今回の世界やフォルスについての情報開示回です。
「根掘り葉掘り聞かせてもらおうか」
おそらくは転移魔法によって知らない部屋に無理矢理移動させられ、今俺は五百年前の大賢人を名乗るフォルスに尋問を受けそうになっている。
「あー...話すのは良いんだが、それが終わったらお前のこととこの世界について、色々聞かせてもらうぜ」
「良いだろう。交換条件として相応しい。さて...まず、君はどんな世界から来たのか、そこから聞かせてもらおうか」
そういや、この世界はちゃんと異世界の概念があるんだな。もし源流世界みたいな並行世界的考えだったら誤解を生みそうだが、まぁ上手いこと説明するか。
「この世界についての知識がないから比較で説明するの難しいな...とりあえず、魔法はハナから存在していない世界だ。まぁ、俺が知らないだけで実は超次元的能力は存在するのかもだが、周知はされてないからほぼないと考えて良いだろう」
「魔法が無い...」
「あ、それと魔物はいないな。まぁ魔物並みに凶暴な動物はいるが...」
「どうぶつ...それは、魔法を使わない魔物のようなものだと考えてよろしいか?」
「動物いないのか...まぁ、その認識でいいだろう。動物の中には、家族みたいに一緒に過ごすのもいれば、食用として飼い慣らしてる動物もいるし、完全に野生の奴もいる」
「へぇ...それじゃ次の質問だ。先程魔法がない世界から来たと言っていたが、それならどうやってこの世界に来た?」
「あー...世界そのものに異能の力はないけど、それを管理する神はいてだな。なぜか知らないけど前世の俺が神様と面識があって、死んだ後に別の世界に連れて行かせてもらったんだ。それでなんやかんやあってその世界の魔王に寄生されて、それをどうにかするまでの時間潰しとして世界を渡り歩きながら狂ってしまった世界を修復する旅をしている...それでここに来た」
「……今話したのはここに来た手段ではなく目的だと思うのだが...察するに、その神が君をここに連れてきたということで良いか?」
「ああ」
「ふむ...少々気になる発言もあったが、次は君が使える魔法について聞こうか」
「俺が使える魔法?今は二個しかないな。小さな青い火種を作り出す魔法と、可燃性の液体を作り放射する魔法だけだ」
「……その魔法、どちらも君が持っていた魔力器官の持ち主が使える魔法だな。何か関係があるのかい?」
「関係大有りだ。俺がこの世界に来るにあたって、神様から一つの能力をもらった。それは、傷をつけた相手の魔力を使ってそいつが使える魔法を発動できる力だ」
「ほう...それなら実験といこうか。私で早速試してくれ」
「えぇ...思い切り良すぎないか?」
「傷はどんな傷でも良いのか?殴打に裂傷、銃創と傷には色々あるが、違いはあるか?」
「俺が手を下したのなら、武器越しでも良いし傷の種類は問わない。一応、使える魔力は傷の大きさに比例しているけど...」
「なるほど...それなら」
フォルスはどこからともなくナイフを取り出した...いや、生み出したのか?
「これで私の手首を切ってくれ。一思いにスパッとな」
「……あの、ドン引きなんだが、自分が何言ってるかわかってる?」
「理解せずに言っていると思うか?ほら、やってくれ」
「やりたくないんだが?手首とか一番ヤバいとこだぞ」
「一番ではないだろう首や心臓めがけて刺された方がマズイ。手首ならそこそこ大きな傷だし、すぐに死ぬことはない。治療は可能だ。傷も残らないから気にせずやってくれ」
「えぇ...はぁ、しょうがねぇなぁ」
ナイフを受け取る。
「じゃあ、やるぞ」
「痛覚は消している。ザクッとやってくれ」
大丈夫だ。少し傷をつければ良いだけ。治せるって言ってたしな。
フォルスの手首にナイフを当てて、一気に引き...
引き...
「どうした。早くしろ」
……手が動かない。動かそうとしているのに、この手が言うことを聞いてくれない。
人を傷つけることを無意識に恐れている...のか?法術世界じゃあんなに殺したのに、今更どうして...人殺しになる前は、普通に人相手でも戦えたはずだろ?聖杖世界では闘技場の結界のおかげで相手を殺すまで終わらない訓練をしていたし、アライブとの戦闘では普通に刃を向けることができていた。そのはずなのに、今は傷をつけることですら恐怖している...
……そう、か。大義名分が無いからか。訓練では、結界のおかげで絶対に死ぬことがないとわかっていた。VSアライブでは、やらなきゃ俺がやられていた。そして、殺さずにこの場を収めると初めから決めていたから、刃を向けられた。法術世界では、魔王代理として死印付きを殺すという使命があった。
どの時も、それを正当化する目的や事情があった。しかし、これはどうだ?確かに俺の能力の実験という大義名分はあるが、ハッキリ言ってこの方法以外にも実験する方法はある。わざわざこの方法を取る必要がないのだ。
たくさんの人の命を奪ってきたこの手が震えて、フォルスを傷つけられない。今更こんな葛藤をするくらいなら、法術世界で戦姫を殺そうとしたその時にやってくれ。今更怖気付くとか、そんなのわがままでしかない。
やれ...切れ...切れ!
「遅い」
フォルスが手を動かし、自らナイフに手首を切らせた。魔法で作り出したナイフだったのか、異様なほどにスルリと刃が通り、深さ1センチほど手首を引き裂く。
「う、うわぁっ⁉︎」
俺は急いでナイフを引き抜き、後方に投げ飛ばした。フォルスの手首から血が溢れ出す。
「なんで自分から⁉︎」
「そりゃ君がなかなか切らないからだろう。ほら、早く君の力を見せてくれ」
「ああもうわかったよすぐやるからすぐその傷治せよ!」
模倣の傷を発動して、フォルスの傷口をパスとして魔力と接続する...
「うぐっ...⁉︎」
脳に電流が走ったような、そんな気がした。ビリビリと脳が痛み、頭を押さえて疼くまるのを止められない。
「どうした?まさか、血を見て貧血を起こしたわけではあるまいな?」
「違っ...能力を発動させると、そいつの使える魔法を知ることができる...んだけど、フォルスの使える魔法が多すぎて情報量で殴られてんだよ...!」
この感覚はあれだ。思考共有で一気に大量の思考を送りつけられた時のそれに近い。速度操作があったらこんなの一瞬で捌けるのに、素の思考速度だと追いつけない...早くこんなクソッタレな実験終わらせて治さねぇといけないってのに...!
「もうなんでもいい!適当にこれ!!」
頭の中に流れ込んでくる情報の中から適当な魔法を一つ引っ張り出し、手のひらの上に氷の塊を生み出す。
「ほう...本当に私の魔力を使って魔法を発動させたか。これは興味深い...」
「ほらっ、もういいだろ!早くその手首治せ!」
「せっかちだなぁ君は...」
「自分から手首切ったせっかちはどっちだ!」
フォルスが魔法で手首の傷を治していく。完全に傷が治り切ったその時、模倣の傷が強制解除されて魔力の接続が断たれる。
「なるほど、傷が治癒すると魔力の接続が切れるのか。君に魔力が流れ込む感覚が完全に途絶えたな」
「魔力が繋がる感触、相手にもあるのか...」
「そうだ。だがよく見たところ、君の身体の中に私の魔力が流れ込んだわけではなさそうだ。途中で接続が切れたにも関わらず、体内に魔力が一片たりとも存在していない。身体に取り込む前に魔法に変換しているのか...」
うーん、俺も知らない模倣の傷の細かい仕様がどんどん暴かれていく...
「なかなか面白い力だ。実験のしがいがあるな」
「まだやるのか...?もう勘弁してほしいんだが」
「……そうだな。疲れる要素なんてほぼ無かっただろうに、何故か消耗しているしな君。実験の続きはまたの機会にするとしよう」
「消耗の原因はお前なんだけどな...」
「にしても、君は随分とまぁお人好しなのだな。たとえ頼まれていたとしても、人を傷つけることができないとはね」
「いや、普通誰だってあの状況じゃ臆するって...それに絵面もやばいからな?子供の手首を引き裂こうとする青年とか、事案どころの騒ぎじゃないぞ」
「子供...忘れたのか?私は五百年前の大賢人フォルスだぞ?」
「いやだから、そんな名前出されてもわからないんだって...ってか、そろそろこっちが質問するターンに移っても良いよな?良いよな??」
「す、すごい気迫だな...まぁ良いだろう。何が聞きたい」
「じゃあまず、なぜ人類は魔法を失ったのか...それを教えてくれ。これは、この世界が狂っている云々の話にも繋がる重要なことだ」
「そうなのか、話せば聞く手間が省けるわけだな。ならば話そう。まず、我々が魔法を発動させるためには魔力が必要だ。この魔力は自然界には存在せず、各々の肉体が生命力を練り上げる際の副産物として身体に溜め込まれることとなる」
へーマナが空気中に舞っているわけではないのか。人体が魔力を生み出すってのは、聖杖世界と少し近いところがあるな。
「そうして魔力が作られるわけだが、魔法を扱うためにはもう一つ重要なことがある。それは、生み出された魔力を貯蔵する器の存在だ。それが無ければ魔力は溜められないし、過剰に体内を駆け巡った魔力が原因で死に至ることもある」
魔力過多で死ぬこともあるのか...生命力を練る際の副産物って言ってたし、過剰にあると人体に悪影響を及ぼしてしまうんだろうな。そもそも生命力を練り上げるってナンジャラホイって感じだが、一旦ATPを魔法学っぽい言葉に置き換えてるってことにしておくか。
「その器ってのはなんなんだ?」
「魂だよ。肉体が魔力を生み出し、魂が器となってそれを受け止める。肉体が生み出す魔力の量も、魂が収めることのできる魔力の量も、個人差がありこれによって魔法を使う才能が決まるわけだ」
魂が器なのか...なんとなくのイメージだが、どちらかというと魂が魔力を練り上げて肉体が器として受け止める方がそれっぽいよなぁ。
「……にしても、魂が器...か。なんとなくだが、話の流れが読めた気がする」
「ほう、君だけが持つ情報があれば、これだけの情報でもう答えに辿り着けるのか。聞かせてみろ」
「多分だけど、人類が魔力を失った理由は、魔力を溜め込む器が消失したこと...ゼロとまではいかないが、ほとんど魔力を抱えることができなくなったためにほとんどの人が魔力過多で死に至ってしまい、今生きている人も魔力を抱えられないから魔法の起動ができない...といったところかな」
「その通りだ。なぜわかった?」
「この世界...いや、この世界に限らず多くの世界で起こった世界の狂いの原因は、魂の初期化という事象のせいだ。魂というのは何度も何度も使い回されていて、その度にその人生の記録が魂に残されるらしい。その積み重ねによって、次の人生の方向性が決まる...その積み重なった情報が、魂の初期化によって全て白紙になってしまった。それによって起こる世界の異変は世界によってまちまちだけれど、話を聞く限り魂の初期化によって溜め込める魔力の量がゼロになったってのが一番可能性があったからな」
「ふむ、魂の初期化...魔力を溜め込む器の役割がほぼ消えていたのはこれが原因だったわけか。そして、君がこの世界に来たのはこの狂いを修復するためというわけだな?」
「いや、厳密には違う。魔法を失ったのはもう手の施しようがないし、今更発展した科学技術を無かったことにするわけにもいかないからな。狂った原因はそれだが、解決する問題は別だ」
「ほう、ならその問題とやらはなんだ?」
「それより先に答えてもらおうか。フォルス...あんたが魔法を使える理由をな」
「む、まぁ良いだろう先に答えてやる。それは、私が五百年前の大賢じ「それはもう何度も聞いた」...むぅ」
「大賢人ってのはもうわかってるよ。それ繰り返すくらいなら、その五百年前の大賢人様がなんで今を生きているのかを教えてくれ。まさか、不老不死の魔法を使ったわけじゃあるまいな?」
「そんなものを使っていないのは、先ほどの実験で私の使える魔法を知った君ならわかっているはずだ。そして、私がどんな魔法を使ったのかもわかるはずだ」
「わかんねぇから聞いてんだよ。まだ何使えるのかあんま理解できてないんだって...」
「そうか、わからないのか...ならば教えてやろう。私が行ったのは、未来への転生。魂を未来に飛ばし、自らが望んだ条件に合った肉体を持ち生まれ直す...私が組み上げ、使ったのは私のみという大魔法だ」
「未来へ魂を飛ばして転生...なるほど、だからフォルスは魂の初期化から逃れたのか」
おそらくフォルスは、魂の初期化が始まるより前にその大魔法とやらを発動させたのだろう。そして魂の初期化が起こっていた期間をすっ飛ばして今の時代に生まれ直したために、一切の影響を受けなかった。魂が無事ならば、魔力を貯蔵することができ魔法を操ることができる。合点がいったな。
「でも、どうしてそんな魔法を?自分で組み上げたってことは転生したい理由があったってことだろ?」
「ああ。私は天才だった。右に並ぶものはいないほどの魔力貯蔵量を誇り、頭の出来も良かった。魔法を使う際の魔力効率も段違いだった。魔法使いとして、ほぼ全ての才能を持っていた...ただ一つを除いてな。何かわかるか?」
「……話に出てないのは、魔力生成速度だけ。魔力生成が遅過ぎてせっかくの魔力貯蔵量の多さも無意味だから転生したってことか?」
「その通りだ。私は魔力生成量が人よりも遅かった。魔力効率が良かったためそこそこは魔法を使うことができたが、常に総量の一割も満たされることはなかった。魔力生成が早い身体を求めるのは当然だろう?」
「まぁ、その状況なら誰だってそう考えるわな」
「そこから私は、研究に明け暮れた。29から80になるまで、ただの一度も魔法を使わずに魔力を溜め続けながら、転生魔法の研究に没頭した。そして、ようやく完成させた。その頃には、魔力は9割9分限界ギリギリまで溜まっていたよ」
50年も研究してたのか...そして、50年経ってようやく許容量ギリギリって、どんだけ魔力生成が遅かったんだ...?
「そして私は、全魔力を注いで転生魔法を起動した。全魔力を注いだのは、より魔力生成の早い肉体に生まれ直すためだ。そうして転生条件に制限を設け、私は魂を肉体から抜き出し異空間へと飛ばした...が、そこからが長かった」
「そこから五百年経ってるわけだからな...」
「まぁ、それは別に良かった。より未来に行けたのなら、新たな魔法が生まれている可能性が高いからな...人類から魔法が失われていて、代わりに科学技術が著しい進歩を遂げていたことには驚かされたが」
そりゃそうだろうなぁ...いや、自分が心血を注いできた魔法が失われていたのに、驚くだけで済んでるのはなかなかおかしいよな?よく絶望しなかったな...
「……この身体に転生できて良かった、私はそう思っている。もし私が転生魔法を使っていなければ、この肉体には別の魂が入っていたことだろう。そうなれば、魔力過剰で即死だったはずだ。この恵まれた肉体が消えなかったことと、そして即死する哀れな魂が生まれずに済んだこと...これは幸運だと思わないか?」
「まぁ、な」
こういう未来への転生系って、乗り移った先に本来いるはずの魂が塗りつぶされたり、元々あった人格が消えたりとかいう問題があったりするけど、フォルスの場合は誰よりも先に肉体に入ったから塗りつぶしが起きていない。入るはずだった魂は別の肉体に移るだけで、魂の初期化という大問題の前では微々たる問題だ。ほぼ影響はないと言って良いだろう。
「……ってか、魔力生成の早い肉体って遺伝で生まれるもんじゃないんだな。突然変異的に生まれるものなのか?」
今のフォルスの肉体の両親は、魔力生成がほぼできない身体だろう。そうでなければ、常に生成される魔力だけで過剰症を起こしてしまい、子供を産める年齢になるまで生きていけないだろうからな。そんな両親から、フォルスが望む肉体が生まれたことを考えると、遺伝では説明がつかない。
「そうだな。どれだけ早いかは完全にランダムだ。それゆえに、今この瞬間にも魔力過剰症によって死を迎えてしまった者がいることだろう。この時代に生を受けた責務として、私はそういった者たちを救う旅をしている。この世から魔力過剰症を無くし、人類が失った魔法を取り戻させるのだ」
「そいつは...すごい志だな」
「感想浅過ぎやしないか?...さて、私の旅の目的を話したんだ。今度はそっちの番だぞ」
「っと、なんで急にそんなこと話し始めたかと思えば、そこに繋げるためか...いいぜ。話すよ」
一呼吸置いて、口を開く。
「この世界で俺が成す使命は、魔王を殺さずに懲らしめること。そして人類の魔法喪失によって破られた協定を再び結ばせることだ」
「……なるほど。だからあの時、私のことを魔王に対抗出来る力を持つ者かと聞いたのか。誰かから私のことを聞いていたのか?」
「詳しいことは何も知らんが、魔王と戦うにはその人の協力を得るべきだと神様に言われたもんでな。探していたんだよ」
「そうか...確かに、今の人類の中では私が一番強いだろう。今じゃ誰しもがこんな武器を携帯しているが、そこらの魔物程度ならともかくそれらを統べる魔王には魔法が無ければ話にならないだろうしな」
「俺一人じゃこんな能力一つあったところで、魔王には勝てない。傷をつける前に殺されるのが関の山だ。そこで、だ。フォルス、君の力を借りたい」
拒否されたらどうやって説得をするか思考を巡らせながら、フォルスの返答を待つ。
「……ふむ、良いだろう。だが、幾らか見返りは要求させてもらおうか」
よし、どんな見返りを要求されるかは気になるところだが、とりあえず了承は得たぞ...!
「何がお望みかな?」
「一つ、君にはこれからも実験に付き合ってもらう。私と同じ魔法を扱える人間が現れたんだ。助手として、代わりに魔法を発動させるなど色々手伝ってもらうぞ」
……なんか、またフォルスを傷つけないといけないことが確定したな。ちょっと憂鬱だ...慣れたくないが、慣れるしかないか...
「二つ、君には用心棒になってもらう。私の身体はまだこんな子供だ。それゆえに、事件や厄介ごとに巻き込まれることが多くてね。君、そこそこフィジカルが良いだろう?用心棒として私を守ってくれ」
「それくらいなら余裕でしてやるよ」
ってか、フォルスの今の肉体年齢って何歳くらいなんだろうな...十歳くらい...?まぁそんな子供が一人で出歩いてたら色々と厄介ごとには巻き込まれるだろうな...誘拐とか、迷子だと勘違いされて旅の邪魔されたりとか、悪意善意問わず想像に難くない。
「三つ、私の目的にも協力をしてくれ。魔力過剰症になっている、もしくはこれからなる可能性のある人を見つけたら私に教えるんだ。私が処置をするから教えるだけで良い...私は魔王退治よりもこちらを優先するつもりでいるが、構わないな?」
「あー...別に良いぜ。今回は今すぐに魔王を倒さないといけないってわけでもないからな。それに、魔王を退治して協定を結ばせることは、魂の初期化による歪みの直接の解決にはならない。人類の魔法を蘇らせなければ、また魔王は協定を破って人類を支配しようとするだろうからな。多分、魔王退治が終わったらすぐに俺はこの世界を立つことになるから、それまではフォルスの目的にもしっかり付き合ってやるぜ」
「ほう、ならば全て解決するまで魔王退治は後回しに...冗談だ。そんな怖い顔しないでくれ」
「明確な時間制限はないけど、一応手早く済ませないといけない理由はあるからな。協力はするけど、そっちも協力する前提なのを忘れるなよ」
「肝に銘じておこう。まぁ、元々は一人でやろうとしていた旅さ。ほどほどに協力してもらったらさっさと魔王を倒して、一人旅に戻るとするよ」
「そんじゃ、魔王退治までの協力関係ってことで、これからよろしくなフォルス」
「……っと、忘れていた。そのフォルスという名は、私の魔法使いとしての名だ。本名は別にある」
「あ、そうなんだ。じゃあなんて呼べば良いんだ?」
「今の本名は三枝湊という。二人きりの時はフォルスで構わないが、人前では苗字か名前のどちらかで呼んでくれ」
……え?苗字と名前がちゃんとある世界に初めてきた...名前が日本的なのは多分翻訳の関係なんだろうが、偉く新鮮な気分だ...
「じゃあ下の名前で、湊と呼んでおくよ。一緒に旅してる子供に対して苗字呼びしてるって、側から見たら違和感もたれそうだからな」
「それもそうだな。ならば、私も名前で呼ぶことにしよう。たしか、仮谷幸希と言ったな?幸希と呼ばせてもらう」
な、名前呼び...名前で呼ばれたのいつぶりだ?冗談半分にステラに呼ばれて以来か?これもめちゃくちゃ新鮮だな...少し体がむず痒いな。
「それじゃあ、私からもよろしく頼もう。共に旅をしようじゃないか、幸希」
「おう、湊」
「となればまずは幸希の装備を整えなければな。旅に必要なものを揃えに行くぞ。ついでに、今いる町の案内もしてやる」
そう言いながら湊は部屋の扉を開け、俺に外に出るように促した。
とりあえず、諸々の情報収集は済んだ。次は、旅の準備だ
やっぱり情報開示は楽しい...説明ばっかになってしまうのは申し訳ないんですがね、楽しくてやめられないのです。