神の使いの異世界修復   作:ダイヤモンドリリー

55 / 99
8223字。

物資調達と、この世界の世界観の紹介の回ですね。


記憶に残りし町風景

「あらまぁ湊ちゃんいつの間に戻ってたの?」

 

俺が転移で連れてこられた部屋は、湊が宿泊していたホテルの一室だったようだ。外に出るために階段で一つ下の階に降りてフロントの前を通った時に、フロントマンに呼び止められた。魔法で直接部屋まで移動したから、そりゃ不審に思われるわな...

 

「さっきな」

 

「そっかぁ...じゃあ、その人は?」

 

「両親が派遣してくれた用心棒さ。子供の一人旅は危険だからと、今更送りつけてきてね。面接がてらさっき話したんだが、なかなか信頼のおける奴だったよ」

 

おお、よくもまぁこんなつらつらと嘘をつけるな。

 

「そう...その人も泊めるのなら、夜までには追加料金を払うのよ。部屋を分けるのならそう言ってちょうだいね」

 

「わかった。しばらく外に出るから、戻ってきたら支払うよ。ほら、行くぞ幸希」

 

「ああ、湊」

 

湊に連れられる形でホテルのロビーから外に出る。

 

「おぉ...地球と遜色ないな」

 

ホテルの内装から既に分かっていたことではあるが、町の様子は現代地球のそれとなんら変わりなかった。ここは少し脇に逸れた場所のようで人通りは少ないものの、そこそこの広さがある道路を時折車が走っていた。戦車がある時点である程度察してたが、町の中となると普通に自動車も走ってるんだな...

 

「地球とは、幸希が元々いた世界の町の名か?」

 

「町というか、地域というか、惑星というか...まぁ元いた世界の名なのは確かだな」

 

「となると、案外町については幸希の方が詳しかったりしてな。この時代に生を受けてから、現代の科学技術については猛研究をしたがまだ完璧には把握しきれていなくてね。幸希の世界と似ているのならば、その可能性もあるだろう」

 

「流石にそんなことにはならないと思うが...んで、まずはどこに行くんだ?」

 

「そうだな...では、最初は幸希の武器を買うとしよう。銃は使えるか?」

 

「銃でも剣でも槍でも弓でもなんでも使えるぜ」

 

「そうか、なら銃にしよう。魔法でいくらでも作り出せるから弾切れの心配もないしな」

 

「弾丸作れるのなら、武器も魔法で作ってしまえば良いのでは?」

 

「武器の密造や、許可証無き武器の所有は重罪だ。魔法で印を誤魔化すことはできるが、存在しない型番であったり他と被っていたりなどしてバレる可能性が高いから、おすすめは出来ないね」

 

「なるほど、そういったところでちゃんと取り締まりはしているわけね」

 

町を歩きながら道ゆく人の腰回りを確認していたのだが、どの人も何かしらの武器を携えていた。子供ですらも例外ではない。万人が武器を携帯し、自分の身を守っているようだ。

 

「……って、急に止まってどうした?」

 

しばらく歩いて大通りに出たところで、急に湊は立ち止まった。そして道路に向けてグーサインをする。

 

「なにって、このまま歩くとそこそこ時間を食ってしまうからね。金は惜しまず時短さ」

 

よくわからず首を傾げていると、俺らの真横に一台の車が止まる。そして扉がひとりでに開くと、湊は車に乗り込んでいく。

 

「た、タクシーあるのか...」

 

「ほら、早く乗ると良い」

 

湊に手招きされ、俺もタクシーに乗り込む。

 

「お客さんどこまで?」

 

「透さんとこのガンショップで頼む」

 

「了解しましたー安全運転で向かいます...ってそっちのお兄さん、シートベルトしてくださいね危ないから」

 

「あ、ああ...」

 

腰あたりにあったシートベルトを伸ばしてカチャリとはめ込む。なんかバスのシートベルトみたいだな...というか、マジで現代の技術すぎてビビる。ここしばらくで身につけた異世界の常識からことごとくズレているせいで逆に混乱してしまうな。

 

『幸希、聞こえるな?』

 

うおっ、と...一瞬びっくりして声出かけた。テレパスの魔法か?

 

『……今、なんと言ったんだ?未知の言語で話さないでもらえると助かるのだが』

 

っと、思考したことがそのまま伝わる感じなのね。じゃあ思考内容の翻訳もオンにしてやって...と。

 

これで伝わってるか?

 

『ああ。今のは幸希の世界の言語か?』

 

世界のってか、俺の住んでる地域の言語だな。俺の世界じゃ人種とか住んでる地域で言語が違くて、無数にあるからなぁ...この世界はどうなんだ?

 

『基本的に常用する言語は一つしかない。魔法専用の言語はあるがな...っと、そんなことよりもだ。タクシーに驚いていたりシートベルトをつけ忘れたりしていたが、幸希の世界には無かったのか?』

 

いや、あったよ。ただ単純に、この世界にもあるのかって驚いてただけ。

 

『そうか...っと、無言でいると変な勘ぐりをされそうだ。そろそろ普通に話すとしよう。今後も、異世界のことや魔法のことなど、人前で話せない話はこの魔法を使用することにするから覚えておいてくれ』

 

りょーかい。

 

「そういや湊。さっき透さんとこのって言ってたけど、知り合いなのか?」

 

「一応な。最初は親の事業の関係で知り合ったんだが、そこで買ってみたらやたらと質が良くてね。おすすめだ」

 

「なるほどなぁ...ってか、どれくらい離れてるんだ?メーターどんどん回ってるんだが...」

 

「ホテルからだとちょうど町の反対側だからそれなりにかかるだろうな」

 

「マジか。お金は大丈夫だよな?俺もそこそこ持ってるんだけど...」

 

ズボンのポケットを弄り、一番奥に糊でくっついている袋を引っ張り剥がす。聖杖世界の移動時に初っ端から財布を落としたから、それからはポケットの奥に糊付けされるようになったんだよな。落下を防ぐ方法がなかなかに原始的すぎて少し面白い。

 

『……一応言っておくと、そこそこどころじゃない額だぞ』

 

あー、うん。神様が支給してくれたもんなんだけど、多いんだこれ。硬貨しかないけど...あ、少しだけ紙幣がそこに入ってる。

 

『硬貨の方が価値高いぞ。幸希の世界だと逆なのか?』

 

あ、そういう...こりゃ神様が勘違いして入れたかな。盗まれないように気をつけないと...

 

「まぁ、ここは私が払おう。手持ちの額じゃ負けてるが、総資産額は私の方が上だからな」

 

「そいつは頼もしい」

 

『ひとまず、あまり人にその袋の中身を見られないようにしておくといい。でなきゃ幸希の方が襲われかねん』

 

そんな額なのか...わかった、気をつけるよ。

 

「お客さんそろそろ着きますんで、運賃の用意しておいてください」

 

「ああ...これでピッタリだな?」

 

タクシーが止まり、湊は運転手に紙幣数枚と硬貨一つを渡す。

 

「またのご利用お待ちしてまーす」

 

運転手が側にあるレバーを引くと、扉が開く。レバー式の自動ドアか...と思いながらシートベルトを外し、タクシーから降りる。

 

「なぁ、あれって結構お金使った方なのか?」

 

走り去って行くタクシーを見送りながら湊に聞いてみる。

 

「普通の一般家庭の一日分の食費くらいだな。タクシーは便利だが、やはりバスと比べると相当割増にはなる」

 

「あ、バスもあるんだ...」

 

「時間がかかるし、この辺りには近い場所にバス停が無いから今回は使わなかったがな。とりあえず、後で幸希に値段感覚をしっかり教えておくとして...だ」

 

湊は道路に背を向け、目の前の建物を指差す。

 

「ここが目的地だ。中に入るぞ」

 

湊に連れられて、店の中に入る。

 

「いらっしゃいま...湊さん⁉︎」

 

店員らしき青年が湊を見てとても驚いた表情を浮かべた。そしてカウンターから店の入口の方まで駆け足で近づいてくる。

 

「この前来たばかりなのにどうして...まさか、何か不備がございましたか?」

 

「そんなことはないぞ。あの銃はとても使い心地がいい」

 

「では、いかが御用で...?」

 

……なんか既視感があると思ったら、魔王代理の俺にビビり散らかしてる魔物に似ているのか。なんでこんなに怯えているんだ?親の事業の関係で知り合ったって言ってたけど、どういう関係ならこんなにビビられるんだろう...

 

「今日はこの人の銃を買いに来たんだ。三枝の人間として来たわけではないから、そう畏まらないでほしい」

 

「そ、そうでしたか...では、ゆっくりご覧ください...」

 

そう言いながら店員はカウンターまで戻って行った。あの人が、湊が言ってた透さんかな?

 

「……なぁ、湊の両親って何やってる人なんだ?」

 

「手広く事業を展開している会社の代表取締役でね。比較的安い金利で金貸しもしていて、ここも融資をしている店なのさ」

 

「なるほど...そりゃあんな対応にもなるわけだ」

 

ってか、凄いスペックの家に生まれてきたんだな湊って...これまでの湊の言動にも納得だ。そりゃお金持ちだし、両親が派遣した用心棒であるという嘘も信じられやすいだろうな。

 

「ほら幸希。そこに突っ立っていないで銃を見て回ると良い。試し撃ちもさせてもらえるから、気になったのがあれば透に言うと良いだろう」

 

「そんなこともできるのか。と言っても、正直拳銃ならなんでも良いんだけどねぇ...」

 

極端な話、少し使えば大体の武器は使いこなせるようになるからな。武器を俺に合わせるんじゃなくて武器に俺が合わせていく方が早いし、適当に使いやすそうなのを見つけて癖にすぐ慣れる方が楽なんだよね。あれもこれも、慣れの力が凄い聖杖世界でいろんな武器を使ったおかげだな...

 

「……なにこれ。グロック17みたいなのある」

 

ざっとショーケースの中に仕舞われている銃を見ている時にそれを見つけた。他にも、源流世界で使っていた銃のカタログで見たような銃が随所で見ることができた。完全にこの世界独自のものっぽいものもあるが、そこそこ地球にあるのと同じようなのが置いてあるようだな。

 

「たしか、創造の銃で拳銃を作るときはこれを作っていたっけ...あのー、これ試し撃ちしても良いですか?」

 

「あっ、はーい。その銃...ですねわかりました。少し待っててくださいね...」

 

店員は俺が指差した銃をよく見て覚えると、一度店の入口の方に行って外にかけてある看板を裏返してから戻ってくる。

 

「それでは奥の部屋でお待ちください」

 

店員に誘導され、湊と一緒に奥の部屋に移動する。

 

「この店ってあの人一人で回しているのか?」

 

「ガンショップは安全上の理由から、家族以外の従業員を雇うことができないと決まっていてね、彼一人で回すしかないんだ。おかげで同時に店に入れるのは一組だけ。試し撃ちをする時は一度店を閉めなくてはならない。そのせいで売り上げが芳しくなくて、両親の会社から融資を受ける必要が出たらしいから、少し同情するよ」

 

「バイトくらい雇っても良いと思うんだけどなぁ」

 

「昔の話らしいけど、雇ったバイトが店の銃を盗み出し、その銃を犯罪に使うといった事案がいろんな町で起こったようでね。そのせいで規制が強化されて、家族以外を雇うのが禁じられたんだ」

 

「なるほどなぁ...たしかに、バイトに店の銃の管理させるのはまずいか」

 

と、そんなことを話していると店員が銃やイヤーマフなどを持って部屋に入ってきた。

 

「お待たせしました。これを装着して、あの場所で弾をこめて的に向けて撃ってください。くれぐれも銃口を覗き込んだり、私たちに向けたりしないようにお願いします」

 

「了解した」

 

イヤーマフを付け、拳銃とマガジンを受け取って移動する。

 

マガジンを挿し、スライドを一度引いて初弾を装填する。そして少し離れたところにある、アーチェリーみたいに内側から点数が振られている的の中央に狙いを定めて...

 

「……チッ、少しブレたか」

 

引き金を引き、放たれた弾丸は的の中央からやや逸れた箇所に命中した。久方ぶりの実銃だから、反動の受け流しもあまり上手くできなかったな...反動が一切無い衝撃の剣で作った銃を数回使ったせいで感覚が鈍ってしまったか。

 

「だが、次は外さん」

 

的の中心に狙いを定め、引き金を引く。イヤーマフのおかげで発砲音はあまり聞こえないが、火薬が弾け飛び弾丸が発射される。そして、的のど真ん中に風穴が開く。

 

「弾数は十七発...あと二発くらい撃っとくか」

 

立て続けに二発弾丸を放ち、またしても的の中央に命中する。

 

「こんなんで良いだろ」

 

マガジンを引き抜き、スライドを動かして薬室内に残っている弾丸を排莢する。そして銃を台に置き、イヤーマフを外して湊たちの方に近づく。

 

「初心者...ではないよなどう見ても。一発目から当てて凄いと思ったら立て続けに三発ど真ん中...良いもの見せてもらったよ」

 

「そんなにか?それはそうと、あの銃買うわ。会計を頼む」

 

「他は試さなくて良いのかい?」

 

「大丈夫だ」

 

「わかりました。それじゃあレジの前で待っていてください。準備するので」

 

「あ、ホルスターも頼むよ透くん」

 

「かしこまりました」

 

湊と二人で部屋を出て、レジの前で待つ。というか、レジスターもちゃんとあるんだな...

 

「かなり手慣れていたね。弾痕二つしかなかったが、最後の三発全く同じ場所にヒットさせたということだろ?名人じゃないか」

 

「まぁ、そこそこ使っていたからな。お互いに動いていたとしても、狙って撃つことは無理だがどこかに当てることくらいは出来る」

 

「そいつは頼もしい」

 

「お待たせしました」

 

店員が別の部屋から箱を抱えてレジまでやってくる。

 

「こちらがご注文の品とホルスターです」

 

……二つずつ?なぜか銃もホルスターも二つずつ箱に入っていた。流石にそんな手違いをするはずがない。二個セットで買うのが普通なのか?それとも、湊が何かの目的で二つずつにするように言っていたのか...?

 

「ここも私が支払おう。用心棒就任祝いだ」

 

「お、おう。サンキュー...」

 

疑問を口に出そうとしていたら、パッパと湊が支払いを終えてしまっていた。

 

「よし、次に行くぞ」

 

そう言って湊は店を出て行こうとする。仮にも俺を用心棒と呼んでいるのだから、一人で先に出ようとするのはいかがなものかと思いながらついて行く。

 

「またのお越しをお待ちしております」

 

店員の声を背中で聞きながら店を後にする。

 

「銃は後で人通りの少ない場所で装着することにしよう。次はリュックを買いに行くぞ」

 

「なぁ、歩きながらで良いんだが、なんで二丁も買ったんだ?一丁で十分じゃね?」

 

「……そうか、そこから説明が必要なのか。片方は人に襲われた際に身を守る低殺傷性のライオットガン、もう片方が魔物に襲われた際に使用する実銃だ。誤って別の弾が入ってしまっていたということがないように、それぞれ専用の弾しか入らない専用の銃を使うことになっている」

 

「なるほどだから二つ...でも、それって銃を取り違えたらどうしようもなくないか?」

 

「それも問題ない。実銃の方は、魔力を一定以上内包した生物...つまりは魔物が周囲にいない限り、ホルスターから引き抜くこともトリガーを引くことも出来ないからな。魔法は使えずとも、魔力を利用する技術はまだ人類にも使えるんだよ」

 

「……ん?なぁ湊。その条件って、湊も満たしてしまっているのでは...?」

 

「困ったものだが、その通りだ。そのせいで、何度居もしない魔物を探す羽目になったやら...」

 

「それは...大変だったな」

 

何かの弾みでホルスターから銃を抜けることに気づいた人も、まさか湊のせいだとは思うまい。ありもしない魔物をその場にいる人全員で探すことになるのは、原因がわかっている湊からしたら申し訳ないだろうなぁ...

 

「ってか、そうなると銃を抜けるかどうかで魔物を探知するってことも湊と一緒だと出来ないのか」

 

「そうだな。まぁ、それは私が魔法で探せば良いだけだから、さしたる問題ではないだろう」

 

「それもそうだな」

 

一応、銃が抜けるかどうかで魔物がいるかどうかわかるってのは覚えておこう。湊と別行動を取るときもあるだろうからな。

 

「っと、こっちの道を通ろう。やや狭いが近道なんだ」

 

そう言いながら湊は脇道を指差し、そちらに向かって歩き始める。

 

「歩きながらで良い。銃を装備し...遅かったか」

 

湊はそう呟くと...

 

『後ろから不審者がついてきている。懐にはナイフを隠しているな。そして、見える位置には銃もある...対処できるか?』

 

と、テレパスの魔法を使って状況を伝えてきた。

 

ああ、出来るぜ。軽く捻ってやるよ。

 

『町中だ。魔法は使えない。騒ぎを起こしたくないから銃もあまり使いたくはない...が、相手が銃を手にしたら使っても良い。その時は物質転移で君の手元に銃を飛ばす』

 

了解。

 

そのまま少し歩き続け、曲がり角を曲がったところで不審者を待ち伏せる。

 

『そろそろ来るぞ。3、2、1...今!』

 

湊の合図と同時に曲がり角から出てきた不審者の脇腹に、トゥーキックを叩き込む。

 

「ゴフッ...ッ!」

 

「あぶねっ⁉︎」

 

不審者は一瞬うずくまるものの、痛みをものともせず懐から取り出したナイフで切りかかってきた。俺は慌てて上体をそらしてナイフを避けると、そのまま地面に身を投げ出しながら蹴りを放って不審者の腕を叩き、右側の壁に叩きつける。

 

「アガッ...!」

 

不審者の腕が歪に歪む。どうやら骨が折れたようだな。握る力をかけられなくなり、不審者の手からナイフがこぼれ落ちて俺の頭めがけて降ってきたのでそれをキャッチし、受け身を取ってすぐさま立ち上がって湊の近くに移動する。

 

「っ...!!」

 

「まだ来るか...!」

 

不審者は折れた右腕を押さえながらこちらに向かって走ってくる。湊に近づかせるわけにはいけないので俺も近づき、殴りかかってきたので一瞬で屈んで拳を避け、そのまま足払いをかけて転ばせる。

 

「ほら、大人しくしな」

 

不審者の上にまたがり、馬乗りになって身動きを封じる。不審者は逃れようとしてジタバタともがくが、手をがっちりと掴んで組み伏せ、思うようにはさせない。

 

「これで良いか?気絶させることもできるが」

 

「なら、気絶させてくれ。それと一応、そのホルスターを外して遠くに放っておいてくれると助かる」

 

「りょーかい」

 

不審者の頭を奪ったナイフの柄で叩きつけて気絶させる。そして不審者の腰に取り付けられているホルスターを二つ取り外して遠くに転がす。

 

「ご苦労様。これで、ようやくきちんと調べられる...」

 

湊はそう言うと、不審者の頭に手を触れた。魔法で何かを調べているのか...?

 

「というかこいつ、何が目的で襲ってきたんだ?湊の誘拐にしては、最初からナイフを持ち出してきたのがちと不自然な気もするし...」

 

「……こいつは、ただ誰かを襲いたかっただけだろう。幸希は見た目からじゃそこまで強そうにも見えないし、子供も一緒なら襲いやすそうだと思っただけだろうな」

 

「ただの通り魔的犯行ってわけか...」

 

「……なぁ、なぜ私はこいつの存在に気付けたと思う?」

 

「え?魔法で探知してたんじゃないの?」

 

「それはそうだが、ただ探知を発動させただけではそんじょそこらの人間と変わらない反応が返ってくるだけだ。町の中では、あの森の近くで幸希を見つけられたようにはいかない」

 

「……となると、どうしてわかったんだ?」

 

「魔力、だよ」

 

「魔力...?こいつ、魔力を溜め込んでいるってことか?魔力を抱えられるほどの器の魂を持ってるってこと?」

 

「いや、違う。今調べたが、こいつも一般人と変わらない器だ。ここまでの探知に引っかかるほどの魔力は持てるはずがない」

 

「でなきゃなぜ...?」

 

「……ここ最近、いくつかの町の裏社会で出回っているとされている代物がある。『魔丸(まがん)』...魔力を込めて作り出した丸薬だ。これを飲むと、人は一時的に魔力を蓄えることができる。自身で生み出した魔力では無いから器には収まらず、時間経過とともに身体から抜け出て行くがな」

 

「その魔丸とやらをこいつが飲んだってことか?」

 

「ああ。そして、魔丸は用法要領を守れば魔力を一時的に増幅させ魔法を扱えるようになる代物だが、過剰に摂取すると軽度な魔力過剰症と共に酩酊感と多幸感をもたらし、それと同時に人格を攻撃的に変化させて魔物のように人を襲いたくなる衝動に駆られる厄介な代物なんだ」

 

「麻薬や覚醒剤みたいなもんってわけか...」

 

「これを作れるのは魔法使いと魔物のみ。魔法使いが私しかいない以上、これを作って広めているのは魔物だ。その魔物を叩き、魔丸の流通を止める...それが当面の私の目的だ。だから突然で悪いんだが、リュック購入は後回しだ。こいつの記憶から得た情報を使って魔物を見つけ出すぞ。それで良いか?」

 

「いいぜ、付き合ってやる」

 

こうして、いつのまにか観光兼物資調達から一転、魔丸とかいう麻薬じみたものの取り締まりへと今日の目的が変わったのであった。




流石に日常回をそう何話も続けるわけにはいかないので、非日常パートへ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。