神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8321字。

戦闘部の死印付きとの訓練です。
案外そこそこ激しめの戦闘になりました。


戦闘訓練と軌道の線

「よし、これから訓練を始めようと思う。準備はいいか?」

 

俺は西洋甲冑を見に纏い、兜を手にしながらそう言った。

 

ここは今の修練場が出来る前までの間使われていた古い訓練場。ここにいるのは、俺含め全員が死印付きだ。

 

「もう一度ルールを確認しておくぞ。みんなは三人一組だ。一組ずつ俺と戦い、俺への攻撃がクリーンヒットしたら勝ち。次の組と交代だ。逆に俺の攻撃がクリーンヒットしたら死亡扱いで離脱し、三人とも離脱したら即座に次の組と交代だ。三人とも離脱した瞬間に攻撃を開始してくれて構わない」

 

まぁ簡単な訓練だな。俺は三人の魔物を相手取れば良くて、攻撃を回避しながら鋳造部がなんか特注で作ってくれた刃の無い金属の剣で返り討ちにすれば良い。魔物はグループで行動しながら一人の人間を確実に仕留める訓練ができるし、俺は多人数との戦闘...つまりは勇者パーティとの戦闘を想定した疑似訓練ができる。まぁ、こっちはあんまり期待してないけどな...どっちかというと、戦闘の感を取り戻すってのが正しいか。

 

「魔法の使用も可だ。あと、俺が怪我しちまうんじゃないかという心配はしなくていい。鎧の内側に俺の能力を張り巡らせているから、俺へのダメージは一切無い。気にせずに全力を出してくれ」

 

そう言って俺は兜を被る。甲冑も兜も重てぇ...こんなん着けて戦うとか凄いよな。この世界の一般兵を仮想敵にしての訓練だから着けてるけど、本気で戦うなら今すぐにこんなもの脱ぎ捨ててやりたいや。

 

「それじゃあ一組目、前に出な。訓練開始だ」

 

ゴブリンチックな魔物が三人前に出てくる。どんな奴がいてどんな魔法を使うのかとか一切知らなかったから、今回は適当に姿形が似ている魔物で組ませてみた。本当は相性の良い組み合わせがあるんだろうけど、それは訓練が終わってからおいおい考えるとするか...とか考えながら俺は刃の無い剣を抜く。

 

刃が無いのは訓練用なためだが、重さは刃有りのものと変わらないらしい。一般兵との違いを極限まで減らしてより実践に近くするためなんだろうけど...流石に凝りすぎだよ鋳造部。

 

「で、では行きまっ⁉︎」

 

魔物たちが口を開いた瞬間、俺は前へと走り出した。そして剣を振り下ろし、中央の驚いている奴に向けて攻撃する。

 

「おっ...避けるだなんて、なかなかやるな。一人くらいはやってしまうつもりだったのに」

 

魔物たちは散り散りに別方向へと回避した。俺が狙った中央の奴も、左右に仲間がいるからと即座に後ろに下がっていて偉い。しかもこの回避と同時に俺を三方向から取り囲んでいるのも素晴らしい。まぁ甲冑が無かったら全然一人倒せてただろうけど...そんなことはどうでもいい。

 

「さっき訓練開始って言ったんだからもう始まってるんだ。いちいち敵を前にして、『行きます』っていう奴がいるか?そんなことを言ってる暇があるなら攻撃だ。先手を取れば大体有利なんだから、無駄に一手遅れる意味がない」

 

敵を前にしてそんなことする奴、日本武士くらいしか知らないぞ...元寇の時じゃ案の定名乗りを上げてる最中に攻撃されてたっぽいし、互いにそういう文化があるならまだしも、無いなら会敵した瞬間即攻撃すべきだよな。

 

「そして...敵の話を聞いてる暇があったら攻撃!」

 

話しながら周囲を見渡していた俺は、一番俺から距離の近かった左後方にいる魔物に向かって近づく。まずは囲まれているこの状況の打破だ。

 

「反応が遅い!」

 

狙っていた魔物が動き出すのも、俺の背後の二体が動き出すのも遅い。動き出される前に二歩進み、魔物が動き出した方向へと向きを修正しながら三歩目。後ろの魔物は追いつけない。

 

「ハァッ!!」

 

剣を横薙ぎに振るう。それも、魔物の進行方向側からだ。この距離からでは左右への移動では避けれまい。

 

「だから上へ跳ぶ...!」

 

魔物は軽やかに跳躍して横薙ぎに振るわれた剣を避ける。だが、そう避けるしか方法が無いことがわかっていた俺は、その剣の遠心力に逆らわずにぐるりとその場で一回転し、回ってきた左手で跳躍した魔物の足を掴み取る。

 

「オラァッ!!」

 

回転の勢いを活かして魔物を引っ張りそのまま床に叩きつける。そして床に剣を突き立てて、摩擦で無理矢理回転を止めて次に備える。

 

「遅い!」

 

背後から魔物が飛びかかってくるのを床に突き立てた剣を鏡のようにして視認していた俺は、剣に体重を預けながら片足を上げて後ろ回し蹴りを放ち、魔物を遠くへと吹き飛ばす。

 

「残り一人だ。さぁ、どう来る?」

 

剣を床から引き抜いて残る魔物の方を向き、どう動いてきても良いように構えを取る。

 

「……っ⁉︎」

 

一瞬魔物の姿がかき消えたかと思えば、魔物が立っていた場所にはついさっき俺が床に叩きつけて倒した魔物が倒れこんでいた。おそらく位置を入れ替える魔法...!

 

「その手には...⁉︎」

 

剣を振りながら後ろに振り向く...が、剣は空を切った。そこには魔物の姿はなく...いや、横たわっている魔物はいた。ついさっき見たばかりの魔物だ。

 

「二度発動したのか...!」

 

背後から魔物が走る足音がしだした。今から振り返るのでは間に合わないし、また入れ替えをされる可能性がある。剣を後ろに向けて振るのも同様だ。俺の足元に転がっている魔物と入れ替わって至近距離から攻撃されたら防ぐ手段はない。

 

なら、取る手は一つ。

 

「っ!」

 

魔物が地面を蹴って跳ぶ音が聞こえた瞬間、俺も後ろに飛んだ。それによって魔物との間合いを詰め、腕を振りかぶっていた魔物の攻撃タイミングを逃させ、そのまま激突する。

 

「よっ...と!!」

 

俺の背中にぶつかった魔物を、そのまま後ろに倒れ込むことで床に押しつぶす。甲冑の重量のおかげでただ押しつぶすだけでもそこそこのダメージは出るから立派な攻撃だ。

 

「死亡判定だ。訓練終了」

 

もし別の魔物と入れ替えられたとしても、そこに向けて剣を投げる用意はできていた。入れ替われる対象は、蹴り飛ばした奴は遠くにいるから除外でき、床で倒れている奴に限られていたから十分対応可能だった。攻撃のタイミングをずらされた時点で詰みだったわけだ。

 

「よし、次...って、今度は良いな」

 

前の組が全員死亡扱いになった瞬間に次の組は攻撃していいと、最初に俺が言っていたのを覚えていたようで次の組はすぐに攻撃を仕掛けてきた。俺は急いでその場を飛び退き、その攻撃を回避する。

 

「案外慣れれば甲冑着けても動けるもんだな...持ってる武器が少ないってのもあるか」

 

聖杖世界じゃダガー二本に刀一本、左腕の盾に弓と矢と鞭、魔法図鑑の入ったポーチを常に携帯していたからそれなりの重量があったんだよな。体に密着している分、感覚的な重量は甲冑の方が楽かもしれない...機動性は流石に落ちるがな。

 

「……っと、だいぶ速い...な!」

 

次の三人は猫と人間の融合体みたいな魔物だ。四足歩行による素早い機動力で不規則に動きながら、俺との距離を詰めてくる。そして三方向から飛びかかり、鋭く伸びた爪で辻斬りのように切り裂いてこようとする。

 

「よっ...!」

 

横への移動は無理だ。動けばその方向にいる魔物に襲われるだけ。それならばと、また剣を床に突き立てながら地面を蹴り、柄を掴んで剣の上で逆立ちをする。

 

横へ逃げられないのなら上へ...というのは安易にすれば危険だが、魔物は三体とも跳んでいる。着地するまでは動きを変えられないため多少隙のある回避方法でも問題ないのだ。

 

攻撃が空振った魔物たちはそのまま走り抜けてまた三方向に散らばる。それを見届けた俺は地に足をつけて剣を引き抜き...魔物たちがこちらに向かってきた瞬間、そのうちの一体に向けて剣を投擲する。

 

「っっ⁉︎」

 

魔物たちがこちらに向かってきた瞬間...つまり、一番最初の加速の瞬間を狙って投擲された剣は、そのまま魔物の頭に当たり斜め横へと弾き飛ばされる。加速してしばらく経ったあとなら避けられるだろうけど、最初の一歩目を挫かれると避けれまい。

 

「高速移動には一家言あるんでな。一人目!」

 

残りは二人。しかし、魔物たちは既に動き出している。しかもその方向は俺の視界の外の斜め後方。剣を手放している今の俺では対応は厳しいだろう。

 

「まずは...!」

 

後ろは見ない。即座に前に走り出す。

 

当然だが、今の俺の走力では魔物たちからは逃げられない。これでもかなり走れている方だが、魔物たちの足音からしてそこそこの早さで距離を詰められてきている。けれど、それで良い。走るごとに、本来なら二方向からの襲撃だったのが一方向に纏まりつつあるからな。

 

「どうやって凌ごう...かな!」

 

考える時間はあまりないため、その場で浮かんだ思考をそのまま動きに直結させる。

 

魔物たちがそれなりに近づいてきて、そろそろ攻撃の射程圏内だろうという距離になった瞬間、俺は勢いそのままに右に向かって跳んだ。それを見た魔物たちは、一斉にこっちに向かって飛びかかる。着地までの隙を狙うなら当然の行動だ。

 

「づ...!」「あだっ!」

 

……だが、横並びで走っていた状態で斜め前に跳べば、それぞれの跳び具合にもよるがぶつかり合って互いに邪魔しあってしまう可能性は高い。今回もそうなり、魔物たちは衝突によって前への推進力が減衰、そのまま着地を誤り床にもみくちゃになって倒れ込む。

 

「あっ、やべ」

 

無理矢理体を捩って魔物たちがどうなったかを見ようとしたため、俺も着地をミスってしまい床に倒れてしまう。衝撃吸収で俺にダメージは無いけど...この隙は大丈夫か?急いで復帰して...!

 

「ってマジか!」

 

魔物がもう片方の魔物を投げ飛ばしてきた⁉︎しかも投げられた魔物はもう攻撃体勢に入ってるし...!

 

「あぶねっ!」

 

立ち上がろうとしていた体勢からなんとか真横に一回転して魔物の攻撃を避け、そのまま真横まで飛んできていた魔物の横っ腹を蹴り飛ばす。

 

「ラス1...!」

 

魔物が立ち上がるのを見ながら俺も立ち上がる。さて...ちょっと激しく動きすぎたから、しばらくは休憩だな。連戦は意外とキツイって二組目にしてわかったからな...ギリギリのところで攻撃を避け続けて、体力を温存させよう。

 

「ほら、かかってきな」

 

俺は魔物と同距離を保ちながら歩き始める。魔物を煽りながら、そして適当に歩いている風を装ってさっき俺が放り投げた剣のある方向へと近づいていく。

 

「……っ、剣か!」

 

ある程度動いたところで魔物も俺の目論みに気がついたようで、剣を拾わせはしないと襲い掛かってくる。

 

「速い...けど、それだけ!」

 

飛びかかってすれ違い様に爪で攻撃してこようとする魔物を最小限の動きで避け、そのまま見送る。そして魔物から視線を逸らさずに後ろ歩きをして少しずつ剣へと近づいていく。

 

「させない...!」

 

魔物は猫っぽく右手の爪をしまうと、右手がピカピカと光り出す。目眩しの魔法...にしては光量が小さすぎる。あの光は単純に、魔法発動中だという合図のようなものでしかない...さぁ、何が来る?

 

「……物質操作か⁉︎」

 

後ろの方からコトっと音がしたので振り返ってみたら、剣がこっちに向かって飛んできていた。物質操作と魔法の正体に当たりをつけて真横に跳び、飛んできた剣を回避する。

 

「いや...ちげぇ磁力か!」

 

俺が跳んだのを見て魔物は魔法の効力を強めた。それによって先ほどまでは引っ張れなかった俺の甲冑も引っ張られ、着地点が大きく魔物側へとずれ込んでしまう。そうして強制的に俺との距離を詰めた魔物は、磁力で引き寄せた剣を掴み取り俺に切り掛かってくる。

 

「っ...!」

 

横薙ぎに振られた剣を膝と肘で挟み込んで止めようとするが、その動きは磁力によって甲冑を引っ張られることで妨害され、剣は俺の横っ腹を叩いた。

 

「……訓練終了だ。こいつらがはけたら次の組来い」

 

魔物から剣を返してもらい、次の訓練に備える。あっさりやられたせいであんまし休めなかったな...というかみんな、普通に強くない?魔法という不確定要素があるってのもあるけれど、最初の奴らも俺の不意打ちを回避してくるし今の奴らも味方を投げるといった機転も効くし、聖杖世界のそんじょそこらにいる魔物なんかとは比べ物にならないくらい強いように思える。

 

……死印付きだからって必ずしも弱いわけではないとはいえ、ここまで強いのはちと想定外だ。こいつらが死印付きということは、こいつらを倒した強者が存在するってことになる。おそらくは勇者...もしくは戦姫か。ったく、どんだけ強いのやら...

 

「……ふむ、今度は魔法タイプか?」

 

三組目の魔物たちは杖とそれを掴む半透明の腕で構成された魔物だ。生物なのかと疑いたくなるけど、まぁ魔物だしそういうもんなんだろう。そして、おおよそ肉体というものが存在しないことから察するに、魔法を主体にして戦う魔物だと見た。まずはどんな魔法を使うのかを探らないとだな。

 

「それじゃあ、さっき話した通りに!」

 

中央の魔物がそう言うと、杖の先端付近でフヨフヨと浮いている宝玉のようなものが光り出す。すると、周囲に線のような物が引かれ出す。空気中に描き出された線...どんな魔法だ?

 

「攻撃開始!」

 

左右の魔物が少し前に動き、中央の魔物を守るように前に立ちはだかる。そしてそれぞれの宝玉が光り出し、炎と毒々しい色をした液体が生成され即座に射出される。

 

「なるほどそういう感じね...!」

 

こちらに向かって飛んでくる炎と毒液を、一応線に触れないようにしながら回避する。触れたら発動する罠の魔法が聖杖世界にあったからな。まぁそもそも正体不明なものに触れる理由もないが。

 

「魔法だけなら...近づく!」

 

物理戦闘をしてこず魔法で遠距離戦をしてくるのならば近づくだけだ。当然被弾率も上がってしまうだろうが、俺に使える遠距離攻撃法はせいぜい剣の投擲のみ。どっちみち近づくしかない。

 

線に触れないように気をつけながら魔物たちに向かって走る...その時、視界の端で何かが動いているのが見えた。

 

それは、先ほど避けたはずの炎と毒液だった。それらは空中に描かれた線に沿うようにして飛んできていた。

 

「飛翔物のガイドレール...!軌道修正魔法か!」

 

急いで急停止し立ち止まる。その一秒後、俺の前の床に火球と毒液が着弾する。線に沿って飛んできていた炎らは、線が途切れた瞬間急加速してこっちに向かって飛んできた。線が途切れると、その方向に向かって加速して飛んでいく...こりゃなかなか面倒な力だ。

 

「だから守ってるわけね...ならなおさら先に潰さないとな!」

 

左右に守られている中央の魔物を倒せば、この線は消える。線さえ消えれば、ただ直線的に飛んでくる炎や毒液を避けるのは容易い。こういうのはサポート役を先に倒すのが鉄則だ。

 

「大量に撒き散らされる前に...!」

 

魔物たちがどんどん攻撃を飛ばしてくる前に動き出す。少しでも早く前に...

 

「んなっ⁉︎」

 

けれど、魔物たちもそう簡単にはやらせてくれない。進行方向に急に線が現れ、俺はその線に触れてしまう。

 

次の瞬間、俺の身体は直前までの速度を保持したまま線の軌道の通りに引っ張られてしまう。普通に生き物も対象なのか...!

 

「ってヤベェ!」

 

線の軌道に沿って等速移動をしてしまっているため、今の俺は格好の的だ。魔物は偏差撃ちによって的確に俺を狙い撃って炎を放ってくる。それをなんとか剣を振ることで振り払うが...

 

「へぶっ⁉︎」

 

線の終点に辿り着いたことで急加速して真横に射出されてしまう。地面に投げ出されゴロゴロと転がってしまうが、剣を床に突き刺して勢いを殺しなんとか体勢を立て直す。

 

「……っ!」

 

顔を上げると、そこにはこっちに終点が向いている空中に引かれた線。だがさっきまでのものと違う点があり、それは線が途切れ途切れになっていて...例えるならハサミで切る時の印に使われる切り取り線のようになっていた。

 

「やば...!!」

 

その線の始点に毒液が発射されるのを視界の隅で見ながら、俺はすぐにその場を飛び退く。次の瞬間、音など余裕で超えているであろう速度で毒液が飛んできて床に着弾する。線の終点による急加速を何重にも重ねがけするなんてな...

 

「けど、それもらうぜ!」

 

俺は毒液が通ってきた線に触れた。当然、その線の軌道に沿って俺の身体は動き...毒液がそうなったように急加速を繰り返して魔物たちに急接近する。

 

「まず一人...!」

 

終端加速の勢いのまま剣を振り下ろす...が。

 

「逃げんのにも使えんのか...」

 

魔物たちは線の魔法を使い、俺から離れるように等速移動で逃げていく。

 

「ならその線に乗れば...!」

 

線の移動速度は振れる直前の速度に依存している。線に触れる前に走ることにより、魔物たちよりも速い速度での等速移動が可能になるわけだ。だから走って線に触れ...

 

「あばばっ⁉︎」

 

触れようとしたその瞬間、線は消滅して代わりと言わんばかりに真下に向けて伸びる線が描き出された。それに触れてしまったがために、真下の床に向けてかなりの速度で叩きつけられてしまう。

 

「クソッ、だいぶ翻弄されてんな俺...けど、そろそろ読めてきたぜ」

 

すぐに体勢を立て直し、逃げる魔物たちに向かって走り出す。線に乗って逃げる魔物たちに追いつくには線を活用するのが必須。しかし、線は奴らの支配下。下手にやれば自滅するだけだし、奴らの移動先を読もうにも途中で線の軌道を変えることもできるから先回りも難しい。

 

しかし、だ。先ほどから線に触れたものの挙動を見てきて気付いたことがある。それは、線に引っ張られると線が途切れるまで離れることはできないこと。そして、離れられないのは線に触れた箇所がくっついてしまうから...つまり、やりようによっては自らの意思で途中下車することも可能なのだ。

 

「こうして剣を間に噛ませれば...!」

 

走りながら剣の切っ先で線に触れる。それによって剣は線の軌道に沿って等速移動し、それに引っ張られる形で俺も移動する。

 

「来てるよ!線消して!」

 

魔物が俺を見て叫ぶ。その次の瞬間、俺が乗っている線が途中で途切れ、あらぬ方向へと射出されるように終点の向きが切り替わる。

 

「その手にはもう...乗らねぇ!」

 

剣から手を離し、線の軌道から逃れる。剣は軌道に沿ってあらぬ方向へと射出されていったが、俺自身は魔物のすぐそばまで移動することに成功した。そして俺は左右の二人に守られていた中央の魔物に向けて手を伸ばし、杖を掴み取って地面に叩きつける。死亡判定だ。これで線は無くなる...無くならない⁉︎

 

「まさか最初から...っ⁉︎」

 

線が消えなかったのを見てすぐに次の魔物に攻撃しようとしたが、急に現れた短い線に触れてしまい真後ろに急加速して飛ばされてしまう。

 

「クソ、最初からブラフを仕込んでいただなんてな...」

 

俺が狙った魔物は確かに中央で最初に宝玉を光らせていた魔物だった。杖が似ているからと取り違えるようなことはない。なのに線が消えなかったということは、線を生み出す魔法を使っていたのは最初から別の魔物だったということだ。

 

残る二人の魔物の宝玉が光り出すと、こちらに向かって終点が伸びている切り取り線と炎が生み出される。さっき倒した奴が毒液の魔法使いだったのか...

 

「……へへっ、どいつもこいつも強いじゃねぇか。こいつは期待できるねぇ...」

 

こんなにひりつく戦いは久しぶりだ。というかまさか、俺が強者との戦いに喜びを感じるようになっていたとはな...

 

「けど、まだ負けてねぇぜ?」

 

炎が線に向けて放たれるのとほぼ同時に、俺も線に触れた。炎が何重にも加速してこっちに飛んでくるが、俺はただ一度の加速を得て後方へと回避する。床に着弾した炎が周囲に熱を撒き散らすが、俺はお構いなしに走り出し、また線に触れた。先程は線の奥側に触れたが、今度は手前側。つまり、魔物たちのいる向こう側への加速だ。

 

「オラァッ!!」

 

線の加速を利用して一瞬で魔物たちのすぐそばまで近づき、そのまま全身でタックルをかました。攻撃の直撃...死亡判定だ。

 

「訓練終了だ。ってかお前たち強すぎだろ...」

 

二本の杖を手に取り、壁まで歩いて杖を壁に立てかける。杖を掴んでいる半透明の腕がグッタリしているのは、気絶しているってことであってるかな...動かないからとりあえず立てかけたけど、ヤバそうなら誰かに医療部の元まで運んでもらおう。

 

「おぉお前ら、剣取ってきてくれたのかサンキュー...って、流石にその不意打ちはバレバレだぜ?」

 

飛んで行った剣を渡すフリをしながら次の組が攻撃してきたのを軽々と避けながら俺は喋る。

 

久しぶりに高まってきた戦闘のボルテージ。訓練はまだまだ続く。




次回は訓練の続きからです。
久しぶりの戦闘シーン結構上手く書けた気でいるけど、実際のところはどうなんですかねこれ...
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