神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8210字。

能力の説明と、初殺人回。


衝撃解放と人殺し

「はぁ...」

 

魔王の椅子に座りながら、俺はため息をついていた。

 

「代理なんだからそんなに下手に回らなくても良いのになぁ...」

 

こんなだだっ広い部屋の中で、奥にある豪華な魔王の鎮座する用の椅子に座るとか気分が落ち着かないからあんまりしたくなかったんだけど、魔物たちに座れ座れと押し切られてしまい仕方なく座っている。魔王らしい演技するとか無理だったから親しみある感じで行きたいのに、それすらさせてもらえない。

 

あれから一日経って、実力は信頼してもらえているのはわかったんだが、心を許してもらえるのは一体いつになることやら...

 

「まぁしばらくは待ちか。人間側が動き出してから動いた方が、支配者側の魔王軍としてもメンツが保てるだろうし」

 

魔王軍は人類を支配している側だ。それなのに先にこっちが攻撃してしまうとなんとも都合が悪い。人類側が反旗を翻してきたからそれを迎撃する、という大義名分を持って行動したほうが良いだろう。

 

既に部下である魔物たちに情報を集めるようには言ってある。おそらく存在している諜報部隊とかが各地を巡って情報を集めていることだろう。その報告を待ってから、これからどう動いていくかを決めていこう。

 

これは戦略シミュレーションゲームみたいなものだ。時折俺が単独で動くことはあるだろうけど、基本は兵である魔物を動かして人類を攻めていく、そういうゲーム。だから、人殺しじゃない...

 

『その考えには無理があるんじゃあない?』

 

「……呼んでないんすけど」

 

まーたこの神呼んでないのに勝手に出てきたよ。そんで後光を出すな眩しいぞ。

 

「つーかナチュラルに心読まないでくれないか?怖ぇよ」

 

『あんたの心なんて読めないっての。あんた、口に出てたぞ』

 

「マジか...で、何の用だ?」

 

『いやぁ見てみたけどどんな力かあんましわからなかったから、あんたの口から聞こうと思ってね』

 

「えー口で説明するのめんどいから俺の頭の中覗いてくれ。翻訳はオンにしてやるから」

 

『だから心は読めないんだって。私、異世界人のあんたへの直接干渉は出来ないのよ。わかったなら口頭で説明なさい』

 

「えーめんどくさ...理解できなくても俺のせいじゃねぇからなロリ神」

 

『……もう突っ込まないから』

 

突っ込んでくれよつまらないな...能力の説明か。言語化できるかな...?

 

「えーっとだな。まず、簡単に能力を言い表すならば、エネルギーの変換貯蔵ができる力...って感じだな。エネルギーを『衝撃』に変換して、このオレンジ色の物体に貯蔵する。運動、熱、光、音...大抵は変換できる」

 

パンッパンッと手を叩くと、その衝撃を貯蔵したオレンジ色の球体が出現する。衝撃吸収能力...これを使ってトースリの突進槍攻撃の威力を全て受け止め、全てのエネルギーを貯蔵したのだ。

 

「貯蔵した衝撃の量が増えるほど、変形は自由自在になる。大型に変形できるし、密度を濃くして小さく保つことも可能だ」

 

レイピアに変形させ、適当に振り回す。刀身は空気を切ったり、地面を透過したりしていく。次第にレイピアは衝撃エネルギーを貯めていき、形は刀へと変わる。

 

「何かを切ることによって本来生じる抵抗や発生する威力といったものを衝撃エネルギーに変換すると、この剣は物質を擬似的に透過する。物を切ればその物質は脆くなるし、生命を切れば生命力や精神力、魔力といったものを衝撃に変換して奪い取ることができるわけだ」

 

トースリを切った時に、奴が膝をついたのは生命力を衝撃に変換したからだったのだ。

 

「ちなみに、変形できるのは剣だけじゃない。衝撃の剣と名付けてはいるが、どんなものにも変形は可能だ。盾にも壁にもできるし、こうやって細くすれば...服の繊維に絡ませることもできる」

 

『触れるだけで衝撃として吸収できるということは...防御は完璧ってわけね。そうやって服の内側に潜り込ませれば傍目からはわからない。攻撃が効いているつもりだったのに、実はどんどん衝撃を貯められていて不利になっている、ということになるわけか』

 

もう少し良い表現がありそうなもんだが、これで伝わってるなら良いか。

 

『確かに強い力だけど、うちの勇者くんには効かないかな。あの子の持つ武器には、特殊な力を無効化する力が宿る。衝撃への変換は出来ないし、なんなら剣ごと既に変換した衝撃を消してしまうことも出来るんじゃないかな』

 

へーこの世界にも勇者がいるんだな。んで、魔法や能力を無効化する部下を使えると...

 

「それはどうだろうな。特異な力を宿しているのはこの剣の表面...薄い膜だけ。その内側に貯め込んだ衝撃エネルギーはもはや普通の物理現象と化しているはず。膜は消せても、衝撃までは消せないんじゃないかな」

 

まぁ実際にやってみないとわからないけどな、と付け足しながら俺は話を戻す。

 

「んで、貯め込んだ衝撃は何かに刺すことで放出できる。正確には膜に穴を開けることで衝撃を放出できるんだが、刺して対象を限定しているわけだ」

 

地面に刺せば地震になり、空気中に放出すれば衝撃波を起こせたり爆音を鳴らせたりできる。もし人体に刺していれば...出来れば、あまりやりたくは無いな。

 

「とまぁ、昨日見せた奴の説明はこんなところかな。他にも出来ることはあるけど...こっから先はおいおいってことで」

 

『そうか...大体は理解できたし、続きはまた今度ってことにしておいてやる。ちょうど良い頃合いだしね』

 

本当に理解できたのか...?と思ったが、なんかこいつはちゃんと理解できてそうだな。

 

『では、ここらで失礼〜』

 

「やっと行ったか...」

 

マリスタが消え、ようやくだだっ広いこの空間に静寂が訪れ...

 

「ま、魔王代理殿!」

 

バンッと扉が開け放たれ、泥人形の魔物が魔王の間に入ってきた。

 

「カリヤで良いと言ったはずなんだが...何事だ?」

 

「諜報部副長ロザドが報告いたします!我々が占領し、警備兵を置いていた遥か南南西の村カダーラにて反乱発生!」

 

「……被害は?」

 

「カダーラは人類の手に落ち、警備に当たっていた者十二名が惨殺された模様!警備に当たる者を死印無しから死印付きの者に変える配置転換が昨晩済んでいたこともあり、実質的な人的被害はゼロであります!」

 

今日の朝聞かされたことだが、頭の上のバツ印のことは死印と呼ぶことになったらしい。それに沿った配置転換も既に済んでいたようだ。優秀な部下たちだ...

 

「また、反乱鎮圧中に人類の死印付きは皆殺しに出来たとの報告がありました!」

 

「っ...わかった」

 

そういう任務とはいえ、人が死ぬのは心にくるな...いや待てよ?魔王としての立場なら部下の魔物が死んだことを悼むべきなのか...?でもその魔物も死ぬ予定の魔物だったわけだし...どういう気持ちでいれば良いんだ?

 

「報告ご苦労様。仕事に励めよ」

 

「ハッ!」

 

泥人形の魔物、ロザドは部屋から出ていった。

 

「……何はともあれ、これで大義名分はできた。報復の時間だ」

 

魔王の座から立ち上がり、扉を開けて部屋の外に出る。

 

「だ、代理様⁉︎一体どこへ...」

 

部屋の前に居た門番の魔物が尋ねてくる。

 

「出陣だ。転移、千里眼、遠投...これらができる者たちを城門前に集めて来てくれ」

 

そう言いながら俺は歩き続ける。

 

……覚悟を決めろ。

 

「出陣...どこへでしょうか?」

 

「王族の中で唯一の死印持ち...王女を討つんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況はどうだ?」

 

王城から十数キロは離れた場所で、俺は隣にいた鷹の頭を持つ鳥人の魔物、ハサミツに声をかけた。

 

「現在、専属メイドの者が部屋の清掃をしております」

 

ハサミツはそう答えた。数分前からずっと同じ返答だった。

 

「それにしても...代理様が前線に出るのはいかがなものだと思うのですが...」

 

「そうですぞ代理殿。もしニンゲンに見つかりでもしたら...」

 

剛腕を持つオーガのガスタが同調する。

 

「そうかもな。だが、これは俺なりの決意の表れなんだ」

 

首を傾げる二人を尻目に俺は話を続ける。

 

「それに、もし人間に見つかったなら二人が俺に襲いかかるふりをすれば良い。昨日のことで分かっているだろうが、俺は意識して魔の気配を出さなければ普通の人間にしか見えない。魔物たちに襲われた哀れな人間として救出されるだけだから問題ない」

 

「な、なるほど...」

 

「しかし、代理殿が直接出向くリスクには見合わないと思うのですが...」

 

「……ここで勇気を出さないと、俺はこれから魔王代理としてやっていけないと思うんだ。人の身にして人を殺す...そういう人類に対しての背信行為を見届けて欲しい」

 

二人は黙り込んだ。意味を理解してくれたのか、これ以上言っても無駄だと思ったのかはわからないが...黙ってくれたならそれで良い。

 

今から俺は、この世界の王女を殺す。二人にはそれを協力してもらいながら、俺が王女を殺すところを見ていて欲しいのだ。

 

「……メイドが清掃を終え、部屋を出ました」

 

「わかった。じゃあガスタ。これをあの部屋の窓に投げ飛ばしてくれ」

 

「ハッ!」

 

俺は大量の衝撃エネルギーを溜め込んだ極小の球をガスタに手渡した。

 

「外すなよ?」

 

「外しません...!」

 

ガスタは極小の球を豪速球で投げ飛ばした。正確無比な精度で放たれた極小の球は、空気抵抗を衝撃エネルギーとして吸収しながら王女の部屋まで飛んでいき、窓ガラスに衝突する。

 

窓ガラスはバリンッ!!...と音を立てて砕け散ることはなかった。球状の穴は開いたものの、それ以上の損壊は衝撃吸収によって防がれる。開いた穴分のガラスの破片は部屋の中に撒き散らされ、極小の球は壁を跳ね返って部屋の中を転がっていく。

 

「流石は剛腕投擲のガスタ...ナイスだ。そんで、報告ご苦労だハサミツ」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「ありがたき幸せ...」

 

魔物たちはいずれも何かしらの特異な力を持っている。ガスタなら正確無比な投擲能力で、ハサミツは転移と千里眼...といったように、一人一つってわけではない。この能力は魔法と呼称されており、魔物しか持ち得ない力...だった。

 

人類は殺傷した魔物の体を調べることで魔法の原理を研究し、同様の事象を起こすことに成功したらしい。それらは本物の魔法と比べると出力が低いものの、誰もが扱うことができる技術として確立された。ゆえに、魔術と呼称されている。

 

魔物が大体一つの力しか扱えないのに対して人類は劣化版とはいえ複数個を普通に扱ってくる。それなのにこれまで人類側が負けてきたのは、おそらく単純に身体能力の差なんだろうな...

 

さて、俺の能力を暗殺対象である王女の部屋に送り込むことができた。あとは王女が部屋に戻ってくるのを待つだけだ。

 

「なかなか戻ってきませんね...」

 

「まぁ、音も吸収したから窓ガラスが割れたことには誰も気づいていないだろうしな。普通に戻ってくるのを待つしかない」

 

「先に戦姫ではなくメイドが戻ってくる、となったらいかがなさいますか?」

 

「そうなったら日と方法を改めるだけだ」

 

今サラッと戦姫呼びされていたが、その異名の通りこの国の王女はバリバリの武闘派である。本来の歴史では王女の身でありながら普通に戦争に参加し、無数の武勲を立て、魔王城への道を切り開くらしい。王族唯一の死印付きなのはその戦争の末に戦死するからだが、その命の下には万を超える魔物の死体が転がっているとかなんとか...

 

これだけでも十分化け物だが、魔王が生まれなかった未来だとその死体の数が十倍以上になっているらしい。その強さを存分に発揮されて、本来死ぬはずでない魔物を殺されてはたまらないから先に殺してしまうのだ。

 

『勝算はあるのぉ?』

 

……またマリスタが呼んでいないのに出てきた。この神は暇なのか?一応目立たないように妖精みたいなサイズにまで小さくなってはくれているけれど、神々しさが消せていない。分かる人には分っちゃわないのか...?

 

「ま、マリスタ様...!」

 

「ああもうこんなロリ神に最敬礼をする必要無いだろハサミツは監視を続けろ!」

 

この世界を構築した神だからこの反応になるのはわかるけど、一応直属の上司は俺なんだから優先順位考えてちゃんと従ってくれ...

 

『で、どうなの?あの子強いけど、本当に殺せるかな』

 

「いけるさ。部下から聞いた話だが、噂の戦姫様は防御はからっきしなんだろ?」

 

『そうね。けど、それは防御の必要がないから。そこんとこ大丈夫そ?』

 

ああ、知っている。戦姫は攻撃の天才らしい。誰よりも速く動き、誰よりも速く先制することで攻撃されることなく敵を殲滅する。先の先...そのまた先を取れるがために、防御の必要がない。だから防御がからっきしと呼ばれているのだ。

 

「大丈夫だ。これは暗殺。奴に対応させずに一方的に攻撃できてしまえば、それで殺せる。実は防御も得意...とかだと困るがな」

 

実力に自惚れずに守りの練習をしていたなら少し難しくなるだろうが、まぁ...とりあえず今はそうでないことを祈るしかないな。

 

「よく知らんが、魔術も使わないんだろ?敵の力を使うのは嫌だーとかつって。それでも強いのはそれはそれで怖いが、まぁなんとかなるだろう」

 

『あー...まぁ、頑張りなね』

 

なんだ?今の反応...

 

「代理様、戦姫が入ってきました」

 

「よしキタ!そのまま報告よろ」

 

『で、どうやって殺すの?』

 

「そりゃ能力でだ。この力は俺の手から離れても機能する。離れれば離れるほど、展開できる膜の大きさに制限はかかる。だが溜め込める衝撃の量には影響しない。だから罠のような使い方ができるし、投擲して手榴弾のようにも使える」

 

「戦姫が窓に気付きました。接近して様子を確認しています」

 

「こんな感じでな」

 

窓を破らずに透過させて、部屋の中に能力の球を投げ込むことはできた。それをせずにわざわざ窓を割ったのは、異変に気づかせて窓に近づいてもらうためだった。

 

「能力解除...衝撃解放!」

 

戦姫の部屋に投げ込まれた球状の膜が消え去る。次の瞬間、溜め込まれていた大量の衝撃が周囲に向かって放出される。

 

ガシャァンッッ!と窓が割れる。発生した衝撃波のせい...だが、それは間接的なものだ。なぜなら、窓を割ったのは衝撃波で吹き飛ばされた戦姫の身体なのだから。

 

放出された衝撃はそのまま空気を押し出し部屋中を荒らした。それと同時に窓の前に立っていた戦姫の背中を叩き、窓の外へと突き飛ばしたのだ。

 

窓が割れていたのを見て警戒はしていただろう。だが、この攻撃を何も知らずに想定できる者はいない。窓から部屋の外に放り出された戦姫は、何も出来ずに落ちていくことだろう。

 

「……っ⁉︎」

 

「どうした?ハサミツ」

 

「落ちる最中、こっちを見ていたような...ですが、心配ありません。戦姫は受け身も取れずに地面に叩きつけられました。窓ガラスの刺さった方ではなく背中側から地面に激突したため、ガラス片による追加ダメージは無さそうですが...後頭部を強く殴打したように見受けられます。あの高さですし、即死かはわかりませんが、そうでなくとも出血多量で今すぐにでも死亡するでしょう」

 

「そうか...報告ご苦労」

 

戦姫の暗殺に成功した。これから王城内はパニックになることだろう。衝撃の拡散によって王女の部屋から轟音が発生したため、確認しに行ったら部屋が荒らされており、割れた窓から下を覗くと王女の死体がある...混乱は抑えられないだろうな。

 

「……」

 

不思議な気持ちだった。人を殺したっていうのに、なんの感情も湧いてこない。あるのは冷静な分析をしている自分だけだ。この世界に来る前はあんなに嫌がっていたのに、実際やってみたらこうも簡単に出来てしまうのか?

 

手応えはなかった。俺がやったのは能力を遠隔で解除しただけで、状況報告をハサミツから聞いただけってのもあるだろうが、人を殺したという実感が湧いてこなかった。

 

どう見ても人にしか見えない魔族をこれまで殺し続けていくうちに、いつのまにか人を殺すことへの忌避感を失っていたのか?もっとこう...間違ってステラを傷つけてしまった時くらい気分が悪くなると思っていたのに、何もならないなんて...

 

「……俺、冷たい奴だな...」

 

俺は人を殺せないし、傷つけることもできない...今までそう思っていた。もちろん、今でも人が死ぬのは嫌だと思っている。見ず知らずの人でも、死ぬのは避けたい。聖杖世界や源流世界での戦争では死者ゼロを目指して奔走したし、人がバタバタと死んでいくカリスの一件では我を忘れて狂化暴走をするほど怒りに飲まれた。仲の良い相手に至っては傷つけることもアウトだ。それが偽物だと分かっていても攻撃できなくなってしまう。

 

しかし、そいつが死ぬべき相手だった場合、俺は容赦なく殺せてしまう。葛藤はするものの、それまで。決意して行動に移してしまえば、最後までできてしまう。

 

神様が言った通りだった。使命であれば人でも殺せてしまう。魂の初期化による世界改変...それによってもう少し長く生きられた人間や、新たに生まれてきた命を、修正という名目のもと殺せてしまう。

 

その人が一体何をした?決められた運命に沿わせるために、ただ生きているだけのそいつを殺す?よくよく考えてみると、なんて仕事なんだ。そして、初めての人殺しをするまでそのことに気付かなかった俺自身にゲンナリする。人はダメで魔物や魔族は殺してもオーケーというゲームみたいな価値観で動いていたんだな俺は。究極の人間中心主義...反吐が出る。

 

……逆に良いのかな。殺しに抵抗がないなら、思っていたよりもすんなりこの世界での仕事を終わらせられるかもしれない。人殺しによる精神的消耗も少なくてすむ...いや、もう既に消耗し切っているのかもしれないが。

 

「……っ⁉︎戦姫が消えた⁉︎」

 

「死んでねぇのかよってかマズくね?」

 

そういやさっき戦姫がこっちを見たとか言ってたような...!

 

「二人とも転移でここを離れろ!ここは俺がなんとかする!」

 

「代理殿がお残りに⁉︎その方が「いいから早く!お前らは死印ねぇんだからしっかり生き残れ!マリスタが呼んだら迎えに来い!」...承知。ハサミツ頼む」

 

二人がハサミツの転移によってこの場から消える。

 

『サラッと私をパシらせようとしてなーい?』

 

「お前に構ってる暇は...無いっ!」

 

手を数回叩いて能力の膜を生み出し、王城の方向に薄い壁のようにして展開する。

 

次の瞬間だった。物凄い速度で何かが飛んできて、壁に衝突した。

 

そいつは戦姫だった。全身から血を流し、頭や胸にはガラス片が刺さっているものの、ギリギリ生きていたようだ。先ほどの速度といい、どう考えても魔術を使っている。マリスタが先ほど言い淀んでいたのは、俺の魔術を使わないという発言に対してのことだったのだろうな。

 

「受け止められた...⁉︎」

 

戦姫は後ろに跳ぶと、そのまま超高速で走り出す。

 

「その力...魔術には無い。つまりは人型の魔物...!」

 

「そうじゃない。俺は...魔王だ」

 

「っ⁉︎ならば...斬る!」

 

とてつもない速さで走る戦姫がその速度のまま斬りかかってきた。

 

しかし、俺にとってこの速さはそこそこのものでしかない。

 

「また受け止め...⁉︎」

 

能力で全身を囲うまでもなく、ピンポイントで膜を広げて剣を受け止める。そして...

 

「死ね」

 

そのまま膜を変形させて能力の一部を戦姫の腹に突き刺した。

 

人体に突き刺したまま衝撃解放をすればどうなるか...貯蔵量が少なければ、内臓を揺らされたり骨を振動で砕かれたりといった感じで終わるだろう。しかし、今溜め込まれた衝撃エネルギーは戦姫の攻撃によるもの。超高速の攻撃を二度も受け止めている。当然、それだけでは終わらない。

 

結果は、破裂。身体の内側から放たれる衝撃に人体は耐えきれず、内側から崩壊して全身が弾け飛んでしまう。

 

『うわぁ...こりゃ酷いね』

 

「……二人を呼んできてくれ」

 

『ありゃ、意外とこういうの平気なんだ。ちょっと意外』

 

そう言いながらマリスタは消えていった。

 

意外...か。破裂によって、戦姫の体液や皮膚が俺の身体にベシャリと付着していた。なのにだ。俺は気分が悪くなったりといった症状を一つも起こさなかった。

 

今度は遠くで起こったことではない。自らが目の前でこの手で殺した。なのに、忌避感が湧いてこない。

 

「そうか...いつの間にか俺、普通の人間からは程遠くなってたんだな」

 

俺は、俺の心が壊れていたことを知ったのだった。




本当は腹の中のもの全てリバースさせるくらいに精神を追い詰めさせようとしていたのですが、案外こういう心情もあり得るのではないかと思い、こんな流れになりました。
殺し殺されの世界を過ごし、実際に何度も死んで、人によく似た魔族を殺し、魔王に侵食され、世界のためという大義名分があり...と、だいぶ下地はあったのでそりゃ心が壊れるよねっていう。
まぁ、心が壊れたと言ってもそれは地球の一般人としての心の話で、今回のはある意味では成長とも言えるので皆さんの考える心の崩壊とは別のような気がしますが...
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