神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8278字。

情報収集回です。


六人の集落、色とりどりの力

「野を駆け川を飛び越え山登り...ようやく辿り着いたな」

 

歩くこと三日、山の中にある地図に描かれていない村にようやく辿り着いた。やっぱ魔族も魔物もいないとめっちゃ楽だな。メルトロまで歩いている最中に何度魔族の気配を感じたことか...その度に立ち止まって周囲を警戒しないといけなかったから、それが一切無いのが楽で仕方ない。

 

「ここが魔族の住む村か...そんじゃ、情報集めと行きますか」

 

「おにーさん誰?」

 

「うわっ⁉︎」

 

急に後ろから声をかけられたせいでびっくりし、そのまま足元にあった木のねっこに足を引っ掛けて盛大に転んでしまう。

 

「大丈夫?」

 

「あ、ああ...」

 

そう言いながら起き上がり、声をかけてきた人の方を見る。魔族の反応が出ているが...子供か。何も警戒してなかったとはいえ、まさか背後を取られるなんてな...これまでずっと速度操作だとか魔族探知だとかに頼ってきたせいだな。普通の人間の接近に気付けないのは流石にどうにかしないと...

 

「あっ、怪我してる!ごめんなさい私が驚かせちゃったからだ!」

 

「うおっ、ほんとだ膝擦りむいてら...まぁこれくらいなら治せるから平気...何してんだ?」

 

「ほんとごめんなさい今治すから...」

 

治す?ってことは...

 

「……本当に治った...」

 

「これで大丈夫...ですか?」

 

「ああ、治してくれてありがとう。ところでなんだけど...君の名前ってミシュって言ったりする?」

 

「なんで私の名前知ってるの?」

 

やっぱりか...この子がハルラの言っていた回復能力を持っている魔族、ミシュってわけだ。見たところまだ十歳もいってないんじゃねぇか?困ったな、こっちの世界で仲良くしすぎると源流世界に戻った時に殺しづらくなる...まぁその時になったら割り切るしかないな。回復持ちは真っ先に殺さないとだし。

 

「ハルラって奴から名前と治癒能力の話だけ聞いていてね」

 

「ハル姉のこと知ってるの⁉︎」

 

よし、食い付いたな。ハルラの話し方からしてそれなりに親しそうな雰囲気を感じたから、この世界でもそうだろうと期待して名前を挙げたが、成功だったな。

 

「まぁな。それで、偶然数日前にアマガリと会ってな。この村のことを教えてもらって、観光に来たわけだ」

 

「そうなんだー何もない場所だけどようこそ!」

 

「ちょっ⁉︎」

 

急に腕を引っ張るな...!あっぶね転びかけたけどなんとか持ち堪えた...

 

「あっ...ほんとごめんなさい!」

 

「転んでないから謝んなくていいよ別に。けど、手は離してくれ。自分のペースで歩きたいんだ」

 

俺がそう言うと、ミシュは俺の腕から手を離した。

 

「それと、できるなら村にいる人たちを呼んでくれないか?挨拶をしておきたいんだ」

 

「わかった呼んでくる!」

 

ミシュがたたたーっと駆けていく。木の根やらなんやらで地面ボコボコなのによく走れるな...前なら俺にもできただろうけど今は無理だな。

 

「ほぉ...小さな集落とは聞いてたが、本当に小さいな。家二軒しかないとは...」

 

ミシュを追いかけて村の中に入ったのだが...これ、集落って言えるのか?山の中に個人宅があるだけだろこれ。魔族しか住んでないってのを考えると妥当な広さではあるけど...あっ、なんか元々家が建ってたような痕跡がいくつかあるな。本当はもう何軒か建ってたのか。

 

「ってかミシュはどこに...」

 

「あ、こっち来てー!」

 

二軒の内でかい方の家の扉が開かれ、ミシュが中から手招きしてきた。あの中に集めてくれたってことかな?

 

「えと、お邪魔しまーっ⁉︎」

 

家の中に足を踏み入れた瞬間、全身が動かなくなってしまった。家の中にはミシュを含めて魔族の反応が出ている人が合計六人...その中の誰かの能力か!

 

「少し止まっててもらうぜ」

 

壁に寄りかかっていた高校生くらいの男がこっちを睨みつけながらそう言った。

 

「こんな場所に来る奴なんて普通いねぇ。何が目的だ?答えな」

 

……答えろと言われても、口が動かないんだが...だんだん息が苦しくなってきた普通に死にそう。

 

「……ちょっ、テザルグ!口動かせるようにしないと聞けるもんも聞けねぇぞ!」

 

テザルグと呼ばれた男の近くに座っていた中年の男が、俺の様子に気づいたらしく止めにかかった。そうだそうだもっと言ってやれ。じゃなきゃ窒息して死ぬ。

 

「えっ、そうか!ヤッベェーやらかした...すまん!」

 

「コフッ、ゲホッゴホッ!...死ぬかと思ったぜ」

 

首から上が動かせるようになり、息ができるようになる。頭しか動かせないからめっちゃ変な咳き込み方した...

 

「ったく、何やってんだ」

 

「すまねぇ親父...あー、雰囲気崩れちまったな。で、結局なんで来たんだ?」

 

「アマガリにこの村のことを聞いて興味を持ったから来た。特に深い理由はないさ」

 

旅人なんでな、と付け加えながら説明をする。怪しまれてはいるが、魔族でもないし殺されるようなことはないだろう。

 

「……そう言ってるが、どうだ?ノストールの爺さん」

 

テザルグが中央に座っている老人に向けて問いかけた。

 

「……わからん」

 

「わからないだと?そんなことがあるのか?」

 

「お祖父ちゃん、心読めなくなっちゃった?」

 

心を読む?あのノストールって呼ばれた老人は読心能力を持っているのか。ってか、お祖父ちゃんって言ったよな?ミシュの祖父なのか。

 

「読めるには読めるのだが...全く理解できないのだ」

 

あーこれいつもの奴か。心を読んでも日本語のままだから理解できない奴ね。翻訳能力の範囲を広げれば心の声も翻訳してくれるけど、こうやって無断で盗み見てくる輩がいるからいつも切ってるんだよな。

 

「なんだそれ。怪しい奴め...」

 

おおっと...いつもは心が読まれないことがメリットになってたけど、今回は怪しまれる要因になっちまったか。どうしたものか...いやまぁ、最終的に不意打ちで記憶操作をしちまえばなんでも良いんだけどな。問題は、今は首から下を動かせないからそれができないってことだが。

 

「……手っ取り早く行くか。モンネ、ちょっと耳を貸しなさい」

 

テザルグに父さんと呼ばれていた男が、隣に座っていた男の子に耳打ちをする。

 

「こう言って力を使うんだ。いいな?」

 

「わかった!」

 

モンネと呼ばれた男の子がこっちに近づいてきた。

 

「えっとね、僕たちに危害...?を加えないですか?」

 

ん?よくわからんが、まぁ魔族の方ならともかく普通の人間のこの人たちは傷つける必要ないよな。

 

「加えないぞ?それがなにか?」

 

「よし。テザルグ、拘束を解け」

 

「あいよ」

 

「よよっ...と」

 

急に身体が動くようになり、軽くつんのめる。急に拘束を解いてきたけど...もしかして言質でも取られたのか?そういう能力なのかな...

 

「すまなかったな。外の人間が来ることなんて今まで無かったから、何かあるのではないかと疑ってしまった。謝ろう」

 

「はは、大丈夫ですよ。そりゃ皆さんからしたら急に知り合いの名前を出して訪ねてきた怪しい奴ですし」

 

まぁとりあえず警戒を解いてくれたようで助かった。これで情報を聞き出せるな。話術で上手いこと能力を聞き出していこう。

 

「あんた、名はなんだ?」

 

「カリヤって言います」

 

「俺はセグレイドだ。あいつが愚息のテザルグ。ミシュ...は自己紹介済みか。真ん中に座ってるのが親父のノストール。そこで病床に伏せているのが姪のニス。それでこの坊主がニスの息子のモンネだ」

 

……ガチで親族しかいないんだな。ところで、ニスって女の人は病気で寝てるっぽいけど、ミシュの力で治せないのかな?そこまでの治癒力はないのか、それとも病気は治せないのかのどっちかかな。

 

現状、能力が判明しているのは三人。行動を封じるテザルグに、治癒能力のミシュ、そして読心能力のノストールだ。ミシュとノストールは良いとして、テザルグの能力は発動条件を探る必要があるだろうな。動きを止める能力は強力だが、それ故に何かしらの制約があるはずだ。他三人の能力と共に聞き出すとしよう。

 

「なるほど...ところでなんですけど、どうして急に信頼してくれたんですか?」

 

「信頼はしてねぇよ。絶対に危害を加えない確信を得たから解放してやっただけ。勘違いはするな」

 

「テザルグは黙っていろ。せっかくの客人なんだ。しっかりもてなそうじゃないか...で、質問の答えだが、この坊主の力のおかげだ」

 

「この子...モンネの能力?」

 

「相手が嘘だと思ったことを現実にする力...この力を使いながらあの質問をすれば、必ず危害を加えられるのを防げるというわけだ」

 

「……なるほど、そういうことですか」

 

かなり面白い能力だ。俺はあの質問に正直な気持ちで答えたが、仮に俺が危害を加える気満々な状態で返答しようとした場合、嘘をついていると認識しながら危害を加えないと答えることになる。その瞬間、能力が発動して本当に危害を加えることが出来なくなるというわけだ。

 

……これ、かなりやばくね?こっちが嘘だと思った瞬間に実現するんだろ?モンネが明らかに嘘である事を言っても、俺が嘘だと認識してしまえば実現してしまう。たとえば、『この世界には魔法が存在している』とか『人を見ただけで殺せる力を持っている』とかいうことも実現してしまうってことだ。

 

幸い、『嘘を実現させる能力』ではなく『相手が嘘だと思ったことを実現させる能力』だから、俺がモンネの話すことは全て本当のことだと思えばそれで能力発動は防ぐことができるだろう。けれども、どんな言葉が飛び出してくるかわからない以上この対策も完璧ではない。あまりに荒唐無稽すぎて嘘だと即決めつけてしまうなんてこともありそうだからな...他の奴らの能力にもよるが、何気に一番警戒しなければならない魔族かもしれないな。

 

「俺は危害を加える気なんてさらさらなかったですけど、もしあったらこれで先んじて防げてたわけですか。なんか、かなり手慣れてますけど何回かやってます?」

 

「え?...いや、そんなことはないが、急に良い使い方が浮かんできてな」

 

源流世界の影響かな?魔族の方が能力の応用とか得意そうだし、そういうアイデアが流れてくることがあるんだろうな。

 

「というか皆さん、珍しい能力ばっかですね。嘘を本当にする能力なんて初めて見ましたよ」

 

「そんなに珍しいのか?あまり外の事情に詳しくなくてな、そうだとは知らなかった」

 

「急に動けなくされたのにも驚かされましたわ。どんな能力なんですか?」

 

「なんだってお前なんかに教えてやらんといけないんだ?さっきも言ったが、お前のことを信用したわけじゃねぇからな」

 

「同じ空間内にいる人の動きを止める力だ。屋内限定だがな」

 

「ちょっ、親父⁉︎」

 

だいぶ口が軽いなこの人...にしても、屋内限定か。だから家に入った瞬間に動きを止められたのか...なら、外から建物を破壊してしまえば良いだけだな。案外対処は楽そうだ。

 

「それにこいつ、マルチって奴でな。一瞬先の未来を見ることができるんだ。一瞬すぎて意味ないがなハッハッハ!」

 

「ああもうなんでそのことまで言っちまうんだこのクソ親父!」

 

……愚息とかクソ親父とか言ってるが、普通に仲良いんじゃないかこいつら。ってか、未来予知か。一瞬先の未来しか見えないのなら、銃を避けることは無理だろう。警戒はしなくて良さそうだな...

 

「意味ないってんなら親父のが一番使えねぇじゃねぇか!なんだよ自分も動けなくなる時間停止って!何にも使えやしねぇ!」

 

「何にも使えないわけじゃないぞ。時間停止をしてる間もエネルギーは消費し続けるという効果があってだな...」

 

「……どういう意味ですか?実際に見せてくれません?」

 

「わかった。まぁ、止まった時は俺しか認識できないんだが...ちょっと待て」

 

そう言ってセグレイドは家の外へと出ていった。そして、十数秒たったのち何かを持って戻ってきた。

 

「……石?」

 

「これ自体はなんの変哲もない石だ。例えばこうやって放り投げても...普通に飛んでいくよな?」

 

俺に向かって軽く放られた石をキャッチする。

 

「まぁそうですね」

 

「それをこっちに向かって投げてくれ」

 

セグレイドに言われた通りに石を放り投げる。

 

……次の瞬間、飛んでいた石は急に真下に向かって落ち始めた。前方への勢いは一体何処へやら、まるでその位置で石を手放して自由落下させたかのようだ。

 

「こんな感じだ。あんたには分からなかっただろうが、十秒ほど時を止めた。だから勢いが全て失われて、下へと落ちていったのだ。これが数秒の停止だと...」

 

セグレイドは石を拾い、もう一度放り投げる。すると、空中で石は勢いを失い、俺のところまで届くことはなかった。

 

「こうやって僅かに勢いは残る。これが、エネルギーを消費しているってことだ。わかったかテザルグ。何にも使えないってのは間違いだと何回言えばわかるんだ」

 

「けどよぉ動けないと意味ねぇじゃねぇかよ。ってか俺らには止まってんのかわからねぇんだよ嘘ついてるかもしれねぇ...そうだ、モンネに本当にして貰えば良いんじゃねぇか?」

 

「このバカ息子...モンネの力を悪用するなとあれだけ言ってるのにまだわからないか!」

 

ああもうまた喧嘩始まったよ...けどまぁ、とりあえずセグレイドの能力の詳細はわかったな。セグレイドは時を止めることができ、視界内の情報を得ることと物の運動エネルギーを減衰させることができる。銃を撃っても止められてしまうってわけだ。バレずに撃ち抜くか、直接近づいて攻撃するかすれば攻略できそうだな。

 

……さて、能力がわかっていないのはあと一人。だが、どうやって聞き出す?最後の一人であるニスは寝込んでいるから本人の口からは聞き出せない。誰かに聞きたいところだが、流石にその話に持っていくのには無理がある。どう考えても不自然で、怪しまれるに違いない。

 

となると、方法は一つ。魔法弾を使って記憶を盗み見るしかない。

 

「……急に部外者がこんなことを言うのもなんですけど、その、ニスさんの病気ってこの子の治癒能力じゃ治せないんですか?」

 

病気の話をしながらそれとなく近づいて、全員の死角から撃ち込んでやろう。

 

「む?そうだな。ミシュの力はまだ弱いからな。ずっと使い続けて、力が成長していけば治らないこともないと思うが...ニスが力を使えるくらいにまで回復してくれれば倍の速さで治るようになるから、まぁ数ヶ月もすれば治るだろう。最近は時たま目を覚ますようにもなったしな」

 

おおっとこれは想定外。マジでセグレイドの口が軽すぎて逆に心配になるんだが...まぁいい。思わぬ棚ぼただったが、このままニスの能力について聞き出そう。

 

「倍になる?ニスさんの能力って...?」

 

「触れた他人の力を複製して物に封じ込める力だ。込められた力は一度しか使えない使い切りだが、何個でも作れるから実質的に一人でいくつもの力を使いこなすことができる。それでミシュの力を複製できれば、単純に回復が二倍早くなるというわけだ」

 

「複製能力...か」

 

条件付きではあるが、能力自体はかなり厄介そうだ。魔族の能力はもちろんのこと、触れるのが条件なのだから、サギリに頼んで強い能力者のところに空間置換で移動して触れてしまえば複製できてしまう。手数はほぼ無限と言って良いだろう。もちろん、物に封じ込める必要があって嵩張るだろうからそこまで多くの能力を所持しているわけではないんだろうが、何が飛んでくるかわからないから怖いな。

 

まぁ、ニスが動けるならの話だがな。それに、どっちみちフロートとは違って模倣した分残機があるわけでもないんだから一回殺せさえすればそれで終わりだ。一回殺すだけならいくらでもチャンスはあるだろう。

 

……ってか、なんか見た感じそんなに脅威になりそうな奴いなくね?まぁ初見だったらヤバかったかもしれないが、タネを知ってしまえば大したことないなと思えてしまう。

 

能力だけで考えるなら光を操る魔族が防御性からして最強だったし、ハルラも攻撃面は必殺級、サギリの空間置換のサポートも合わされば最強だ。傷つかせられると発動する幻覚とかいうトリッキーなのもいたし、記憶を書き換える輩もいた。そういうのと比べると、なんか村にいる奴らは微妙だな。攻撃できそうなのがニスくらいしかいない。

 

……だからこいつらはここにいるのか。戦闘ができたり、能力を使って重要なポジションに付けるような奴は村を出て様々な工作をする。村にいる魔族は後方支援と子供の魔族の生育担当ってわけだ。二軍しかいないなら微妙に見えても仕方ないか。

 

「本当に珍しい能力ばっかですね。複製能力とか初めて聞きました」

 

「そういうお前はなんの力持ってんだよ。人様の力聞いたんだ。自分のも答えな」

 

「……特に何の変哲もないよ。ただの、物を生み出す能力さ」

 

俺はテザルグの質問に答えながら魔力銃を作り出し、セグレイドに向けた。そして引き金を引き、記憶改竄の魔法弾を放った。

 

「……え?」

 

困惑して能力の発動が遅れたテザルグの頭を撃ち抜き、そのまま他の四人にも魔法弾を浴びせた。

 

「嘘はついてねぇぜ。こんなもん危害のうちにも入らねぇからな。んじゃ、邪魔したぜ〜」

 

みんなの意識が戻る前に家を出る。記憶を消したのは、この世界での経験が源流世界の魔族に影響を及ぼさないとも限らないからだ。

 

「よし、さっさと戻るか。今から向かえば約束の日の朝には着くかな」

 

山を降り始め、メルトロへと向かう。

 

「まさか六人も情報を取れるとはな...ハルラとサギリとアマガリは既に知ってるから、知らない魔族はあと二人だけか。時間的に残り二人を探るのは無理だな。仕方ない」

 

源流世界の村を襲撃し、六人の魔族を殺す...その作戦を考えながら、来た道を戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーっす。時間通りだな」

 

待ち合わせの場所で待っていたら、時間通りにアマガリがやってきた。

 

「この世界は楽しめたか?」

 

「まぁな。良い休暇になったぜ」

 

「そうか、それならよかった...じゃあ、ひとまず移動するぞ。ここじゃ飛んだ後に目立っちまうからな」

 

「わかった...移動中でいいんだが、二つだけ聞いて良いか?」

 

ここまで戻ってくる旅の中で、とある疑問が浮かんでいたのでそれをぶつけてみることにする。

 

「なんだ?」

 

「お前の能力って、並行世界を観測することはできないのか?」

 

「それは出来ないな。俺にできるのは飛ぶことだけだ」

 

「そうか...」

 

並行世界の観測はできない。ってことは、魔族のアマガリには俺がこの世界でやったことや、今から源流世界に戻ろうとしていることを知ることはないわけだ。

 

「じゃあもう一つ。その能力で自分自身を飛ばすことはできないのか?」

 

「……今はできない、かな」

 

「今は?」

 

「というのも、この世界間移動は飛ばす先の世界に対象が存在していないことが条件なんだ。そもそも生まれていないか、死んでいるか...その条件を満たした世界の中で一番近い並行世界に飛ぶことになる。俺が飛ばせる範囲の並行世界には、その条件を満たしている世界がないから俺自身は飛べないんだ」

 

なるほど、じゃあ魔族のアマガリが並行世界に飛んで逃げる...なんてことはしないわけだ。この二つがアマガリ襲撃の懸念点だったのだが、これなら問題なさそうだ。

 

「つまり...だ。お前はこの世界では既に死んでいるってわけだ。ご愁傷様」

 

「はは...そもそも生まれてなかったかもしれないぜ?」

 

「そいつはないだろ。見たところ、源流世界とこの世界は隣に位置している。人の生き死にの差はザラにあるが、そもそも生まれてこなかったなんてことはほとんどないさ」

 

へぇ...ここって源流世界の隣なんだ。俺はこの世界に元々存在しない人間だから一番近くの世界に飛んだんだろうな。んで、一番近い世界だったから魔族の反応が微かにするし、居場所も一致していると...そう考えると納得だな。

 

「……よし、ここら辺なら移動直後の姿を見られることはないだろう。やっていいか?」

 

「ああ、頼む」

 

アマガリが俺の肩に触れる。

 

「向こうの俺に言ってくれ。俺に面倒かけるんじゃねぇってな」

 

「わかった。きつーく言ってやるぜ。あと...」

 

最後に、これだけは言っておこうかな。

 

「今度源流世界に遊びに来な。遅くとも明日までには飛べるようにしてやる」

 

「……え?」

 

アマガリの困惑顔が、世界を飛び越える直前に見た最後の景色だった。

 

そして、アマガリの姿が消える。敗戦ムードで包まれた、若干空気の悪いメルトロに戻ってきた。

 

「さーて、お礼参りと行きますか」

 

魔族アマガリを殺す。一週間ぶりの魔族の反応を頼りにし、俺は一歩目を踏み出した。




僅か二話で並行世界から帰ってくるこの展開の早さたるや...まさしく自分の小説って感じがしますね。
このまま第一章を突っ走っていくぞー!
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