪文を録音し、再生させることで呪文詠唱を代理させる。そしてスマホに魔力を流すことで魔法を完成させ、スマホ自身が魔法を発動させたという扱いにさせたのだ。スマホを魔道具として扱い、魔法拡散に無効化されない魔法を編み出したわけだ。

 

「お前最っ高!!天才すぎんだろ!!」

 

「褒め言葉は後でたっぷり聞いてあげるわ。魔王の魔法は私が全て消してあげる。カリヤはさっさと倒してしまいなさい!」

 

「おう!」

 

雷装を込めた刀を構えながら音速で魔王に近づく。魔王は慌てて高速移動で回避するも、転移によって背後に出現すれば逃すことはない。すぐさま一撃をお見舞いする。

 

「これでイーブン...いや、こっちの優勢に戻ったなァ!」

 

魔王は魔法を使えない状態に戻り、ニアだけがスマホ越しの魔法を使えるようになった。俺含め他の仲間は魔法を使えないものの、魔王が魔法を使えないというだけでだいぶ有利になった。なにしろ、身体の復元が魔力を過剰に生成して埋め合わせることでしか出来なくなったのだからな。あとはもう消耗戦だ。魔王が潰えるのが先か、魔王が能力で俺たちを皆殺しにするのが先か...答えはもちろん前者だ!

 

「っ、そこだ!」

 

刀による攻撃を浴びせて魔王に隙が生じたのを俺は見逃さなかった。すぐさま手を伸ばし、魔王にしがみつく。

 

「なにを...まさか⁉︎」

 

魔王は見るからに慌て始めて俺を振り払おうとする。フロートの固有能力を思い出したのだろう。十秒間触れれば、俺は今魔王が手にしている能力を模倣できる。能力の練度差から見ても、これに成功すればほぼ勝利は間違いなかった。

 

「クソ...させるか!」

 

「ちょっ...ゴフッ⁉︎」

 

魔王は一度その姿を崩した。魔族擬きのスライム形態になることで俺の組みつきから逃れたのだ。そしてスライム形態を活かして鋭い身体を形成し、俺の腹をぶち抜いてきた。

 

「嫌なこと...してきやがる...!」

 

レジリスの治癒は間に合わないと考えた俺は、フロートの模倣したレストのストックを消費することで身体を復元する。ここまで使ってきた致命傷からの復帰は、今この瞬間だけ使うことができなかったからだ。

 

現状、残るストックは衝撃の剣のみだ。これだけは消費できないので、少し慎重になる必要があるな...

 

「けど、ここで攻めなきゃ意味がない!」

 

魔王が再び俺の姿を取った瞬間に行動に出る。

 

「ニア!雷を生み出せ!そして合図したら俺にぶち込め!!」

 

「カリヤに⁉︎」

 

「頼んだぞ!」

 

「……仕方ないわね!」

 

ニアはスマホによる魔法起動で雷を生成するために必要な魔法を発動させていく。熱や風を操り、雷雲をどんどん発達させていく。

 

その間も俺は攻撃を続けた。魔王に触れるのは諦め、ひたすら攻撃を続けることで魔王の行動を制限していく。

 

「準備完了よ!」

 

「了解...!」

 

ニアはあっという間に準備を終わらせてしまったようだ。仕事が早くて助かる...俺はそう思いながら地面を蹴って空中に躍り出た。

 

「さぁ!来い!」

 

ニアに向かって叫んだ俺は、自分の胸に手を当てる。

 

『正気?』

 

そんな魔族たちの声を無視して、俺はサーマルの力を発動させる。エネルギー増幅の力を使い、静電気を一気に増幅させて俺の心臓に撃ち込んだ。

 

強力な電流が俺の心臓を貫き、心停止が起こる。

 

そして次の瞬間、ニアの放った雷が俺の身体を貫く...!

 

「カハッ...!!」

 

雷が心臓を流れたことと、レジリスの超再生、それら両方が作用して俺の心臓は再び動き出した。

 

雷による心停止と心肺蘇生。それらが意味することはつまり...

 

「これで、会得した...!『雷装』!!!」

 

全身に雷が走る。先の条件を満たすことによって会得できる雷装、それが全身を覆っているのだ。

 

「火力も申し分なし!」

 

雷装の強度は、雷装の取得に関わった二度の雷の威力によって決まる。サーマルの力で生み出した電流もニアの雷も相当の威力を誇っていたため、雷装によって生み出せる電流は以前の俺が扱っていた時よりも強力になっていた。

 

「行くぜ!魔王!!」

 

雷装を纏ったことにより、身体能力が大幅に強化された。移動速度はこれまでの1.5倍...アクセルの力も合わせれば、魔王自身を加速させられる最高速度は優に越すことができた。

 

「ハハハッ!楽勝楽勝!」

 

一瞬で魔王に詰め寄った俺は、雷装を込めた刀で魔王をめった斬りにする。

 

「ほらほら!反撃してみやがれ!!」

 

魔族擬きの身体が完全に消滅しきらない程度に攻撃を加えた俺は、魔王を煽りながらライトに近づく。

 

消滅させないのは、雷装では魔王自身の消滅は叶わないからだ。魔王を消滅させるには聖杖か無心の弓が必須。雷装で消滅させても、魔王は別の依代に乗り移るのみ...そしてその依代は、一番近くにいる俺になる可能性が高い。

 

……まぁ、仕留め切らなかったのは他の理由もあるがな。おそらく、今無心の弓で消滅を試みたとしても魔王を消すことはできないだろう。だから、これからあることをする必要がある。

 

「模倣させてもらうぜ、ライト」

 

ライトの身体に触れる。フロートの能力のストックを作っておくのもあるが、これが魔王を殺すために必要なのだ。

 

「頼むから終わるまで何もしてくれるなよ...?」

 

十秒が長く感じる。魔王が速度操作で模倣にかかる速度を遅くしているんじゃないか、俺の時間感覚を狂わせているんじゃないかとさえ思えてくる。勇者の加護があるから、そんなことあり得ないってのにだ。

 

魔王が身体を再生させていく。魔法が使えないため、魔王は速度操作で量産した魔力で地道に修復していくしかない。その様を俺は見守る。

 

……魔王の再生が終わり、立ち上がる。そしてライトの模倣を試みている俺に攻撃を仕掛けようと近づいてきた。

 

そこにステラの無心の弓が放たれ、魔王の足を消し飛ばす。そして、足の消滅によって前に倒れ込んだ魔王の顔にクミリアが雷装を込めた膝蹴りを叩き込み、俺への接近を妨害してくれる。

 

「ぐっ...!」

 

魔王は後ろにのけぞりながらも、何とか攻撃しようと魔力でナイフのようなものを生み出した。それを執念で投擲し、俺への妨害を意地でも果たそうとした。

 

だが、そこにレストが立ち塞がる。右腕の盾で魔力のナイフを受け止めて吸収してしまう。

 

「よし、これで...!」

 

みんなの稼いでくれた時間のおかげで、今フロートの模倣が...

 

パリンッッ!!

 

何かが割れるような音がした。

 

ゴトッ...

 

ライトに触れていた俺の腕が落ちた。

 

「な、ん...」

 

空間が割れていた。異常な裂け目が俺の腕を貫いており、空間が割れると同時にそこにあった俺の腕が切断されたのだろうと気付く。

 

「空間が、崩壊して...っ⁉︎」

 

回避の目が発動した。

 

魔界全体が崩壊し、砕け散る。それにより、魔界にいる存在全てが巻き添えで崩壊して消滅する...そんな未来だった。

 

「今のって...!」

 

この未来は、みんなにも共有されている。お互いに顔を見合わせ、見えた未来に恐れ慄く。

 

「……魔神が消滅したから...魔界を支える存在が消えたから崩壊するってことか⁉︎」

 

聖杖によって魔神は消滅した。魔界は魔神の力を利用して女神が生み出した空間だ。魔神が消滅すれば、魔界は支えを失って崩壊する...そして中のものを全てを消し飛ばすことになる。

 

「マズイ...全員離脱だ!魔界から出るぞ!!」

 

回避の目がこのタイミングで発動した以上、今から動き始めなければあの未来は回避できない。すぐに行動に移る必要がある。

 

「魔王は⁉︎」

 

「……どうにかして魔界に残す!そうすりゃ魔界の崩壊に巻き込まれて消滅する!!」

 

「ちょ...そんなことできるの⁉︎」

 

「やるんだ!俺らなら出来る!!」

 

失敗すれば元の世界に魔王を連れてきてしまう可能性はあるが、魔界の崩壊という制限時間が生まれてしまったため、無心の弓で消し飛ばずといった時間がかかる方法はもう取れない。これが一番勝ちの目がある方法だった。

 

「全部...俺に任せろ!」




魔王...やっぱり弱くない?
それ以上にカリヤくんや仲間が強いというのはもちろんあるんですけど、これがラスボスとは思えない...まぁギミック系のラスボスみたいなものなので仕方ないのですが。

次回は第五章 衝撃の剣 最終回。
そして、人魔憑依編の最終回でもあります。
また三日後にお会いしましょう!
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