神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

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8073字。

訓練二話目、そして...


戦闘試練と勇者現着

「よーしミセラ。訓練の成果を見せてもらうぜ」

 

ミセラとの訓練が始まって数日が経ち、ミセラの実力もだいぶ伸びてきた。とりあえず戦闘中に正体がバレるようなことは無くなったし、衝撃の剣のサポートもあればそこそこ戦えるようにはなっただろう。

 

そこで、今日はミセラの実力がどの程度まで高まったのかを確かめようということになった。試金石となる対戦相手は俺...ではない。まぁ、ほぼ俺みたいなもんだが。

 

「対戦相手は衝撃の剣で作った勇者を模した人形だ。だが、こいつを倒すことが今回の目的ではない。ミセラの勝利条件は、この人形の攻撃を掻い潜りながら俺に攻撃を届かせること。少し離れたところで人形を制御している俺に近づき、攻撃を当てる...このルールの意味はわかるな?」

 

「うん。カリヤがアルト役ってことでしょ」

 

「そういうことだ。勇者は殺せない。よくて気絶まで...それでも回復して起き上がってくるだろう。ミセラの攻撃手段は短剣だけだし、今回は勇者を倒すことは想定しない。勇者の攻撃を回避すること、そして激しく動いても姿形がブレないことを目的にして臨んでくれ」

 

「わかった...いつでも行けるよ!」

 

ミセラは既に俺の姿になっており、短剣を素振りしていていかにも準備万端といった感じだ。

 

ちなみに、ミセラは少し前からちゃんと本物の服を着るようになった。最初は俺が着ている服も自身の魔法で再現していたが、それでは制御すべき箇所が増えてしまうし、服を切られることもミセラへのダメージになってしまう。さらには俺がやっているように服の繊維の中や内側に衝撃の剣を張り巡らせて攻撃を防ぐといったことも出来なくなってしまうため、ちゃんと服を着るようにしたのだ。

 

「よーしちょっと待っててくれよな。今作るから」

 

服に編み込んでいる衝撃の剣を一部ほどき、少し離れたところで編み上げて人形を作り出す。

 

「完成だ。来な、ミセラ」

 

俺がそう言った瞬間、ミセラは地面を蹴って横っ跳びをした。そうして俺と人形を結ぶ一直線状に立ち、そのまま走ってくる。

 

人形の背後に回って身を隠し、俺の人形操作を困難にさせようという魂胆だろう。ずる賢くなったもんだなぁ...けど、これは対勇者を想定した訓練。これでは条件が変わってしまう。だから、既に対策済みだ。

 

地面に張り巡らせた衝撃の剣でミセラの位置を特定し、十分射程圏内に入った段階で人形に横薙ぎの一閃を放たせる。

 

「っ!」

 

「良く弾いたな!だが...!」

 

横薙ぎの一閃はミセラが突き出した短剣によって上へと逸らされる。しかし、勇者ならすぐに次の一撃を放ってくるだろう。ゆえに、人形も体勢を崩すことなく即座に斜め下へと剣を振り下ろしミセラを狙う。

 

「一旦距離を...!」

 

ミセラは後ろに跳び、人形の攻撃を回避する。

 

「次はすぐ来るぞ!」

 

横に歩いてミセラを直接視認した俺は、人形を動かしてミセラが着地した隙を狙うために持っていた剣を投擲させる。

 

「投げっ⁉︎」

 

投げられた剣にも、異能無効化の力は働いている。だから対処する必要があるのだが、ミセラの膂力では短剣一本では投げられた剣を受け止めたり弾き飛ばすことはできない。その判断を手早く済ませたミセラは、着地直後の低い体勢のまま横に転がり剣を回避する。

 

「今なら...!」

 

勇者が武器を手にしていない今がチャンスと考えたのか、ミセラは一直線にこちらに向かって走ってくる。俺は後ろに下がりながら人形を動かしミセラの行く道を遮らせながら、懐から取り出したかのように槍を作り出す。

 

「リーチが長い...!けど、剣よりは軽い!」

 

ミセラに向かって人形に槍を何度も突かせる。だが、ミセラは槍の穂先に短剣を沿わせることで突きの軌道をずらし、的確に対処していく。

 

「槍なら近づけば...!」

 

槍の攻撃を受け流しながらミセラは人形に近づいて行く。たしかに、槍はリーチが長いものの近づかれるとその威力を発揮できなくなってしまう...普通はな。

 

勇者の異能無効化の付与は武器全体に付与される。槍の刃の部分だけでなく、持ち手や柄の部分にも効果は付与されているのだ。つまり、そこに触れるだけでもミセラはアウト...!

 

「そいつは愚策だぜ!」

 

人形に突きをやめさせ、横にブンッ!と槍を振らせる。

 

「っ!」

 

ミセラはハッとした様子で急いで槍を短剣で受け止めようとする。ギンッ!と槍に短剣がめり込み、人形と距離が近く槍の旋回速度が遅かったのもあってミセラはなんとか耐えることに成功した...が。

 

「あぅっ⁉︎」

 

そこまで接近していたなら、普通に蹴りが飛んでくる。異能無効化付与中であるため魔術の強化が無い普通の蹴りを想定した威力で、人形にミセラのことを蹴り飛ばさせる。

 

「いっ、たぁ...」

 

「おお、よく形を崩さなかったな。それに、剣も手放さないなんてね...やるじゃないか」

 

腹に蹴りを喰らったミセラだったが、見た目に変化はなかった。ちゃんと俺の真似を続けられている。さらに、蹴り飛ばされた際にしっかり剣を握りしめており、槍にめり込んだ短剣をちゃっかり回収していてとても偉い。

 

「けど、そんな痛がってる時間はねぇぜ?」

 

槍を持った人形を走らせ、今度は突きではなく最初から横一閃で振り抜かせる。

 

「っ、ふんっ!」

 

ミセラは短剣を構えて槍を受け止める準備をすると、その場で小さく飛び跳ねた。地に足がついていない状態で槍を受け止めたミセラは、槍の威力を利用してわざと真横に吹き飛ばされることで人形から距離を取る。

 

「そうくるか...敵の攻撃を利用して距離を取る。随分とまぁ俺の思考に染まってきたな、ミセラ」

 

「そりゃ、これまでも訓練中もずっとカリヤのこと見てきたんだからね。カリヤならどうやってこの局面を乗り越えるか...手に取るようにわかるつもりだよ」

 

「そうか。なら、ちゃんとこの試練を乗り越えてくれよ?」

 

人形に槍を投擲させ、今度は懐から二本の剣を持たせる。そして、槍を回避したその勢いのまま俺の方まで走ってくるミセラを追わせ、背後から斬りかからせる。

 

「こうっ!」

 

ミセラは急に速度を落とすと、すぐさま後ろに跳躍して人形にタックルを仕掛ける。今まさに剣を振り下ろそうとしていた人形の腹にミセラの肘が突き刺さり、人形は体をくの字に折り曲げる。

 

「とぅっ!!」

 

そしてミセラはくの字に体を折り曲げたために降りてきた人形の頭めがけて短剣を振り、人形の側頭部に短剣のグリップを直撃させる。

 

「おっと、こいつは...?」

 

流石にあの攻撃を喰らえば勇者でも少しよろめくだろう。魔術で強化していなければ、多少鍛えているだろうとはいえ耐久力は魔物よりも断然弱い。自己回復出来るだろうけど、それまでの間は脳震盪で動けないはず...

 

「本来ならサザミがいるけど、同じ状況になら俺が抑えてるだろうから守りには来れない。カムラがどんだけ戦えるのかは知らんが今の攻撃が通ってるってことは既に倒れてると考えて良い...つまりアルトを守れる奴はいない!」

 

ミセラがこちらに走ってくるのを見て、俺は全力で走ってミセラから距離を取る。

 

「おうおう、上手いこと壁際に追い込んでくるじゃんか...けど、これくらいなら避けれる...!」

 

ミセラの放つ斬撃をギリギリで回避する。アルトの身体能力がどれくらいなのかわからんが、本当だったらミセラの服の下に編み込んだ衝撃の剣を使って切り刻んでいることだろう。だが、今回の訓練ではミセラが短剣で攻撃を当てるまで終わらない。回避可能なら最後まで避け切ってやる...!

 

「くっ...!」

 

壁に追い詰められる。もう下がれないか...なら、一旦右に体重移動をしてミセラを誘導して...!

 

「甘いぞミセラ!」

 

フェイントでミセラを惑わし、一瞬で最高速度に至ってミセラから離れることに成功する。

 

「相変わらず速っ...!」

 

「俺にばっかかまけてると...ダメだぜ?」

 

人形を復帰させ、俺を追いかけるミセラの背後から攻撃させる。

 

「っ、もう...!」

 

背後から迫る人形に足音で気付いたようで、人形が剣を振り下ろした瞬間に横に飛んで回避した。

 

「よく避けるな...だが、勇者復帰までの間に終わらせられなかったのは失敗だな。一度出来たからといって、二度目が出来るとは限らない。もう俺を攻撃するチャンスはないぜ?」

 

そう言いながら、人形を動かしてミセラとの間に立ち塞がせる。もう油断はしない。ガチガチに防御を固めて、ミセラを潰しにかかるぞ。

 

「さぁ来な。こっから全部封じてやるぜ」

 

「……その自信、崩してあげる!」

 

ミセラが人形に向かって走る。何をしてくる...?とりあえず、射程圏内に入ったら切る...!

 

「……っ、嘘だろ⁉︎」

 

射程圏内に入ったミセラを横一閃で切り裂こうとしたのだが、その瞬間にミセラは跳び上がった。そして人形の剣にタイミング良く短剣を当ててもう一度跳ね上がる。さらにダメ押しとして人形の頭を足場として踏み潰し、人形の真上を跳び越えた。

 

「おいおい無視して飛んで来るかよ!」

 

ミセラが勇者を足蹴にして飛び掛かってくる。そして、落下の勢いを利用しながら短剣を振り下ろし俺に突き刺そうとしてくる...!

 

「っぶねぇ...!」

 

地面を転がり、なんとかミセラの攻撃を回避して...っ⁉︎

 

「ここでそれしてくるか...!」

 

ミセラは俺が攻撃を避けた瞬間に短剣を投擲した。ここで武器を手放すのは想定外だったので少しヒヤッとしたが、飛んでくる短剣の持ち手をなんとか掴み取り難を逃れる。

 

「これで終わり...なわけないよな!」

 

短剣を手放すということは、勇者の攻撃を受け止める手段を失うということだ。それ以上の戦闘は不可能になる...だから、ミセラは人形に攻撃される前に決め切る必要がある。そして、短剣の投擲だけに全てを賭けるような真似は俺なら絶対にしない...!

 

ミセラがこちらに向かって走ってくる。そしてまだそこそこ距離があるタイミングで勢いよく前へと跳んだ。片足を前に突き出し、飛び蹴りの構え...狙いは短剣を掴み取った俺の手か!無理矢理短剣を押し込んで俺に突き刺そうって魂胆ね...!

 

地面を転がった直後だから、回避できるような体勢じゃない。取れる択は一つのみ...!

 

「甘い!!」

 

空いている左手でミセラの足裏に触れ、グイッと右に押し退ける。これで蹴りは回避できた。あとは、突っ込んでくるミセラの胴体を受け流すだけ!

 

蹴りを回避されたミセラは、そのまま全身を使って俺のことを押し倒そうとしてくる。だが、俺は左手でミセラの着ている服の襟を掴むと、自ら後ろに倒れてミセラの重心をずらし、ミセラの腹の辺りに足裏を押し当てて勢いよく蹴り飛ばす...!

 

「投げ技...⁉︎」

 

「これで...終わりだ」

 

ミセラを投げ飛ばした方向にあらかじめ人形を動かしておいた。ドサッと地面に叩きつけられたミセラの頭に、軽くコツンッと剣の先を当てさせる。

 

「訓練終了だ。ミセラ、お疲れ様」

 

「あーもう惜しかったのにー!」

 

ミセラはバタバタと暴れて悔しさを露わにする。

 

「俺の姿でやるなみっともない...けど、だいぶヒヤッとさせられたぜ。この感じなら、本番でもちゃんと戦えるだろ」

 

「ほんと⁉︎」

 

「ああ。むしろ問題なのは、俺がちゃんとミセラに対して放たれた魔術アリの勇者の攻撃を止めてやれるかどうかだな。それが出来なきゃ作戦は根底から瓦解する」

 

「カリヤなら大丈夫でしょ!」

 

「まぁそうだろうけどさぁ...」

 

せっかくミセラが頑張ってくれたんだから、俺のミスで全部無意味に...ってことにならないよう気をつけなきゃな。

 

「にしても、ほんと形崩れなくなったよな。地面に叩きつけられたり蹴られたりしたってのに、見た感じ少しもおかしなところがなかったぞ」

 

「そう?やっぱり全部ガワを作るのに使ったのが良かったのかな」

 

激しく動くと身体がブレてしまうのは、固めた外殻の内側にある液体が流動しているがために、急加速や急停止によって生まれる慣性によって外殻を押してしまうからだった。

 

それを対策するために、ミセラは全てを外殻として固めてしまい、中身を空洞にするという逆転の発想を持ち出してきてそれを実現してしまった。内側が空洞だから、皮膚が押されることは絶対に無い。外殻が硬くなるからある程度攻撃にも強くなったりと、一石二鳥の効果を叩き出している。それ出来るんだ...と、前に聞いた時思った覚えがあるなぁ。なんで最初からそれをやらない?とも思ってしまったけど。

 

「……カリヤには勝てなかったけど、もうこれで対勇者戦はバッチリだね!あとはもう少し詰めれるところを詰めるのと、前にカリヤが言ってた作戦の練習をすれば良いかな?」

 

「そうだな。そっちの練習もしないと...っと、どうやら、そんな時間はなさそうだな」

 

話している最中に修練場の扉が開かれる音がした。扉の方を見てみると、シャリヤが中に入ってくるところだった。

 

「来たか?」

 

「ああ。勇者御一行が最寄りの村を立った。時期に城下町へと入ってくるだろうな」

 

「そうか、案外早かったな...了解した。死印無しの避難は全て完了しているな?」

 

「二日も前には全て、東方の集落や臨時拠点への輸送を完了している。城内並びに城下町に残っている者は皆死印付きだ」

 

「なるほど...じゃあ、全員門の前に集めろ。勇者パーティーを盛大に歓迎してやろうじゃないか」

 

「了解」

 

「それが終わったらシャリヤも東に逃げるんだぞ。もうお前は死印付きじゃないんだろ?」

 

「……ああ。わかっているさ」

 

シャリヤの頭の上にあった死印はもう無い。実は、シャリヤが俺をスターバスから妄想世界へ離脱させた時、本物のシャリヤが現実世界で勇者たちを足止めしていたようなのだ。妄想世界への移動直後に出会ったシャリヤは、本物のシャリヤが予め作っていた次の個体だったのだ。

 

勇者たちとの戦闘でその時本物だったシャリヤは死に、今の個体が本体へと変わる。それと同時に、頭の上にあった死印も姿を消した。それは、今のシャリヤは此度の戦争中には死なないことを意味している。他の死印無しの奴らと同様に、ついに絶対に死んではならない者になったということ。だから、シャリヤの役目はこの情報伝達で最後だ。

 

「シャリヤ...お疲れ様」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ。頑張れよ、二人とも」

 

「うん!部長!お元気で!」

 

……そっか。忘れてたが同じ部署の上司と部下の関係なんだよなこの二人。ミセラは死ぬことが確定しているから、シャリヤが東に逃げたらもう会うことはないのか...なんか、悲しいな。

 

「……ところでさ、カリヤ」

 

「なんだ?」

 

シャリヤが修練場から出ていった後に、ミセラが聞いてきた。

 

「死印付きじゃなくなった...って、どういうこと?最初から違ったよね?」

 

「えっ⁉︎あー、あはは」

 

「あははじゃないよ!何か隠してるでしょ!」

 

「そんなこと言われても...ねぇ。そんなことより勇者だ勇者。訓練は終わりにして、俺らも行くぞ」

 

「もーはぐらかしてからに...で、行くってどこに?」

 

「さっき言ったろ?勇者パーティーを盛大に出迎えてやるのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、よく集まってんな」

 

魔王城のバルコニーから外を眺める。城下町の中...特に門の前の辺りに大量の魔物が待機していた。これが、俺とミセラを除いた今生き残っている死印付きの全てだ。

 

「死印付きの魔物、おおよそ六百近く...ここでアルトを殺せりゃ話は早いんだが、せいぜい勇者の体力を奪うのが関の山だろうな」

 

一瞬でスターバスにいた魔物を殲滅してしまえるほどの力が勇者にはある。それに対して、こちらの戦力は心許なさすぎる。なにしろ、戦闘部所属の魔物は半数以下だ。統治部や輸送部など、スターバス滅亡作戦に参加していない死印付きがこの場の魔物のほとんどを占めているため、ほとんど戦力としては見込めないのだ。魔法で何か起こってくれれば良いが、望み薄だろうな。

 

正直、あまり戦力としては期待していない。ここに魔物たちを集めたのは、魔物の死印付きの総排除が目的である。自殺させるくらいなら、ラッキーパンチを狙ってアルトを襲わせる方が得だからという理由でしかない。だが、それでも魔物たちは魔王軍のためならと快く引き受けてくれている。彼らには感謝しないとな...

 

「……さて。とうとう来たようだぜ」

 

ここからでは豆粒ほどの大きさにしか見えないが、城下町の門に向かって歩く四人の姿が確認できた。現勇者パーティーの四人で間違い無いだろう。ちゃんとアルトを連れてきたようだな。

 

「ふぅ...それじゃあ、ご案内してやろうか」

 

そう言いながら、俺はバルコニーの柵に巻き付けられている衝撃の剣に触れる。そして...

 

「あー、あー、聞こえているだろうか、勇者パーティー諸君」

 

その場で声を発した。

 

「これは、こちらから一方的に放送しているものであり、そちらからの返答は一切こちらには届かない。そのことを十分承知して聞くように」

 

衝撃の剣は城下町の門に突き刺してある。柵に巻き付けている衝撃の剣に触れながら声を出すことで、俺の声を衝撃の剣を伝わって門まで響き、声が勇者パーティーの元まで届くというわけだ。

 

頑張ればあちら側からの声をこちらに届かせることも出来なくはないが、それをするとおそらくサザミ辺りが爆音を送りつけてくるだろうと十分予想がついたのでやめておいた。

 

「ここまで良くやってきたな。まぁ、こちらは殺せる奴は殺してとっとと離脱していたのだから特に苦難なんて無かっただろうけどよ」

 

でも、だ。ここまでの道中の集落から魔王軍は手を引いていたのだから、ここまで来ようとすればもっと早く来れたはずだ。おそらく、魔術の習得をしていてこのタイミングになったのだろう。そのことを忘れてはいけないな。

 

「そして、よくぞここまでアルトを連れてきてくれたな。そいつは人類最後の死印付きだ。そいつが死ねば、この戦争はもっと早く終わる。魔王代理である俺と戦わずにこの戦争に勝利することができるんだ。勇者、お前も出来るなら戦いたくないだろう?...って、そんなこと言ったって無駄なのはわかっている。どうせ、あの二人の敵討ちだとか、死んでいった人たちのためとか言って拒否するんだろうよ」

 

考えたこと全てを言葉にして送りつける。声に集中させ、周囲への注意を逸らしてしまうように、喧しさを重視してひたすら声を送る。

 

「ところで、だ。さっき人類最後の死印付きと言ったが、実は魔物の死印付きはそこそこ残っていてだな...前に言ったことを覚えているか?」

 

そろそろだ。タイミングを間違えないよう、俺も集中する。

 

「アルトを連れてきたなら、魔物やトラップは無しにしてやる...魔王城の中のは、な」

 

言い切った瞬間、衝撃の剣の先端から衝撃解放を行う。門に向かって衝撃エネルギーが流し込まれ、バタンッ!と門が勇者たちに向かって吹き飛んでいく。そしてそれと同時に、待機していた魔物たちが一気に雪崩れ込んでいった。

 

「魔王城に入る前なら、なにしたって良いってね。そっちが約束守ってくれたから、ちゃーんとこっちも守るぜ」

 

「うわぁ良い性格してるねぇ」

 

「おいおいそんなこと言うなよ。傷つくぜ?」

 

「褒めてるんだよ。にしても...ヤバいね、アレ」

 

「……そうだな。まさか、三十秒と経たずに第一陣がやられるとは...」

 

破壊された門を越えて勇者パーティーを襲いに行った第一陣が即座に殲滅され、勇者が一人で城下町に入ってきた。その瞬間に、待ち構えていた第二陣が建物の影や門があった場所の真上の壁から飛び出して攻撃を仕掛けに行くものの、またもや一瞬で斬り飛ばされる。

 

「流石に非戦闘員が多過ぎたか...ありゃ一方的な虐殺だな」

 

「……今から、あんな奴と戦うのか...」

 

「心配すんなミセラ。俺たちなら出来る。二人なら成し遂げられるさ。気合い、入れていこうぜ」

 

「……うん、私頑張る!」

 

「良し、その意気だ。その調子で魔王の間まで行くぞ」

 

バルコニーを後にして、魔王城内に戻る。

 

「さぁ、死んでも終わらせに行くぞ」

 

法術世界、最後の戦いが、もうすぐ始まる。




とうとう第二章も終わりが近づいてきました...
このまま行くと、あと二話で終わりになります。
第一章と同じ26話ですが、まったくもって偶然なのでこれからも26話完結でってことにはならないと思います...多分。
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