勇者との戦闘です。
「さぁ、きやが...れ?」
仲間を殺されたことで勇者は怒っていたため、すぐにでも攻撃してくるかと思ったが違った。
勇者は恐るべき速度で地を駆けると、透過切断によって体力を奪われて倒れていた男とサザミを抱えて元の場所に戻った。早すぎて、勇者がいない間に死印付きの男に攻撃を仕掛ける時間もなかった。
「……良かった。二人は生きてる...この二人は標的ではなかった、ってことか」
そう言って勇者は二人に手をかざすと、二人はガバッと起き上がった。えっ、今使ったの人間に効く回復魔術?なにそれ欲しいんだが?...って、そんなこと言ってる場合じゃないなせっかく潰したのに回復されちゃったよ。
というかそっか。確かに透過切断で生命力を奪ってしばらく動けなくしてやったはずなのに、もう勇者が動けるようになっているのはあの回復魔術のせいか。ってなると、勇者を何度気絶させてもあまり意味はないか...
「そして、さっき殺されなかったから、私も標的ではない...となると、あと狙われているのは君だけだね、アルト」
「そうみたいだな...」
なるほど、あいつの名前はアルトっていうのか。そして、サラッと勇者含めて三人が死印付きでないことが露見してるよ...さて、どうしたものか。
「ミセラ。全員の離脱は終わったか?」
「生き残った子たちはなんとかスターバスの外に出たみたいだよ。もう中に生きて残っている魔物はいないって」
「なるほど...」
俺が勇者を足止めしたり、勇者パーティーの奴らと戦っていたおかげで魔物たちの逃げる時間が稼げたようだな。まぁ、言い方的にも大勢殺されてはいそうだけど...
「それじゃあ、最悪俺も離脱してしまっていいわけだ。別にここで殺すことに執着する必要もないしな」
行方不明だった死印付きの所在は割れた。このまま勇者パーティーについて行くのか、それとも別れるのかはわからないけれど、どちらにせよこれからも位置は特定できる。俺がここで手を下さなくても、殺すタイミングはあるというわけだ。問題は、あいつが死印付きであることはバレてしまっているから、殺させまいと勇者がつきっきりでいる可能性があるってことだけど...
「だから、殺せるならここで殺す、分が悪そうなら逃げるか。逃してくれるかはわからないけど」
「怒ってるもんね〜ヤバいくらい強いって話だし」
「ああ。だけど、勇者もアルトを守りながらの戦いになる。それに力を割いてくれれば、一応望みはあるんだよな」
こっちも正体がバレてはいけないという制約はあるが、それ込みでも戦えはするだろう。勇者の持つ武器に付与される、異能の力を無効化する力にだけ気をつければ問題はないはずだ。
「だからとりあえず...先見能力持ちを潰す!」
いつまで経っても勇者は動かなかったので、こっちから動く。攻撃の未来予知ができるあの男がいては、当たる攻撃も当たらなくなってしまう。すぐに勇者によって回復されてしまうだろうけど、その瞬間は防御も手薄になる。二つのメリットがある以上、狙いに行くのは的確な判断だろう。
だがしかし、俺が動き出した瞬間に勇者も動き出した。後の先...最初からこっちが動き出すのを待ち、攻撃の瞬間を狙ってカウンターをしようと考えていたのだろう。
勇者の速さは尋常ではない。けれど、普段の俺なら十分見切れる速度ではある。しかし、攻撃を仕掛けようとこちらから動いた瞬間であったため、意識は攻撃に傾いている。勇者の動きを見てから防御や回避へと意識を傾けるものの、ほんの少しだけ出遅れてしまう。
「くっ...!」
勇者の剣は衝撃の剣では受け止められない。それがわかっているので、即座に衝撃波を前に放出して後ろへと反作用で吹き飛ばされる。勇者にとっては向かい風のように衝撃波を浴びるため、これで距離を取れるはず...だったのだが、多少減速はしたものの勇者はすぐさま距離を詰めてくる。
また音の塊を飛ばして耳を壊そうかとも考えたが、すぐにやめた。二度目の攻撃が通用するとは思えなかったからだ。耳を潰すことは二度目でもできるだろうが、怯むことはないだろう。そのまま突進されて剣で衝撃の剣のドームを貫かれてジ・エンドだ。だから、やるべきなのは...
「速いけど、ただ速いだけなら...!」
地面に衝撃の剣を斜めに突き刺し、衝撃解放を発動させる。地面が爆発し、土砂が高速で弾け飛ぶ。そして土砂は高速移動中の勇者に襲い掛かる...!
「避けるしかねぇよなァ!」
高速移動中に真正面から飛んできたものに衝突すれば、たとえそれが小さな小石だったとしても結構な威力になる。それが大量の土砂ともなれば、大ダメージは免れない。ゆえに、一旦止まってダメージを軽減するか、左右へと回避する他ない。高速移動には一家言あるから、弱点もわかってるんだよな。まぁ俺の場合、速度操作中は勝手に肉体の保護もついてくるからそんな心配しなくてよかったんだがな...
「切断...!」
急減速し、真横に跳んで土砂を避けた勇者を衝撃の剣で透過切断する。生命力を奪い取り、回復魔術で回復するまで移動を封じる。
「そんで同時に...!」
アルトに向けて衝撃エネルギーを込めた球体を放り投げる。それと同時に、先見能力を持つ男に向かって衝撃の剣を伸ばす。どちらか片方を順番に攻撃していくのでは勇者の回復が間に合ってしまう。ひとまず同時に攻撃して、同時に対処できれば良し、アルトの方が回避できたならすぐに攻撃しに行けるようにしておく。
「爆発...!勇者武器投げろ!」
先見能力の男が叫んだ。それを聞いた勇者は持っていた剣を放り投げ、死印付きに向かって放り投げられていた衝撃の剣の球体にぶつけた。
次の瞬間、勇者の能力によって衝撃の剣を構成している膜が消失し、衝撃エネルギーが周囲に撒き散らされた。撒き散らされた衝撃波は周囲にいたもの全てを押し退けるが、まだ高い位置にあったためにアルトを死に至らしめるほどの威力は発揮されなかった。それどころか、先見能力の男も横に吹き飛ばされたがために伸ばした衝撃の剣が擦りもしなかった...!
「でも剣は取り上げられた...!」
球体を破壊した勇者の剣は、放出された衝撃波によって空高く打ち上げられていた。そして重力に引かれて落ちてきたところを、衝撃解放によって町の外へと吹き飛ばす。これで勇者の武器を一つ奪えたわけだ。
「よし、次はあの男を...っ、来たか!」
サザミが近づいてきた。勇者以外で唯一俺に攻撃を出来ることがわかっている奴だから要注意人物...!
勇者の動向にも気を配りながらサザミの動きを観察する。まず、空中に穴を開けてそこから先が三叉に分かれた槍、トライデントを取り出してきた。そしてそれを地面に突き刺して...
「読めた!」
急いで跳躍して足元にも衝撃ドームを張る。その直後、地面から黒色の槍が飛び出してきて衝撃ドームに突き刺さる。
「やっぱ下からの攻撃だよな!」
というかサザミヤバくない?地上にいるときは移動するために足元だけ衝撃ドームを張れていないんだけど、流石にそんなことサザミが知れるわけないし...こいつさっきから俺の弱点突きすぎだろ怖すぎる。
「んで今度は光かよ...!」
サザミは地面から杖のようなものを取り出した。先端には握り拳大の球体がついており、そこからギラギラと輝く光が放出された。その光を視認した瞬間から衝撃の剣の設定を弄って光線を遮断出来るようにしたが...視認出来ている時点で攻撃は俺に届いている...!
「あっづ!!」
目の奥が焼けるように熱かった。すぐに光線を遮断したおかげで熱は長くは続かなかったが、ほんとこいつ的確に俺の弱点ばっか突いてくる...!
「時間稼ぎされたの辛すぎる...!とりあえずお前は寝てろ!」
攻撃方法は多彩だったが防御手段は無かったようで、俺が放った衝撃の剣を避けることができずサザミは透過切断をまともに受けて気絶する。けれど、サザミの対処に時間がかかったせいで勇者の復活を許してしまった。
「というか、アルトの奴また逃げてるし...!そっちも時間稼ぎされてたか!」
そうだよな、三人は殺されないの分かってるんだから全力であいつを逃す動きをしてくるよな...!どうする?危険を承知で深追いするか?いや、それよりも先に勇者の攻撃を凌ぐのが先...!
起き上がってきた勇者を見ると、その手には二対の剣が握られていた。勇者の持つ能力は、所持している武器に異能の力を無効化する力を付与すること。聖杖世界の聖剣のような、特定の武器でしか使えないような能力ではないため予想はしていたがやっぱり別の武器も持っていたか。
「その動きからして、気づいたようだね。けど、向かわせない!」
勇者は足を前に一歩踏み出し、俺に近づ...かない⁉︎そのまま二対の剣を投擲してきただと⁉︎さっき投げた剣で衝撃の剣の膜を破壊していたから、手から離れてもしばらくは持続すると見ていい...つまり触れたらダメ!
「吹っ飛べ...!」
衝撃波を放ち、剣を明後日の方向に吹き飛ばす。そして勇者に向けて衝撃エネルギーを込めた球を放り投げる。他の武器を使って球を消そうとすれば、込められた衝撃エネルギーが撒き散らされる。何もしなければそのまま喰らうだけ。避けるしか方法はないが、避けた際の隙を狙う用意はもう出来ている。さぁ、どう来る勇者!
「お返しだ!」
ぬおっ⁉︎球が方向転換してしかも加速しながらこっちに戻ってきた⁉︎いやまぁ、戻ってきたなら衝撃ドームの一部として取り込むだけだけど...何が起こった?どんな魔術だ?
「……っ、剣が...⁉︎」
弾き飛ばした勇者の剣も、方向転換してこちらに向かって移動していた。あの等速運動は...訓練で見たあの線の魔法と同じ魔術か!よく見ると線もちゃんと描かれてる...来る!
剣が線の末端にたどり着き、急加速して飛んでくる。だが、タネが割れていれば怖くはない。衝撃ドームでしっかり受け止めて、運動エネルギーを全て衝撃エネルギーへと変換する。
二対の剣は等速移動の線に触れていたが、それにも関わらず線は消滅しなかった。つまり、今あの剣たちは異能無効化の力を付与されていないということを意味する。だから衝撃ドームでも受け止めることができたのだ。
「吹っ飛べ!」
手ぶらの勇者がこちらに向かって走ってくるのを見ながら、衝撃波を放出して衝撃ドームに刺さっている剣を空に向かって射出する...っ⁉︎
飛ばされた剣を軌道変更の線を使って方向転換させて、地面に突き刺した⁉︎しかもちょうど勇者の目の前だから、すぐに回収されてそのままこちらに向かってくる...!
「チッ、相手してられっかこんなバケモン!」
衝撃波を利用した跳躍で空高く舞い上がる。ぐるぐると回転する視界の中、スターバスの街を見渡しアルトの姿を探す。
「見当たらねぇ...どこだ?」
アルトの姿がどこにもない。建物や壁は崩壊しているから、上からの見晴らしは十二分に良い。それでも見つけられないとなると、崩落した建物の瓦礫の隙間に隠れているのか、それとも魔術を使って隠れているかの二択ってところか...
「……んで、お前は空も飛べるのね...!」
勇者は魔術で空を飛び、空に打ち上げられた俺に追いついてきた。今勇者を気絶させれば、勇者は飛ぶことができなくなり落下死してしまうので本人に攻撃することはできない。
「でも今ならこれ出来るよな...!」
衝撃の剣を操り、勇者の持っている二対の剣を透過切断する。そしてすぐさま衝撃の剣を突き刺し、衝撃エネルギーを流し込むことで二対の剣を破壊する。
勇者の持次武器に異能の力を無効化する力の付与は、自身を対象とする魔術を発動させている時には使うことができない...はずだ。空を飛んでいたり、高速移動をしている時に効果の付与をすると、その武器に触れている自分もその効果を受けてしまって魔術が解除されてしまうからな。
そう仮定すると、飛行中の今は効果の付与がなされていないから、衝撃の剣で触れても問題ないということになる。武器を破壊する絶好のチャンスだったわけだ。
「さて、次の武器はあるかな...?」
重力に引かれて落下しながら、勇者の動きを注意深く観察する。勇者は懐に手を伸ばすと...そこにはどう考えても入らないだろと言いたくなるほどの大剣が出てきた。
「次元収納的な収納魔術か...?そっかそうだよな物質生成で武器作っても効果の付与で消えちゃうもんな。現物を用意するしかないってわけだ」
ということは、勇者の持つ武器を全て破壊するか遠くへ飛ばしてしまえば、効果の付与が出来なくなって勝ちなのでは...?まぁどんだけ武器を抱えてるか分からないし、肉体が武器とか言い出して全身に効果付与をしてくるかもしれないし、第一時間がかかり過ぎてアルトに逃げられるからこれは無しだな。
「さて、その武器も...!」
衝撃の剣を伸ばし、大剣に突き刺す。
……っ⁉︎弾かれた⁉︎いや、違う。触れた瞬間に膜が壊れて衝撃エネルギーが漏れ出し、その衝撃によって衝撃の剣が吹き飛ばされたのか!大剣も一緒に上に跳ね上がっていることからも、そうなったことは確実...ってことは効果付与中じゃねぇか!
「クソッ、落下の勢いを利用して攻撃か...!」
大剣に効果を付与したことで、勇者の飛行魔術は無効化され重力に引かれて落下しだす。大剣自体の重量もかなりあるらしく、その重さも利用して真下にいる俺に向かって下突きをするつもりのようだ。
「そんなの当たるかよ!」
真横から衝撃エネルギーを放出し、横方向の推進力を得る。それによって勇者の攻撃を回避し、距離を取りながら地面に着陸を...
「っ、サザミ⁉︎」
着地先にはトライデントを構えたサザミが待ち構えていた。さっき気絶させたはずなのに...もしや、先見能力の男も回復魔術を使えるのか?そうだよな魔術ってのは単なる技術だから全員同じ魔術が使えててもなんらおかしくはないもんなチクショウ!
「もうちょい飛べッ!」
サザミからも距離を取るため、衝撃エネルギーを放出して斜め上へと弾き飛ばされる。それを見たサザミは俺のことを追いかけてくるが、これでサザミと勇者が同じ方向に並んだ。背後を気にしなくて良くなったから、奴らの攻撃の対処がしやすくなった。
「まずサザミを潰す...!」
地面に着地した俺は、すぐさま背中側から衝撃解放をし、莫大な推進力を得てサザミに接近する。サザミはトライデントを地面に突き刺し、黒色の槍を地面から出現させて俺を貫こうとするが...
「そいつは対策済みだ!」
今回はきちんと足元まで衝撃ドームで覆っている。普通の移動ができなくなってしまうが、衝撃解放の勢いを利用してそのデメリットを帳消しにしているので問題無しだ。しっかり槍を衝撃ドームで受け止め、だんだん減りつつある衝撃エネルギーの足しにする。
「もう一度寝てるんだな!」
サザミはこちらに手を向けていた。サザミの足元に穴が開いていたため、何か別の武器を取り出そうとしているのだろう。攻撃に移られる前に、この勢いのままサザミの真横を通り抜け、すれ違いざまに衝撃の剣で透過切断をする。
「このまま戦いながらじゃいつまで経っても見つからんし、三人とも眠らせてからじっくり探してやる!」
向こうから勇者が物凄い速度で走ってくる。高速移動中だから、効果の付与はされていないはず。きっと攻撃の瞬間は魔術の効果が切れて速度が元に戻るから、攻撃を回避することも出来るだろう。
俺は立ち止まり、勇者が来るのを待つ。常人では目で追うことができない速度で勇者は迫ってきて、衝撃ドームの一歩手前で速度を落とし、大剣の重さに身を任して振り下ろしてくる。
その瞬間、俺は衝撃ドームを丸ごと後ろに移動させた。普段は俺を中心として半径1、2メートルくらいの距離で展開しているのだが、勇者を待っている間にその設定を弄り、中心点を前にずらしていたのだ。そうすることで、衝撃ドームの端が俺から前方2メートルほどの位置になり、そこ目がけて勇者は攻撃を仕掛けることになる。そのタイミングで中心点を俺の位置に元に戻すことにより、中にいる俺自身は動くことなく勇者の攻撃を空振らせることができたのだ。
「今ッ!」
あの大剣は肉体強化の魔術無しでは持ち上げるのは困難だろう。だから、効果付与を解除して魔術を使うはずだ。そしてそれをしなかった場合も考慮して、大剣と勇者の首筋を狙って衝撃の剣を一本ずつ差し向ける。魔術を使えば首への攻撃は受け止められるだろうが大剣は破壊できる。魔術を使わなければ大剣は破壊できないが首を狙った攻撃は防げない。二者択一を押し付ける...!
「……っ、その手があったか考慮しろよ俺!」
勇者は大剣から手を離し、後ろに跳躍した。大剣への効果付与が残っているため、大剣に触れた衝撃の剣は膜が破れて先ほどのように自ら弾き飛ばされる。そして大剣から手を離したことにより勇者は魔術を使えるようになり、身体強化を使うことで迫り来る衝撃の剣よりも素早く後退して回避した。
「アイツもアイツでよく頭回るな。完全に不意を突けたはずなのに避けれるとか...いや待て、もしかしてあの男が指示を...?」
先見能力を持つ男が勇者への攻撃を予知し、それをテレパスのような魔術で勇者に知らせた可能性は大いにあるな。ってことは、近くに奴がいるはず...勇者がまた近づいてくる前に探せ...!
「……っ!アイツは...!」
キョロキョロと辺りを見渡して、気が付いた。少し先の、路地に入ったところにアルトがいるのが見えた。崩れた瓦礫が重なったせいで上半身はあまり見えなかったが、奴に違いない。
勇者と距離が離れている今なら、狙える...!
「最高速度で!!」
衝撃解放を活用して最高速度で路地に向かって突っ込む。瓦礫は衝撃の剣で切り裂いて脆くしてから激突することで、衝突の衝撃で粉々に砕け散りほぼ速度のロス無く突破する。
「見つけた!さぁ死ねッ!!」
アルトの進行方向に立ち塞がり、衝撃の剣を伸ばしてその腹に突き刺「ダメッ!カリヤ!」
「っ⁉︎」
ミセラが叫んだため、慌てて手を止める。
「どうしたミセラ⁉︎」
「そいつ死印付きじゃない!こっちの攻撃を読んでくる男だよこいつ!」
「なっ...ホントだ、死印が付いてない...!」
見た目は完全にアルトだが、その頭には死印が付いていなかった。そして、ミセラが見ているものと俺の見ているものが食い違っている...まさか、幻覚を見せられている?
ミセラが効果を受けていないってことは、この男が自分自身を別の人間に見せるような幻覚魔術を使っているわけではないだろう。俺個人に、こいつをアルトに見せる魔術がかけられているということだから...
「まさか、サザミか...?」
最後に俺に手を向けていたのは、武器を手に取るためではなく俺に幻覚魔術をかけるため...?さっきから的確に俺の弱点を突いてきた奴のことだ、全然その可能性もあり得る...!
「クソッ、本物のアルトはどこに...!」
ひとまず目の前にいる男を透過切断で気絶させ、その後周囲を見渡す...
「カリヤ後ろ!勇者が!」
「ま、まず...」
後ろを見てくれていたミセラが叫び、俺も慌てて振り返る。
だが、遅すぎた。勇者はその手に一本の剣を持っており、既に目と花の先まで近づいてきていた。衝撃解放を使って回避しようとするものの、それよりも先に勇者の剣が衝撃ドームを貫く。
しかし、ギリギリ勇者の剣は俺には届かなかった。刃渡りの関係上、衝撃ドームは貫けても、ドームから1メートルの距離にいる俺のところまでは届かない。
けれど、だ。勇者の剣が衝撃ドームを貫いたことにより、剣との設置面にある、衝撃エネルギーを蓄えている膜が消失する。それによって勇者の剣に衝撃エネルギーが流れ込む。先ほどまではそれによって剣は弾かれていたものの、今回はドームに突き刺さっていたため360度全方向から流し込まれることとなり、どこか一方向へと剣が弾かれることはなかった...弾かれていてくれたらどれほど良かったことか。
剣は動かすこともできず絶えず衝撃エネルギーを流し込まれる。膨大なエネルギーを流し込まれて振動して、普通の物質でできた剣が耐え切れるはずもない。衝撃エネルギーを流し込まれた人間が爆散するように、剣も四方八方に破片を撒き散らしながら爆散した...その一部が、俺に向かって飛んでくる。
慌てて衝撃の剣を使って受け止めようとするも、剣の破片にも異能の無効化の付与がまだ適用されており、防ぐことができなかった。
ザクザクザクッッ!!!
剣の破片が俺の身体に深々と突き刺さった。
あ...これ、ヤバい...
痛みが走って脳を焼き、視界が歪む。能力の制御が不安定になり、残った衝撃エネルギーが四方八方に撒き散らされ、その衝撃波が俺に追い討ちを仕掛ける。
これ、死...
背中から地面に倒れ伏し、そこで俺は意識を手放した。
はい、カリヤくん敗北です。
第二章、完!...とはならないのでご安心を。
次回にご期待ください。